第53話 牢とメガネと幻獣と
「あー、なんか懐かしいなここ、僕ほど色んな国の牢屋を知ってるのはいないんじゃ無いかな?」
「シュウ、そんれは自慢にはならないわ」
「シュウ様牢屋を懐かしまないでください」
「シュウ様その節はご迷惑をおかけいたしました」
そんなバカな話をしているとララさんが真面目に話し出した。
「それにしても何が起きているのでしょうか?」
「捕まる時に偽物って言われていたもんね、もしかすると既に偽物が居座ってるのかな?」
「どうにかしてお父様か大臣か、話がわかるものに連絡を取らないといけませんね」
そんなことを話して過ごしていると僕と師匠は牢から出る様に言われ、そのまま追い出される様に釈放されてしまった。
「ディアーヌさん達と引き離されたのかもしれないわね」
「師匠どうしよう?」
「とりあえず時間が遅いから宿屋を探してそこで決めましょう」
僕たちはさっさと適当な宿に部屋を取った。
「明日は旅人ギルドへ行って調べてみるわ。そちらからも働きかけて、どう動くかね」
「そうだね問答無用で捕まったしおかしいよね」
「後はついでにハイングラード博士も調べてみるわ」
「もう色々あり過ぎてちょっと忘れてたよ」
「とりあえず続きは明日ね、今日はもう疲れたから寝るわ」
「了解、おやすみティー」
「師匠でしょ、おやすみシュウ」
次の朝早くから師匠は旅人ギルドへと出かけたので僕は宿で呪印の研究をしていた。
「肉球呪印は何ができるんだろう?」
試しに呪印に力を込めてみると周りの音が鮮明に聞こえてきた。
「隣の部屋のいびきから一階の受付の喋る声まで聞こえる」
木戸を開けて外を覗くとかなり遠くの音も聞こえるみたいだ。
さらに力を込められそうなので込めてみた。
「何これ?!」
お尻から尻尾が生えて来ていた。
「あれ?耳も生えてる!」
どうやらこの力は今の感じだと力を込め続けると獣化するみたいだった。
「さらに力を込めれそうだ」
そのまま力を込めていると体に恐ろしいほどの力がみなぎってくるのを感じる。
「何これ?!今なら素手でキューブも握りつぶせそう」
まだ力込めれる?!何これ全能感がすごい!
そこでぷっつりと僕の意識は途絶えた。
「あれ?ここどこ?」
目が覚めるとそこは森の中だった。周りを見回すと見た事の無いモンスターや竜種の死骸がズタボロになって転がっていた。
「え?何これ?えっ?えっ?」
さらに周りの地面にも大きな爪痕があり、気も薙ぎ倒されたり砕け散っていた。
「服の手足がズタボロになってる、それに血の痕が凄いけど、返り血かな?えーどう言う事?」
なんとか腰についていたギルドカードとお金が入った袋が無事だったので街の入り口に行くとボロボロの服を兵士に心配され、町に入るとみんなにジロジロ見られながら宿へ帰ると師匠が先に帰っていた。
「シュウ!どこへ行ってたの!」
「師匠、それが覚えていないんだ」
「覚えてないって何があったの?」
僕は着替えながら師匠がギルドに行った後の事を話した。
「やっぱりシュウだったのね。今日ギルドに情報が上がって来たんだけど街で黒髪黒目の獣人が暴れているって言う話があって、巡回兵が向かった頃には城壁を飛び越えて南の森へ入って行ったらしいの」
「それで僕が南の森の中で目が覚めたんだね。もしかすると力を注ぎすぎて凛が出て来たのかな?」
「そうかもしれないわね、そうなるとその呪印は使わない方がいいかもしれないわね」
「そうだね、僕もそう思うよ、今回は被害は無いのかな?」
「今回調べが付いているのは何人かが弾き飛ばされたのと警備の兵士が怪我をしたくらいね。念のため北の城壁を飛び越えて入って来たっていう嘘の情報を流してあるから、まぁシュウが疑われる事は無いと思うわ」
「師匠ありがとう!宿屋を知ったらもう牢屋は嫌だよ」
「それと、ハイングラード博士の場所が分かったわ。とりあえず明日はそちらへ向かいましょうか」
次の日ギルドから馬車を出してもらい町の外に有ると言うハイングラード博士の研究所へと向かった。
研究所は南の森の奥に有り、かなり大きな施設だったが塔の一部が崩壊していた。
「これはもしかして昨日のあれかなぁ?」
「まぁ、魔物の仕業ね、行きましょう」
研究所の中は沢山の人が行き交い、その中には工事の人間も混じっていた。
その中から白いを着た男性がこちらを見つけ声をかけて来た。
「あんた達は何だ?」
「私は旅人ギルドから来たティーレシアとシュウです。今日のアポが取れていると思うんですがハイングラード博士に取り次いでもらえるでしょうか」
「博士のお客様でしたか、どうぞご案内させて頂きます」
白衣に案内され奥へと進んでいった。
「お忙しそうですね」
「そうですね、昨日の魔獣騒動で研究設備の一つが破壊されてしまい今日はてんてこ舞いですよ」
「魔獣?」
僕がそう聞くと白衣はメガネをあげながら答えてくれた。
「ご存知ないですか?昨日森に魔獣が現れまして、森の木々を破壊しながら沢山のモンスターを殺し倒しそのモンスターたちの死骸で山を作って唐突に消えたんです」
「そ、そんな事が有ったんですね」
「はい、その時魔獣がこの施設の上を通った時、塔の先に一度飛び乗り、その余波で破壊された様です。もし、そのままこの研究所を破壊していたらと思うとぞっとしますよ」
「それは大変でしたね、所でその魔獣の姿は見られましたか?」
目撃情報も聞いておこう。
「目撃した者の話では耳と尻尾があって黒い事からワーウルフの亜種では無いかと話が出ていますね」
「怖いですね、早く解決する事を祈るばかりです」
色々言い過ぎたか師匠に小突かれながら奥の方の博士の研究室へ到着した。
「博士お客様をお連れしました」
ドアが開かれると中は獣人国のコロシアムの地下にあった施設に似たような雰囲気で、かなり広いがよくわからない泡立った水が入った水槽や水晶玉に線が繋がった物やパソコンの様なパネルに、さらに足元にはガラクタだらけだった。
「博士~、お客様です、旅人ギルドのティーレシア様とシュウ様です」
案内の男が大きな声を出すと奥からぼさぼさの頭に瓶底メガネを掛けた金色の髪の長い女性が現れた。
「ドイル君声が大きいよ、聞こえてるから」
「大きな声じゃないと博士が出てこないからですよ、それでは私はこれで戻りますので」
そう言ってドイルと呼ばれた案内をしてくれた男性が部屋から出て行った。
「やぁやぁ、君がティーレシア嬢か初めまして、マリア・ハイングラードだ」
「旅人ギルドのティーレシアです、こっちが弟子のシュウです、よろしくお願いします」
「よろしくシュウ君」
そう言ってこちらの顔を覗き込んできた。
「ふむ、君も面白そうだね、ところで今日は何の要件で来たんだい?旅人ギルドのグランドマスターの要件だきっと面白いんだろうね!」
師匠が懐からレプリカコピーを出して博士に手渡した。
「これを見たことは?」
「おお、珍しい物を持ってるね」
そう言ってバタバタとガラクタの山の中に腕を突っ込んだと思うと同じレプリカコピーを掘り出して来た。
「ふむ、これは魔力装置も同じだし、製造者も一緒だと思うよ」
「それはどこで手に入れたの?」
師匠が聞くと博士が少し考えて答えた。
「これは確かリンドール聖教国と言う人間の国のどこかの街で見つかったものだね、手足が一杯ある化け物が暴れて最後は自爆して町が半壊したらしい、最後に残ってたのがこれさ」
やばいあれあのまま放置してたら最後自爆してたのか…。
「そっちのは何処で見つけたんだい?」
「それは最近王都で手足が一杯ある化け物を倒したらそれしか残らなかったわ」
博士がメガネを光らせて何かの機械で二つを比べながら口を開いた。
「ふむ、やっぱり同じシステムだね」
「人間の国か、もう少し手掛かりが無いと厳しいわね」
「ふむ、じゃあこれは知ってるかな?」
博士がそう言ってまたガラクタの山に手を突っ込んだかと思うと中からキューブを取り出した。
「キューブ!?違うわね少し光り方が違う」
師匠が近くで見ながら言うと博士が説明した。
「よく分かったね、これは人間の国でレプリカボックスと呼ばれてる物だよ、出力はゴミみたいなもんだけど疑似的にだが幻獣炉と同じ様に幻獣界とつながっている」
ボックスか、そういえば人間の国ではそう呼ばれていたな。
「どこで手に入れたの?」
「これを作ったのは私と一緒の天才だよ、是非一度お会いしたいもんだ」
「どこで手に入れたの?」
師匠がもう一度同じ質問をすると博士がメガネを光らせた。
「教えても良いけど僕のお願いも聞いてくれるかな?」
「何?話によるわ」
「ティーレシア嬢、君は呪印を持っているね、その呪印を一週間、いや三日で良いんだ、研究させてくれないかい?もちろん毎日夜には帰って良いよ」
「うーん、旅人ギルドのキューブの研究も手伝ってくれるなら考えても良いわよ」
「交渉成立だ、キューブの研究は喜んで受けよう、そうと決まれば僕は用意が有るのでまた明日来てくれるかい、明日から三日だよろしく頼むよ」
そう言って握手をした博士は忙しそうに奥へ消えていった。
「師匠大丈夫?研究されるなら僕がかわるよ?」
「ダメよシュウは色々まずいわ幻獣の事も不死の事もね」
「とりあえず一度ギルドへ寄って宿へ帰りましょう」
その後馬車でギルドへ帰り、師匠の会議が終わるのを待って僕たちは暗くなってから宿へ到着した。
宿に入るとロビーで、メイド姿の女性が声を掛けて来た。
「ティーレシア様でございますね。ララ様からお手紙を預かっております」
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