第25話 罪と瓦礫と労働と


「ううぅ、ラグー、ダッシュ、ディコ、パットル、みんなぁ」


 僕は歪んで見えにくくなったフェイスガードを取って瓦礫の間を彷徨い、たった一人穴の空いた月の下泣きながらみんなを探し続けた。



 徐々に日が登り明るくなってきた頃、蹲っていると誰かが近づいてくる気配がしてそちらに目を向けると兎の獣人が立っていた。


「よかった、シュウ生きていたのか」


 そこに居たのは兎の獣人パットルだった。


「パットル生きてたんですか?!他のみんなは!?」


「ディコは伝令部隊の一人として王都へと報告に向かった、隊長はここから少し下がった防衛ラインに付いている」


「良かった!そうだ、ラグーは?!」


 何も言わずにパットルは首を振った。


「シュウだけでも戻ってきてくれて良かった、今俺は斥候としてここに人間が戻って来て居ないか偵察に来ていたんだ、一緒に行こう」


 僕は力なく頷きパットルの後を追った。



 後方基地は塹壕と簡易的な柵、テントで構成されておりその中のテントの一つでダッシュ達と僕とラグーに何が合ったかを説明していた。それと驚いた事にあれから丸1日以上が経過していた。もしかすると呪印さんが働いたのでその代償を支払わされたのかもしれない、今後使いどころを考えないと起きたら全てが終わっていた。みたいな浦島太郎状態になってしまうかもしれない。



「そうか、ラグーは一矢報いたんだね、バルドスの腕を一本持って行ったのか流石としか言いようがないよ」


 僕が見たラグーの最後をダッシュ達に伝えその後の出来事を聞くことにした。


「その後腕を失ったバルドスはどうなったんですか?」


「それぞれの見た話を纏めたものだけど、腕を失った後バルドスは怒り狂って敵味方お構いなく周りを焼き尽くし始めた、そして人間達は撤退を始めそのままバルドスは砦にも攻撃を始めたから僕たちは撤退を決定したんだ」


 そこからパットルがダッシュの後に続いて話し始めた。


「そこからは俺が話そう、ダッシュを含め司令部とここに居る獣人達はこの拠点への撤退始めたので、俺を含め居残り組はバルドスへ弓や奇襲による攻撃を続けて居たんだ」


 その時の事を思い出しているのかパットルは飲み物を一口飲んで続けた。


「結局弓も剣もバルドスへは届かず焼かれてしまった。その後バルドスは大規模な魔法を連発して、あっという間に砦は燃やし尽くされてしまった。その後をバルドスは歩いて帰っていった。生き残ったのは俺を含め数人の弓部隊だけだ」



「魔法使いって言うのは全部あんなのばかりなんですか?」


 僕の疑問に対して一瞬静かになったがダッシュが答えてくれた。


「馬鹿なこと言っちゃいけないよ、あれは特別だよ。帝国でも十人と居ない化け物で普通は帝都を守ったり戦争の最前線で僕たち獣人より人間を殺しまくってる存在だね。普通の魔法使いは大規模魔法は何人かで使うもんさ、炎の槍もあんな連発はできないよ、まさに規格外だね」


 アイツを殺したから復讐されたんだ。


「僕のせいです!僕が馬鹿みたいに何も考えずにカルディスを殺したから!」


 ダッシュが僕の頭に手を置いて言った。


「ラグーが居たらアホか思い上がるな!って怒られてるよ。僕たちは戦争をしてるんだから誰か一人の責任なんてないんだよ。シュウ一人の力なんてたかが知れているしね」


 ダッシュは僕の頭に置いた手に少し力を入れぐりぐりしながら続けた。


「それに戦争に良いも悪いも誰かのせいも無いんだ。責任って言うならシュウの責任は監督してる僕の責任でもあるし僕の責任は司令官、果ては国王様の責任でもあるんだよ。だから気にするなとは言わないがそれは君の中で留めとくんだ」


「は、はい」


 それ以上喋ると涙が出てしまいそうなので体に力を入れて耐えた。そうだ僕は僕の理由でバルドスを殺そう、戦争かどうか知らないけど僕はラグーの仇を取る。


 その時、したを向いて居た僕は手首にある目と目が合ったが嬉しそうに笑っている気がした。




 次の日僕は動き続けて居ればすべてを忘れられるような気がして塹壕をひたすら掘ったり、壁や建物を作る為の木をひたすら切って体を動かしそのまま疲れて泥の様に眠った。



「シュウ働き過ぎじゃない?もう一週間も休んでないだろう」


 その日も朝から木を切っているとダッシュが心配して声を掛けてくれた。


「でもこうやって動いていた方が気持ちが落ち込まなくて済む気がするんですよ」


「それはそうかもしれないけど、疲れは溜まっていくし集中力も切れてしまうから気を付けるんだよ?」


「ありがとうございます」


 そうして体が悲鳴を上げるまで働き続ける日々を送って更に一週間がたった頃、誰かが叫びながら走ってきた。


「敵襲だ!今砦跡を巡回していた斥候が帰ってきた!準備をしろ!もうすぐ敵が攻めてくるぞ!」


 僕は急いでこの数日で作った武器などが置いてある倉庫へ向かった。


「シュウここだよ」


 そこにはダッシュとパットルが待っていた。


「今入った斥候の情報ではこっちに人間の軍が小規模だが断続的に攻めてきているらしいんだ。とりあえず第一陣がもうすぐ到着するから装備を整えて迎え撃つよ」


 僕は皮鎧と叩き直して少し歪んだ猫のフルフェイスを被り、弓と槍を持ってバリケードの内側で待機した。



 この数日間でこの辺一帯の森は該道周辺の草木を刈り広場を作り丸太や塹壕を掘り、一直線に進みにくくしてあったり櫓やバリケードが各所に作ってあり天然の要塞となっている。


「ここの柵は全部木製だから魔法使いが来て燃やされたら各自森の中で各個撃破するように」


 ダッシュがゲリラ戦になるかも知れないと自分の部隊に伝え静かに敵の到着を持った。





「来たぞ!」


 パットルが弓を構えて声を上げた、木が鬱蒼としているのに遠くを見通せるのは本当にすごいと思う。


「よしまずは弓からだね、合図があるまで待つんだよ」


 しばらくすると人間の部隊の先頭が見えた。


「撃てー!」


 誰かの叫びに合わせてみんな一斉に矢を放った。


 くそやっぱり弓は難しい、結構練習したが全然当たってる気がしない、敵の部隊も戦闘が大きな盾を構えジリジリと近づいてきている。


「弓部隊以外の獣人は準備をするんだ!柵に近づいてきたらを槍で刺せ!」


 僕は早々に弓を諦め槍を握った、恐怖心はマヒしてそれよりもラグーたちの敵を取りたい気持ちが強い、しかし先ほどからの感じで行くとバルドスは今回居ないようでホッとしてる自分もいる。


 それに魔法使いが居たとしても僕が殺す方法が無い、もっと剣を鍛えてラグー並みになっていればあの時一撃で首を飛ばせたかもしれない、ラグーは死ななかったかもしれない。


「シュウ?敵がくるよ!」


 ラグーの事を考えているとダッシュに肩を叩かれた、ハッとして前を見るとかなり敵が近づいていたので槍を構えた。


 斧を持った敵の兵士と槍の兵士が迫ってきており、それに向かってみんなと一緒に槍を突き出し続けた。



「うう、痛い」


 それからかなり長い時間柵を挟んだ攻防は続き僕は今何度目かの下からの敵の槍に刺されて後方で傷の手当てを受けていた。


「よし、とりあえず血は止まってるし大丈夫だ、そこで寝て居なさい」


 獣人の衛生兵に包帯を巻いてもらい寝ころんでいたがしばらくすると不死さんが仕事をしてくれたようで衛生兵に止められたけど戻る事にした。


「戻りました!」


「お帰り!シュウの分も敵を残しておいたよ!」


 ダッシュが冗談を言いながら敵を突いているが柵がかなり壊され普通に剣で戦っている場所もあった。人間よりも身体能力の高い獣人だからなんとか持っているが人間同士だったなら、こっちは確実に全滅しているくらいの敵が攻めてきている。


 それから戦いは穴の空いた月が昇る頃に終わりを迎えた。敵が鐘の合図で一気に引いて行ったからだ。



「よし僕たちも今からまたこの柵の補修にかかるよ、篝火をたいて!食事を作る部隊と木を運んで来る部隊、柵を修繕する部隊、周辺を警戒する部隊とに分かれるんだ!」


 怪我人がかなり出ているので部隊を再編制し、夜襲を警戒して篝火がたかれた。


 僕は柵を修繕するところに回されて無心で柵にロープを巻いているとパットルが手にパンとスープを持ってやってきた。


「メシだ」


「ありがとうございます、明日もこんな感じになるんですか?」


 その辺の丸太の上にパットルと一緒に腰を下ろした。


「明日は多分打って出る」


「そうなんですか?ここで柵を挟んで槍で突いて居た方が守れるんじゃないですか?」


「多分今日抜けなかったので明日はこの柵を破壊するための破城槌の準備を向こうもしてくるだろう、だから逆に柵を残すために打って出て防衛することになる」


「難しいもんなんですね」


 スープは相変わらず肉がゴロゴロと入っていたのでまず硬いパンをスープに浸して次にお肉と一緒に口に入れた。すると少し酸味がある硬いパンの風味と癖のある肉の風味が意外とそれぞれを助け合い思ったより美味しかった。一口食べるとお腹が空いている事に気が付きガツガツと一気に食べてしまった。



「ふぅ、生き返ったよ。もうしばらく頑張れる気がする」


 人間食べ物を食べると気分も前向きになるきがするね。


「じゃあ無理しないようにな」


 そう言ってパットルも食べ終わったのか戻って行ったので僕は柵の修理にまた没頭していった。


 

「おはようシュウ調子はどうだい?朝食だよ」


 ダッシュが昨日の夜と同じスープとパンを持ってきてくた。


 どうやら知らない間に柵を補修しながら寝ていたようで、誰かが少し端っこへ避けてくれいたみたいだ。


「ありがとうございます、体調は万全ですよ」


 不死さんが仕事をしてくれた様で地面で直接寝てたのに体がバキバキにならず、槍に刺されて出来た穴ももう完全に良くなっていた。


「本当に君は相変わらず丈夫だよね。みんなシュウくらい丈夫だったら無敵の軍団なんだけどね」


 そんな話をしていると背後から走ってくる音が聞こえ振り向くとディコが馬に乗って来ていた。


「ディコ!お帰り!王都はどうだった?」


 ダッシュが手を上げ挨拶をするもディコは真面目な顔のまま馬から飛び降りた。


「隊長、指令室に集合だ」


「何があったんだい?」


「王都が敵に攻め込まれている」


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