第41話 子と父とメイドと


 今僕は怖い人たちに追われていた。


「待てコラー!ぶっ殺したる!」


 なぜ追われているかと言うとときは少し前に遡り。


 師匠がギルドに行ってしまったので一人で暇を持て余して市場をぶらぶらしていたがよく考えたらお金も持ってなくてやることもなく彷徨っていると、いい感じの公園を見つけたのでベンチと一体化していると誰も居ない公園に子供が何かから逃げるようにが入ってきた。


 それを眺めていると、すぐその後をでかい袋を持ったおっさんが二人で来て白昼堂々と子供を袋に詰めて出て行ったので慌てて追いかけて後ろから体当たりして、落とした袋を奪って逃走中だった。


「はぁはぁはぁ、袋重い」


 無我夢中で走っているのでもうここが何処なのかわからない、正直に言うと公園の時点で分からなかったが。


 「はぁはぁはぁはぁ、もう、追って、来てない、かな、はぁはぁはぁ」


 呼吸が収まるのを待って袋を開けると中には身なりのいい八歳くらいの金髪の整った顔立の男の子が寝息を立てていた。


「この状況とあの揺れで良く寝れるね」


 子供をゆすって起こすとゆっくりと目を開け口を開いた。


「お前が誘拐犯の親玉か?」


 目をこすりながら僕を疑ってくる子供に手を振り答えた。


「へ?ちがうちがう、僕は君を助けたんだよ、公園で袋に入れられてたからね」


 子供は一瞬考えていたがすぐにっこり笑った。


「そうか助けてくれたのか!よくやった、特別に子分にしてやろう!なんて呼べばいいんだ?」


 いいんだけどあっさり信じてくれてよかったよ。


「名前はシュウだけど子分は遠慮しとこうかな、それにしてもなんで誘拐されたかわかる?君の家お金持ちなの?」


 しばらく腕を組んで考えていたが考えるのを辞めたようだった。


「わからんが子分はもう一人いるぞ、だからお前は2番目の子分だ!」


 これはチョット残念な子供かな?


「あーうん、どこかのぼっちゃんかな?名前はわかる?家は?」


「家ではマルクスと呼ばれているぞ、家はこんな形だ」


 手で屋根とかの形を作ってくれた。


「ありがとうデカそうな家だね、とりあえず衛兵の詰め所でも探してみようか」


「それより俺は腹が減ったぞ、シュウ何か食べ物を持ってくるんだ!」


「それが僕お金持ってないんだよ、宿まで帰れば何か食べれるけど場所わからないし」


「なんだシュウは迷子か、でも大丈夫だ、ほら!」


 そう言ってマルクスがポケットから出した革袋にはお金がしっかり入っていた。


「親分どこまでもお供します!」


「うむ行くぞ」


 僕はマルクスの子分になった。



 それから二人でうろうろしていると、市場を発見して色々食べ歩きをする事にした。


「これはなかなかうまいなシュウ、道端で立って食べると言うのは初めてだが悪くない」


「そうだね親分さっき食べた木の実は酸っぱいだけだったもんね」


 そう言いながら僕は子供におごってもらったミートパイを食べていた。


「親分は何であんな公園にいたの?」


「今朝父上と喧嘩したんで家を出て母上の所へ行こうとしていたんだ」


「ええ?なんで喧嘩したの?」


「今日は父上がお休みでラクダに乗せてくれる約束をしてたのに急に仕事が入ったって!しかも昨日の夜から忙しくて話もしてくれないんだ」


「そっか、でもお父さんも仕事だったらしかたないよね」


「そんなことはわかってる俺ももう子供じゃないからな、しかし今日は母上の命日だったのだ、忙しくても休むべきだろう」


 完全に子供だけどお母さんの命日とか覚えてて偉いな。


「そっかそれはつらいね、でも仕事だし家に帰ったら許してあげたら?心配してるんじゃない?」


「そうだな、母上もそんな事では怒らんだろうからな、そんなことを言ってると迎えが来たようだぞシュウ」


「へ?」


 めちゃめちゃいかつい顔をした髭ずらやら坊主やらの見るから一般人じゃない感じの五人が走ってきて周りを囲まれてしまった。


「坊ちゃん!お探ししました!」


「お前が坊ちゃん誘拐したんか!コラ!」


 坊主頭の人が胸ぐらをつかんで振り回して来た。


「いや僕は…」


「ジョセフ!やめろ、シュウは俺を助けてくれたんだ!お礼をしたいから一緒に連れて行くぞ」


「ヘイ坊ちゃん!それじゃあ客人もお連れしろ!」


「いや、僕はそろそろ宿に帰ろうかなって」


「じゃあ行くぞ」


 あ、聞いてくれない感じだねやっぱり。


 そのまま僕はいかついおっさんに挟まれて連行されていった。



 本当にでかい屋敷だった。こんな砂漠で木も生えてないのに木造二階建てで庭に噴水もあるし、完全にヤクザか貴族とかだよねこれ。


「とりあえずここらへんでもう帰っていいかな?」


「何を言ってるんだシュウゆっくりしていけ」


 マルクスに言われ一緒に庭を歩いていると屋敷のドアが開いて十八歳くらいのメイド服の女の子が飛び出して来た。


「マルクス坊ちゃま大丈夫でしたか!」


 そのままの勢いでマルクスに抱き着き体に傷が無いかチェックをされくすぐったそうにマルクスが口を開いた。


「心配症だレコアは、そうだ!こいつはシュウ、新しい子分だ!誘拐された所を助けてくれたんだ」


「誘拐!本当にありがとうございます。シュウ様どうぞ中へ」


 ちょっと涙ぐむレコアさんの勢いに負けてそのまま応接室まで通されてしまった。



 周りに彫刻やら壺やらが置いてあり、やたら豪勢な部屋で落ち着かず座っていると、時々メイドさんが来てお茶やお菓子を補充しては部屋を出て行った。


「あんまり遅くなって師匠が帰ってくると心配するか怒られるかもしれないな、どうしよう」


 そんなことを言っていると勢いよくドアが開いた。


「待たせたなシュウ!」


 そこにはお風呂に入ったのか服が変わって髪の毛も綺麗に整えられたマルクスが居た。


 隣のレコアと呼ばれていたメイドも少し髪が濡れているから一緒に入ったのか子供だからってうらやましい。


「この度は坊ちゃんを助けて頂きありがとうございました」


 レコアが深々と頭を下げるので僕も落ち着かず答えた。


「いえいえ、たまたま居合わせただけですから、頭を上げてください」


「よろしければ夕食を用意いたしますので食べて行ってください」


「そうだ、シュウ食べて行ってくれ!」


「でも僕はそろそろ帰らないと宿で待ってる人がいるんだよ」


「なんて宿に泊まってるんだ?」


「名前?なんだっけ、聞いたようなでもすごいでっかい露天風呂が有る宿だよ」


「砂の蜃気楼亭ですね」


 メイドのレコアさんがすぐ答えてくれた、有名みたいだ。


「それでは使いを出しますのでゆっくりしてください、そのままお返ししても私たちが旦那様に叱られてしまいます」


 強引に夕食も食べて行くことになってしまった。



 次に案内された部屋も豪華な部屋だった。天井からはシャンデリアが下がり魔道具じゃなく本物のろうそくで部屋の中にかなりの光量を生んでいた。


 長いテーブルに食器が並べられてマルクスと一緒に座って待っていると観音開きの大きなドアが開き、もみあげから顎までつながる髭をもじゃもじゃと生やした身長の高い獅子の獣人を思わせる鋭い目つきの男が姿を現した。


 周りのメイド達もなんとなく緊張した空気のなかその男は上座に腰を掛け口を開いた。


「あなたがシュウ様ですね、私はこの屋敷の主人デルソル・ライクロームと申します。この度は息子を助けて頂き本当にありがとうございます」


「いえ、こちらこそお食事にまでご招待して頂きありがとうございます」


 めちゃめちゃ厳つい見た目に反して口調はすごく丁寧ですごいギャップだった。


「マルクスも今日はすまなかったな、どうしてもギルドで外せない会議が有ってな、その代わり予定を開けたから明日ラクダに乗って母さんの墓前へ行こう」


「父上私はもう子供ではありません、仕事は大事だと分かっております、今朝は申し訳ございませんでした」


 どこからどう見ても子供だけどお父さんの前だとすごいな、これが貴族の親子なのかな。


「そうか、よし食事にしよう、シュウ様も遠慮せずに召し上がってください」


 それからの食事はすごかった。


 大き目の白い皿に美しく彩られたオードブルから始まり、クリーミーなスープに砂漠では取れなさそうな魚料理にでかい何かの鳥を切り分けたグリルに牛っぽいステーキにと、最後には冷たいデザートまで。


 カトラリーの使い方が気になったがその都度皿に合ったカトラリーを出してくれたから気にする必要もなかった。


「すごく、美味しかったです」


「シュウ様はずっと旅をされているのですか?」


 食事を終えデルソルが紅茶を飲みながら僕に色々話しかけて来た。


「そうですね、僕は師匠と一緒に色々回ってるんですよ」


「いいなぁ、俺はこの街から出た事が無いからな、シュウがうらやましいよ」


 そう言いながらマルクスがホットミルクをちびちびと飲んでいた。


「そうだな、この街のほとんどの住人がここで生まれここで育ちそしてここで死んでいくんだ、私たちの一族はそれを見守り助けて行くのが仕事だからなマルクスも大きくなったら父さんを助けてくれ」


「はい父上頑張ります!」


 なんか親子の絆的な会話を聞かされてちょっとほっこりしているとマルクスがこちらに話しかけてきた。


「それでシュウは今日泊って行くんだろ?」


「え?帰るけど?」


「泊って行くってもう使いを出したぞ?」


「えー、師匠に怒られそうだけどまぁいいか」


「シュウ様息子が我儘を言って申し訳ございません、でもありがとうございます。ご自宅だと思ってゆっくりして行ってください、私はこれからまだ仕事に戻りますので何かあればこちらのレコアにお伝えください」


 横でレコアさんが深々と頭を下げていた。


「わかりましたご丁寧にありがとうございます、食事もとても美味しかったです」


「それでは申し訳ありませんが私はまだ仕事が残っておりますので、失礼いたします」


 デルソルは忙しいのかそのまま部屋を出て行った。


「父上は忙しいからな、さてシュウ俺の部屋へ行こうかいいもの見せてやるよ」


 僕たちはメイドのレコアさんを連れてマルクスの部屋へと向かった。




「どうだ?すごいだろ?」


 僕はあれからマルクスに色々な宝物を見せられている。なんで子供って自分の持ち物自慢したがるんだろうね、今は装飾のついた短剣を見せてもらっていた。


「すごいね宝石もだけど刃も詳しくは無いけどキラキラだね」


「これは母上にもらったペンダントなんだが暗闇でここを押すと光るんだ、電気を消してみてみるか?」


 そんな話をしているとマルクスが目をこすり始めた。


「坊ちゃまもう寝る時間でございますベッドへお入りください」


 レコアが眠そうなマルクスをベッドへと誘導していく。


「いやだ、まだ眠たくない!」


「親分大丈夫だよ、明日の朝もまた一緒にご飯食べるしちゃんといるよ」


 そう言うと納得してマルクスはベッドに入り疲れていたのかすぐ寝息を立て始めた。


「シュウ様坊ちゃまにお付き合いくださりありがとうございます。どうぞ紅茶です」


 そう言いながら暖かい紅茶を出してくれた。いつの間に入れたんだ仕事ができるタイプだな。


「これは、中にミルクとバターが入っているのかな?とっても美味しいです!」砂糖も入っていて甘くてうまい。


「そうですかよかったです、それにしても今日は本当にありがとうございました坊ちゃまを助けて頂いて」


「いえいえ、本当にたまたまですよ」


「じつは私は坊ちゃまと血が繋がってるんですよ」


「え、そうなんですか?」


 突然レコアさんがぶっこんできたけど雰囲気がさっきと違う。


「はい、私は妾の子でしてこうしてメイドの恰好をしていますが基本的には屋敷の事を任されているんですよ」


「はぁ、それはすごいですね」


「ありがとうございます、そこでですね坊ちゃまが邪魔なんですよね」


「へ?」


 突然のわけのわからない告白に驚いた上に手に力が入らなくなりコップを落としてしまった。


「やっと効いて来ましたか、すいませんが坊ちゃまを誘拐する犯人となってもらいますね」


「な?!ぐぁぁ」


 息が出来なくなってきた。


「あなたが消えて坊ちゃんも行方不明になればもうお館様の血を引くのは私だけになるんですよ、本当は昼には終わる予定だったのにあなたが邪魔するから」


 僕はそのまま息が出来なくなり意識を手放してしまった。


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