第37話 壁と装備と古代遺跡と


「ああああぁぁぁぁ、ぎもちぃぃぃ」


 昨日お酒を飲んで寝たせいか、かなり早い時間に起きてしまい暇を持て余してウロウロしていると通りかかったスタッフから朝もお風呂を用意されてると聞き僕は朝風呂に入っていた。


「それにしても此処のお風呂凄いのに誰とも会わないなぁ」


 いや一人会ったか、頭の隅っこに追いやっていたけどなんなんだろう彼女?彼?は、まぁ良いや。


 師匠が言うには砂漠の人達はあまりお湯に浸かる習慣が無いみたいだけどこの宿は経営大丈夫かな?


「まぁ僕が心配する事じゃ無いか明るい時間は明るい時間で露天風呂は気持ちいいね」


 サッパリして部屋に戻ると師匠が起きて出かける準備をしていた。


「おはようティー、朝風呂気持ちよかったよ」


「師匠でしょ、シュウはお風呂が本当に好きなのね」


「僕の故郷ではみんな毎日お風呂に入るからね。習慣みたいなもんだよ」


「凄いわねこっちの世界では考えられない話だわ。毎日お風呂に入るなんて大貴族か王族ぐらいじゃ無いかしら」


 師匠は半ば強制的に弟子入りさせられてからティーと呼ぶと必ず訂正してくる。わからないけど異様なこだわりを感じる。


「今日は装備を見に行くんだよね」


「もっと身体強化が上手くなれば良いんだけど、まだまだだからね」


「あぁっと、精進します」


 僕たちは準備を整え師匠が旅人ギルドで聞いて来たおすすめのお店に向かった。



 そのお店は石造の平屋で煙突からもくもくと煙を出していた。


「うわぁ、砂漠で火を使う仕事は大変そうだね」


「でもここのメインは革製品だから鍛冶屋に比べればマシじゃ無いかしら?」


 中に入ると石作りの店内は意外と涼しかった。


「いらっしゃい、ガフスの防具店へようこそ!何をお探しだい?」


 もっとムキムキのおっさんが出てくるのかと思ったら意外と線の細い顎に髭を蓄えた男性が座ってお出迎えしてくれた。


「旅人ギルドの紹介で来たんだけど彼の装備一式を見繕って欲しいの」


 師匠が何かカードの様な物を見せて説明すると店員が頷き早速僕の採寸が始まった。


「俺はガフスだ宜しくな」


「シュウですよろしくお願いします」


 握手をすると早速メジャーを出して僕の体を採寸し出した。


「どの程度の物を探してるんだ?」


「いや、僕は全然わからないから師匠に任せるよ」


「師匠?ああエルフかそれじゃあ見た目通りじゃ無いって事だな」


 計測が終わるとガフスが師匠にどんな用途かを聞いて革鎧の準備を始める。


「あんた人間だろうどこから来たんだ?」


「僕もよくわからないんだよねー。きっとあの穴の空いた月より遠いところじゃ無いかなぁ」


「そうか、そいつは大変だなエルフと二人で旅をしてても不思議は無いな」


 何かよくわからない納得のされ方をして鎧の仮当てが終了した。


 出来上がった鎧は暑い国の仕様なのか胸や太い血管がある場所を隠すだけの簡単な皮鎧で足元はガラハドから貰ったサンダルから編み上げブーツへとアップグレードした。


「それにしても師匠はそんな革鎧着てるけど暑く無いの?」


 師匠がいつも着ているのはかなりしっかりしたレザーアーマーでこの気温でも汗をかいているのを見たことがない。暑そうにしてるのは昨日のお風呂の後くらいだった。


「これはこう見えても古代魔法時代の遺物なの、魔法耐性も有るし暑さ寒さにも対応してるの」


「え、ずるい、だから今までずっと涼しい顔してたんだね、僕もそれが良いな!むしろ今着てるそれで良いからこれと替えよう!あっ本当に涼しい!」


「あ、ちょっと、変な所手を入れないでよ、コラ!」


「あんたらイチャイチャするなら外でやってくれないか?」


「イチャイチャはしてないわよ!」


 僕は師匠に腕を捻りあげられて床に這いつくばった。


「いたたた、ごめんなさい」


 その後、鎧のサイズ調整等を済ませマントを羽織り、師匠がお金を払って商店を後にした。本当にヒモみたいだなぁ。


「ちょっと遅めだけどお昼ご飯にしましょうか」


「もうそんな時間なんだね」


「さっきサイズを測ってる間にガフスにおすすめのお店を聞いてたからそこへ行きましょう」


「流石師匠抜かりがないね」



 お勧めのお店は木造の小洒落たカフェの様なお店だった。


「髭のおっさんが教えてくれた店とは思えないね」


「サンドイッチの店ラリアって書いてあるわ、入ってみましょう」


 中に入るとチリンチリーンと鈴の音が聞こえて奥から可愛らしい女性が出て来た。


「いらっしゃいませ、どうぞこちらに座ってください」


 そう言って席を案内してくれ、メニュー出を置いて他のお客さんの対応へと忙しそうに離れていった。


「ガフスのおっさんがこの店を教えてくれた訳がわかったよ」

「奇遇ね私も分かった気がするわ」


 置いて行ったメニューはかわいらしい絵で書いてあったので僕にも分かった。師匠はベジタブルサンドを頼み僕はトカゲのフライサンドを頼んだ。


 トカゲのサンドイッチはただでさえジューシーなトカゲのお肉がフライになっていて、さらにそれが酸味のあるソースと相まってフランスパンの様な硬いパンに負けない歯応えと旨みを出していた。


「おいしい!ガフスは彼女が目当てなだけじゃないかもしれないね」


 師匠に一つもらったベジタブルサンドも砂瓜の内皮をピクルスにした物が使われているらしくザクザクとした食感と酸味が混ざり合い野菜だけと感じさせない味だった。


「ガフスはどうでも良いけど、このシードルともとてもよく合うわよ」


 気づいたら師匠は昼間っから酒を飲んでいた。毎食飲んでるけどこっちの人は当たり前の事なのかな?


「それでこの後はどうするの?」


「後は武器も必要だから武器屋にも行くわよ」


「よろしくお願いします」


 この後ボリュームのあるサンドイッチを堪能して武器屋で数内ちのショートソードを買って宿屋へと帰った。



 翌朝遺跡へ行く準備をして北門へ向かうと人だかりができていた。


「どうしたんだろう?全然進んで行かないね」


 師匠と並んで順番を待っていると前の方で叫ぶ声が聞こえた。


「静かにしろ!!今北門は通れん!現在北の方から大量の魔物が迫っているとの情報が入っている!外へ出たい奴は南へ回れ!南も直に閉めるから早くしろ!!」


「師匠!」


「ギルドへ行くわ」



 旅人ギルドへ急いで走り師匠は前と同じ様に奥の部屋へ入って行ったのでまたロビーでボーッと待つことになった。


「だーれだ?」


 柔らかい手が僕の目を隠しさらに良い匂いがする。


「名前知らないけど?」


「あーそうだったねー、リエルって言いまーす宜しくね。じゃあ君の名前は?」


「僕はシュウです。そろそろ手を離してもらって良いかな?」


「だーれだ?」


「え、やり直し?」


「だーれだ?」


 これはやらないと終われないやつ!しかもこんなに周りに人がいるのに、ピンク頭は鋼の精神力としか思えない。


「リ、リエルさんです」


「正解!流石だね」


「何が流石か分からないんだけど」


 やっと目隠しをやめてもらい周りを気にすると若干の視線を感じる。恥ずかしすぎる。


「やっぱりまた会えたね。これは運命かな?」


「イヤイヤ、偶然じゃないかな?」


「冷たいねーまぁ良いけどさ、そう言えばモンスターが迫って来てるけどシュウ君は逃げないの?」


「出来れば逃げたいんだけどね。でもまぁ後悔はしたくないし最後まで抵抗はしてみようと思ってるよ」


「そっかー僕は逃げるのをお勧めするけどなぁ」


「ありがとう、どうしようも無くなったら逃げる事にするよ。僕はこう見えてもタフなんだ」


「無理しないでね、あっと保護者さんが帰ってきたから僕は行くよ。またねー」


 そう言って人の隙間を縫ってピンクの髪の毛が消えるのを見送り後ろを振り向くと向こうから師匠が帰って来ていた。


「またナンパしてたでしょ?」


「違うよ向こうから話しかけて来たんだって」


「ふーん」


 やばい全然信じてない感じだ。


「そ、それよりモンスターはどうだった?」


「そうね取り敢えず行きましょう歩きながら話すわ」


 僕らはギルドを後にして南門へと向かった。



「どうも北の遺跡に誰かが入って遺物を再稼働した可能性が有るみたいなの」


「その遺跡がモンスターを生み出してるの?」


「そうね今の所ギルドではその可能性が濃厚だと思ってるわ。送った斥候の話では遺跡までたどり着いて中に入った部隊が帰って来てないみたいだし」


「じゃあ僕達はどうするの?逃げる?」


「何馬鹿なこと言ってるのよ、行くに決まってるでしょキューブを回収するわ」


「おう、姐さんとシュウじゃねーか!」


 雑踏の中ラクダに繋いだ馬車を運ぶガラハドが居た。


「お前らはどこへ行くんだ?急がないともうすぐ南門も閉じちまうぜ!」


「今から僕達も向かう所だよ!」


「二人も一緒に行くか?俺たちは一度この街を離れ東のオアシスへ行くつもりなんだ」


「ありがとう気をつけてね。僕達はこれを止めてくるよ失敗したらごめん」


「マジか、姐さん達が行くなら俺たちは街で待ってるぜ!移動の金も馬鹿にならねぇしここは商人として姐さんに賭けるべきだろう!」


「僕には賭けないの?」


「シュウも入ってるぜ囮は必要だもんな!」


「ひどい!」


 結局ガラハド達は街から逃げず月の砂漠亭へ帰っていった。


「ねぇ師匠、なんか責任重大になって来たね」


「まぁ何とかなるでしょ、早く遺跡に向かいましょう」


 僕達は混雑する南門を何とか抜けて北の遺跡へと向かった。



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