第26話 森と王都と足止めと
パットルと二人で装備を整え戦闘に備えているとダッシュとディコが会議から帰って来た。
「とりあえずここに最低限の人数を残し残りは王都へ助けに行く事になったよ、僕たちは王都に向かう組みだ」
僕は少し考えてから口を開いた。
「隊長、僕はここに残って少しでも敵の足を遅らせたいと思います」
「は?!何言ってるんだ!そんな勝手が許される訳ないだろ?!死ぬつもりか?」
僕の胸ぐらを掴んで揺さぶっているディコの手をダッシュが掴んで止めた。
「シュウ良いのかい?誰も生き残れないかもしれないよ?それでもやるのかい?」
僕の気持ちは決まっていた。
「はい、僕の力が発揮出来るのは、そこしか無いと思っています」
「そっか、シュウがその気なら好きにすれば良いよ、僕からは上に伝えておくから」
胸から手を離したディコが肩に手を置いて言った。
「隊長が良いなら俺が言うことは何もないが、シュウまだ一杯奢って無いからな、王都に帰ったら奢ってやるから先に行って待ってるぞ!」
「ありがとうございますディコ」
「じゃあ時間が無いから僕たちは行くよ。シュウはあそこに居るリザードマンのスピアーの指示に従って戦うんだ。僕らは一足先に王都を守って待ってるからね、シュウなら死なないと思うけど気をつけるんだよ」
ダッシュがいつもの様に握手を求めて来た。その横からパットルが僕の肩をポンと叩いて来た。
「気をつけろよ」
「パットルこそ気をつけて下さいね!」
みんな行ってしまった。僕も頑張ろう!気合を入れてリザードマンのスピアーのところへ行った。
「俺はスピアーだ宜しくな」
今居残り組の前でリザードマンのスピアーが挨拶をしている。
「ここに残った奴らに言いたいことがある、無駄に死ぬな!死んだって相手の進軍を遅らせる役に立たないからな、死んだ時点で負けだ!逃げても良いから体制を整えてから戻って来てまた邪魔すれば良い!いいか死ぬなよ俺たちが死んだら仲間が後ろから攻撃されることになるんだから分かったか?」
それぞれ返事をして、その後作戦を説明された。
「いいか俺たちは出来る限り妨害して王都に敵が到着するのを三日遅らせるのが目的だ、その事だけは頭に叩き込んでおけ!よし、それぞれさっき言った準備に取り掛かるんだ!」
今ゲリラ戦が始まった。
僕にはひたすら木を切り倒す仕事が回って来た。街道のいろんな場所で木を切り倒して軍の進軍を遅らせる単純なお仕事だ。
僕はひたすら比較的細めの切り倒しやすい木を倒していると敵が攻め込んできた。
「来たぞー!篝火をつけろ!!」
まだ昼前だが篝火を付けて僕たちは柵を利用して戦っていたが人数が少ない上に破城槌まで出て来たのでそれほど長い時間は持たなかった。
前もって知らされていた鐘の音が鳴り、僕は最後に槍を一突きして後ろに下がり足元に組んである木に、予めつけてあった篝火を倒し火をつけた。
火は結構な勢いで燃え出し油を含ませていた柵と一緒に炎の壁を作ってくれたのでその隙に一時撤退してそれぞれの持ち場へと向かった、僕は後方に下がって街道沿いで奇襲する仕事だ。
街道沿いの決められた場所へ行くともうすでに何人かの獣人が待っていた。
「こっちだ!」
見覚えのある獣人が草の束を横に避けると草と木で作った囲いが有り中に入った。
旨く出来ていて隠れている獣人が外からは見えにくい作りになっており二十人程が隠れられる様になっていた。
さらに遅れて何人かが到着しそれぞれ装備を整え息を殺していると、ここのリーダーの犬の獣人が小さな声で話し始めた。
「いいか敵の部隊が前を通っていくが俺たちの仕事は進軍を遅らせる事だ、勢いよく横から切り付け向こう側へ抜けて追跡を振り切り次の場所でまた集合だ!わかったな」
みんなコクリと声を出さずに頷いた。
それからかなりの時間が経過した頃大勢の人の気配が近づいて来た。
「よし、合図をしたら突撃だ、とにかく切りまくれ殺さなくていい怪我をさせろ」
僕も頷き手に持った剣に力を込めた。
「いくぞ!」
合図とともに僕達は一気に飛び出して広がりながら敵の部隊に横から突撃した。
先頭を切った熊の獣人がデカい斧で奇襲に驚いた敵兵の足元を切り捨てそこへ体当たりして相手をひるませたのでそこに僕たちも分け入り手当たり次第に手傷を追わせた。
くまの獣人の後ろに続いて目に付く敵兵の足や腕の鎧の少ない部分に剣を切りつけていると世界に色が失われていった。
手首が右に引かれる感覚があり空気のねっとりとした抵抗を感じながら右を向くと槍が迫っていたので剣で下から払い上げそのまま相手を切りつけた。
次はそのまま左に引かれる感覚がありそちらを向くと剣が上段から迫っていたので右側に体を流しながら相手の胴を切りつけた。
まだ世界に色が戻らず気が付くと眼前に槍が迫っていたので刺さるのを覚悟して相手を切りつけようとすると、横から狼の獣人が槍を弾き助けてくれた。
そこで世界に色が戻った。
「ありがとうございます!」
「礼はいらねーとにかく斬りまくれ足を止めるな!」
その後も何度か時間が遅くなり危ない所を救われて反対側へ抜ける事が出来た。
「よし2、3人残って敵を足止めしろ、他は散れ!」
その声を聴いて僕は足止めする為に振り向き剣を構えると、横にさっき助けてくれた狼の獣人とリザードマンが並び三人で少し距離を取り迎え撃った。
「俺はベイトだ、短い間だろうけどよろしくな」
狼の獣人が前を見たまま小さな声で名乗りを上げリザードマンもそれに続く。
「俺はフォークだ」
「僕はシュウだよ、頑張ろう」
街道からそれた為森の木が邪魔で相手も数の利を活かしにくく、もたついていたので完全に囲まれない様に下がりながら切り結んでいった。
僕は消極的に切りかかっているので何とかなっているが他の二人はかなり激しく切り倒してに行っている、獣人の身体能力半端ない。
囲まれない様に徐々に後退して来たがやがて周りを敵に囲まれてしまった。
そこからはぐちゃぐちゃの乱戦だった、どこからでも槍や剣が襲い掛かってきて常に世界に色が失われ続けている状況だった。
最初にやられたのは狼の獣人だった、倒した敵の兵士が足にしがみ付きバランスを崩したところを槍で刺されてしまった。
「ベイト!」
リザードマンのフォークが咄嗟にカバーに入ったが一人減ったことで後ろが疎かになりフォークも後ろから槍で刺された。
そして僕も周りの速度が遅くなっていたが右手首からの感触は、右も左も前も後ろも分からず槍を突き刺され、さらに頭をフルフェイスごと割られ意識を手放してしまった。
「あいててて」
起き上がると真っ暗な森の中だった、木の隙間から辛うじて穴の空いた月が見えた。そのかすかな光だけで周りを見ると敵の死体とベイトとフォークの死体が折り重なっていた。
「ベイト、フォーク、埋めてあげられないけどごめん、代わりに王都へ行くよ」
薄暗い森の中を一度街道の方へもどり大量の行軍した跡を進むことにした。
「もう敵も味方も居ない、一体どれ位の時間倒れてたんだろう?」
僕はまるで何処かに取り残されてみんなに忘れられてしまった様な感覚にゾッとしていたが、いつも通り浮かんでる穴の空いた月を見て少し冷静さを取りもどした。
「とにかく急ぐしかないよね」
ひたすら王都への道のりを急いだ。
道の途中所々に人間と獣人の死体があり、足止めの部隊がかなり激しく戦ったのが見て取れた。
途中で疲れて少し寝てしまったがそれでもかなりの時間走り続けて、結局王都へたどり着くのに六日もかかってしまった。
そして今穴の空いた月の下、王都は炎に包まれていた。
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