第61話 壁と屋台と孤児院と
「なにこれ?!すごい城壁だね!」
その城壁は芸術品の様に細かく細工が施してあり、所々に見渡すほどの大きさのロイマリアの姿があった。
「そうだろう!世界広しと言えど、これ程雄大で繊細な城壁は他にはねぇよ!」
「これだけでも見る価値が有るね!」
マーロフと城壁を見上げながら大きな口を開けていると師匠に呼ばれた。
「シュウ行くわよ!」
「じゃあマーロフまたね!」
「おお、元気でな!仕事無くなったらうちに入れてやるからなぁ」
「ありがとう、その時はよろしくね!じゃあまた!」
マーロフ達とお別れをして僕達は町に入る手続きに向かった。
「それにしても城壁の周りにテントがいっぱい貼ってあるんだね?」
「ここはロイマリア教の聖地だから世界中から教徒が集まって来るみたいよ。周辺も兵士が獣を狩っているから比較的安全だしね」
「どこの世界も宗教は凄いね、エルフは世界樹とかを信仰していないの?」
「なぜ世界樹?世界樹はただの大きな木よ。それにエルフには宗教観は無いわね。少なくとも私はそんなエルフ見たことがないわ」
「そっか僕も元の世界にいる時も特に信仰していなかったしそんなもんかな」
そんな事を話しながら僕たちは手続きを終え聖都の中へと足を踏み入れた。
「シュウ、この聖都では結界があって魔法が使えないから注意してね、まぁシュウの魔法じゃそんなに関係ないかもしれないけど」
「本当だ魔法が出ないよ、でも肉体強化は出来るんだね」
「ちょっとこんな道の真ん中で試さないでよ。前にも言ったけど肉体強化は体内で循環する魔力だからこういう遺物の影響は受けにくいわね」
聖都は今まで通って来た町と同じで建物には必ずと言って良いほどロイマリアの石像があり、通路も全て石畳が轢いてあって馬車が二台すれ違ってもまだまだ余裕がある道幅でかなり綺麗だった。
「ここはすごいね、碁盤の目の様に通路が広がって全てが広いし、建物も煉瓦で出来てるけど色も白で統一されて近代的な感じがするよ」
「碁盤が何かわからないけど、ここはロイマリア教が土地も建物も管理しているから勝手に変な物を建てたり壊したりは出来ないの、だから世界一整然とした町と言われてるわ」
その後、整然とした街を少し観光していると師匠が人間の国を進むのにもう馬車を買おう、と言い出し馬車屋で話を聞くと今忙しい時期で1週間かかると言われてたのでこの町では一週間の滞在が決定した。
「とりあえずどこかでお昼ご飯でも食べましょうか?」
「そうだね、それにしてもここの通りは屋台がすごいね!かなり向こうの方までいっぱいだよ」
馬車屋の近くの通りに屋台街があったので寄ってみたが、馬車の乗り入れも規制され歩行者天国になっており、道の真ん中にまで屋台が並びまるでお祭りの様な雰囲気だった。
「食べ物の屋台も多くてちょっと選べないレベルだね」
「じゃあ食べたいものをそれぞれ買って食べ比べるのはどう?」
「いいね!この通りの裏に大きな広場があるみたいだから買ったらそこに集合ね」
僕がそう言うとそれぞれ屋台を見て回る事になった。
「これどうするの?シュウそんなに食べれる?」
「全部食べたら食べ過ぎで死ぬかもしれない、死なないけど」
広場に備え付けられたテーブルセットに乗り切らない位の屋台飯が並んでいた。
「まぁとりあえず食べてみようよ」
「タベル、タベル!」
穀物を捏ねて焼いた生地に甘辛いタレで焼いた肉や野菜を挟んだ物や串焼きにフルーツ、サンドイッチにドーナツと中々にわけのわからない取り合わせだった。
ミニリエルは机の上で既にフルーツにかぶりついていた。
「でもどれもジャンクな味で美味しいね、ところで師匠はお酒ばっかり買ってない?」
「聖都のはちみつ酒は有名らしいから何個か押さえて来たわ、シュウも飲んでみたら?」
そんな事を言いながら食べていると公園で遊んでいた小汚い恰好をした小さい子がじっと僕たちを見て来た。
「どうした?お腹空いてるの?食べる?」
僕が何気ない感じで子供にサンドイッチを差し出すと受け取りお辞儀をして去って行った。
「子供は可愛いね、そう言えばエルフって何歳くらいで成人するの?」
「エルフは大体三十歳くらいで成人扱いとなるわね、その後百歳くらいまではゆっくりとだけど背は伸びるわね、だからシュウはまだ未成年って事ね」
笑いながら師匠が言ってくるがもしかしてまだ僕は子供扱い何だろうか!?
僕がそれについて喋ろうとした時視線を感じて振り向くと、さっきの子供が別の子供を3人連れて立っていた。
「増えた?みんなお腹空いてるの?一緒に食べる?」
「友達も呼んでいい?」
小さい女の子がおずおずと聞いてきたので僕は笑顔で答えてあげた。
「この際何人でもつれておいでよ!」
やけくそ気味で返事をしたが、暫くするとどこから現れたのか同じような格好をした子供たちが十人くらい集まりみんなでテーブルを囲む事になった。
「足りなさそうだから料理追加してくるよ」
「シュウ、ついでにこのはちみつ酒もお代わりお願い」
「オカワリ、オカワリ!」
「妖精だ!かわいい!」
ミニリエルは子供たちの肩に乗ったりしてご飯を食べ続けていた。
僕が両手に抱えて追加の食べ物とお酒を買ってくると、僕が抱えた食べ物とお酒を見た子供たちと師匠の歓声が聞こえた。
まるでパーティの様になっていると向こうからエプロンを付け、金髪をショートカットにした背の低い細身の女性が急いで走って来た。
「すいません!食べ物を頂いたみたいで、ご迷惑をお掛けしました!」
すごい勢いで謝って来たのでこちらも低姿勢になってしまう。
「いえいえいえ、良いんです!僕らが声を掛けて、勝手に食べ物を与えてしまってすいません」
ひとしきり双方でペコペコした後話を聞くと、みんな隣の孤児院の子供たちでこの人はそこの先生だった。
その後、食べ終わった子供たちの、お兄ちゃんあそぼの声で一緒に遊ぶことにした。
鬼ごっこやかくれんぼ、だるまさんが転んだと色々な日本の遊びを教えてあげるとみんな喜んでいた。
「シュウそろそろ日が暮れるわ、宿を探しに行きましょう」
「了解、みんなー、そろそろ暗くなるから終わりにしようか!」
「「えぇーー!」」
子供たちはまだ遊びたいと言っていたが先生が取りまとめてくれ、静かになった所で先生が口を開いた。
「あの、まだ宿は決まって無いんですか?」
「そうだね、今から探しに行くところだよ」
僕がそう答えると先生は少し困った顔をして口を開いた。
「じつは七日後からロイマリア様の豊穣を祈願するお祭りがあるんです、知ってましたか?」
「知らなかったよ、だからこんなに市場がにぎわってるんだね!」
「それで実は宿はもう殆ど空いていないと思うんですよ」
「「え?!」」
僕も師匠も口をそろえてしまった。
「大体豊穣祭の1週間前から屋台や露天が開放されるんです、そのせいで一気に宿泊客が増えて、今頃来てる人たちは外にテントを張って泊っていると思います」
「あーだから城壁の周りにテントがあんなにあったんだね」
「そうなんです、この期間だけ城壁外の宿泊が認められて出入りの特別手形が渡されるんです」
「そうなんだ、どうしようか?一応探してみて何処も空いてなかったら外で泊まる?」
「そうね、それしかないでしょうね」
僕と師匠が話してると先生がまた口を開いた。
「あの、もしよければ汚い所ですがうちの孤児院に泊りませんか?外で泊まるよりは治安がいいですし、騒がしいですけど」
「え?良いんですか?」
「おにーちゃんたち、うちにくるの?!」
「やったー!一緒に寝ようよ!」
子供たちが僕に引っ付きそれぞれに喜んでいる。
「じゃあお言葉に甘えようかな?良いかな師匠?」
「私は別にどこでもいいわよ」
「じゃあ先生お願いします」
「アメリーと言います、よろしくお願いします」
僕たちは孤児院でお世話になる事になった。
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