第62話 森とギルドと孤児院と


「大いなる神ロイマリアの慈しみに感謝し、この食事をいただきます。そして私たちの心と体を支える糧となるよう祝福してください…」


 アメリー先生が祈る中、僕たちは今孤児院で夕食をご馳走になっていた。


 食堂には装飾品等は一切なく、長机がいくつか置いてあるだけの部屋に少ない蝋燭で暗い中、子供と僕たちの前にはスープとパンがあった。


「いただきます」


「マース」


 僕が言うとリエルが真似して、さらに子供たちも真似して手を合わせていただきますと言って食べはじめた。


 スープの味は獣人の国の闘技場を思い出す味でパンも硬かったが悪くはなかった。ちなみに師匠は自分の袋から出したはちみつ酒を一緒に飲んでいたが。


「すいません、こんな物しかなくて」


「いえいえ、泊まらせてもらって晩御飯までご馳走になってこちらこそすいません」


 アメリーが頭を下げてくるが逆にこんな食べ物が無いのに分けてもらって申し訳なくなってしまった。



 ご飯を食べた後、子供達と寝室へ行き絵本を読んであげる事になった。


 ちなみにその絵本は人々の心の闇から生まれた魔王が、ロイマリアによって倒されると言う宗教色が強い内容だった。


「そうしてロイマリア様は魔王を封印した地に聖都を作り、いつまでも人々が幸せに暮らせるようにしましたとさ、めでたしめでたし」


 気づくと遊び疲れたのかリエルまで一緒に寝ていたのでそのままにして、僕は談話室へ行くと師匠がソファーで本を読んでいた。


「お疲れ様みんな寝たよ。それにしても孤児院って貧乏なんだねイメージ通りだけど」


「シュウさんははっきり物を言うタイプですね」


 節約の為か蠟燭が一本しかついて無くてかなり暗く、本を読んでいる師匠から少し離れた所で縫い物をしていたメアリーに気がつかなかった。


「わぁ、ごめんなさいアメリーさんがいるとは思わなくて」


 こちらを見ていたがまた縫物を始めながらメアリーが口を開いた。


「まぁ否定はしませんよ。でも前はもう少し余裕があったんです。でもここを担当している司祭様が急に来られなくなってしまって、以前はちょくちょく足をお運びくださって施しをしてくださってたんですが、そのせいで孤児院に入って来るお金も半分程になってしまったんです」


「どこに行ったんだろねその司祭さま」


 メアリーが縫い物を置き祈るようなポーズで口を開いた。


「そうですねお元気だと良いんですがディアス様」


「え?!ディアス?それって糸目の?」


「シュウ様はディアス様をご存じなんですか?とても慈悲深い方でいつも私たちの事を気にかけてくださって、あの方が居なかったらここの子供たちは今頃飢えて死んでいました」


 まさかあのディアスさんの表の顔はのかな?


「同じ人かなぁ?もしかしたら違うかもしれないや、まぁきっとひょっこり帰って来るんじゃないかな?」


「そうですね、ロイマリア様の加護があるのできっと大丈夫ですよね」


 アメリーは再び祈るポーズをして何かブツブツとロイマリアに祈っていた。


「それにしてもこの建物はかなり頑丈そうだね」


 かなり暗いので呪印の目で壁を見るとしっかりした石材で出来ていた。


「そうなんです。ここは今の城壁ができる前は城壁にある入り口の検問所だったみたいで、かなり壁が厚いんです。だから少しくらいうるさくても周りの家に響かなくて助かってます」


 言われてみると確かに、この建物は他の建物に比べ比較的大きく壁は厚いが窓は小さかった。


「それにしても妖精っているんですね」


 リエルを見たアメリーは最初びっくりしたが子供たちがリエルと一緒に遊ぶ姿を見て慣れたようだった。


「神様がいるくらいだし妖精だっているんじゃないかな?」


 あまり色々聞かれると困るので強引にアメリーを納得させ、その後僕たちは客間に案内されてベッドに入った。


 眠れなくて暫くゴロゴロしていたが隣のベッドにいる師匠に話しかけた。


「ねぇティー何とかできないかなぁ?」


「師匠でしょ、孤児院の事?別にお金を渡すことは出来るわ、でもそれはキリが無いわよね」


「そうだよね、行く町行く町で孤児院にお金を配ってたらキリがないよね。何か自分たちでお金を稼ぐ方法って無いかな?」


「子供がお金を稼ぐのはそんなに簡単なもんじゃないと思うわ」


「そうだよね、僕もよく考えたら稼いだ事なかったよ…」


「シ、シュウは私の助手でお給料を払っているから大丈夫よ」


 師匠に気を使われてしまったので話を変えよう。


「ありがとう、うーん、ここは異世界転生で定番のリバーシとかはどうだろう?」


「リバーシ?」


 師匠にリバーシの説明をすると、もう似たような物があると言われてしまった。


「それにもしそんな都合のいいゲームがあっても、ここでのちまちま作ってたって売れるようになれば、すぐ他の商会が安く大量に生産してしまうわ」


「そうだよね、著作権なんて無いもんね」


「まぁでも私たちが居る時くらいは美味しい物を食べさせてあげる事は出来るんじゃない?」


「そうだね、明日市場で何か買ってきてあげようか」


 それから僕たちは著作権の話を少しして眠りについた。



 次の日市場へ行き色々な食材を抱えてうろついていると後ろから声を掛けられた。


「シュウじゃねぇか」


「マーロフ!グルス!」


 振り向くと向こうからマーロフとグルスが歩いてきていた。


「昨日ぶりだね!」


「そうだな!言うの忘れてたがシュウ達は宿が取れたのか?」


「そうなんだよグルス、すごい混んでるんだね、たまたま知り合った孤児院に泊めてもらう事になったんだけど」


「そうか!そりゃよかったなぁ」


 僕はマーロフとグルスに孤児院での話をするとグルスが少し考えて口を開いた。


「それならうちのギルドの下働きでもしてみるか?たいして金は出せねぇが何もしないよりはましだろ」


「ホントに?!じゃあ僕もその話を孤児院の先生にしてみるね!ありがとう!」


 マーロフは色黒強面のくせに意外といいやつだった。


「マーロフは顔の割にいいやつだね!」


 僕がつい思ってる事を口にすると笑いながらマーロフが口を開いた。


「おい!思ってても言うなよ失礼なやつだな。」


「まぁホントにどこから見ても悪人面だからなぁ」


 グルスが笑いながらそう言うとマーロフが言い返した。


「お前もじゃねーか!何だよその禿隠しとメガネは!俺の十倍はお前の方がやべーぞ!」


 それから二人はそれぞれの顔を事を言い合いが始まった。


「まぁまぁ二人とも落ち着いて。それにしても二人はなんでここにいるの?」


 僕がそう聞くとマーロフが何かを思い出した顔をした。


「そうだった俺たちも用事があったんだ!おいシュウ、さっきの話はまた後でな。このあとギルドに帰るからまたギルドに来てくれよ。じゃあ行くわ」


 そう言って二人とも足早にどこかの路地へ消えて行った。


 それからまた買い物を一通りした僕たちは孤児院に帰りアメリーにその話をすると喜んでくれた。


 そして仕事の件をアメリーと話をした結果、年嵩の子供達からお手伝いをする事が決まり僕はマーロフ達のギルドへと伝えに行った。




 マーロフ達が居る草原の風ギルドの建物は二階建ての煉瓦造りで中に入ると広いロビーになっていて、その辺のソファーでガタイのいい男達が座ってくつろいでいた。


 僕が中に入るとロビーにいた線の細い男性が近寄って来て口を開いた。


「いらっしゃいませご依頼ですか?」


「あー、マーロフとグルスに会いに来たんですが」


「かしこまりました。そちらにかけてお待ちください」


 傭兵ギルドは荒くれものしかいないイメージだったが普通にソファーを案内され座っているとしばらくして次は個室へ案内された。


 いくつもドアが並ぶ細い通路のその中の一つの部屋へ案内されドアをくぐると中にマーロフとグルスがもう座っていた。


「おうシュウ!よく来たな」


 二人と挨拶し早速話を始めた。



「まぁそう言うわけで、とりあえず今ある仕事は掃除とうちのギルドの食堂の手伝い、あとは近場の薬草取りだな毎日の仕事だから朝ギルドに人数揃えて来る様に言ってくれ、薬草狩りは何人でも良いぜ取って来た量で買い取るからな」


「わかった伝えるよ」


 僕は必要な人数などをメモしながら返事をした。


「仕事は明日からで薬草採取のやり方は明日誰かが教えるから物覚えの良さそうなのを何人か連れて来てくれ」


「了解連れて来るよ、ありがとうグルス」


「まぁこっちもたまたま人手が足りなかったしなちょうどよかったんだ。俺たちとシュウとその孤児院とたまたま縁があったんだろうな」


「そうかもしれないね!カッコいいこと言うねグルス!」


「うるせー、バカにしてるのか?!」


 グルスに照れ隠しで頭を叩かれた。


「はははグルスが照れてやがるぜぇ」


「お前もうるせーんだよ!」


 またじゃれあってる。この二人は本当に仲がいいな。



 その後孤児院に帰り、その日は僕と師匠が買って来た食材で作った豪華な夕食に子供達も僕もリエルも大喜びだった。



 次の日、僕は孤児院の子供たちと南の森で薬草の見つけ方と取り方をマーベスと言う女性のギルド員から教わっていた。ちなみに師匠は情報系ギルドへ朝から出かけてしまった。


 今色々教えてくれているマーベスは茶色い髪をポニーテールにまとめた背の高いそばかすのある可愛らしいお姉さんと言った感じだった。


「このギザギザの葉っぱの新芽の部分だけを手で千切って集めるんだよ」


「これは?」


 カルと呼ばれる坊主頭の男の子が早速持ってきた。


「これは色が違うな、裏も見てみなツルツルしてるだろ、ザラザラしてるやつを探すんだ」


「これかな」


 次に持ってきたのはホップと言う後ろ髪を結んだ男の子だった。


「そうそうこれだ!よく見つけたな!」


 マーベスさんがホップを褒めるとカルは悔しそうにまた探しに行った。


 今ここにいるのは十代前半の子供達で薬草取りのリーダーになってもらう予定だった。


 それからもカルとホップを筆頭に競う様に子供達が薬草を持ってきた。


「よしここはこれくらいにしようか、次は北の森に向かうぞ」


 北はさっきの薬草とはまた植生が違い子供達の競争が始まった。


 みんなが薬草を探してる間、倒木に腰掛けているマーベスの横に僕も座り話しかけた。


「マーベスさんも普段は迷宮に入ってるの?」


「そうだよ、うちはのギルドは草原の風なんて名前のくせに殆どのメンバーは毎日迷宮に入り浸ってるのさ、おかしいだろ」


 マーベスは話しながらもみんなが取ってきた薬草をチェックしている。


「でも今日は薬草取りに付き合ってもらって良かったの?」


「ああ、今は暇なんだよ。もうすぐお祭りがあるだろ?いつもお祭りの前は迷宮に入るのを禁止されるのさ」


「何で禁止になってるの?」


「何年か前に豊穣祭に来たどこかの国のバカ貴族が物見遊山で護衛をたくさん連れて迷宮に入ってそのまま全滅しちまって、そいつの国のバカ親が助けに行くって言って沢山の兵隊を連れて乗り込んで来て大騒ぎになったんだよ」


「うわぁそれは迷惑な話だね」


「だろ、でも結局その親も兵隊も全部迷宮に飲み込まれちまったけどね」


 マーベスはニヤリと悪そうな笑顔を僕に向けてきた。


「ええ、そんなにここの迷宮は危険なの?」


「ここの迷宮は二十階層まではかなり安全に狩れるんだけどその下がダメだな、何故か二十一階層からは急にでっかいモンスターしかいないんだよ。ミノタウロスやケルベロスにジャアント、それにレッサードラゴンまでいるからね」


「バランスが悪いね」


「でも毎日魔石を取りに行くには二十階層までで十分なのさ」


「二十層までは何が出るの?」


「二十層までに出るのはゴブリンにオークにコボルトだね、ごく稀にオーガが出るけどそれさえ注意してれば死ぬ事はないよ」


「だから仕事で毎日潜れるんだね」


 そんな話をしているとある程度十分に薬草が集まったのでその日は終わる事にした。


 ギルドによって納品して帰ると今日も師匠が市場で色々追加で買ってきてくれたみたいで豪華な食事だった。


「じゃあ明日もシュウは薬草取りに付き合ってあげるのね」


「そうだね、多分大丈夫だと思うけど明日も引率して来るよ」


 師匠と僕は子供達が寝たあと談話室でお酒を飲んでいた。


「私は馬車と馬の手配の様子を見て来るわ」


「了解、明日は鳥が食べたいな!」


「じゃあ明日帰りに市場で買って来るわね」


「ありがとう!」


 それから今日薬草取りであった事を色々話明日の為に早めに眠りについた。



 今日は孤児院の子供を五人連れて北の森で薬草摘みをしていた。その休憩中に市場で朝買ったサンドイッチをみんなで食べてのんびりしていた時、何処からか女性の叫び声が聞こえてきた。


「みんなリエルと一緒にここで待ってて!」


 子供たちに待っているように言い、叫び声のする方へ走って行くと森の木が少し途切れて広場になっている場所に小さな石碑が有り、そこで杖を持った司祭の恰好をした人が三匹のゴブリンに囲まれていた。



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