第45話 腕とゾンビと迷宮と
目の前には沢山の人が出入りしている木造五階建てのやたらと豪華な建物があった。
「や、やっとたどり付いた…」
迷宮都市ベラダルはその名の通り迷宮を中心に発展した街でそこから街が大きく発展したので区画整理ができていない。そのせいで迷いに迷った。
「まさか都市の構造まで迷宮になっているとは」
今までの街は大抵メインの通りに何本かの道が繋がっていて大体がまっすぐの道で構成されていたがこの街はカーブを描いたり家の屋根の上を道が有って立体構造になっているところまであったりとバリエーションに富んでいた。
やっと辿り着いた感動を噛み締めながらギルドの中に入るとそこはまるで銀行の様な作りになっていて受付が沢山並びソファーには人がたくさん座って待っていた。
僕が受付カウンターに行くと綺麗なお姉さんが笑顔で迎えてくれ用件を聞いてくれた。
「ティーレシアさんに取り次いでもらえますか、シュウと申します」
受付係の女性はティーレーシアの名前に反応して僕の事をつま先から頭の先まで確認して口を開いた。
「ティーレシア様への御面会の申し込みですね、それではこの札を持ってお待ちください」
暫くソファーで待っているとカウンターから声がかかったので窓口へ向かうと髪をオールバックに固めた若い男のスタッフが対応してくれた。
「お待たせいたしました、ティーレシア様への御面会の予約でよろしかったでしょうか?」
「そうですね、お願いします」
「まずお名前とアポイントメントの有る無し、それとお伺いできる範囲での御用件をお願いします」
「名前はシュウです、アポは無くて、用件はティーレシアさんと逸れたので合流するためです」
受付係は一瞬怪訝な顔をしたが直ぐに無表情に戻った。
「それでは申請を上げておきますので、ご連絡先をお願い致します」
「今日は会えないんですか?もしくはここにいませんか?」
係の男は軽く鼻で笑って口を開いた。
「そうですね、大変お忙しい方なのでアポイントメントの無い方の申請は後日返答させて戴く形になります。まぁほぼ却下されますがね」
「そっか、わかりました明日になれば結果がわかりますか?」
「そうですね連絡先がない場合はまた明日ご訪問下さい」
まさかの門前払いだった。
確かにこんな手ぶらの軽装の薄汚れた奴がお前のとこの一番偉いやつに会わせろって言ってはいそうですかとはならないよね。
「あーどうしようかなぁ」
直ぐ会えると思ってたのに一人街を彷徨う事になってしまった。お金もないしお腹も減ったなぁ。
泊まるとこもどうしよう、こんな事になるならとりあえずマルス達についていけばよかった。
噴水がある広場で一人佇んでいると、知らない親子連れの子供が僕の方にやってきてりんごの様なフルーツをくれた。これはもしかして施しを受けたのかな?
だんだん陽が落ちてきて街頭の魔道具に灯がつき始めた時、通りの向こうからこちらへ走って来る人影が見えた。
「シュウ様申し訳ございません!私の手違いでございます!直ちにギルドへお越し頂けますでしょうか!」
それはさっき僕を鼻で笑った受付係のオールバックだった。
「え、さっきは明日来いって」
「とんでもございません!ティーレシア様のお弟子様とは知らず御無礼を申し訳ございません!」
まさかの土下座だった。日が落ちてきてるとはいえそこそこ人が居る広場のど真ん中で土下座とかこっちが完全に悪者みたいでひそひそされて居心地が悪い。
取り敢えず噴水に座らせて詳しく聞くとあの後、他の係のスタッフと「またアポ無しで一番偉いやつに合わせろって言うのが来たぜ」と言う話をしていたら後ろを偶々通り掛かった上司が受付表のシュウと言う名前を見て顔色を変え、直接対応を確認された後、僕がティーレシアの弟子だと言うことが判明し上司が焦り受付を怒鳴りつけて彼はあれから町中僕を探して走り回って居たらしい。
「まぁ落ち着いて、僕は怒ってないから」
あれから婚約者が居るだの首になると結婚がどうとか関係の無い事まで洗いざらい僕に吐き出し、今は僕が宥めているところだった。
「大丈夫、僕だってこんな奴がアポ無しで来たら会わせないよ、君は間違って居ないから取り敢えずギルドに行こう。木の実食べる?」
がっくりと肩を落とした受付係のラーク君二十六歳(婚約者有)とまたギルドへ向かう事になった。
「でもホントここに来てくれてよかったよ、僕はちょっとギルドの場所分からなくなってたんだよね」
ラーク君のお陰で真っ直ぐギルドに帰ることが出来た。
そして今僕は応接室でお茶とお菓子を出してもらい立派な革張りの椅子に座って師匠を待っていた。
窓の外を見たりお菓子を食べたりして暫く待っているとノックも無くドアが力強く開いて師匠が飛び込んできた。
「シュウ!」
「師匠!」
感動の再会でのハグを期待して両手を開いて待ち構えていると師匠が僕の両頬をまぁまぁのパワーでバチーンと挟んだ。
「この馬鹿弟子!攫われるって子供じゃ無いんだから!どんだけ心配したと思ってるのよ!」
「ごめんなさい」
頬から手を離し師匠は僕をぎゅっと抱きしめて来た。
「もう本当に心配したんだから、宿に帰っても居ないし待ってても帰って来ないから最初は私の事が嫌になって出て行ったのかと思ったじゃ無い」
強く抱きしめて来る師匠を僕も強く抱きしめ返した。
「嫌になるわけないじゃ無いか、僕もティーに会いたかったよ」
「師匠でしょ馬鹿」
そう言ってまた僕の顔を両手で挟んだ師匠の顔は涙を溜めて笑っていた。
僕がじっと師匠の目を見つめると師匠も僕の目を見つめてきて柔らかそうな唇の距離がどちらとも無く縮まっていく。
その時ドーーーンと言う大きな音と共にかなり激しい横揺れが起こった。
「何っ?」
師匠は急いで爆発音のする方の窓から身を乗り出して外を見た。
「迷宮の方から煙が上がってるわ何か起きてるのかもしれない、行くわよ!」
嘘でしょ?!何で?後二秒で良いから爆発待ってくれないの?
僕はションボリしながら師匠の後に続いて迷宮へと向かった。
迷宮に到着すると現場は大変な事になっていた。
迷宮手前の広場の真ん中にトラックでも降りて行けそうなくらいの穴が開いていてそこから止めどなく溢れ出るゾンビ、ゾンビ、ゾンビ。
「迷宮ってこんな事になるの?ゾンビだけしか居ないのこの迷宮?」
「ここは普通の迷宮よ色々なモンスターが出るわ。そもそもゾンビは出ないはずだしスタンピートしてもモンスターはもっと少ないわ」
今は都市に配備されている警備隊がバリケードを作って氾濫を防ぎながら向かってくるゾンビを端から倒しているが全く追いついてない。
師匠はその辺の建物へ上り炎の槍を片っ端からゾンビへと撃ちまくっている。
僕も最初はファイヤーペンシルを撃っていたが焼け石に水な感じなのでやめた。
「それにしてもこれいつまで出て来るの?」
「キリがないから一度塞ぐわ!」
そう言って師匠は全身に呪印を這わせいつもより長い時間をかけて魔法を使うと迷宮入り口が円柱状の巨大なクリスタルの様な物で包まれてゾンビの流出が止まった。
「はぁはぁ、これで三日くらいは持つと思うわ。何が起きているか分からないけど今のうちに調べるしかないわね」
その瞬間世界に色が失われていった。
僕と師匠の右側から光の帯が薙ぎ払う様に地面を削ってかなりの速度で接近していた。
右腕を伸ばし師匠を守ろうとしたが思ってるより早く僕の右側に居た師匠の腕に命中してゆっくり流れる時間の中師匠の右腕に食い込んでいった。
ダメだ!そう思って僕はさらに全身に力を込め右腕を光の帯へと伸ばしなんとか師匠の体に到達する前に口呪印さんで飲み込むことに成功した瞬間世界に色が戻って行った。
「ティー!」
師匠の右の二の腕から先が恐ろしく鋭利な刃物で切ったかのように輪切りにされて無くなっている。
「血が止まらない!」
僕は急いで自分の服を破り痛みで気絶している師匠の残った二の腕の部分をきつく縛った。
「ちょっとそこの黒髪のあなた。邪魔をしないでもらえますか?」
声のした方を見上げるとそこには腰まである長い髪をオールバックにし黒いスーツを来た男が頭に輪っかを乗っけて羽を広げて浮かびこちらを睨んでいた。
「なんで!天使って滅多にいないんじゃないの!?」
「どうやって私の攻撃を防いだのか知りませんがそのエルフは殺さないと行けないんで邪魔をしないでください」
そう言ってまたこちらへ掌を向けて来たので僕は咄嗟に口呪印さんを向けてさっき飲み込んだ光の帯を打ち出すと、まさか自分の攻撃が帰ってくるとは思っていなかったようで男は驚いてまともに命中した。
「ぐあぁ!貴様この私になんて事を!」
煙が晴れると天使は羽に包まれ防御をしていたが僕は羽が開く前に建物の陰に師匠をおんぶして脱出していた。
「この!出て来なさい!さもないとここにいる人間全員殺しますよ!」
馬鹿かあいつはこの世界の人間全員より師匠の方が大切に決まってるだろ。
後ろで爆発音が鳴り響く中、僕は師匠を担いで急いで旅人ギルドへと逃げ帰った。
旅人ギルドへと戻ると最初にラーク君が気付いてすぐ上の者を呼びに行き奥の部屋へ通され治療をしてもらう事になった。
治療をするので部屋を追い出され一時間ほどが過ぎて漸く部屋へ入る許可が出た。
ギルドのスタッフと共に中に入ると数人の治療スタッフがまだ魔法を唱え続けていた。
「これは、ダメです戻りません、いったい何が起こったんですか?」
白い神官服を着た医療スタッフにそう言われて僕は経緯を説明した。
「天使!?それでは右腕はもうだめかもしれません。天使の魔法により存在自体がこの世界から無くなってこの無い状態が普通になっている可能性があります」
は?何言ってるんだこいつらは師匠の腕が治らないわけないだろう。
「とりあえずみんな出て行ってもらえますか?僕が治します!」
そう言って無理やり全員を追い出し僕は左手を師匠の切れた腕へ置いた。
「頼むよ呪印さん、ホワイトドラゴンもこういう時の為に力くれたんだろ?」
左手首に力を注ぐとその瞬間世界に色が失われていった。
手首の呪印に一つだけ咲いていた花が枯れたと思ったら師匠の腕があっという間に元に戻った。
「よかった、普通に行けた」
そうつぶやいた途端世界に色が戻って僕の右腕があった場所から激痛が走り耐えられず意識を手放してしまった。
気が付いて目を覚ますと知らない部屋のベッドの上だった。
左横を見ると師匠が目に涙を浮かべていた。
「師匠腕大丈夫?」
「馬鹿!無茶しないで!」
そう言って師匠が僕にしがみついて泣き出したので頭をなぜようとしたが出来なかった。
そういえば代わりに僕の右手が無くなったんだった。
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