第40.5話 シュウと呪印と後悔と


 それの存在を初めに感じたのは呪印の気配だった。


 私の名前はティーレシア、家名も氏族の名も遠い昔に消え去り今はただのティーレシアそれだけ。


 私は彷徨える民であり最後の守り手であり全てを終わらせる者。自分でも分からなくなる程の悠久の時の中を生きるハイエルフの迷い子。


 私に残された物は使命だけ、世界に点在するキューブからオリジナルを見つけ出す。


 今も迷宮に潜り最奥のキューブへと足を運んでいたがそんな中あの子に出会った。


 ここは入口も出口も存在しない名も無き迷宮、近づく存在も何もいないはずだった。でもどんどん近づいてくる濃い気配。それは長い時を彷徨う私でも初めて出会う恐ろしく濃い呪印の気配だった。


 呪印を持つと言う事はドラゴンから力を与えられ私と同じ目的を持つ事を意味する。


 そんな仲間を私はその同胞を笑顔で迎える事にした。


「はーい、今開けるから待ってー!」


 最初に目に入ったのは真っ黒い髪。その少し癖のある黒髪は耳と目に少しかかり、その隙間から私をまっすぐに見つめる瞳も髪と同じ黒い色だ。

 幼さを残すその顔は中性的だったがそのまま目線を下げると何故か何も着てない、完全に男の子だった。


 なんでこんな迷宮の真っ只中で素手な上に全裸!?


「え?変態?こんな所で?」


 意味がわからない、衝撃を受けて咄嗟に扉を閉めてしまったが話を聞くとモンスターに襲われて服を無くしたらしいが服だけ無くなるとかあるんだろうか。



 でも彼から嘘を言っている感じはなかったので服を与えて詳しく話を聞いてみることにした。


 どうやら彼は何も知らないみたいで呪印のこともキューブの事も、さらに驚くことに彼の呪印は一つじゃ無かった。


 意味がわからない、呪印は命の根幹へ結びつくの術式のはず、だから一人にひとつでその命や寿命を燃やし力に変えてくれる。


 二つも呪印が付いているという事は命が二つあるのだろうか?さらに詳しく彼の話を聞くとなんと転生者だった。


 【転生者】それは過去の記録にも時々現れる特別な力を持つ存在、目の前の彼の力の流れを魔法で解析してみたが普通の流れではないことは感じる。


 しかも彼、シュウの年齢は二十三歳とまだ子供。もちろん人間の中ではもう成人している事は分かっているが、そもそもエルフでは三十までは親と過ごし里から離れることもない、やはり気持ちの上では未成年に接する感じになってしまう。


 その後も色々話をしたがシュウはここを早く出たい様なので一緒に攻略を進めることして、呪印を二つ持つシュウの力を見せてもらうため二人でゴーレムを倒しに行くことにした。 


 まずは私がゴーレムを一体破壊して見せようとした時、少しミスをしてゴーレムに攻撃をされたがその際とても心配してくれたのが新鮮だった。


 次にシュウがゴーレムと戦っている時にそれは起こった。


 シュウは早速呪印の力であの硬いゴーレムを削ってみせたがその次の瞬間足を捕まれ何度も硬い地面に叩きつけられた。


 私は焦りながら、呪印を発動させてゴーレムを弾き飛ばしシュウを回収して拠点へ戻ったがその時にはもうシュウは息をしていなかった。


 こんなはずじゃなかった。呪印の力が二つもあるのに彼はほとんど発動せずに戦っていた。


 人が死ぬのは何度経験しても、どれだけ生きてきても慣れることはない。

 しかも私は守るべき立場の子供を死地に追いやり無駄に殺してしまった。


 この世界では街でも森でも戦場でも子供は事故や争いに巻き込まれて死んでいる。

 そんな当たり前のことを忘れていた。この手でそこへ送り込んでしまった。そんな後悔に押しつぶされながらシュウの亡骸の横で呆然と数時間が経過した時だった。


「ガハッ、ゴホッ!ゴボッ」


 驚いて音がした方を見るとシュウが吐血していた。


「え?どうして?さっき見たときも死んでたはずなのに」


 わからない、もう心臓が止まってから何時間も経過していた。


 でも生きてる。


「とにかく今は急いで手当をしないと」


 そう自分に言い聞かせながら傷口をきれいにして薬を塗って着替えさせた。


 それから数時間が経ってシュウが目を覚ました。


「ティーさんごめん迷惑をかけました」


「シュウ!目が覚めたのね。こちらこそいきなり戦わせてごめんなさい、キチンと話をしていれば良かったわ」



「僕も言ってなかった事があります」


 それからシュウは自分の体のことを話してくれた。こちらの世界に来てから不老不死になった事を。


 一緒だった、シュウも呪印を持ち長い時間を生きる。同じ時の中に生きる存在だと知った。


 だから私はシュウにこれから色んなことを教えて行く事にしよう、時間はたくさんあるんだから。



 




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