第29話 海と呪いとドラゴンと
「あーるー晴れたーひーるさがりー」
「うるさい!」
ドナドナを歌ってるとガツンと兵士に槍で檻というかもはや鉄でできた箱を叩かれた。
今僕は何処かへ向けてドナドナされていた。まぁ最終的には帝都のエンバーミングのラボだろうけど。
あの鯉のぼりみたいに刺された後、気が付くと一メートル四方くらいの檻と言うかただの鉄の箱に押し込まれ、扉を溶かした釘で開かない様に塞がれ兵士に囲まれた荷馬車で運ばれていた。
足音や会話の雰囲気から十人ぐらいが護衛についているので逃げる事もそもそも開ける事も自力では出来なさそうなので開き直っていた。ちなみに鉄の箱には縦十センチ横十五センチの空気取りの窓があり、僕はそこから覗いたり話しかけたりしていたが真面目な人ばかりの様で叱られ、しつこく続けてるとのぞき窓に何かを貼られて外が見えなくなってしまった。
箱の中で寝て過ごす事七日。ようやくたどり着いたのは港町だった。パンと水袋を入れるとき以外は外が見えないので穴から漂ってくる潮のにおいが唯一海を感じさせてくれた。
そして揺れでしかわからないが何処かへ到着して多分船へと乗せられたみたいだ。なんかふわふわしてる。
それにしても目隠しの旅は全然楽しくない。ただただ馬車の揺れをお尻に感じて痛いだけだし酔うしで本当に拷問の様だった。
「揺れが強くなってきた!どうやら船が出向したみたいだね、誰も居ないのー?ねーお腹空いたよー。餓死するー死ぬー。殺されるー。喉が渇いたー。お尻が痛い。クッションが欲しいー」
「うるさい黙れと言ってるだろ!」
またガツンと箱を叩かれた、ちゃんと誰か見張っているみたいだ。
それからまたしばらくは何もない日が続いた食事さえも。
「ねーまだつかないの?もうすぐ?そろそろ死ぬよ?」
返事は期待せずに話しかけているとその時、下から突き抜けるような振動とドーーッンと言う音と共に船が縦に激しく揺れ頭を箱の中で強く打った。
「いてて、もっとちゃんと運転してよね」
外では部屋から出ていく足音と人の怒号、そしてメリメリと何かが(まぁ船だと思うけど)が壊れる音が響き渡り、それと共に僕の入ってる檻もサイコロの様に転がった。
衝撃が止んでしばらくするとお尻が冷たくなってきた。箱の下にある水抜きの穴から海水が入ってきた。
「ちょ、ちょっとちょっと!餓死も嫌だけど溺死もいやだー!しかもこの鉄の箱のままって一生水の中になっちゃうんじゃない?」
だんだん水が増えて今はもう檻の上十センチくらいしか空気がなかった。
「出して!だれか!この際エンバーミングでもいいから!」
もがいていると下から箱に激しい衝撃が走り、一瞬の浮遊感の後水が入ってくるのが止まった。
しばらくすると周りからミシミシと音がして箱が歪みだした。
「え?なにこれ?水が入って来てないけど深海にでも達した?」
そのまま迫ってくる檻の壁に挟まれながらやがて鉄の箱がひしゃげて砕け散った。
「ぐあぁっ!」
圧縮されて割れて砕け散った際、体の色々な所を打ってすごいダメージを受けた。
『すまんすまん小さすぎて力の加減が出来なかった』
この頭に直接語り掛けてくる感じは、ドラゴン!
『語り掛けてくるも何も今完全に目が合ってるじゃろう』
ですね、あまりにも一人でこの箱に入っていた期間が長すぎてちょっとテンションがおかしくなってたかもしれません。
目の前にいるのはサファイヤのような深い色をした鱗に金色の目をしたドラゴンだった。そして僕は今その手のひらに座っていた。
「助けてくれたんですか?ありがとうございます」
『ん?結果的にはそうなったのかもしれんな、ワシはただ頼まれてお前さんを探していただけだ』
「頼まれた?」
『そうじゃ、お前さんキューブを壊しただろう、その褒美をやろうと思ってな』
あー、あの黒いドラゴンとの話にあったやつか!
『そうじゃ今黒は少し遠い所におってな代わりにワシが来たというわけじゃ』
「ありがとうございます!何が貰えるんですか?」
あのブラックドラゴン、黒って呼ばれてるのか。
『わしも呪印をやろう役に立つぞ』
「あーっとよく考えたら、こうやって助けて頂いただけでも、もう褒美みたいなものでした!そうでした!」
いらないいらないこれ以上付加が増えたら本当に起きられなくなるかもしれない。
「あとは何処か陸地にでも連れて行ってもらえればそれだけで十分ですよ!あのー、聞いてます?って言うかその手は?爪が怖いんですけど?ちょっとー!」
拒否したが問答無用でブルードラゴンはでかい爪を呪印のある僕の右掌に突き立てた。
『よし終わりじゃ、ワシの呪印は黒と違って役に立つぞ!』
「ありがとうございます?ちなみにこの呪印の効果は?」
『この呪印は食魔の呪印、そしてワシは水と精神を司どる龍じゃ色々試してみるがいい』
「やっぱりそんな感じなんですね」
『さて、ワシはそろそろ帰るとするか、共に悠久を生きる者じゃいつかまた会うじゃろう』
「いやいや、できればそのこんな海のど真ん中じゃなくて陸地に連れて行ってほしいんですが?聞いてます」
『ワシは忙しい!』
うそ、問答無用すぎる!ドラゴンに用事がそんなにあるとは思わないけど
『デートじゃデート!』
何それうらやましい!
『さらばじゃ!』
ブルードラゴンはそのまま海へもぐって行ったので僕もそれに巻き込まれ海の藻屑となった。
青い海、白い雲、どこまでも続く砂浜ここは何処かのリゾートかな?
「なんか前もこんな感じだったなぁ」
僕はあれから気が付くとこの砂浜に打ち上げられていた、全裸で。
今回も全裸で打ち上げられてたって事は前回と同じで魚に食べられたりしてたのかと思うとゾッとする。
あとは前回と違うものは掌にあった。
「口かぁ、腕に目があって掌に口って、もう僕もキメラみたいなもんじゃないか」
刺青なのになんかパクパク動いてるし本当に勘弁してほしい、
「せめて話せたら何が出来るかわかったのになぁ」
取り敢えずわからない事を悩んでも仕方ないし、現実逃避して火起こしと食料でも探しますか。
浜からすぐが鬱蒼とした森になっており、全裸なのでちょっとだけ分け入って薪を拾い焚き火の準備をして、磯に貝や蟹を取りに行った。
さすが自然が豊かで人の気配がない海は蟹や貝がたくさん取れた。
獲物が捕れたので明るいうちに持って帰って焚き火をつけようと上機嫌で歩いていると手のひらでポリポリという音が鳴っていたので見てみると、手の口が勝手に殻ごと蟹を食べていた。
「え?!ちょっと!何食べてるの?しかも生で!それ何処に繋がってるの?!」
これが僕の胃に繋がってたらやばい食中毒的な意味で。
でも分からないし、どうしようもないからこれも現実逃避して火起こししよう!
その後の火起こしは1時間くらいで成功した。
「何だろう久しぶりに火を起こしたけど手の皮もそこまで剥けなかったし疲労感が少ない、成長したのかな?」
残りの貝と蟹を焼いて食べると久しぶりのご飯で美味しかった。
その後日が陰ってきたので砂浜を簡単に均してそのまま横になり穴の空いた月を眺めながら眠りについた。
次の日は朝日と共に目を覚ました。
「暑い、太陽が出てくるとだめだ、屋根を作ろう」
その辺の木材を集めていると後ろの森の方からガサゴソと音が聞こえてきた。
「まさかホーンラビット!?」僕は危険を感じて木の影に隠れて覗いてみた。
しかし森から出て来たのは、おおよそ砂浜には似合わないかわいい顔の十四、五歳の女の子だった。その姿は貴族の令嬢の様でフリルが付いた白を基調とした裾が広がったドレスを着て腰まである金の髪はサイドへ集めて三つ編みにして大き目のリボンで纏めて後ろへと流されていた。
森から出てくるとなぜか後ろを気にしながら歩いてきて前を向いた時にびっくりして動けなかった僕と目が合った。
目が合ったその瞳は驚きで見開かれているのあったがこぼれそうなほど大きく、目前の海の様な青い色をしていた。僕は吸い込まれそうなその瞳を見ているとその女の子の頭にはまるで羊の様な角が生えていた。
「つ、角?!」
僕が角に驚いていると女の子はゆっくりと目線を下へさげていき叫び声をあげた。
「きゃーーーーーーーーーーーー!変態!」
「いえ、これには訳が!」
股間を押さえ言い訳しようとしたが女の子が手を僕の方を向けると世界に色が失われた。
至近距離で何本ものすごい速さの赤い炎の槍がいくつも生まれ避ける暇もなく僕は体中に炎の矢が突き刺さり意識を手放した。
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