第49話 牢とマルスと金髪と
「誰だお前?」
咄嗟に飛び込んだ部屋には誰か居たようで声の主を見ると赤い髪の身の丈ほどの剣を壁に立て掛けた知ってる男だった。
「マルス!?」
「俺の知り合いか?いや、知らねーな誰だ?でもどこかで見たことあるような・・・」
マルスが顎に手を当てていぶかしげな顔で僕を睨んで来る。
「僕だよ僕!シュウだよ!」
金髪のかつらを取って見せるとマルスは驚いた顔で固まった。
「え?マジでシュウか?こんなとこでそんな恰好で何してるんだよ?っていうか女だった?いや付いてたな・・・」
するとノックの音が聞こえて来た。
「お休みの所申し訳ございませんグーロです。マルス様こちらへ誰か来ませんでしたか?」
マルスはその声を聞いた途端、僕のメイド服のシャツを慣れた手付きで脱がせ僕をベッドの中に押し込んだ。
「いや、誰も来てないぜ」
その返事を聞いてか聞かずかドアを勝手に開けてグーロが入って来た。
「勝手に失礼させて頂きますよ」
「おいおい、本当に失礼な奴だな」
グーロはマルスの声を無視して部屋の中を見回し口を開いた。
「今、賊を追っておりまして、こちらへ来たのは確実なんですが、ちなみにそのベッドの中に居るのは誰ですかな?」
「これはお前、あれだよ言わせんなよ恥ずかしい」
「確認させて頂きます」
「あ、コラやめろ」
そう言って毛布を捲ってきたが僕はうつ伏せになって目をつぶってじっとしていた。
「ふむ違うようですな。ここは城内ですので女遊びも程々にお願いいたしますよ」
そう言って強く扉を閉めて出て行った。
「もういいぞシュウ」
「ふー、助かったよマルス」
そう言いながら僕はメイド服を着てカツラをもう一度被った。
「それにしてもこんなとこで、そんな恰好で兵士に追われるたぁシュウもやるなぁ一体何やってんだ?」
「マルスこそこんな所で何してるの?!」
「俺はまぁ、剣の指導とかそんなんだよ。俺のことはいいんだよ!それよりシュウは何してたんだよ」
僕は迷宮都市からの出来事をマルスに話した。
「そうか俺たちはあれからすぐ王都に呼び出しがあってなすぐ出発しちまってたからシュウの事が気になってたんだよ。それにしてもそっちはそんな事になってたのか大変だったな。しかも今シュウの師匠が捕まってんのかよ。よし、俺もお前の師匠見てみたいし一緒に地下牢まで連れてってやるよ」
「ほんとう?!ありがとう、マルスにはいつも助けられてる気がするね」
「まぁ団員を助けるのも団長の仕事だ」
「ありがとう団長」
僕はマルスの後ろをついて地下牢へ向かった。
「何者だそこで止まれ!」
「お疲れ様」
地下の暗い通路でマルスが顔を見せると地下牢の兵士は安心した顔をした。
「これはマルス様、このような場所へ何か御用ですか?」
「ちょっとここに捕まってる奴とお喋りがしたくてな。二人とも疲れただろ、これでなんか飲んでくれよ」
マルスはそう言って銀貨を何枚か二人に握らせた。
「これは、お気遣いありがとうございます。でも少しの間だけですよ」
「ああ、わかってるよ。面倒は掛けねーから。すまんな」
そう言って二人は地下牢の扉を開けて僕たちを中へ入れてくれた。
「ありがとうマルス、ここを通る方法とか考えてなかったよ」
「シュウのそのかっこなら色仕掛けで通れるんじゃないか?」
「やめてよ、マルスの部屋にたどり着く前ひどい目にあったんだから」
ドルトスにセクハラされた事を言うとマルスは爆笑していた。
暫く薄暗い通路が続きそれが切れたと思ったらそこは左右に鉄格子が並んだ窓のないジメジメとした薄暗い地下牢だった。
牢屋を手前から順番に見ていくと一番奥の牢屋に一人で師匠が入っていた。
「師匠!」
「え?だれ?って、うそ!シュウじゃないの!?なんてカッコで」
師匠は驚いて鉄格子に近づいて来た。
「何その格好?!可愛いわね!靴もヒールまで履いて!」
「そんなにじっくり見ないでよ恥ずかしいから」
僕が師匠と話しているとマルスが横に並んで口を開いた。
「シュウの師匠は白のティーレシアか、どおりでそこそこやるはずだぜ」
「えっ、マルスは師匠を知ってるの?えっと師匠こっちはマルスって言ってここまで連れて来てくれたんだ」
師匠がマルスの方を見たので紹介した。
「シュウはいつから剣聖と知り合いになったの?」
「えっ?マルスって剣聖だったの?」
「そう呼ばれる事もあるな、でも俺は赤い狼のマルスだ」
少し恥ずかしそうにマルスが頭を掻いてるけど、どおりで死ぬほど強いはずだよ、そりゃお城に招かれるのもわかるよね。
「それよりシュウはなんでそんな格好してるの?!」
「この格好は王城に忍び込むためにどうしても必要だったんだ。あんまりじっくり見ないでよ!そ、それより師匠どうして捕まったの?」
「宰相よ。今回王都に帰って来て登城したら有無を言わさず迷宮都市の一件を私のせいにされて投獄されたわ」
「もうこのままここ出ちゃったらダメなの?」
「それは最終手段だけど、とりあえず今は旅人ギルドや色々な方面から圧力をかけて正攻法で脱出する予定よ」
「そっか、僕も来る途中宰相に会ったんだけど迷宮都市のゾンビと同じだったよ」
「ゾンビと?」
「うん、この呪印の目で見たら体にキューブと同じ線が刻まれていたんだ」
「もしかするとまた天使が絡んでくるのかしら」
「それは勘弁してほしいね」
師匠と話しているとマルスが口を開いた。
「シュウそろそろ行くぞ」
マルスに気を使っているのか警備の兵士が少し向こうに迎えに来ていた。
「じゃあ師匠少しの辛抱だと思うけど頑張ってね!」
「シュウも無茶しないでね」
牢屋から出た後、またマルスに連れられて一緒にグレイスドールの部屋へと戻ってきた。
「お帰りなさいませシュウ様、それとはじめまして剣聖様」
ディアーヌはマルスが一緒だったのに一瞬驚いた顔をしたが笑顔で迎え入れてくれた。マルスって意外と有名人なんだね。
僕は今お茶を淹れてもらいマルスと一緒にテーブルを囲んで報告をしていた。
「やはり宰相が怪しいのですね」
「そうですね操られているかゾンビか分からないけど普通ではなさそうな感じでした」
僕とディアーヌさんの会話にララさんが口を開いた。
「やはりそうなんですか。以前はもっと周りに気を遣い和を重んじるタイプでしたが今はいやらしい目でお嬢様を嘗め回すただの豚ですわ」
ララが怖い口調でガンドスの悪口を言いながら皆に紅茶を入れている。
「でもどうするんだ?シュウが言ってるようにガンドスが偽物だったとしても本物はどこ行ったんだ、それに偽物をどうするんだ?殺すのか?偽物の証拠はあるのか?」
「マルス様の言った通りですわ。でもシュウ様は何か正体を暴く方法があるのではございませんか?」
みんなが僕の方を見てきたので答えた。
「そうだね多分だけどこれでなんとか出来ると思う」
そう言って手首を見せると目呪印さんがにっこり笑っていた。
「あの、ララさん?何故こんな事になってるんでしょう?」
「何か問題でもございますか?」
「いえ、問題というか問題だらけというか」
今僕はなぜかララと枕を並べて同じベッドで横になっていた。
何故そんな事になったかというとメイドは二人で一つのベッドがあてがわれ、本来なら片方が寝ずの番で別室で過ごす事が多いらしい。
ちなみに僕がメイドの部屋に来た時にはメイド達がじゃんけんをして勝ったララがガッツポーズをしている所だった。
「シュウ様はメイドのフリをしておりますので疑われないようここは念には念を入れてという事です」
「そ、そうですか。すいませんご迷惑をおかけします」
そういうわけでよくわからない勢いに押されてララと一緒に寝ることになってしまったのだった。
メイドの寝室にはチェストとテーブル、それと二段ベッドが一つ置いてあり上の段ではさっきララとじゃんけんしていたメイドさん達が眠っていた。
それより気になるのはさっきから背中に当たっている物だ。
最初ララから離れて背中を向けて横になっていたが、しばらくするとララが寝返りをうちながら転がってきて僕の背中にくっついた。そのせいで今僕の背中には柔らかい何かが二つ当たっている。
そもそも着替えで渡された寝間着も触るとシルクの様な素材で肌触りがすごく良くてサラサラの布越しで伝わってくる背中の感触がやばい。
そのせいでさっきから僕はピクリとも動くことができず固まっていた。
そうして身動きが取れずにいると次はララの腕が僕の胸の方へと回って来た。
一体何が起きてるんだ、っていうかこの人は本当に寝てるんだろうか。
そんな事を考えていると僕の胸を触って居た腕がだんだんとお腹の方へ降りて来た。やばいこのまま降りて行くと色々やばい。
「ちょっとララさん?起きてますよね?」
だんだん下がってくる腕をつかんでララに声を掛けるとすぐ耳元でララが答えた。
「すいませんシュウ様、私としたことが寝ぼけていたようですね」
全く悪びれる様子もなく腕をまた僕の胸に戻し眠りについた。
それから何度かの攻防がありやたら引っ付いて来るララの柔らかさで眠る事が出来ず固まったまま朝を迎えた。
「おはようございますシュウ様今日は頑張りましょう!」
「ふぁぁ、おはようございます」
寝不足の僕と違ってララは何故か元気そうで艶々していた。
「それでは着替えてお嬢様まの元へと参りましょうか」
その後ディアーヌの元でメイクが完了した僕の姿は昨日と同じクリクリと緩いウェーブがかかった金髪だったが念のため目呪印さんの力で金色になった右目だけを出して金髪金目ので片目を隠して昨日とは違う雰囲気のメイドに仕立てあげられた。
「シュウ様今日もとてもお綺麗ですわ」
「ありがとう?」
ディアーヌさんが褒めてくれてララがやり切った顔をして親指を立てていた。
僕の女装に対してのララや他のメイドさんの気合いの入り方が正直怖い。
そうこうしていると兵士が呼びに来て僕たちは謁見の間へと向かうこととなった。
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