第40話 ティーと夕日と日常と
僕たちは早朝から月の砂漠亭へと来ていた。
「よし!任せとけ、姐さんが乗ってくれるならこんな安全な旅はねぇぜ!」
ガラハドに王都方面で行けるとこまで一緒に乗せて行ってもらう事にしたら二つ返事でOKをもらった。
「姐さんたちが今回の件を速攻で解決してくれたから、うちのキャラバンは大儲けだ!むしろ護衛料を払ってついて来てもらわないといけないくらいだぜ」
「それで出発はいつになるの?」
「明後日だ、次の西のオアシスの場所の関係で出発は昼だ、昼には飯を食って北門へ来てくれ」
「次の町は近いんだね」
「ああ、この町で仕入れて店を出している奴らの町だな、少しの距離だが意外と需要はあるんだぜ、水もここではただ同然だからな」
「衛星都市みたいなもんかな?それにしても、みんな逞しいね」
「砂漠は環境が厳しいからな、逞しくないと生きてはいけねぇんだよ」
それから僕がしばらくガラハドと話をしていると黙って話を聞いていた師匠が立ち上がって口を開いた。
「じゃあ明後日ね、私達は準備をしてくるわ」
「じゃあねー」
「ああ、また明後日たのんだぜ!」
月の砂漠亭を出た僕達は早速武器屋に行って前と同じショートソードを買い次はガフスの店へ向かった。
「いらっしゃい!おお、シュウ達じゃないか、鎧の調子はどうだ?」
「あー、その、壊れた」
「はぁ?そんなに簡単に壊れる物じゃないだろう?どうせ外れただけじゃないか?壊れたやつ出してくれよ治せるか見てみるから」
驚いて立ち上がったガフスが手を出して来た。
「それが、跡形も無く消し飛んだんだ」
「はぁ?いったい何と戦ったらそんな事になるんだよ」
「ドラゴンとちょっとね」
「シュウ、俺を馬鹿にしてるのか?」
ガフスが伸ばした手を頭にもっていってガシガシと掻いた。
「良いんだ信じてくれなくても、大変だったんだよ」
あのホワイトドラゴンのブレスの痛みを思い出すだけで体が震える。
「そ、そうか、じゃあどうする前と同じで良いか?」
「うん、お願い」
微妙に気を使われる空気になったが前回と同じ感じで鎧とマント、そしてブーツを用意してもらった。
「全部終わったしお昼ご飯でも行きましょうか」
支払いを終えた師匠が提案してきた。
「じゃあラリアの所にする?」
「そうね暑いからあの冷たいシードルが飲みたいわ」
「お、サンドイッチか良いな、俺も一緒に行こうかな?」
「ガフスはラリア目当てでしょ?」
「はっ?ちっ違うし!サ、サンドイッチが好きなだけだし!」
焦って手足をバタバタさせているがおっさんがしても可愛くない。
「ハイハイ、じゃあ一緒に行こうか」
「マジだって俺卵サンドが好きなんだよ」
「まぁ良いから行こうよ」
「信じてないなー!」
僕は叫ぶガフスを放って師匠とさっさとラリアの店に向かう事にした。
「おい待ってくれよ」
前回気が付かなかったがラリアの店は可愛らしい外観と内装とは裏腹に若い男の客が多かった。
「ガフス、どうやらライバルは多そうだよ」
「は?何のライバルだよ!」
中に入って空いている席に座るとすぐにラリアがやって来た。
「いらっしゃいませー。あ、この前も来て下さったお二人ですねありがとうございます、二人はガフスさんのお知り合いなんですか?」
「そうなんだ、前回たまたまガフスの店で買い物してて、ここのお店が美味しいって聞いて来たら本当に美味しかったのでまたお邪魔させてもらってます」
「あら嬉しい、今日も腕によりをかけて作りますね、ガフスさんも紹介して下さって有り難うございます」
「おう」
おうってオットセイか、緊張してガチガチじゃないか。
「ふふ、どうぞメニューです」
笑顔のラリアに渡されたメニューを見ていると師匠がさっさとメニューを指差して注文を始めた。
「私はこのベジタブルサンドと辛口のシードルにするわ」
「師匠は冒険をしない派なんだね。僕は何にしようかな、今日のお勧めとかありますか?」
「今日はサンドワームが入って来たのでハンバーグサンドがお勧めですよ」
えええ!?サンドワーム食べるの?あの口の中の匂いを思い出して吐きそうになるが冷静を装った。
「じゃあ俺はそれで」
ガフスは入って来て座ったままほぼ動いてないけど大丈夫かな。
「えっ?!ガフス卵って言ってなかった?」
「言ってない」
「お飲み物はいつもと同じ葡萄酒でよろしかったですか?」
「はい」
ガチガチでもうだめだなガフスは。
「うーんじゃあ僕はチーズとかお肉が挟まってるやつありますか?」
「野菜とベーコンとチーズが挟まっているのがありますよ」
「じゃあそれと僕も同じシードルをお願いします」
「はい、ありがとうございます、少々お待ちくださいね」
ラリアがキッチンに消えたのでガフスの方を見たらさっきと同じポーズからまだ一ミリも動いてなかった。
「ガフスちょっと!緊張感が凄いよ、もう少し自然に出来ないの?」
「は?どうすれば良いんだよ!」
「何で切れてるの?とりあえず、今日はいい天気ですね、とかさ話しかける努力をしようよ」
「善処する」
「だめそうだね」
そんな話をしていると厨房から僕たちのサンドイッチが乗ったと思われるトレーを持ったラリアが出て来た。
「お待たせしました、こちらがベジタブルサンドとベーコンチーズ野菜サンドです」
「後シードル二つと、こちらがハンバーグサンドと葡萄酒です」
横を見るとガチガチのガフスがカッと目を見開いた、行くのか。
「あの、いい天気ですね!」
「え?あ、そうですね、ずっと晴れてますね」
そりゃそうだ砂漠だし、ガフスはそのまま停止してしまっている。
「えっと、追加のご注文があればまた言ってくださいね」
そう言ってラリアはそそくさと離れていった。
「ガフス、ドンマイ」
僕はベーコンチーズ野菜サンドを美味しく頂いた。
その後テンションが低いガフスと別れ僕たちは市場へ来ていた。
「あんな事があった後だけど賑わってるね」
「逆に大手の商人達が逃げていったから個人のこう言う市場が盛況なのかもしれないわね」
「あ、シードルが小さい樽で売ってるよ師匠買ってく?」
「いつの間に字が読める様になったの?」
「驚いた?さっきのメニューで見て覚えてたんだ。ちょっと驚かそうと思って」
「ふふ、ちょっと驚いたわ、せっかくだから買っていきましょうか」
「了解、荷物持ちは僕にお任せください」
僕と師匠はガタイの良い、強そうなおばちゃんのお店へと向かった。
「いらっしゃい!」
師匠は他のお酒も色々見ていたが結局三十センチくらいのシードルの樽を指さした。
「すいませんこのシードルの樽一つください」
「はいよ、この小さいので良かったかい?」
「それで大丈夫です」
「はい旦那さん持ってあげて」
おばちゃんが僕に樽を渡して来るので満面の笑みで受け取った。
「はい、旦那に任せておいてください!」
「ちょっと、誰が旦那よ!」
師匠が恥ずかしそうに僕に肘打ちしてこっそり話しかけて来た。
「まぁまぁ、無理に否定する事ないよ、今日は夫婦で行こう」
「もう、馬鹿」
「何だ、仲良いねぇあんた達オマケにドライフルーツをつけといたげるよ」
「ありがとうおばちゃん!」
お金を(師匠が)払って、樽は僕が持ってたんだけどそれも最終的には結局師匠のマジックバックに入れた。
それからも色々見て回ってるとあっという間に夕方が近づいていた。
「ねぇ師匠、行きたい所があるんだけど良いかな?」
「良いわよ特に用事もないし、どうせ宿に帰ったらお風呂に入るんでしょ?」
「もちろん!明日の朝も入るよ」
「本当にお風呂好きね、所でどこに向かってるの?」
「まぁついてきてよ」
そう言って僕は鎧を調整してもらってる時にこっそりガフスに聞いた一般人でも登れると言う西の城壁へ向かった。
「わぁすごいわね!」
「そうだね街並みが一望できるし、見て砂漠には夕日が沈んでいくよ」
「この景色が有るのも師匠がサンドワームを退治したおかげだね」
「シュウがキューブを壊したおかげでもあるわ」
珍しくゆっくりとした時間が二人のに流れていた。ずっと師匠と二人でいるけど魔法の練習や剣の練習ばかりでゆっくりするのも意外と少ない。
色々お喋りをして夕日が小さくなる頃なんとなく師匠の方を見ると目があった。
そして夕日がゆっくりと砂漠に消えていく中、僕たちの顔が近づいていく。
「ゴッホン!公共の場で何をしてるんですかねー。いやらしい」
まるで磁石が反発するように二人の距離はあっという間に元に戻ってしまった。
誰だよ!邪魔するの!?そう思って振り向くとそこにはピンク頭が居た。
「リエル!?」
師匠は剣を抜いて全身に呪印を纏わせているがリエルは構えもせずのほほんとした感じで口を開いた。
「こんな所で戦うの?よく考えた方がいいよ。どれだけの人が巻き込まれて死ぬかな?」
「二人とも落ち着いて!」
「私はいつも落ち着いてるわよ」
「まぁエルフも剣を収めてよ。今日はいい事を教えてあげに来たんだよ」
「王都に行くんでしょ?途中で迷宮都市ベラダルへ行くといいよ通り道だしね」
「なんで知ってるの?それに何があるの?」
「それは行ってからのお楽しみかな?」
口元に人差し指を当てリエルがほほ笑んだ。
「なんでそんな事を僕達に教えてくれるの?何を企んでるの?」
「いやだなー、僕はシュウ君が好きだから役に立ちたいと思ってるんだよ。だから行ってみるといいよ。じゃあ僕はそろそろ帰るけど二人でイチャイチャしちゃだめだよ!また会いに来るからね。バイバイ」
そう言い残して羽を広げてその羽に包まれると消えてしまった。
「くそ!何なのよあいつ!」
師匠が怒ってるけど怒りたいのはこっちだよ!一年以上一緒に居て初めていい感じだったのに!
その後師匠はまたギルドへ行き帰ってきたのは夜遅くだった。次の日の朝も早くからギルドへ向かった。
「ピンク頭のせいで予定が台無しだ!」
仕方ないので僕は一人で街をうろうろする事にした。
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