第39話 蔓と呪印とドラゴンと


 なんか体がふわふわして水の上に浮いている様な感じがする。


『やっと目が覚めたか』


 目を開くと足元の方にホワイトドラゴンがいた。


 どうやら僕はなぜか優しい光の中にふわふわと浮いているみたいだ。


『今治療中だからちょっと待て』


 治してくれてるの?ありがとうって言うか巻き込んだのそっちだったよね!


『だから治してやってるだろ、ついでに後ろのエルフも治しておいたんだから感謝しろよ』


 あ、それは完全にありがとうございます。


 ふわふわと浮きながら首だけを向けると師匠は傷跡も無くスウスウと寝息を立てていた。


 良かった、血が出すぎてたからもう駄目かと思って心配してたんだ。


『そうだな。もう少し俺が助けてやるのが遅いか土光の呪印がなければ死んでいただろうな』


「本当によかっぐあぁ」


 突然体の浮遊感が消えて背中と頭を激しく打った。


『すまん落とした』


 ひどい、色々雑だな。このホワイトドラゴン。


『失礼な奴だな、もう一回焼いてやろうか』


 ああ、すいません、思考がだだもれなの忘れてた。


『まぁいい、キューブを壊した褒美を与えに来たのに天使と戦ってるから何事かと思ったぞ』


 ああ、そういえばリエル、天使はどこへ行きました?ブレスで死にましたか?


『逃げられた、転移を阻止できなかった』


 良かったような良くないような感じです、知り合いだったんで。


『まぁ次にあったら完全に消し去ってやるけどな。さて今回の分も含めて褒美をやろう』


 あれですよね?別に欲しくはないかなぁって、ああ、やっぱり聞いてくれないんですね、あああ何もない左腕に!


『これで良し』


「よしじゃない!もうちょっと人の話聞いてほしいですけど?」


 呪印は手首にクルっと棘の有る蔓が巻いてある感じのデザインになっていた。


『これは命樹の呪印だ、そして多分お前に必要なもんだ感謝しろ、そして俺は光と命を司る龍だ』


 いつも通り一方的でなぞかけの様な自己紹介だった。


『さて要件はこれで終わりだ。ここはすべて焼き尽くすから早く出ていけ』


 呪印はとにかく師匠を助けてくれてありがとうございました。


『また会おう不死者よ』


 ドラゴンに別れを告げ僕は師匠をおんぶして遺跡の入口へ向かった。


 外へ出る途中に気が付いたんだけど、おんぶしたまま後ろが見える。何を言ってるのかよくわからないだろうけど僕もよくわからない。


「この視界の位置はたぶん目呪印さんと視界を共有している感じがする」


 さっきキューブを吸収した時にアップグレードされたのかな?


「他に何かできないの目呪印さん」


 すると目呪印さんがぶるぶる震えて動き出した。


「ええええ!」


 視界から言ってたぶん今は僕のおでこの真ん中に移動している。手首の三角を重ねたマークが空になってしまった。


 そのまま頭の後ろに目呪印さんを回してみる。これは、髪の毛に隠れてる感じなのに毛が邪魔にならない、そして師匠の顔をゼロ距離で見ることが出来る、役得か。


「まさか!口呪印さんも?」


 気づいたら当然の様に動いて目呪印さんの三角が重なった所に入ってるし、しかも目呪印さんが帰りたそうに周りを回ってる、それ家なの?


「あー、消えろ!」


 鬱陶しさ倍増したな。


「何一人で喋ってるの?」


「ああ、師匠!目が覚めた?」


「ここは?どうなったの?シュウが助けてくれたの?ありがとう。それともう大丈夫だから下ろしてくれてくれる」


「だめだよ、とりあえず重症だったんだから外まではおんぶさせてよ」


「いや、でも全裸の人におんぶされているのはちょっと恥ずかしい」


 しまった忘れてたー!ドラゴンブレスで服吹き飛んでたんだった。


「新しい服出してあげるから下ろしてくれる?」


「あーでも早く出ないとドラゴンがここを吹き飛ばすらしいんだよ」


「え!?ドラゴンが来たの?!」


「ちょうどキューブ壊したご褒美をって来た所に天使が居たからブレス撃って来たらしい、僕はそれに巻き込まれてこうなったんだよ」


「そ、それは災難だったわね」


「一応師匠の怪我を治してくれたのもドラゴンだから文句は言えないけどね」


「あの天使はどうなったの?」


「あードラゴンが逃げられたって言ってたよ」


「そっか、まぁ天使に出会って死ななかっただけでも儲け物ね」


「天使ってそんなにやばい物なの?」


「天使は数は少ないけど古代魔法時代から人類と対立していると言われてるの、行き過ぎた文明から星を守っているとも言われてるけど本当の所はわからないわ」


「少なくともエルフには天敵よ、それよりシュウ。なんか目の呪印が動き回ってない?首の後ろにいるわよ?」


「あー、うんそうなんだ、色々あって動かせるようになってしかも視界も共有してるんだ」


「なんかすごいわね、でも出来たらあんまり近くでこっちをじっくり見ないで欲しいんだけど」


 師匠が見られて顔を赤くしている。


「ごめんごめん、慣れなくてつい色々視界を動かしてみたくなってさ、さて出口に着いたから一度下ろすよ」


「ありがとう」


 その後師匠が服を出してくれたので着ているとさっきのブレスで地面に開いた穴からドラゴンが上空に浮かびあがった。


「これはもう少し離れた方がいいわね」


 ぼくっちが遺跡から離れると、ドラゴンが長いブレスを放ち遺跡が跡形もなく消し飛んだ。


「ドラゴンのブレス半端ないね」


「シュウその左手の呪印は新しくもらったの?」


「そうだよ多分ドラゴン達がが面白がってやってるのかもしれないね」


「棘の有る蔓のデザインは私の呪印と少し似てるわね」


 師匠も同じように手首に蔓の呪印を出してニッコリ笑った。


 笑顔の師匠の破壊力が半端ないな、この呪印はありかもしれない。


 そんな話をしていると岩陰からひょっこりとラクダが出て来たのでそれに乗って帰る事にした。


「あーそれにしてもせっかく師匠に買ってもらった装備全部無くなっちゃったよ、ごめんね」


「それでもキューブを一つ破壊出来たし問題は無いわ、それに装備ぐらいまた買ってあげるわ」


「ママー僕も涼しい鎧が欲しいよー」


 そう言って師匠の鎧を触りに行くと風の魔法で弾き飛ばされた。


「そんなわがままを言う子はここに置いて行きましょうか」


「あー待って僕もラクダに乗せてー」


「マジでおいていかないで!」


 しばらく師匠のラクダを走って追いかけ続けた。




「街が見えてきたね」


 師匠に後ろに乗せてもらい街に帰ってくるとまだ城壁周辺ではサンドワームとの戦いが繰り広げられていた。


「まだ結構居るね」


「邪魔だわ、少し減らしておきましょう」


 両手を前に出し、呪印を少しだけ体に這わせて魔法を使うと炎の槍が黒く染まりサンドワームたちに飛んで行きかなりの数をあっという間に吹き飛ばした。


「これでもう大丈夫でしょ」


「お疲れ様です」


 僕たちはその後南門へと向かった。



「ここにも居るね」


「もう!早く帰ってお風呂に入りたいわ」


「師匠もお風呂の良さがわかってきたの?」


「もともと嫌いじゃないわ、シュウほど執着はないけど」


「じゃあ早く始末してお風呂タイムにしようよ!やっちゃえ師匠」


「人任せね」


「適材適所って言ってくれる?」


 師匠は次々と炎の槍で地面から生えているサンドワームを燃やしていった。


 その後静かになった所で一応小さい出入り口を開けてもらい街へと戻ってきた。


「お風呂ーお風呂ー」


「その前にギルドに行くわよ」


「えーもう砂で口の中までジャリジャリだよ?」


「ラクダの返却と遺跡の報告に天使の報告と指名手配をしなきゃ行けないのよ」


「やる事いっぱいあるね」


 仕方ないのでラクダを引いてギルドへと向かった。



 ギルドの裏でラクダを返し、またいつもの様に師匠は奥へ入っていった。


 こうしてロビーで待ってるとリエルがまだその辺にいそうな気がする。


「だーれだ?」


 そうそうこんな感じで。


「嘘ぉマジでリエルさん?」


「正解!すぐ分かるなんて愛の力かな?」


「イヤイヤあんだけの事があったのに普通にしすぎでしょ」


 リエルは後ろから抱き付いてくる、相変わらず柔らかいし良い匂いがする。


「ねぇシュウ君あれは僕の本当の気持ちだからね。時間はいくらでもあるから考えておいてね」


 頬にキスをされて、僕がリエルの方を向いた時にはもういなくなって居た。


 ボーッとしていると師匠が帰ってきていた。


「何ほっぺた抑えてボーッとしてるの?歯でも痛いの?」


「大丈夫、ちょっと疲れたのかな」


「そうね砂漠は暑かったし早く一杯飲みたいわね」


「じゃあ帰ろう」


 僕たちは宿へ帰り旅人ギルドはこの騒動が終息した事を宣言して町はとりあえずいつもの日常へと戻って行った。



「あぁぁぁぁぁぁ、やっぱここのお風呂最高だ、体がお湯の中に溶けるぅ」


 僕は宿に帰ってお風呂に浸かっていた。


 あぁやっぱり平和が一番だね、毎日お風呂に入って食べて寝て、いつかは行けるかな?


 師匠が養ってくれないかな、まぁ今も養われてるか。


 『シュウ君ならずっと一緒に居てくれるでしょ』


 何となくリエルの言葉を思い返してしまった。


 僕も師匠に会うまではどこかで感じていた、みんなの外にいる様な感覚をリエルは今も感じているのかな。


 リエルの仲間とかは居ないんだろうか?


「考えても分かんないな、もう出ようかな」



 部屋に戻ると師匠がベッドに寝転がって本を読んでいた。


「ただいまー、良いお湯だった」


「おかえりなさい」


 僕もベッドに寝転がって天井を見上げた。


「師匠はずっと一人で旅してたの?」


「どうしたの急に?私はずっと一人だったわ」


「その、寂しくは無かった?」


「私にはやらないといけない事が有るから寂しくは無かったわ、それに今は出来ない弟子が居るからね」


「師匠、そっちで一緒に寝転んでも良い?」


「狭いから嫌よ」


「ちぇー、そう言えば次はどこ行くの?」


「暫くこの街で事後処理をしてその後は王都へ向かうわ」


「王都?」


「この魔族を統べる魔王が住んでるとこよ」


「魔王とか居るんだね、やっぱり強さとかで選ばれるの?」


「そんなわけ無いじゃない、どんな蛮族よ!魔王は王族よ血統で決まってるわ」


「師匠は魔王に会った事ある?どんな人かな」


「あるわ、今代の魔王は髭の大男よ」


「へぇー」


 その後色々魔王の事を聞いてお腹が空いたので食事にする事にした。

 その日は沢山食べて沢山飲んで、またお風呂に入って長湯を師匠に呆れられて、ゆっくりとベッドで眠りについた。



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