第42話 子と父と娘と
目が覚めるとそこは輪郭すら見えない真っ暗闇だった。
「全然見えないな、え?あれ、急に見えるな?なんで?」
見え方がおかしいと思ったら目呪印さんを通して見ている所だけ暗闇でもはっきり見えている事がわかった。
「いつも師匠の顔をこっそり見るだけにしか使ってなかったから気付かなかったな」
改めて部屋の中を見回すと自分のすぐ横にマルクスが寝ているのに気が付いた。
「よかった、親分大丈夫?」
手を当てると血でぐっしょりと濡れて体が冷たくなっていた。
「親分?!マルクス!」
「うぅ」
まだ生きてる!早くしないと、この出血量じゃ手遅れになってしまう!
服を剥ぐとお腹に刺し傷があり血が出続けていたのでとりあえず左手で押さえ右手の呪印で周りを見たが、どうやらここは地下室の様で出口は鉄の扉が一つあるだけで窓もなかった。
「どうにかしないとマルクスが死んでしまう!」
その時世界に色が失われ、左手首が熱く感じた。
左手首の呪印が輪から解けて伸び、そのまま掌を伝ってマルクスの体に入って行った。
「なんだこれ?何かできるの呪印さん?」
するといつの間にか手首に咲いていた三つの花のうち一つがゆっくり枯れていったかと思うとマルクスはすぅすぅと安らかな寝息を立て始めた。
その途端世界に色が戻っていった。
「すごい!ホワイトドラゴンが僕に必要って、ぐはっ!」
気が付くと僕のお腹から血が噴き出し口からも吐血していた。
「まじか、僕に傷移ったんだ、ごれはきついぃ」
しばらくお腹を押さえていたが、そのまま崩れ落ちて意識を手放してしまった。
「シュウ!シュウ!大丈夫か!?」
あれからどれくらい時間が経ったのかわからないがマルクスの声で目が覚めた。
「親分もう大丈夫なんだね、お腹の傷大丈夫?」
「馬鹿、大丈夫じゃないのはお前だろう!」
マルクスは小さな光るペンダントを掲げ、その光で僕のお腹の様子を見ていた。
「はは、すごいねそのペンダント本当に魔道具なんだ」
「母上の形見だからな。それより刺されたのは俺だったはずだ。どうなってる?なんでシュウのお腹が切れて俺が治ってるんだ」
「僕はちょっと人より丈夫でね、傷をもらう事も出来るみたいなんだ、よいしょっと」
ゆっくりと起き上がってみたがさっきと比べるとかなり楽になっていた、正直お腹の刺し傷は慣れているしね。
「どうなってるんだ、シュウは魔法使いなのか?」
「そんな感じかな?いてて、それよりここを出ようか、ここ何処だかわかる?」
「あ、ああ、多分この感じは屋敷の地下牢の一つだと思うが、俺もあまり入ったことが無いからなはっきりは分からん」
「なら大丈夫だ、ちょっと待っててね」
そう言って僕はお腹をかばいながらマルクスに肩を貸してもらいドアまで行くと右手をドアに当てて呪印に力を込めた。
「それどうなってるんだ?なんで手を当てただけで鉄のドアが削れて行くんだ?」
「それは企業秘密ですよ親分、お腹いてて、ほら開いたよ」
そのまま部屋を出ると階段があり、上がるとさらに左右に牢屋が並んでいた。
「全然使ってる気配がないね」
「昔は使う事があったみたいだが今は衛兵の詰め所にちゃんとしたのが有るから使って無いって言ってたな」
「見張りもいないし好都合だねこのまま行こう」
肩を貸してもらい牢の入り口へ行くとやはりまた鍵がかかっていたので右手の呪印で削り取った。
「シュウは出鱈目だなこんな硬い扉を簡単にこわせるなんて」
マルクスが尊敬のまなざしで見てくる。
「師匠なら魔法で一発なんだけどね」
「シュウの師匠に会ってみたいな、俺にも魔法教えてくれるかな?」
「とりあえずここを切り抜けてからだね、さぁ行こう」
扉が空いたので牢屋から外へ出て続く細い階段を上がると、ろうそくの明かりしかなく暗かったがそこは屋敷の1階の通路だった。
「こっちに行くと玄関ホールなはずだ」
肩を借りて突き当たりの扉を開けるとホールには人影があった。
「坊っちゃん!おいこの誘拐犯が!さっさと坊ちゃんをよこせ!」
あっという間に四人の強面達に組み敷かれ、その後ろからレコアが出て来た。
「坊っちゃまを騙すなんてとんでもないわね!この誘拐犯が!」
「何言ってるんだ!お前達シュウは誘拐犯じゃない犯人は別の奴だ!シュウを離せ!」
「なんてこと言うんですか犯人を庇うなんて!プッ、きゃははは!無駄よ!今ここに居るのは全部私の部下よ。あなた達はここで死ぬの、そこの男が坊っちゃんを殺してそれを私達が殺すっていう筋書きで良いかしら?」
「なぜ!なぜそんな事をするんだ!レコア!どうしたんだ!」
「うるさいわね、貴方が邪魔だからに決まってるじゃない、いつもいつもいつも世話をするのが本当に面倒くさかったわ!何が子分よホント馬鹿らしい」
「なっ」
マルクスは目に涙を溜めレコアを睨みつけていた。
「それにしてもあなたあの毒で死んだはずなのに何で生きてるのよ。マルクスも殺したはずなのにどうなってるのよ、シナリオが変わりすぎじゃないめんどくさい」
レコアがこっちを指さして睨みつけて来た。
「シナリオ書いてる奴がダメなんじゃない?」
「う、煩いお前達さっさと殺してしまいなさい!」
そのとき玄関の扉が開いて飛び込んできた炎の槍が男達の足に命中した。
「こらシュウ、許可も無くお泊まりってどういう事?」
「師匠!ナイスタイミング!」
「な、なな、何よあなた!誰かー!賊よ!早く来て!」
突然レコアが懐から笛を出して吹くとピーピーと高いおとがして屋敷が騒がしくなった。
「だれが賊よ、ピーピーうるさいわね」
文句を言う師匠をよそに笛の音を聞いた家人達が続々と集まって来た。
「みんな賊よあの女と男が誘拐犯よ殺しなさい!」
それぞれ獲物を持った男達が僕と師匠を取り囲んでピリピリとした空気が流れて来たその時。
「いい加減にしないか!」
玄関からデルソル・ライクロームが入って来た。
「親方様!賊です!そのエルフの女が突然入って来てジョセフ達を撃ち抜いたんです!」
「あんな事言ってるわよ、どう言う躾をしているのライクローム」
デルソルが片膝をついて師匠に頭を下げた。
「申し訳ございませんティーレシア様、全て私の不徳の致すところです」
「どう言うこと?親方様そいつらが犯人です!騙されないでください!」
取り乱してレコアが師匠を指さしてわめきたてるがデルソルが厳しくにらみつける。
「黙れレコア、このお方は我が旅人ギルドのグランドマスターだ!犯罪者であるはずがないだろう!」
レコアと僕だけが驚愕の表情だった。
「え?師匠そんな偉いさんだったの?」
「もう良いわ、私はシュウを連れて帰るから後は貴方が始末なさい」
「は、この度はお手を煩わせ誠に申し訳ございませんでした、あとはお任せください」
「行くわよシュウ」
師匠はもう体が半分館から出ていた、興味なさすぎるでしょ。
「お前達レコアを捕まえろ!」
「くそ!マルクスさえいなければ!」
僕とマルクスは師匠とデルソルが来た事で完全に油断した。
そこへレコアが突然ナイフを腰だめに構え走り込んできた。
世界に色が失われて行く。
お腹が切れてるので力が入らないが呆然としているマルクスにナイフを突き刺す瞬間、僕は何とか間に入る事に成功し、痛みと共に世界に色が戻って行った。
「シュウ!」
師匠が呼ぶ声は聞こえるが背中にも穴が開いて僕は痛みでうずくまるしかできなかった。
次の瞬間氷の槍が何本もレコアへと降り注いでいた。
デルソルが皆に指示を出して何本も氷の柱が突き刺さったレコアとその足元に転がっている足を撃ち抜かれたレコアの部下達を次々と運び出していった。
「シュウッ!大丈夫か!」
「ううう、痛いけど、大丈夫だよ親分、僕は人より丈夫だからね」
師匠が怖い顔でこちらへ向かってきているのが見えたが僕はそのまま意識を手放してしまった。
気が付くと宿のベッドの上で窓から朝日が入っていた。横を見ると師匠が本を読んでいる。
「おはよう師匠、昨日はどうやって僕の場所が分かったの?」
「おはようシュウ、昨日は馬鹿な奴らが宿屋へシュウの同行者を捕まえに来たのよ。その頃私はまだギルドに居たから旅人ギルドへその話が来て会議を抜けて迎えに行ってあげたのよ」
「そっか、ありがとうグッドタイミングだったよ、でもそろそろ準備しないといけないんじゃない?」
「出発までは時間がまだ有るから寝ていてもいいわよそれに体も完全じゃないでしょ?」
そういえばと思って手首を見ると花が一つしか咲いてなかった、そのおかげかも知れないが回復が早かった気がする。手首の呪印の事を師匠に言うと新しい力を喜んでくれた。
「傷もふさがってるしもう起きるよ、それにお風呂入りたいしね」
「はぁ、ほんとにお風呂が好きね体が溶けて無くなるんじゃない?」
その後、防具屋のガフスの所に挨拶に行き、ラリアの店で昼を済ませて北門から出発するためキャラバンに合流して出発を待っているとライクローム親子が見送りに来てくれた。
「シュウこれを、旅の途中で食べてくれ」
「ありがとう親分、これ美味しかったミートパイだね!師匠とおやつに食べるよ」
葉っぱに包まれたミートパイが沢山入っていた、あとでガラハド達にもあげよう。
「ティーレシア様この度は部下がご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。この不始末はやはり私の首をもって代えさせて頂くべきかと思うのですが」
「もう、しつこいわね、私は貴方が居ないと困るのよこの街のギルドを誰がまとめるのよ、別に貴方の首をもらっても私に何の得にもならないし、そう思うなら今以上に働きなさい」
「は、ありがとうございます」
デルソルが膝をついて頭を下げた。
その横で僕もマルクスと挨拶しているとガラハドの出発の合図が出た。
「じゃあまたね!親分もお父さんと仲良くね!」
「シュウまたきっと遊びにくるんだぞ!お前は俺の子分なんだからな!」
「うん、きっと来るよ!親分元気でね」
マルクス達は小さくなって見えなくなるまで手を振っていた。
「ねぇ師匠、レコアさんの部下達ってどうなるの?」
もう本を読んでいた師匠がページを閉じて答えてくれた。
「全員極刑でしょうね」
「そっか、厳しい世界だね」
砂漠の照りつける太陽の下キャラバンは長く長く列を作っていた。
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