第47話 爪と王都とドラゴンと


 それは王都に向かう途中の小さな村の宿屋での事だった。


『不死者よ、不死者よ』


「ふぁぁぁ」


 この感じドラゴンか…もう真夜中だよ。


『真昼間に来て困るのはお前では無いか?』


 たしかに、今から向かいます。


 右手首を引っ張られる感じに従い僕は森へと向かった。



 しばらく真っ暗な森の中を呪印さんの目で見ながら進むと十分ほどで森の中にある真っ赤な小山に出会った。


『やっと来たか不死者よ』


 目の前に居るのは目が金色でギラギラと光り、全身が燃える様な赤いウロコをしたドラゴンだった。


「はじめましてレッドドラゴン」


『様をつけろ様を』


「すいませんドラゴン様、なんか意思が筒抜けだし良いかなって」


『建前と本音と言うのがあってな、まぁいい黒に言われて来た、手を出せ』


「やっぱり問答無用なんですね毎回」


 ドラゴンが僕の手の甲に爪を刺すとすべての爪が黒く染まった。


「これはまた、ビジュアル系だね」


『ビジュアル系が何かしらんがそれは造破の呪印だ、よく使いこなせ』


「やっぱりいつものように使い方は教えてくれないんですよね?」


『私は破壊と再生を司る龍だ。そしてこれで終わりだもう言っていいぞ』


「あっさりしてるね、まさかこれからデートとかじゃないよね?どこかのドラゴンみたいに。」


『青と一緒にするな早く居ね、私はもう寝る』


 相変わらずドラゴン様は自分の時間で生きているな。


「ありがとうございました」


 そう言ってそのまま森を歩きながら黒くなった爪で何かできないか試していると少しだけ伸ばす事が出来た。


「何これかっこいい!」


 両手の黒い爪を5センチほど伸ばすとかなりの悪者感が出て逆にそれがいい、厨二心をくすぐる。


 木の枝をスパッと切ってポーズをつけた。


「この爪は黒爪シャイニングダーククローと名付けよう!」


 厨二っぽくアホな名前をつけて遊んでいると頭に声が響いた。


『その名前はどうかと思うぞ』


 ヒィィィィ!聞かれた!恥ずかしくて死ぬ!死なないけど!


 僕は爪を消し顔を抑え急いで宿屋に戻り布団に頭から飛び込んだ。



 次の日の朝、昨日のショックでしばらく布団から出れなかった。


「シュウおはよう、どうしたの?」


「ちょっと人生について考えてたとこだよ」


「そ、そうなんだ。ほどほどにね、朝ごはん食べに行くわよ」


「はーい」


 ご飯を食べながら師匠に昨晩ドラゴンが来た事を話し爪を見せた。


「またドラゴンが来たのね。その爪でこのお肉切ってみてくれる?」


 お肉が乗った皿をこちらに押して来たのでスッと切ると皿まで真っ二つになってしまった。


「食事には向いてないわね」


「ドラゴンだってまさかそんな事に使われるとは思ってないだろうしね」


 そう言いながら半分になったお肉を一つ爪で突き刺して食べた。


 その後村から乗合馬車で王都へと向かい三日ほどで王都に到着した。




 王都は15メートル程の城壁があり周辺は麦畑が広がり圧巻の景色だった。


「凄い城壁だし凄い人の列だね、入るのに時間がかかりそう」


 乗り合い馬車から降りた僕たちは今王都へ入る列に並んでいた。


「王都は人も多いけど検査している警備も多いからすぐ入れると思うわ」


 それから程なくして師匠が言うように僕たちの順番になり、あっさりと中に入ることが出来た。


 王都の建物はどれも二階建て以上で通りの幅も広く凄く都会だった。


「これは凄い!人と家が溢れてるね!宿探しも迷いそうだね!」


 僕がキョロキョロして話しかけると師匠が人差し指を振って答えた。


「チッチッチ、シュウ甘いわね。ここ王都は旅人の翼の本拠地なの、だから宿もよく知ってるから大丈夫よ。ちゃんとお風呂のある宿に連れて行ってあげるわ」


 そう言うと師匠が辻馬車と言うタクシーみたいな馬車を捕まえて目的地へと向かった。


 到着したそこはバロック様式の白を貴重とした外壁に青いラインが入った四階建てのとんでもない建物だった。


「し、師匠?これは宮殿?!」


「ここが王都最大のホテルその名もワールドゲートよ。このホテルより凄いお風呂が付いている宿は無いわ」


「いやいやこれ一泊いくらするの?!」


「こんなとこに突っ立てないで入るわよ」


「師匠ちょっとまってよ」


 ドアにはドアマンが居て僕たちが入ろうとしたら勝手にドアを開けてくれた。手動だけど自動ドアだ。


 中も重厚な作りでホールも吹き抜けで天井付近もどうやって掃除するのかわからない作りになっている。


 僕がロビーでキョロキョロしている間に師匠がもうカウンターで誰かと喋っていたがしばらくすると奥から偉そうなヒゲのおじさんが出てきた。


「これはこれはティーレシア様、ようこそお越しくださいました。本日は一番上のお部屋が空いておりますのでぜひお使いください」


「ありがとうマイルズ、一週間お願いするわ」


「かしこまりました。何日でもゆっくりとおくつろぎくださいませ」


 フロント係の制服を着たスタッフが僕と師匠を案内してくれたが驚いた事にここにはエレベーターが付いていた。


「こちらが最上階への直通のエレベーターです。どうぞ」


 そう言われて案内されるとそのエレベーターにはボタンが最上階と一階しか無かった。


 最上階に到着すると通路が少しだけあって大きな両開きのドアの前にコンシェルジュカウンターがありスタッフが座っていた。


「コンシェルジュのサディと申します。何かありましたらお気軽にお申し付けください中にもベルが付いておりますのでそちらでお呼び頂ければすぐ参ります」


 コンシェルジュ付きって何このホテル、日本だったら一泊200万ぐらいするんじゃないの?なんか怖くなってきた、今日殺されるのかな?死なないけど。


 部屋へ案内され中に入ると飾り立てられた広いリビングに豪華な絨毯、そして家具も分厚い木製で重厚な作りだった。


 部屋数もキングサイズのベッドを二台置いた寝室が二つに書斎が二つベランダにはかなり大きなプールがあり部屋の中には上へ上がる階段まであった。


「何これ?!何人住めるの?」


 フロント係が帰った後、部屋を探検すると驚きの連続だった。


「ここは王都でも名門の宿なのよ、他国の王族も泊まることが有るわ」


「とんでもないね、上の階には何が有るの?」


「ふふ、行ってみましょう」


 師匠と一緒に階段を上がるとそこは天井が透明の素材で出来ておりライオンの口からお湯がわき続けているプールのように広いお風呂があった。


「何これすご、一人で入るサイズじゃないね!師匠も一緒に入る?」


「入らないわよ、馬鹿」


 テンションが上ってしまった僕をみて師匠も嬉しそうだった。


「これはすごいね、お風呂から空が見えてるし天井はクリスタルか何かかな?」


 お風呂場の天井にはガラスの様にクリスタルを薄く切った物が嵌め込まれており空が見えていた。


「じゃあそろそろギルドに行くわよ」


「じゃあ僕はお風呂に入って待ってるよ」


「駄目よ、今日はシュウも手続きが有るから一緒に行くわよ」


「え、行かないと駄目なの?」


「一週間はここに居るからどれだけでも入れるから今日は行くわよ」


 僕は嫌々師匠に付いてギルドへ行く事になった。



 コンシェルジュに馬車を手配してもらい旅人ギルドに着くと迷宮都市にあった建物より更に豪華だった。


「ここってそんなに建物豪華にする必要あるの?」


「まぁ他にも色々なギルドがあるしね。ここに入る意味が出るんじゃない?私はどっちでもいいけど」


 師匠と馬車を降りて喋りながらギルドへ入って行くとすぐに奥からスタッフが出てきて出迎えてくれた。


「グランドマスターお帰りなさいませ」


「ただいま、すぐに留守の間の資料を集めておいて」


「シュウはちょっとまってて、先に用事を済ませて来るわ」


 出来るビジネスウーマンみたいになった師匠はどこかへ行ってしまい、僕は個室に案内され師匠の帰りを待つ事になってしまった。


「旅人ギルドへ来ると師匠は凄い忙しそうだなぁ、そもそも旅してて良いのかな?」


 ぼーっとお茶を飲んでお菓子を食べて待っているとノックの音がして誰かが入ってきた。


「失礼する。私は旅人ギルドの副ギルドマスターのラフェインだ」


「はじめましてティーレシアの弟子のシュウと申します」


 ラフェインさんは五十代くらいの女性で茶色の髪を後ろで軽くまとめたきつそうな目をした人だった。


「これが今回グランドマスターに言われ発行したカードだ」


 そう言ってラフィンさんが金色のカードを手渡してきた。


「ありがとうございます」


 カードには最近一応読めるようになってきたのでシュウと書いてある事がわかった。


「このカードは貴様を旅人ギルドで保証すると共に各ギルドでお金を引き出すことも出来るから絶対に無くすな」


「わかりました」


「あと、ティーレシア様を連れ回すな、以上だ」


 なんか棘のある感じで言われ睨みつけられて出ていった。


 ゴールドカードを触って待っていると師匠が入ってきた。


「おまたせシュウ、カード発行出来たのね」


「ラフィンさんって人が怖い顔で持ってきてくれたよ」


「あー、何かきついこと言われなかった?」


「師匠を連れ回すなって言われたよ」


「あー、まぁ気にしないでちょっと熱いタイプの人なの」


「それとこれ持っといてね、今日は遅くなると思うからお風呂ゆっくり入ってホテルでご飯食べて待っててくれる?」


 そう言いながら師匠が机の上に革袋を置いた。


「何これ?」


 師匠が渡してきた革袋を開けると金貨やら銀貨やらがそこそこ入っていた。


「おかね?!」


「今までお金渡してなかったわよね。前回はぐれた時不便だと思って渡しておくわ、それは好きに使っていいわよ」


「何か貢いでもらってる感じだね」


「そのお金以上にシュウには十分働いてもらっているから大丈夫よ、無くなったらまた言いなさい」


「ありがとう大切に使うよ」


 師匠は久しぶりに本部に戻ってきたせいで忙しいみたいで一緒にしばらくお茶とお菓子を食べていたが誰かが呼びに来た。


「さて、僕も邪魔しちゃ悪いしホテル帰ってお風呂入ろうかな?」


「シュウごめんね忙しくて、帰り道はくれぐれも気をつけてね、誘拐されたり変な人について行っちゃ駄目よ?落ちてるものも食べないでね」


「僕子供じゃないんだから」


「ふふ、じゃあまた後でね」



 そう言ってギルドを後にしたはずなんだけどなぁ。


「ココは何処だろう?」


 しっかりと迷子になってしまった。一人で馬車に乗って帰るとかハードルが高すぎて無理だったので歩いて帰ったのがいけなかったかな。


 トボトボと歩いていると僕の隣で馬車が止まる音が聞こえたのでそちらを見ると馬車のドアが開いて誰かが降りてきた。


「シュウ様じゃありませんか!?」


「へ?」


「ディアーヌです!お忘れですか?」


 馬車から降りてきたのはディアーヌ・グレイスドールだった。


「いや、忘れるわけないじゃないですか、驚いたんですよ」


 話しているともう一人続いてメイドが降りてきた。


「お嬢様急に降りられては危険ですよ。お久しぶりでございますシュウ様」


 メイドのララも一緒だった。


「ディアーヌさん、ララさんお久しぶりです。その節はご迷惑をおかけしました」


「そうですよシュウ様なぜ突然居なくなったんですか?次の日大騒ぎでしたよ」


「話すと長くなるんですが」


 僕が話していると出来るメイドのララが遮った。


「お嬢様こんな所でゆっくりされるのはどうかと、一緒に馬車に乗って頂いたらいかがですか?」


「そうね、シュウ様はここで何をされてたんですか?」


「実はちょっと迷子になってて」


「ならばどうぞ馬車へ乗ってください一緒にお茶でもいたしましょう」


「ありがとうございます」


「ではディアーヌ様、シュウ様馬車へ」


 ララに促され馬車に乗り連れて行かれたのは王都にあるグレイスドールの別邸だった。


 僕は今はその豪華な一室でお茶を入れてもらい、あの日有った事を説明していた。


「そして師匠と王都に到着した所だったんですよ」


「そんな事が有ったんですね。本当にあれから色々あったんですね。そして呪印様は色々な事が出来るんですね」


 目呪印さんと口呪印さんは褒められてにっこりだった。


「お嬢様そろそろお時間の方が」


 ララの言葉を聞いて残念そうな顔をしてディアーヌが喋りだした。


「シュウ様もっとお話をお伺いしたいのですが予定の時間が来てしまったようです。馬車でホテルまで送らせて頂きますのでまた日を改めてお話をして頂けますか?」


「ええ喜んで、こんな美味しいお菓子とお茶を頂けるなら何度でも来ますよ」


「シュウ様はとてもお上手なんですね、今日はありがとうございました。それではまた」


 その後僕はグレイスドールの馬車でホテルまで送ってもらい念願のお風呂に入ることが出来た。


 部屋でくつろいでいるとテーブルにご飯の用意がされとてもお上品なコース料理が並びどれも信じられないくらい美味しかった。


「それではまた何かありましたらお呼びください」


 食事が終わりメイドが出ていったので僕は満腹でソファーに横になった。


 ウトウトして気がつくと師匠が向かいのソファーで本を読んでいた。


「ティーお帰り」


「師匠でしょ。ただいま」


 読んでた本を閉じてこちらをみた。


「お仕事お疲れ様、長かったね、もうお風呂入った?」


「ええ、もう入ったわ」


 本を閉じたと思ったら次はデキャンタからワインを注いで飲みだした。


「ほんとにお酒好きだね」


「明日本当は王都を案内するつもりだったんだけど王城から呼び出しが有って行ってくるわね、明後日でかけましょう」


「そっか、グランドマスターともなると忙しんだね、じゃあ僕はこのホテルでゴロゴロしてるよ」


「ごめんね、明後日は案内してあげるわ」


「楽しみにしてるよ」


「じゃあ明日も忙しいしそろそろ寝ましょう、おやすみなさい」


「うん、おやすみ」



 師匠は次の日ギルドに行ったきり帰って来なかった。

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