第56話 爪と龍と温泉と


 そんなこんなで僕たちは今高さが三十メートルはあるでかいトンネルを火口に向けて歩いていた。


「まさか自分から龍に会いに行く事になるとは思わなかったね」


「そうね、これなら多少時間がかかっても海路で行けばよかったわ」


「でもなんでドワーフは自分達でもらいに行かないの?」


「ドラゴンは興味のない者の話を聞かないのよ。まぁ呪印でも持っていれば別だけど今のドワーフの中に呪印を持っている者が居ないからでしょうね」


「昔は居たの?」


「そうね前回ここを通った時はまだボボンガスのお父様が生きていて彼が呪印持ちだったわ」


「それは一体何年前の話なの?」


「そんなのどうでもいいでしょ、もうすぐ火口よ」



 広い通路の先に外の光が見えている場所がありそこに到着すると火口の縦穴の途中にぽっかりとこの横穴が開いていた。


 下を見ると溶岩が見え上は空が見えていた。


「ドラゴン居ないね。でもドラゴンってなんで火口から直接出入りしないんだろね?」


『お前たちも家の玄関から出るであろう、私が家の玄関から出て何が問題があるんだ?』


「この声は!?ちょっと僕急用を思い出したかもしれない!」


『ひどいじゃないかシャイニングダーククローの使い手よ』


 ひぃぃ!やめて、あれは出来心だったんです!


「どうしたのシュウ?頭抱えて」


「あ、師匠、ちょっと今ドラゴン様とお喋りしてて」


 師匠には内緒でお願いします、お願いします、お願いします。


「ドラゴン様がどこかに居るのね、はじめましてティーレシアと申します」


『何をしに来たんだ不死者と定命から外れた者よ』


 ドワーフ達に頼まれて炎をもらいに来ました。


『そんなくだらない事か、さっさと済ませよう、そこで手を前に出してシャイニングダーククローを伸ばせ』


「まだ言ってるし」


 僕は言われるままに火口の傍に立ち手を伸ばしてさらに爪を伸ばした。


 するとその瞬間、溶岩の中から鉛筆くらいの細いドラゴンブレスが爪を焼いて空へと消えていった。


「うわっ!爪に火が!」


『その炎はお前自身を燃やすことは無い、爪を伸ばし力を込めればまた炎を出す事が出来るだろう、これからはドワーフの炎の管理はお前がしろ不死者よ、ちょうどいい』


 えっ、まさかの丸投げ?


『さてもう行っていいぞ、私はもう寝る。もう起こすなとドワーフ共にも言っておけ』


 溶岩からドラゴンの尻尾が出て来て僕たちの通路の上を叩くので、急いで師匠と来た道に戻ると後ろで通路が崩れ落ちた。


「あぶないなぁ、相変わらず怠惰なドラゴンだなぁ」


『聞こえてるぞ』


「素敵な赤く美しい鱗をしたドラゴンだったね師匠」


「そ、そうね、まぁこれでお使いは終了ね、早く戻りましょう」


 帰りながら爪の炎を出したり消したりしてみたが本当に自分は熱くなかった。


 爪も前より少し長く出せるようになっているし炎を纏ってますます中二病な感じになったな。



 その後お城に帰ると散々色々な場所に龍の炎を着火させられて大変だった。


 その後遅くなったのでお城で一泊する事になったがそこでドワーフの国は火山があり、そのおかげで温泉が有る事が判明した。


 しかし今僕は温泉に入りたいと言うのにドワーフの王様の宴会に付き合わされていた。


「いやーシュウが呪印を四つも持っているとはのう、お前さんは本当に人間なのか?」


 王様が馴れ馴れしく肩に手を置いて来た。


「正真正銘人間ですが、なぜですか?」


「うむ、昔聞いた話だがな呪印は魂と深く結びつく印なんじゃよ、だから二個以上の呪印をもし受けると魂が引き裂かれて死んでしまうと言われておる」


「あー多分僕が人より少し丈夫だからですかね?」


「なんかよくわからんがすごいな!わはは、まぁ飲むがいい!」


 王様も出来上がってるようでかなり適当になっていた。


「結局魔石はいらなかったわね」


 そう言って魔石を一つ机の上でコロコロと師匠が転がすとそこへミニリエルがやって来て魔石を嬉しそうに持って僕の所へやって来た。


「ホチイ!ホチイ!」


「欲しいの?師匠一個くらいあげても良いかな?」


 横でドワーフの強いお酒を飲みほしていた師匠がコップにおかわりを注ぎながらこちらを見て言った。


「別にいいわよ今回使わなかったからいっぱい有るしね」


「良いんだってよかったねミニリエル」


「アート、アート」


 ミニリエルが魔石を抱えながらぴょんぴょん飛び跳ねていた。ありがとうかな、かわいい。


「さて師匠、僕お風呂に行きたいんだけど良いかな?」


「そういえば今日は温泉貸切にしてくれてるみたいだから好きに入ってくると良いわ、私もこれ飲んだら温泉に入って部屋に戻るわね」


「じゃあ行ってくるね、ミニリエル預かっててくれる?」


 そう言って師匠にリエルを渡すと師匠に摘まれじたばたして僕の名前を呼んでいた。


「ミニリエル待っててね、じゃあ師匠お先に!」



 案内してもらい温泉に行くと岩で組んだ建物があり、男女別れた入り口から中に入ると脱衣所になっていた。


 そこはドワーフの仕事ぶりがうかがえる、かなりしっかりした作りだった。


「なんか良いね、籠置いてあるし旅館の温泉を思い出すな」


 籠に服を置いて中のドアを開けるとそこは洞窟温泉だった。


「うわーいい感じだー」


 中は洞窟その物でかなり高い位置の天井に割れ目があり、そこから穴の空いた月が見えてそれがまた風情があった。


「奥には溶岩が流れててすごいな」


 溶岩が流れているせいか水蒸気がすごくて幻想的な景色になっていた。


 体を洗いお湯につかるとかなり熱めだった。


「ふぁ、熱いけどきもちぃぃぃ」


 熱いのでそんなに浸かっていられなさそうだなと考えているとドアの開く音が聞こえた。


「え?誰か入って来た貸切だと聞いてたんだけどな」


 音のした方を見ると湯気でかなり見にくかったが女性のシルエットだった。


 えええ?!ここ混浴なの?ドア別だったのに?!貸切って事は?!師匠?!


 僕は咄嗟に入口と逆の方を向いて気付いてないふりをしてしまった。


 足音が近づいて来て、僕の後ろで掛け湯している音が聞こえた。


 そしてそのままゆっくりお湯に入ってくる音が聞こえてくる。


 じっとしているとちゃぷちゃぷと僕の方へ近づいて来る音が聞こえて背中に柔らかい感触が!


 む、胸がががが、あれ、でも師匠ってもっと胸有ったような。


「だーれだ?」


「え!!!?リエル?」


「正解でーす!」


 後ろから僕の背中に抱きついて来たのは元のサイズに戻ったリエルだった。


「なんで?!元のサイズに戻ったの?!それより裸でくっつき過ぎだよ」


「良いじゃないか好き同士なんだから、魔石をもらったから少しの間だけど元のサイズに戻れたよ」


「誰が好き同士だよ!ってえ?もっと食べたら戻れるの?」


「あー無理かな?多分次はもっと高純度の魔石が必要になるかも」


「それにしてもなんであんなに小さくなっちゃったの?」


「そうだ!聞いてよひどいんだよ、あの後くそロン毛に負けちゃってさ、体を書き換えられそうになったから精神と肉体の一部だけ分離して逃げて来たんだよー」


「そんなことできるの?!天使の体どうなってるの?」


「え?!シュウ僕の体に興味あるの?シュウにだったら全部見せても良いよ」


 リエルがお湯の中から立ち上がって来た。


「そんなこと言ってないだろ!あれ、なんかクラクラする…」


 のぼせてしまったのか僕の意識はゆっくりと遠くなっていった。


「あーシュウ君!僕ももう魔石の効果が切れそう!やばいー」



 気が付くとそこは宿屋の部屋の布団の上だった。


「あれ、ここは?」


 横を見ると師匠が座って本を読んでいた。


「シュウ気が付いたのね、びっくりしたわまさか男湯と繋がってるなんて、お風呂に入ろうとしたらシュウが浮いてるんだもん」


 ええええええええええええええええええええ!?ええぇぇぇぇぇ…


「のぼせた僕を助けてくれたんだね、ありがとう」


「シュウなんで泣いているの?」


「なんでもないよ、今日はもう寝ようかな疲れたし」


「そうね、お風呂にのぼせるほど入ったんだしさっさと寝なさい、お休み」


「おやすみなさい師匠」


 僕は悔し涙で枕を濡らした。



 次の日朝ごはんを食べて部屋に戻って出発の準備をしている師匠に話しかけた。


「師匠もうお風呂入らないの?」


「そうね、熱いお湯だし混浴だし辞めとくわ、シュウ入って来ても良いわよ」


「いや僕もまたのぼせちゃうかもしれないし今日は辞めとくよ」


 だよね、もうチャンスは無いよね。



 出発する事をドワーフに告げると洞窟の中なのに馬車を用意してくれたが、その馬車は形は馬車だけど馬がいなくて自走していた。


「え?これ自動車だよね」


「魔石で走る魔石車ね」


「ドワーフもなんでもありだね、みんなこの洞窟内でどうやって暮らしてるの?」


「主に魔道具を開発して魔族領との取引で生計を立ててるわね、食べ物は地下で作られるドワーフ芋が主食ね、あと芋はお酒にもなっているみたいよ」


「すごいねドワーフ、魔道具も見るの忘れてたな」


「まぁまた来る機会があるわ」


 そんな話をしていると車の準備が出来たらしく後ろに乗せてもらい出発した。


「道が綺麗だから全然揺れないね!」


「そうね人間の国もこれに乗って行きたいけど目立ちそうね」


 師匠とお喋りしていると人間側の扉へと到着し兵士に扉を開けてもらい外に出るとそこは鬱蒼とした森だった。



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