第48話 城とメイドとお嬢様と
結局次の日になっても師匠が帰って来なかったので僕はギルドへ行ってみることにした。
何度みても大きい建物に入りすぐそばの窓口でカードを提示して要件を話すと直ぐに個室へ通された。
今回はお茶もお菓子も無くぼーっと待っているとドタドタと走ってくる音が聞こえ豪快にドアが開いた。
ノックもなく叩きつけるようにドアを開けて入って来たのはラフィンさんだった。
「貴様!今まで何処に居たんだ!」
いきなりマックスでイライラしていた。
「いや、師匠に言われてホテルで待ってました」
「はっ?何してるんだこの大変な時に、ティーレシア様が迷宮都市の迷宮を破壊した罪で投獄されたって言うのに!!」
「は?え?と、投獄?!」
「このままだとティーレシア様は十日後に処刑されてしまう!」
処刑?ティーが?ラフィンさんの言葉が遠くモヤのかかった様になってしまい頭に入らなくなってしまった。
僕は喋っているラフィンさんを放って王城へと走り出していた。
「何を言ってるんだ!訳の分からんやつを通すわけ無いだろう!さっさと帰れ!」
やはり師匠への面会はさせてもらえずトボトボと街をさまよっていると急に声をかけられた。
「シュウ様ではありませんか」
声をかけてくれたのはメイドのララだった。
「そんな事が、わかりました一度お嬢様とお会いください、何か力になれるかもしれませんよ」
話を聞いたララはそう言うと僕を王城の近くだった別邸に連れて行きディアーヌと話をする事になった。
ララに案内され豪華な部屋で待っているとディアーヌがやってきた。
「お待たせいたしました、この度は大変な事になってしまったようですね」
「どうすれば良いでしょうか夜に忍び込んだり出来ますか?」
「王城の警備は大規模な魔道具まで使用しかなり厳しいです、正攻法以外では中には入れないかと思います」
「どうしよう、早くしないと師匠が処刑されてしまう」
その時ドアが開きメイドのララが入ってきた。
「おまたせしました。少し状況を調べてまいりました」
相変わらず出来るメイドだった。って言うか本当にメイドなのかなこの人。
「どうやら宰相のガンドスの手が回っているようです」
「ガンドス?」
僕が名前を言うとララが補足してくれた。
「ガンドスは侯爵位で家名はドルトス、最近当家へちょっかいをかけてくる目の上のたんこぶです」
「そのガンドスがなぜ師匠を?」
ララはお茶のお替りを入れながら続きを話してくれた。
「なぜティーレシア様を狙ったのかは分かりませんが最近奇行が目立つ様で、今回もガンドスのゴリ押しで通したみたいです」
「とりあえずなんとか師匠に会う事が出来ないかな?侵入する経路だけでもあれば良いんだけど」
「それなら良い作戦がございますわ」
ディアーヌがこちらを見てニッコリと笑っていた。
次の日僕はまたディアーヌ達と合流していた。
「これで完成です」
ララが筆を置いて鏡を見せてくれた。
そこにはクリクリとゆるいウェーブがかかった金髪が背中まで伸び長いまつげがカールしていて水々しい唇をした可愛らしい女の子が写っていた。
「シュウ様とても可愛らしいですわ」
ディアーヌが拍手をしてくれた。
あれから城へ忍び込むのにララが提案してくれたのがメイドの一人になると言うものだった。
「これが僕?!恐ろしいテクニックだね」
「いえいえ、シュウ様の下地が良かったからですよ、それにしてもお嬢様、これは逸材ですねこのまま国へ連れて帰りましょうか」
「ララ、落ち着きなさい」
「取り乱してしまい申し訳ございません、それでは向かいましょうか」
ララがヨダレを拭いてキリッとした顔になったが手遅れな感じがする。
「でも、どうやって城に入るの?」
「以前グレイスドールには迷宮が有るとお話をさせて頂きましたが、覚えていらっしゃいますか?」
ディアーヌが答えてくれた。
「うん、覚えてるよ機会あれば案内をしてくれるって言ってたやつだよね」
「そうです。その迷宮でかなり大きな魔石が取れたので、それを今回献上しに参りました」
ララがこちらがその魔石ですと言って見せてくれたのが、テニスボールくらいのキラキラと光るダイヤモンドの様なカットが入った石だった。
「それを持って登城しますのでシュウ様は私達が手続きをしている間に隙きを突いて地下に有る牢屋へ行きお師匠様をお尋ねください」
「ありがとう、とても助かります!でもなぜそんなに僕に良くしてくれるの?」
「シュウ様はまだ我がグレイスドールの客人でございます、最後まで面倒を見させていただきますよ」
「ディアーヌさんありがとうございます」
かっこいい言葉にうるうるしているとディアーヌが話を続けた。
「というのは建前で、我が領はガンドスが目障りなのです。今回もしガンドスに付け入る隙きがあれば良いですし。もしもしくじってもリスクを負わずに得れるリターンはありませんわ」
まさかの意外と策略家なお嬢様だった。
「そ、そうか、がんばるよ」
「それでは行きましょう」
そう言ってとても心強いお嬢様の後を足がスースーするスカートを履いて追った。
それからグレイスドールの家紋が付いた馬車は検査も何も無く城門を潜り今僕たちは城内の一室でティータイムをしていた。
「良いですかシュウ様、今私達は四階のここに居ます。そしてこのルートで行けば人と遭遇する確率はかなり低くなると思います」
ララが地図を広げ道を説明してくれている。
「もし誰かと会って止められた場合はグレイスドールの名前を出して用事を申し付けられているとおっしゃっていただければ大丈夫だと思います」
「こんな細かくありがとう!」
「こちらは地下牢の鍵です、念の為用意しておきました」
ララが地図以外にも古い鍵をゴトリと机の上に置いた。
「どうやってこんな地図や鍵を手に入れたの?」
「メイドの嗜みでございます」
「メイドってそんな職業だったっけ」
ぼくがララに突っ込みを入れているとディアーヌが口を開いた。
「それではそろそろ参りましょう。時間的には今が一番手薄になるかと思います」
「ありがとう、必ず師匠と話をして来るよ!」
「シュウ様お気をつけて、それと私達は明日謁見がありますのでこの城内で宿泊を予定しております。なので今夜は戻らなくても大丈夫ですが、明日の昼までには必ずここへお戻りください」
「わかったよディアーヌさん、できるだけ早く戻ってくるね」
僕は鍵と地図を持って地下牢へ向かった。
大理石の様なツルツルとした石で出来た通路を足音を響かせながら歩いていた。
「これヒールがある靴って死ぬほど歩きにくいんだけど脱いじゃ駄目かな」
独り言を言いながら歩いていると前から高そうな服を着てお腹の出た頭の禿げ上がったおっさんが兵士を連れて歩いて来たので端によって頭を下げた。
そのまま通り過ぎていくのかと思ったら僕の前で止まった。
「見ない顔だな、何処のメイドだ?」
おっさんが覗き込む様にこちらの顔を見てきた、バレたの?!
「は、はい、グレイスドールです」
するとおっさんは突然僕の胸を触ってきた。作り物なので感触は無いが気持ち悪い。
「今から私の部屋に来なさい」
めちゃめちゃ気持ち悪いが我慢して答えた。
「申し訳ございません、用事を申し付けられておりますのでご容赦ください」
「ふむ倍だそう」
「え?」
「私のメイドになるなら今の給金の倍出してやろう、悪くなかろう?」
近い、肩に手をかけてくるし顔がめちゃくちゃ近い。きもい。
「申し訳ございません」
おっさんは何かエキサイトして来たのかどんどん近くなっていく、おっさん臭いしここは地獄か。
「強情だな、でもそこがいいな、私の愛人にしてやろうか?もう働かなくてもいいんだぞ?」
そう言って今度はお尻にも手が伸びて我慢できずおっさんを突き飛ばしてしまった。
「痛っ!こいつ私を誰だと思ってる!グーロ、そいつを捕まえろ!」
「ハイ、ドルトス様!」
グーロと呼ばれた二メートルほどもある装飾過多な鎧を着たゴリラのような男が掴みかかってきたので僕は咄嗟に呪印に力を込めると世界に色が失われていった。
僕に向かって伸びてきた手を右手で払いそのままグーロの右側を走り抜けると目呪印さんが僕の目に重なった。
「え?何?」
すると痴漢してきたおっさんが目に入りその姿は体に青い線が入っていてあの迷宮都市のゾンビの様だった。
その次の瞬間、世界に色が戻っていった。
「待て小娘!」
鎧を着たグーロはその体格に似合わずかなり早く、僕も身体強化をしてギリギリ引き離せるくらいだった。
僕はさっきのドルトスの姿が目に焼き付き、混乱しながら細い通路をぐるぐると回り何処かわからない階段を降りて時々別のメイドともすれ違いながら気がつけば行き止まりだった。
「まずい、足音が近づいてくる!」
咄嗟に僕はそこにあった扉へ中も確認せずに飛び込んだ。
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