第43話 鬼と馬車と狼と
「ここ、何処?」
今僕が立ち尽くしているの長閑な森の一角だった。
ただ問題はその周りに散らばっている物だった。
僕の周りには大型の獣が食い散らかした骨や血の跡が各所にあり、砕かれた木箱やその中身が散乱していた。
何でこんな事になったんだ。
事の発端は何日か前、砂漠が終わりガラハド達と別れたあと師匠と僕は街道を進み中規模な町に到着した。
いつもの様にまず宿を取り師匠が旅人ギルドに顔を出すと言うので僕は一人で街をぶらついて居た時の事だ。
「すいませーん、もし良かったら荷物を運ぶのを手伝ってくれませんか?」
急に声をかけて来たのはショートカットの若い女の子だった。
「ちょうど暇だったからいいよ」
そう言って何も考えずについて行ってしまったのは自分が不死だから油断していたのかもしれない。
大通りから外れたボロ屋に入っていくので後を続くと急に後ろから顔に袋をかけられて鈍器で頭を叩かれ意識を手放した。
気がつくと檻の中に居て、どうやら馬車の荷台のようで周りは幌のせいで見えなくなっていた。
「ここは何処?」
つぶやいてみたが誰の返事もない。
ちなみに僕の周りには十代から三十代位までの男ばかり七人も居るのにだ。全員手枷を付け下を向いて死にそうな顔をしていた。
「何処へ連れてかれてるの?誰かわかる?」
すると声は馬車の前から聞こえて来た。
「お前は今から売られるんだよ、大抵は鉱山だがな、お前は黒髪黒目で珍しいから男娼だろうな、ギャハハハハ!」
御者台には二人の男がいて、運転していない頭の薄い方の男がこちらを見て下品な笑い声を上げていた。
「そっか、因みに何処の街で売られるの?王都?」
薄い頭の男は僕のうろたえる顔を見て暇つぶししようとしていたのか当てが外れて戸惑いながら答えた。
「何だお前、何平気な顔してるんだ?逃げられるとでも思ってるのか?」
「そんな事無いよ、諦めてるだけだよ」
「そ、そうか、王都でなんか取引するはずないだろう、お前らみたいなの運んでたら入れねーよ」
僕が平然としてるせいで男は面白くなさそうに前を向いてしまった。
暇だし横の人に話しかけようとした時、「ごがぁぁっぁぁ!」と何か巨大な生き物の叫び声が聞こえ馬車が急停車した。
「うお、やべぇオーガだ!」
「くそっ、一匹じゃねぇぞ!荷物捨てて逃げるぞ!」
前から男達の声が聞こえ馬車から飛び降りたかと思うと逃げる男の手によって幌が剣で切り裂かれた。
次の瞬間檻から周りの景色が見える様になり檻の中はさっきまで黙り切っていた男達の絶叫で包まれた。
「荷物って僕たちの事?!」
檻のすぐ先に居るオーガは体長が三メートル程あり馬に齧り付いていた。
「とりあえず馬を齧ってる間に逃げよう!」
口呪印さんで手枷を削りながら叫ぶとみんながこちらをみた。
「どうやって檻の鍵開けるんだよ!」
焦っているのか十代後半くらいの少年が僕の服にしがみついてきた。
「こうやって開けるよ」
そう言って壊した手枷を投げ捨て檻の鍵も削り取った。
「すげぇ、どうなってんだ?!」
「俺たち、助かるのか?」
それぞれ何か言っているが急いで檻を開けると僕は前を見て固まった。
「早く出よう!何してるんだ?」
後ろから肩を叩かれたがさっきの少年も僕の目線の先を見て固まった。
「もう一匹いるじゃないか!」
「もうだめだ俺たちはみんな食われて死ぬんだ」
みんなが頭を抱えてるので僕は意を決して飛び出した。
「僕が注意を引いてるうちに逃げるんだ!」
手を前にかざし体の中の魔力を練って右手に集中する。
「ファイヤーアロー!」
僕の手の先から鉛筆くらいの炎の矢が出てオーガの顔を少し焦がした。
「ごああああああぁぁぁ」
オーガを怒らせこちらへ向ける事には成功した。
それにしても師匠にずっと魔法を教えてもらってるのに凡人の僕は全然上達しないみたいで呪印を除けばこのアローと言ってるが鉛筆ファイヤーが最大火力だった。
「こっちだ化け物!早くみんな今のうちに逃げるんだ!」
僕がオーガに向かって追加のファイヤーペンシルをぶつけて気を引きながら距離を取るとオーガは怒りを顕にしながらこちらへと向かって来た。
「すまん!」
「助かった!」
捕まっていたみんなが急いで檻から飛び出すのを確認しているとその瞬間世界に色が失われていった。
馬車の方に気を取られていたがすぐ近くまで四つん這いになったオーガの大きな口が迫っていた。
僕は水の様な抵抗を感じながらぎりぎりで左にかわし右手の呪印で掌底をオーガの顎に食らわせた。
しかしオーガの質量がデカすぎて少し顎を削ったが右腕が弾き飛ばされバランスを崩した所にオーガの肩が当たり突き倒され足を掴まれて逆さ吊りにされ世界に色が戻って行った。
「がぁぁぁあぁ!」
逆さに吊られた僕の顔にオーガの口が迫ってくる。口呪印さんで削った所も弾かれたのでそんなにダメージを与えていなかった。
「呪印さん!」
咄嗟に僕はオーガに掴まれている足に口呪印を移動してオーガの手に噛みつくと、指を食いちぎられた痛みでオーガが僕を話したので頭から地面に落ちた。
「痛った!」
「ぐあぁっぁぁぁあああ!」
オーガはかなり怒っているみたいで雄叫びを上げている。
「もうみんな逃げれたかな?」
そう思って檻の方をチラリと見るとなぜか全員檻に戻っていた。よく見ると敗れた幌の影に三匹目のオーガが取り付いていた。
「くそっ!」
目の前のオーガを牽制しながら檻にしがみついた三匹目のオーガにもついでにファイヤーアロー(ペンシル)を連射しているとその瞬間世界に色が失われていった。
指の掛けたオーガが右から長い爪が生えた手で殴りかかって来ていたので水の中の様な抵抗を感じながら低く左へ飛び込み転がったところで世界に色が戻った。
「うぐぅ!」
右足がバッサリ切られているまるでナイフの様な爪だ。
痛みに耐えながらファイアーペンシルで牽制をしているが悲しい事に威力があまりなく我慢すれば耐えれる事に気付いたオーガがまた爪を立てて斬りかかって来た。
その攻撃を避けた瞬間世界に色が失われていった。
反対側から馬車に取り付いていたオーガが下から爪を立てて斬りかかって来ていたので僕は後ろに下がって避けると突然目呪印さんの視界割り込んできたと思ったら、さっきまで馬を食べていたオーガが四つん這いになってこちらへ噛みつきに来ていた。
僕はそれを後ろに体を捻って、って無理!見えてても避けれない物は避けれない!そのまま後ろから腰あたりに噛みつかれ世界に色が戻った。
「あぁぁ!」
噛まれたまま持ち上げられ激しい痛みが起こったが、その後すぐ全身の至る所を三匹がかりで噛みちぎられてすぐに意識を手放した。
そして目が覚めて今に至る。
周りには地面に残る血の跡とオーガが食べ残したの物を肉食の獣が食べた跡が残っていた。
「道がわからない。気絶してたし幌馬車の中だったし、そもそも方向感覚良い方じゃないしなぁ」
取り敢えず動いたほうが良さそうだ、ここは血の匂いが濃すぎる。
ざっと周りを見ると生き残りはいなさそうだった。
「少しでも誰か生きてたら足掻いた意味が有るんだけどね。ところで目呪印さん師匠の場所とか分かったりする?」
しばらくグルグル回った後、目が右前の方を指した。
「めちゃめちゃ頼りになりますね目呪印さん」
僕はどこか誇らしげな目呪印さんが指す方向へ森の中を歩き出した。
久しぶりの全裸での森だったがこの世界に来てから強くなっている事がよくわかった。
師匠に教わった身体強化のおかげで流石に刃物は通すが木の枝くらいには負けない足の裏を手に入れたのだ!
これは全然違う、前は歩く時は細心の注意を払っていたが今はホイホイ歩けるのである。
このままなら師匠の所に余裕で向かえるんじゃないだろうか。
と思っていた時代が私にもありました。
今僕は見たことも無いくらいでかい、壷の様な形をしたピンク色の食虫植物に足元から飲み込まれ頭だけ出ている状態だった。
「誰か助けてー!」
ダメ元で叫んでみたけどダメだろうなぁ、呪印さんで削ってもこの花意外と肉厚で多分僕が溶かされるほうが早そうだった。
「ジワジワ溶けて行くのはきつい、嫌な死に方ベストテンに入りそうな予感がする」
そう思ってたけど意外とこの花の汁で体が麻痺してるみたいで痛みは無かった。
「優しいんだね」
現実逃避して花に話しかけていた時、突然前方の草木を割ってレザーアーマーを身につけて身の丈ほどもありそうな剣を背負った赤い髪の男が声をかけてきた。
「なんだ?!安らかな顔してるけど、ダイナミックな自殺か?」
「そんなわけないでしょ!お願いします!今すぐ助けてください!お願い!お願い!」
僕が懇願すると赤い髪の男は大剣を下ろして僕を食べていた花を軽々と切り裂いた。
僕はまるで今、花から生まれ落ちた様にヌルヌルの汁に包まれ全裸で地面に転がった。
「何これ痺れて体が動かない」
「こいつはマンイーターだ、地面に大きく開いて待ち構えて上に乗ったやつを捕食する有名なやつだぞ、ちゃんと足元見て歩いてたか?」
「見てなかったです」
身体強化で足の裏が痛くなかったので油断しまくっていた。
「まぁ良いけど、それにしても何でこんな所で全裸なんだ?趣味か?」
僕は街で闇奴隷商人に捕まった事と運ばれている途中でオーガに襲われてここに逃げて来た事と捕まった時気がついたら全裸だった設定で説明した。
「そうか、大変だったんだな、よし!俺たちも目的地は迷宮都市だから一緒に連れてってやるよ!」
「良いんですか!」
「ああ、まぁ雑用はやってもらうけどそれでも良いなら付いて来いよ!」
「ありがとうございます」
「俺はマルスだ!」
「僕はシュウです」
「よし、じゃあ俺たちの野営地へ戻るか」
やっと少し立ち上がれる様になったのでマルスの後をフラフラと付いて行った。
「それにしてもマルスは何でこんな森の中にいたの?」
「俺たちは傭兵団でな、森の中を最短ルートで突っ切ると迷宮都市へ半分の期間でいけるんだ。その分もちろん危険も多いがな、でも商人達を一緒に連れて行ってやれば移動で収入も得れるって寸法だ」
しばらく話しながら森の中を歩いていると急に木がなくなり広い河原に出ると結構な数のテントが設営してあり、何人もの革鎧を着た人達が忙しなく動いていた。
「帰ったぞー!」
マルスが皆に向かって陽気な声を上げた瞬間世界に色が失われていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます