第30話 姫と牢屋とお屋敷と


 目が覚めるとそこは石で出来た牢屋の中だった。


 「ここどこ?また死んだのかな?でもやっぱ屋根と壁が有ると落ち着くなぁ」


 しばらくボケっと屋根を満喫しているとガチャガチャと牢屋の外の扉を開ける音が聞こえて来たと思ったら全身鎧を着た兵士が三人入ってきた。


「出ろ!取り調べだ。これを着ろ変質者め!」


 声でわかったがどうやら女性の兵士のようだった。それとひどい事を言われているが服が貰えたのはありがたい。


「ありがとうございます」


「勝手にしゃべるな早く服を着てここから手を出せ!」


 ありがたく服を着て鉄格子の真ん中くらいに腕が出せる横長の隙間があり、そこから腕を出すと手錠をかけられた。


「よし付いてこい変質者!」


 先頭に一人と後ろ二人兵士に挟まれる形で取調室へ連れて行かれた。



「もう一度聞く変質者!オマエはどこの人間でどこからきて、なぜあんなところで全裸でいたんだ!」


「何度も言っているんですが、僕は獣人の国アルケイオスから来て船に乗っていたら海でドラゴンに襲われて気づいたらあの浜に打ち上げられていたんです」


 女兵士が机を激しく叩いて大声を上げた。


「オマエのどこが獣人なんだよ!どこからどう見てもただの人間だろ!本当のことを言え!」


 今いる取り調べ室は牢屋と同じで石造りの部屋で簡素なテーブルと椅子しか置いていなかった。


 それから何時間か同じような質問を繰り返され時には殴られて、もう僕の態度は何も変わらないと思ったのか牢屋に戻された。



 取り調べの時に聞いたがどうやらここはグレイスドール領と言うらしい。ちなみに獣人の国とは国交が無いため獣人の人権は特に認められてないし、人間だったとしても同じだと言われた。

 そう、ここの人たちは人間では無いのだ。魔族といい見た目はほぼ変わらないが頭に大小様々なツノがあり魔力が人間よりも強い種族と言っていた。


「これからどうなるんだろうね。なんかこの世界に来てからろくな目にあってない気がするよ。口付いたのに喋れないの?」


 何となく暇で呪印の目に話しかけていると目が牢屋の外を向いたのつられてそちらを見ると兵士が見ていた。


「お前!まさかそれは呪印じゃ無いか?!」


「えっ、呪印を知ってるんですか?」


「ちょっと待ってろ!」


 そう言うと女兵士は急いで部屋を出て行き白い髭を蓄えたお爺さんを連れて帰ってきた。


 入ってきたお爺さんは眉毛まで白い仙人のような見た目だったが確かに頭には牛のようなツノが前向きに生えていた。


「これは、うむ、しかし」


 爺さんは独り言を言いながら呪印を触ったり何かよくわからない液体をかけたりナイフで切ったり(痛い)していたが最後に一言横の兵士に言った。


「本物じゃ」



 それから一時間ほどして僕は今、謁見の間でこの領地の主グレイスドール侯爵の前で膝をついていた。


 広い謁見の間は色とりどりの旗やタペストリーの様な重厚な布が吊るされ周りには顔が見えない全身鎧を着た兵士が控えていたので、とりあえず軽口を叩ける様な雰囲気ではなかったので僕は神妙にすることにした。


「表をあげよ」


 前を向くと何段かの階段で足元が高くなっており、その上に背もたれが三メートル程もある飾り立てられた椅子が置いてあったあった。

 そしてその椅子の上には金の刺繍が沢山入った服を着た三十歳くらいのキリッとした太い眉に切長で金色の目をした男性が座っていた。その男性は金色の髪をオールバックにして腰までの長さがあり、そこにはやはりさっきの爺さんと同じように立派なツノが生えていた。


 それにしても人によってツノの形が全然違うね。こちらはかなり大きいツノが左右から前に向かって捻れながら生えていた。


 どうやらさっきの声も横のおじいさんみたいで椅子の横にいた白髪のおじいさんが口を開いた。


「名前は何と言う?」


 僕は雰囲気に飲まれ、緊張しながら丁寧に返事をした。


「シュウでございます」


 それに対して次に口を開いたのは玉座の男だった。


「私の名前はドラクルス・グレイスドールだ。なぜ貴様は我が領地に居たのか答えよ」


 そこから色々聞かれ、転生して今までの話を不老不死を省いて話をした。


「にわかには信じられんな、だがしかし呪印を持っているのは確かだ。よって古代の盟約によりシュウの扱いを客人とする。以上下がってよし」


 その後詳しい説明も無いまま僕は女兵士に付き添われながら牢屋じゃ無い一室へ案内された。


 その部屋は二十畳ほどもある広い部屋で天蓋付きのベッドと暖炉、テーブルセットがありドアを開けるとクローゼットやトイレ、さらにお風呂まで付いていた。


「お風呂!」


 そのドアを開けお風呂に反応をすると後ろに控えていた使用人が返事をした。


「直ちにご用意致します」


 お風呂に入りた過ぎて遠慮出来なかった。



「ぐぁぁ、お風呂最高だ。疲れが溶けていく様だよ」


 お風呂に浸かって蕩けているとお風呂の水位がみるみる減っていくので驚いて立ち上がると減るのが止まった。穴でも空いてるのかと思って色々確認した結果右手の穴(口)が飲んでいた。


「どうなってるのこの口!?」



 取り敢えずお風呂から出ようと思ったら服が無くなってるのでタオルで身体を拭き部屋へのドアをくぐった。



「お嬢様お待ちください!」


 ドアの外で騒がしい音が聞こえ勢いよく部屋のドアが開くとそこにいたのは砂浜で僕に穴を開けたあの金髪の美しい女の子だった。



「キャーーーー変態!」


 女の子は顔を逸らし、手をこちらへ向けた。


「またこれ!?」


 その瞬間世界に色が失われていった。


 瞬きするほどの間に女の子の手の前に五十センチくらいの炎の槍が現れこちらに飛んできた。


 僕は咄嗟に右腕を前に出して塞ごうとすると炎の槍が手のひらの口の中へと飲み込まれゴシューと言う音と共に水蒸気が漏れ出して静かになった。


 僕も含め周りのみんなが驚いて止まっていたが、ゆっくりと時間が過ぎていた僕がいち早く正気を取り戻し世界に色が戻ると共に急いでお風呂場へと避難した。



「本当に申し訳ございません」


「いえこちらこそあんな格好でウロウロしてしまってすいません」


 今僕はきちんと服を着てテーブルに腰掛け僕を殺そうとした女の子とお菓子を食べながら紅茶を飲んでいた。


「何度もお止めしているのに人の話を聞かないから、そんな事になるんですよお嬢様」


 テーブルの隣に立ち紅茶のおかわりを注ぎながらお嬢様を注意しているメイドはお嬢様の世話係のララさんといって焦げ茶色の髪をお団子に纏めた大人っぽい綺麗な助成でお嬢様の教育もしているらしい。


 ちなみにお嬢様の名前はディアーヌ・グレイスドール、侯爵様の娘で砂浜で僕を穴だらけにしたその人である。


「でも本当にシュウ様のその手はどうなってるんですか?それが呪印なのですよね?」


 そんなお嬢様の言葉と共に僕の手のひらへ二人の視線が集まって来るのでつい拳を握ってしまった。


「いやー僕もよく分からないんですよねドラゴンは何も教えてくれないし」


「シュウ様は竜神様にお会いになられた事が有るんですよね!羨ましいです」


 お嬢様が前のめりになるのを専属のメイドが肩を掴んで椅子に戻した。かなりやんちゃなお嬢様みたいだ。


「そうですか?ドラゴンは全然話聞いてくれないし一方的でしたよ」


「神の考えは人間には分かりませんからね」


 デートの為に人を海の真ん中に置いていく位だし、ほんとわかんないよね。


「ですね、それにしてもなぜ皆さんはドラゴンを信仰しているんですか?」


「そうですね俗に言う古代魔法時代の頃の話になりますが私たちはグラウンドゼロの時まで竜神様に導かれて生活をしていたんです」


「グラウンドゼロ?」


「シュウ様はご存知無いのですか?」


「そうですね、僕は別の世界から来ているのでこちらの話はあまり分からないんですよ」


「そうだったんですね!では一度その辺の話からさせていただきましょう」


 メイドのララが素早く紅茶のお代わりと新しいお菓子を用意して仕切り直した。仕事のできるメイドである。


「まず初めに詳しく何が起こったのかについては資料がグラウンドゼロでほぼ消失しておりますので一部残ったデータや古代の遺物や迷宮からの情報です」


「迷宮!?」


 ダンジョン来たー!あんまり潜りたくは無いけどやっぱりあるんだね!


「迷宮に興味がおありですか?このグレイスドール領にもいくつかありますよ」


「そうなんですね!また機会があれば見てみたいです」


「それはそれは、いつか機会があればご案内させますね」


「話がそれましたが、古代魔法時代では時間と空間、人の魂までもが解析され死や老いも無くなったと言われていました。その時代私達魔族は古代魔法人達に仕える種族で竜神様を筆頭としておりました。そしてそのすべてが満たされた時代にも人間の欲望と探究心に終わりは無く、別の次元への進出を始めたそうです。さらにそれを利用して新しいエネルギーの研究を始めました。でもこれが終わりの始まりでした」


「とんでもない世界だったんですね、そりゃちょっとした遺物でも凄い事になりますよね」


「そうですね今でも遺物の取り扱いひとつで町が壊滅する事も有りますね」


「やばいですね遺物」


「続けますが、古代魔法時代の研究で科学者はついに幻獣の世界とのパスを繋ぐことに成功したみたいで、やがて科学者は幻獣界から無限の魔力を抽出する事に成功しました。そこで終わればよかったんですが科学者はもっとその先を求め幻獣界との繋がりを大きくしてしまいやがて制御を失ったそうです。そしてグラウンドゼロを中心とする大崩壊が始まりその際大陸の九十八%が無くなり月にも穴が空きました。


 その時竜神様は仕えていた我々魔族をお守りいただき崩壊の余波で地上に山脈が出来ました。」


 月の穴ってその時できたんだ!馴染みあり過ぎて一番びっくりした!


「その時人間や獣人はどうやって助かったんですか?古代魔法人はどうなったんです?」


「人間や獣人も他の竜神様のいる土地でわずに生き残りましたが、その後百年ほどはその余波で魔力が世界から消失し大部分の古代魔法時代の文明は消滅していきました。同時にその頃に竜神様も古代魔法人も姿を消したと言われています」


 あのブラックドラゴンも二度とそういうことが起きないようキューブを探して潰して行っているのかもしれないね。


「そんな事があったんですね、それで魔族はドラゴンを神として信仰しているんですね」


「そうですね今でも竜神様は世界を守っていると言われてますね」


「あーなんかわかる気がします、会って会話した時もそんな感じの話でした」


「そうなんですね!素晴らしいです」


 その辺でララが時間を告げお開きとなったので僕はもう一度ゆっくりと右手をつけない様にお風呂に入り豪華なご飯を食べてフカフカの布団で眠りについた。




 次の日、目が覚めるとそこは岩の壁が続く長い長い通路の真ん中だった。


「え、ここどこ?」


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