第60話 井戸と天使とゴーグルと


「師匠、この子顔に発疹が出来てる!」


「とりあえず下へ連れて行きましょう」


 意識が無くぐったりしていたので抱っこして階段を降りると、受付の女性が急いで走って来た。


「まぁ!ルディ!!ルディ!大丈夫?!何があったんですか?!」


「廊下で倒れていたんです。とりあえずどこかで寝かせましょう」


 一階の奥の部屋へルディを寝かせ、受付の女性は急いでお医者さんを呼びに行ったがこの騒動の中なので来るのは難しくそのまま何かの粉薬だけ貰って帰って来た。


 ちなみに受付の女性はルディの母親でルーダと言う名前だった。


 ルディは顔だけじゃ無く、全身にポツポツと赤い発疹が出来て顔色も悪く苦しそうでルーダが汗を拭いたり水を飲ませたりしていると急に師匠がその腕を掴んで止めた。


「あの、何をするんですか?」


「この水が原因よ、今見た限りじゃかなり魔力が含まれているわ」


 師匠が言うにはその水には魔力が多く含まれており抵抗力の小さい子供などが飲むと魔力加給症になると言う事だった。


「そんな、でもこれは教会でもらったちゃんとしたお水なんですよ!」


「自分の子供を殺したいならそれを飲ませればいいわ」


 そう言って師匠はそれ以上何も言わず部屋へと戻って行った。


「ティーはあんな感じですが本当は優しいんです。きっとその水も何処かで取り違って魔力が入っただけかもしれないですし、とりあえず飲ませるのを辞めませんか?」


 母親の表情は納得が行かない感じだったが何とか教会の水を飲むのを止めてもらい、僕も部屋に戻ると師匠が机の上に一抱えくらいの樽を出していた。


「シュウこれ魔力の入ってない水だから持って行ってあげて」


「はーい、なんやかんやで優しいよね師匠は」


「馬鹿、優しくなんか無いわニヤニヤしないで、このまま死なれたら寝ざめが悪いじゃない」


 僕はそのくそ重い樽をもって行き、ルーダさんにルディに樽の水を飲ませるように言って部屋へ戻った。


「これはあれだね、教会で配ってるやつのせいで間違いないかな?」


「そうねこのままだと、もしかしたら赤ちゃんなんかに死人が出ているかもしれないわ」


「ねぇ師匠、その魔力加給症は特効薬とかは無いの?」


「薬と言うか体内の魔力を出してあげないといけないから魔法でも使うか水分をたくさん取って体外へ排出するのを待つくらいしかないわね」


「じゃあとりあえず魔力が入った水の供給を止めないとだめだよね」


「そうね」


「でも教会で面と向かって言ったって無駄だよね?」


「壊すしかないわね」


「じゃあ夜かな…」


 僕たちは深夜になって教会に向かう事にした。


「ねぇ師匠一応こうやってマント羽織ってるけ、どこっそり教会にどうやって入るの?」


「こうするのよ」


 そう言って師匠がピアスを外すといつもの白い髪と赤い目に戻った。


「シュウもこれ付けて」


 渡されたゴーグルを目にはめると僕の髪も白くなり耳が長くなった。


「すごい!エルフ変身ゴーグル!?」


「行くわよ」


「え?」


 師匠はそのまま散歩にでも行くように歩いて行くと教会を警備している兵士たちがこちらを見て声を上げた。


「なんだ貴様!なっ!エルフだと!!」


 次の瞬間手を上げた師匠の五指から雷が発生して立っていた三人の兵士はビクリと痙攣した後、煙を上げて倒れた。


 そのあともズンズンと教会内を進み中に居た人たちを全員感電させていった。


「エルフが恐れられてるって言うのは師匠のせいじゃないの?」


「何か言った?シュウもビリってしてみる?」


「いえ、何もありません」


 そのまま昼間来た中庭に到着して警備の兵士も感電させた。


 正直な所、僕は宿屋で寝ててもよかったような気がするがそれは考えないでおこう。


「これを壊せばおしまいね」


「いやいや、まさか伝説に聞く白き破壊の女神に会えるとは夢にも思いませんでしたよ」


 いつの間にか女神像の後ろにディアスが現れ像の前へ進み出て来た。


「この女神像は神よりの賜り物ですので壊さないでいた、あぶなっ!ちょっと話聞いてます?」


 師匠がディアスが喋っているのに問答無用で女神像に炎の矢を放つとディアスが白くて丸いシールドを空中に浮かせて女神像を守った。


 さらにディアスが手から光の帯を出して攻撃してきたが師匠が黒い槍を撃つと光の帯はちぎれて無くなった。


「闇魔法まで使えるとはさすが破壊の女神恐ろしい」


「師匠って人間にそんな名前で呼ばれてたんだね」


 師匠は無視していたが少し恥ずかしそうだった。


「もう、さっさと終わらせるわ」


 師匠がそう言うと手のひらから炎の矢が何本も現れ呪印の力で黒くなりディアスへと撃ち続けられた。


「ぐあぁ、ちょっと、ちょっと、待って、待ってください、ストップ、ストップ!降参、降参です!話を聞いてください」


 最初光る盾で防いでいたが、だんだん押されて行きまさかの降参宣言だったが師匠はそれでも撃ち続けていた。


「もう降参って言ってるよ?」


 師匠が僕の声を聞いて撃つのをやめるとディアスが口を開いた。


「私急用を思い出しまして、失礼します!」


 そう言った途端、師匠が炎の槍をまた撃ち始めたがディアスは足元に穴が開いたように地面に吸い込まれて消えていった。


 ディアスが消えた後には向こう側が見えない丸い跡が残っていたがゆっくりと小さくなっていった。


「あの残った丸いやつリエルのやつと一緒だね」


「アレ、アタチノ、チカラ!」


 ミニリエルもポシェットから乗り出して主張していた。


「あれは天使だったのかな?手から光の帯みたいなの出してたけど」


「アレ、テンシ、チガウ」


「あ、そうなんだ」


「そうねあれば多分ソレの力をもらった人間じゃないかしら」


 そう言いながら師匠がミニリエルを指さした。


「どうにかして取り返さないといけないね。まぁ今はとりあえずこれ壊そうか」


 そう言って僕は爪の呪印を伸ばし女神像を真っ二つにすると上半分が地面に落ちて砕け散った。


 その砕け散った破片の中に以前見たレプリカボックスと言われていた偽物のキューブが出て来たので拾い上げ師匠に見せた。


「偽物のやつが入ってたね」


 師匠に手渡すと師匠はそれを握り込み呪印を這わせそのまま握りつぶした。


「ホントに迷惑な話ね、帰りましょう」


 それから2、3日ほど門は封鎖されていたが魔法水の供給が止まったため病気の進行が止まり門が開放される事になった。



「いやーひどい目に会ったなぁ、疫病とか怖すぎるだろぉ見える敵にしてくれよ」


 マーロフが馬車の上で伸びをしなが文句を言うとグルスが口を開いた。



「まぁ別に俺たちは宿で飲み食いしてただけだが無駄な金を使っちまったな、聖都に帰ったら働かないとだめだな」


 マーロフ達がだらっと馬車に腰かけ疫病に対する文句を言っていた。


 今僕達はまた乗り合い馬車に乗ってこの国の聖都ロイマリアを目指していた。


「ねぇ二人は聖都では普段は色々依頼を受けているの?」


「俺たちのギルドはよぉ基本的に迷宮に入ってるんだ」


「迷宮!聖都には迷宮があるんだね!どんな感じ?」


「なんだシュウは迷宮に入った事ないのか?」


 グルスがゴーグルをかけた顔で聞いてきた。


「迷宮は入った事があるけどオークと狼とかゾンビばっかりだったなぁ」


「いったいどこの迷宮だよぉ、ゾンビばかりとかハズレ中のハズレだろぉ」


 マーロフに続いてグルスが説明してくれたがゾンビ等のアンデットの魔石は小さいらしい。


「それにしてもグルスはなんでゴーグル付けてるの?」


「ああ、俺は目が良すぎてな普段はこれ付けてんのさ」


「目がいい?」


「ああ、かなり遠くの方までよく見えるんだだから弓の射撃は俺に任せとけよ」


「そう言えばここにくる前も時々どこかへ向かって弓を撃ってたね、あれ意味があったんだ!」


 話を聞くとグルスは魔眼とまではいかないがかなり遠くまで見渡す事ができ背中に背負ったでっかい弓でそれを撃つことができるという事だった。


「遠くを見るのに目を開き過ぎると乾燥するしな、馬車の上だとゴミだって飛んでくる、商売道具を大事にしてるのさ」


「じゃあそのヘルメットは何か意味あるの?」


 僕が聞くとグルスは答えにくそうにしていたがマーロフが口を開いた。


「わはは、それはよぉハゲ隠しだぜ」


「うるせー言うんじゃねー!」


 仲の良い傭兵二人と共に僕達は聖都へと向かった。


 

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