第34話 ティーとラクダと師匠と
「いててて、師匠ひどいよ」
「不死身だから大丈夫でしょ」
そう言いながら師匠が横にふわりと降りてきた。
「何であんな高いところに繋がってるの、殺す気かな?」
「死なないでしょ」
上を見上げると僕が落ちて来たドアは五メートルほど空中に浮いていた。
「それにしてもここには何も無いのかな?」
周りを見渡すと直径三百メートル程のつるりとした壁で出来た半球状になったドームの一番端に立っていた。
「ここは多分作りかけの空間だと思うわ。ほら、あそこにキューブが有るから間違いなさそうね」
師匠が指を指したところを見ると墓石を斜めに切り取った様な台がありその上にキューブが浮いていた。
「それにしても上のゴーレムもそうだけど完全に仮置きって感じだったし。ここもそうだけどいい加減なものね」
「とりあえず早くあのキューブを回収してここを出ようよ」
そう言って僕はキューブへ向かい歩き出すと師匠が僕の肩を掴んだ。
「ちょ、ちょっとストップ!」
「え、どうしたの?」
師匠の静止は一足遅かった様だ。
僕が一歩前へ踏み出すと足元が四角く光ったと思うと、けたたましく警報のアラートが鳴り響いた。
『新規構築エリアに侵入者あり直ちに排除します』
「うわぁ、めちゃめちゃ物騒な事言ってるな」
白いつるりとした素材の床が音もなく丸く開き下から高さ一メートル直径三十センチほどの黒い円柱が二体車止めの様にせり出して来た。
「よし、丁度一人一体だから私は右をやるわ、シュウは左ね」
黒い筒全体に青い幾何学模様が浮かび上がるとその瞬間世界に色が失われていった。
ゆっくりとした世界の中幾何学模様が一箇所に集約して行き全ての幾何学模様が消えた瞬間その少し先からビームが飛んで来た。
僕は咄嗟に右手の口で受け止めると世界に色が戻っていった。
師匠の方をチラ見すると剣で弾いてそのまま前へ走りだしたので僕も前へ向かう事にした。
「やっぱりシュウはそのままキューブを破壊して!」
「了解!」
そのまま浮いてる円柱の側へ大回りして走り抜けると師匠の指示の意味がわかった。そこら中からなん十本と円柱がせり出してきていた。
「ゴーレムもそうだけどこの迷宮はすぐ物量に頼るね」
そう愚痴る僕の後ろで師匠が円柱二本と魔法の撃ち合いしながら更に対応する円柱の数を増やしていた。
僕は覚えた身体強化を使い更に加速するとその瞬間世界に色が失われて行った。
ゆっくりと流れる時間の中まわりから数十本のレーザーが僕へ降り注いでいるので一番最初に当たるレーザーを右手の口で飲み込み、あとは目呪印さんに力を込めた。
すると次の瞬間雨粒の様に僕の体にレーザーが当たり焼き始めたが、それが目呪印さんの力で皮膚を少し焦がす程度にとどまっていた。
そう以前バルバドスと戦って魔法で焼かれた時に使った力でどうやら魔法の浸食をゆっくりにする力があるらしく、師匠に力の使い方を教えてもらう際に再現する事に成功した。
僕はそのまま一直線にレーザーの雨の中を走り抜けそのままキューブに向かって飛びつくと、手の口がキューブを飲み込んだと思うと世界に色が戻って行った。
アラートが収まりホッとして座り込むと、そこら中に生えていた円柱は幾何学模様を失い地面の穴に戻っていった。
「シュウ、お疲れさま!」
いつの間にか後ろに来ていた師匠が僕の肩をポンポンと叩いて来たが僕はそのまま後ろに倒れ意識を手放した。
目が覚めるとそこは砂漠だった。
「あ、シュウ目が覚めたのね」
ちょうど二人が陰に入るくらいの大きな岩の傍で師匠はマントを引いて座って本を読んでいた。
「ごめんね倒れちゃって」
「仕方ないわ、あの呪印の力使うとやっぱり一回死んじゃうみたいね、もうちょっと何とかすれば使えると思うんだけど」
「また考えてみるよ。ところでここどこ?」
「あの迷宮の真上になる場所ね。たぶん魔族領の大砂漠の端っこね」
「でも僕が最初に居たのは砂漠じゃなくてグレイスドール領だったはずだけど?」
「ここからかなり東の方ね。多分その呪印の力が強くて迷宮を検索する範囲が広いのね」
起き上がると師匠が紅茶を入れてくれた。
「いただきます。それにしてもこれからどうするの?」
「うーん、私の目的はキューブを探す事だけど、次にどこへ向かうかね」
自分も紅茶を飲みながら読んでいた本をその本より小さい腰の袋にしまった。
「その袋どうなってるんですか?」
「これ?これは魔法袋よ。古代魔法時代の遺物で中の空間を広げてあって、かなりの物が入るようになってるわ」
「すごい!他にないの?僕もほしいな!欲しいですください。ありがとうございます」
「そんなホイホイあげるほど現存していないわ。何か必要ならこれに入れてあげるから言いなさいよ」
「まぁ前まで全裸だったし、よく考えたら僕の持ち物は特にないかな。自分で言ってて悲しくなってきた」
「本当に最初はびっくりしたわ。シュウはちょっとぐらい全裸に抵抗を持ちなさいよ」
そんな話をしているとドドドドドと遠くから地響きの様な音が近づいて来た。
「なんの音だろう?」
音の方を見るとかなり遠くで砂煙が上がっているのが見えた。
「んー遠くてわかりにくいけどキャラバンが何かから逃げているみたいね」
「助ける?」
「まぁそうね助けてキャラバンに乗せて貰いましょう」
「黒い助ける理由だよね」
「皆んなそうやってギブアンドテイクで生きているのよ」
「そうだね助かっただけ儲け物だしね」
「じゃあ私はこの岩の上で待ってるからシュウは囮になってね」
そう言うと師匠は軽く岩の上へと飛び乗って魔力を練りだした。
「なんかそんな気がしてた」
僕は諦めて砂煙の方へと走り出した。
「こっちだー!あの岩の方へ逃げるんだー!」
僕は岩から少し離れた場所でラクダの一団へ声を張り上げ腕を振った。
それに気がついた先頭のラクダが舵をこちらへ向け曲がって来たと思うと意外と早く僕の横を通り過ぎて行った。
改めて砂煙の方を見ると思ってるよりでかいミミズの化け物が地響きを鳴らしながらこっちへ向かっていた。
「距離感おかしくなるくらいデカイんだけど?」
迫ってくるそれは直径が四十メートル位の円柱で体は半分砂に埋まっていたが異様な速さで僕の方へと迫って来ていた。
「頼みますよ呪印さん!」
僕はデカいミミズに右手を向け口呪印さんに力を込めると、右腕に幾何学模様が生まれ手の先に収束していき掌の少し先からレーザーが飛び出した。
光の束はかなりの速度で巨大ミミズに突き刺さり、そのまま巨大ミミズの後ろから抜けて彼方へと消えていった。
「やったか?」
しかしサンドワーム(仮)はそのまま勢いが落ちることなく、こちらへ突進して来て僕は避ける暇もなく周りの地面と一緒に飲み込まれた。
「うわー側面に牙がびっしりあって気持ち悪いぃー」
そのままミキサーの様になった喉の奥に飲み込まれていった。
目が覚めると穴の空いた月が空に浮いていた。
「うえぇ、あいつの口の中はひどい匂いだったよ。今もすごい臭いけどね」
どうやら飲み込まれて死んだ後、馬車ので運ばれていたらしく僕から少し離れたところで大きな火が焚かれ周りで酒盛りをしている様だった。
「おおお!本当に目を覚ましたぞ!」
口の周りに髭を生やした色黒の堀の深い男性が酒瓶を片手に僕が目を覚ましたことに気がつき寄って来た。
「ここは?」
「ここはあの岩場から一日ほど進んだところにあるオアシスだ」
「馬車で運んでくれたんだね。どうもありがとう」
「いいんだ、気にするな!俺たちは命を助けて貰ったからな!お前さんとエルフの姉さんが居なかったら腹の中に入ってたのは俺たちだったからな。おっと、俺はガラハドだまずは礼を言わせてくれ」
そう言って握手を求められた。
「シュウです。よろしく」
近くで見るとガラハドは小さい鬼の様な角が茶色の頭のてっぺんにあった。
「マルコー!客人が起きたぞ!着替え持って来てやれ!」
そう言われて自分の体をみると、また完全に全裸になっていた。まぁ誰かが毛布を掛けてくれていたのが唯一の救いかな。
そのあと十代前半のマルコと呼ばれる少年が着替えを持って来てくれたのでそれに着替え、ガラハドに連れられて焚き火の酒盛りに参加することになった。
「今回は少し時間がかかったわね。はいどうぞ」
師匠の横に座りお酒を注いでもらった。
「いただきます」
寝起きで喉が渇いていたので勢いよく飲むと、とんでも無く強いお酒だった。
「ガッハー!辛いっ!焼ける!」
「ガハハハ!サドゥール名物の火酒だ!体が暖かくなっただろう!」
ガラハド達も酔っぱらっていて、こんなにたくさんの人間に囲まれて笑っているのは久しぶりでとても楽しい宴会だった。
目が覚めるとテントの中で師匠の寝顔が目の前にあった。
え?火酒を飲んだ後の記憶がない。まさかと思ったけど服は着てたので一緒に寝ただけかそうだよね。
そして目の前には真っ白で綺麗な師匠の顔があったので僕は吸い寄せられるように近づいて行った。
「ううん」
あと十五センチくらいの所で師匠が目を覚ました。
「おはようシュウ」
「お、おはようティー」
「もう、師匠でしょ」
なんかこの世界に来てよかったもうちょっと近寄ってもいいかな。
「シュウ、昨日から言おうと思ってたんだけど、サンドワーム臭いから体洗ったほうがいいわよ」
「あ、はい」
そのあとめちゃくちゃ体を洗った。
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