第33話 丘とエルフとハンマーと

「じゃあ行きましょうか」


 ニッコリ笑顔で肩にでかいハンマーを担いだティーレシアがドアを開けた。服装はシンプルな革鎧に着替えて、ついでに僕にも装備を一式貸してくれた。


 そして散歩に行くような気軽さで僕の手にもハンマーを手渡し今から魔法が効かないゴーレムと言う恐ろしい戦場へと向かっていた。


 戦場は丘の上にあるティーの家を越えて十分ほど進んだ所にあった。


「ええ?!多過ぎない?」


 草原が途切れたと思ったら見渡す限り等間隔でゴーレムが歩き回っていた。ゴーレムのせいで地面が踏み固められ、まるで運動場のように綺麗な土色の地面になっていた。


 僕は少し近づいてみるとゴーレムは金属で出来たロボットのような見た目をしていてとても硬そうだった。


「じゃあどうしようかしら、あなたは何が出来る?」


「僕はこの手の呪印で噛みつくか二発程度の炎の槍を撃つくらいですね」


「うーん、じゃあ私が先に行くね、そこでゴーレムの動きをよく見ててね」


 そう言ってティーレシアは近くに居たゴーレムの一体に散歩にでも行く様に近づいて行くと手首に少し呪印を出した。


「よいしょー!」


 ドコーンと激しい音が鳴りゴーレムの頭をハンマーで叩くと当たった所がハンマーの形に少しへこんでいた。


「え!あの勢いであんな少しへこむだけなの?!」


 ゴーレムがティーの動きに合わせてパンチを繰り出してくるがそれを避けたり捌いたりして、その勢いをまたハンマーに乗せて叩きつけて少しへこませる。まるで餅つきのようにハンマーで叩き続けた。



 それから7時間が経過していた。ゴーレムはどうやら一定距離に入ってくると攻撃をしてくるみたいでティーはずっと同じゴーレムを叩き続けていた。


「これいつ倒せるの?!」


 そういう僕の声が聞こえてるのか聞こえてないのか、ティーレシアは一本になった腕を振り回すゴーレムの足元で今度は足の付け根を狙いハンマーを叩きつけていた。


「もう少しだよ!」


 そう言いながらティーレシアがゴーレムを叩いて着地すると足元にあった外れた手が急に動きティーの足首を掴んだ。


「危ない!」


 足元を掴まれてバランスを崩した所へゴーレムのパンチが飛んで来ていた。

 僕は間に合わないが急いで走って行こうとすると、ティーレシアの掴まれている足首から蔦の呪印が溢れ出て一気に全身に広がったかと思うと両手でパンチを受け止め、足首を掴まれたままゴーレムの手をキックで叩きつけると今までで一番大きな音がして胴体が砕け散った。


「おつかれさま、見てた?」


 あまりの衝撃に固まる僕に向かって右肩にハンマーを担いで手足をプラプラさせながらティーレシアが帰ってきた。


「お、お疲れ様です、ゴーレムとんでもない硬さですね」


「大体こんなもんかなぁ、金属の塊みたいなもんだからね。次行ってみる?」


「あれは、僕には厳しいと思いますよ」


「まぁ試しに行ってみようよ」


 仕方ないのでゆっくりとゴーレムに近づいて行くと、一定距離に近づいて来た物を攻撃する習性があるのでうまく一匹だけ寄って来た。


 ゴーレムが近づいてくると世界に色が失われていった。


 歩くのはゆっくり来たくせにパンチの速度はすごい早さだった。

 上から叩き潰す様に降ってくるパンチを掠りながら右に避けてそのまま回転して横からハンマーで胴体を叩いたが手がしびれてハンマーを落としてしまいその瞬間世界に色が戻っていった。


「痛っ」


 手がしびれて怯んでいるとまた世界に色が失われていった。


 前を向くと目前にゴーレムのトゥキックが迫っていた。僕は水の中を動くような感覚の中、横へ避けながら迫ってきたゴーレムの足を右手の平で捌くとギャリィィィィィと金属のような音が響きゴーレムに深い傷が刻まれその瞬間世界に色が戻っていった。


「いい感じ!呪印で削れるのね!」


 ティーレシアがほめてくれたのでそちらをチラリと見ていると世界に色が失われていった。


 まずい、そう思ったときには遅くゴーレムに足を掴まれ持ち上げて叩きつけられティーレシアの叫び声が聞こえる中意識を手放してしまった。


「シュウ!!!」



 目が覚めるとベッドの上で包帯を身体中に巻かれていた。


 首を横へ曲げるとティーが何か本を読んでいた。


「ティーさんごめん迷惑をかけました」


「シュウ!目が覚めたのね。こちらこそいきなり戦わせてごめんなさい、キチンと話をしていれば良かったわ」


「僕も言ってなかった事があります」


 それから僕はこの世界に来た時から今までの事を不老不死も含めて全て話した。


「それでシュウは何処か普通の人間と違う雰囲気なんだね。私を見た時も普通の人間はエルフを恐れるのにシュウは何ともなかったし」


「え、どうしてエルフを恐れるんですか?」



「エルフは人間に比べて魔法の力が何倍も何十倍も強いの。そして閉鎖的だし殆ど人前に出ることは無いし、出てくるとすれば古代の遺物を破壊する時だけだから破壊の象徴として人族には認識されてるの」


「なぜ古代の遺物を?」


「エルフは大崩壊を二度と起こさないためにキューブを処分しているのよ」


「ドラゴンと同じだね」


「まぁ表向きにはそう言う事になっているわ、でも実際は違うんだけどね」


「違うの?」


 ティーが紅茶を淹れながら続きを話し出した。


「異世界から来て呪印を持っているシュウだから話すけどキューブは唯の遺物じゃな無いの、今あるキューブは一つを除いて全てがレプリカになっているの」


「偽物なの?」


「偽物じゃなくてレプリカよ、レプリカでも本物の様に幻獣炉が内蔵されてるから充分な力が有るんだけどでもオリジナルだけは違う、幻獣炉に加えて全ての古代遺物に対しての管理者権限があるの」


「幻獣炉、管理者権限、何かとんでも無い話が出て来た気がする、僕が聞いてもいい話だったんですか?」


「ええ!問題ないわ、だってこれから探すのをシュウにも手伝ってもらうからね」


 とびっきりの笑顔だった。


「ええ!?なぜ僕なんですか?」


「簡単よ人間の街に入るのにも問題なく、人間とのしがらみも無いし、呪印を二つも持っているし死なない、充分じゃない?」


「僕の意見とかは?」


「え、嫌なの?」


 ずいっと綺麗な顔を近づけられ後ずさってしまう。


「嫌じゃ無いです。でも僕は強く無いですよ?」


「大丈夫!それは私が鍛えてあげるわ、師匠って呼んでいいのよ」


 腰に手を当て胸を逸らせて自信満々な感じだった。


「あ、はいよろしくお願いします」


 どうやら僕に師匠が出来たみたいだ。



 それからティーレシアは色々な事を教えてくれた。身体強化も獣人と人族ではやり方が違うみたいで少しできるようになった。


 そしてティーレシアは剣や弓も上手く普通に身体強化もしていないのに全然勝てなかった。


「いてて、ティーはどれだけの期間剣を習って来たの?」


 ティーレシアに木剣でボコボコにされて今手を貸してもらって起き上がっていた。


「師匠でしょ?そうね私の家は剣の道場をしてたの、子供の頃はそれが嫌で嫌で仕方なかったけどね、今では父にも感謝しているわ!そのおかげで今も魔法がなくても戦えているしね」


「ティーの家族は今はどこにいるの?」


「シュウと一緒でもう居ないわ」


「ごめん辛い事思い出させて」


「大丈夫よもうずっと前の話しだから」


「そっか、ずっと昔ってティーは何歳なの?」


「シュウ、女性に歳を聞くって言うのは死んでも良いって事よ、構えなさい」


 それからまた喋れなくなるほどボコボコにされた。


 体が回復するまでは魔法の勉強の時間だった。


「魔法は体にある魔穴と言う器官から世界に漂う魔素を吸収して体内を循環させ魔法として魔穴からまた出力するの、魔法がたくさん使えるとか凄い魔法が使えるのはこの魔穴の大きさや体内に溜め込める魔力によって変わってくるんだけどシュウは普通ね至って普通の人間の魔力量って感じ」


「それって絶望的じゃない?」


「大丈夫、代わりにシュウには呪印があるわ。呪印が魔穴の代わりに魔素を吸収し魔力を溜め込み魔法に変換し出力してくれるわ」


「凄いんだね呪印さん」


 目だけのくせにドヤ顔をしてるのがわかる褒めなければ良かった。


 それからはひたすら剣の稽古に体が動かない間は魔法の稽古と休みの無い地獄が始まった。





 それから一年が経過した。


「これで最後ね!」


 師匠と一緒にこのフロアの最後の一体のゴーレムにトドメを刺した。


「やっと全部倒せた。これで先に進めるね」


「シュウはまだまだだけどね」


 持っていたハンマーをクルクルと回しながら横へやって来た。


「ティーが化け物なだけじゃない?」


「どの口が言ってるのかな!?それに師匠って呼べって言ってるでしょ」


「ズイバゼン、ジジョウ」


 ホッペを引っ張られ引きずられそのままドアのある場所へ連れて来られた。


「何これどこでもドア?」


 そこにはポツンと扉だけが浮かんでおり、後ろに回っても何もなかった。


「どこでもドアが何かはわからないけどこれが次の階に行く扉ね」


 ティーが無造作にドアを開けると中は真っ暗で何も見えなかった。


「じゃあ行きましょうか」


 そう言って暗闇に放り込まれた、扱い悪くない?


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