第24話 赤と魔法と戦争と
その瞬間、世界に色が失われていった。
不味い!何か来る!?右の手首に集中すると左へと引っ張られる感覚があり急いで左を見ると、遅くなった世界の速度でも早く感じるくらいの炎の槍が飛んで来ていた。
ダメだこのままじゃラグーに当たる、そう思うと僕は咄嗟に左腕を炎の槍に叩きつけていた。
次の瞬間世界に色が戻り僕の左腕は肩まで弾け飛んだ。
「がぁぁぁぁ!」
痛みで意識が飛びそうになるが幸いなことに肩口は炭化して血は吹き出していなかった。
「シュウ!」
ラグーが痛みに倒れた僕を肩に担いで右手の剣だけで敵の中に突進していく。
「うぐぅ、ラグー僕はいいから、うぅぅ、君だけでも逃げるんだ、僕は置いて行ってくれ」
「アホぬかせ!命助けてもろといて置いていけるわけあるかい!任しとき、こんなん今までなんぼでもあったわ」
ラグーは僕を肩に担いだまま人間の集団へ切り掛かって行ったがその動きはとても肩に人を担いでる様には見えない滑らかなものだった。
真正面から槍で突いてくる兵士の槍を剣でクルリと回すと、相手の槍先が上に跳ねあげられガラ空きの胴体へ素早く近づき剣を差し込み。その時右から上段で切りかかってくる兵士の鳩尾にラグーの足がめり込み、そのままの勢いでその兵士を他の兵士に当てその隙に敵兵の体から剣を抜いてまた次の獲物を切ってと。とてもじゃないが目で追えないので予想も入っているがラグーは全身に目があるかの様に人間の軍を切り崩し次第にそこへ他の獣人達も集まってきた。
それでもラグーは僕を肩に抱えたまま敵の中で戦いを続けているので無傷というわけにはいかず、徐々に体を赤く染めて行った。
「ラグーもう僕も動けるから、戦うから降ろしてくれ!」
あれからかなり時間が経ち僕の左腕は炭化している所の痛みが麻痺してるのか耐えられる様になっていた。
「おう、もう行けるか流石やな、味方も少し集まってきたしなんとかなるやろ」
「ありがとうラグー、君は血だらけじゃ無いか」
「アホかちょっと鼻血が出ただけや、こんなん鼻に指突っ込んどいたら止まるわ」
どう見ても手足とお腹辺りからかなり出血してる。早めにここを脱出して治療しないとまずい。
今僕たちは右側の崖を背に生き残りの獣人達の一部が集まり何とか戦っているが正直このままではジリ貧だ。ダッシュ達ともはぐれてしまってるし。
僕も剣を持って周りの敵を牽制していると徐々に周りの輪が広がっていき、割れた人混みの間からド派手な男が現れた。
「皆さんもっと下がりなサイ、じゃ無いと一緒に焼きますヨ」
目に飛び込んできたのは赤だった。
ツンツンとウニの様に逆立てた真っ赤な髪の毛がまず目に入り、全身金の刺繍が入ったセットアップに腰までの短いマント、足元はつま先が尖った革靴を履き、近づいて来るその姿全てが赤かった。しかも目の上と唇にも赤い色が乗っており、顔自体はがっしりした男前だと思うが、かなり異様な雰囲気だった。
「なっ、バルドス!?」
ラグーが喉の奥から絞り出すような声を上げたのを聞き取ったのか赤い塊がこちらを見て口を開いた。
「おやおや、おやおやおや、獣人でもこのアタクシの事を知っているなんて殊勝じゃありまセンカ!何処かで会いまシタカ?」
独特のイントネーションで喋りかける異様な男に仲間の獣人達も動きを止めて睨みつけていた。
「ふー獣は楽しくお喋りも出来ないんデスネ、焼いてしまうしか無い様デスカ」
まずい、このままだとまた魔法が来てしまう。
「ちょっと待ってください、何で魔法使いなんかがこんな辺境にいるんですか?」
少しでも時間を稼げないかと話しかけてみた。
「あなた中々良いものを被ってマスネ、一人だけ目立ってずるいデスヨ」
何言ってるんだこいつ、見た目通り中身もやばいのかもしれない。
「その派手さに免じて答えてあげまショウ。簡単に言えば報復デスヨ、誰かが公爵家の三男を殺しタカラ」
僕だ、大将を殺せば帰って行くなんて簡単に考えたから。
「その仕返しにワタクシに白羽の矢が立ちわざわざ来たくも無いこんな辺境の地へ来たと言うわけデスヨ、わかりまシタカ?」
そう言ってバルドスが手を掲げるとそ前に5本の炎の槍が浮かび上がり、次の瞬間消えたかと思うと後ろからドンッと言う音と熱が伝わってきた。
「ぐふぁ!」
誰かの声で後ろを振り向くと五人の獣人の体に大きな穴が空いて崩れ落ちてい行く所だった。
「クソ!魔法を使われる前に距離をつめろ!」
後ろの狼の獣人が叫ぶと同時に獣人達は、動けなくなっていた僕とラグーの横を抜けてバルドスへ詰め寄った。
「チョット!獣臭いですヨ、近寄らないでくだサイ」
そう言ってバルドスが手を叩くと先頭の剣を振り上げた獣人が炎に包まれた。
「ワタクシパーソナルなスペースが有りますのでそれ以上近づかないでくだサイ、静かに待っていれば順に殺してあげマスヨ」
近付こうとした獣人達が順に炎に包まれ炭化して行く、続いていた獣人達の何人かは戻ってきた。
「せっかちデスネ、待っていれば順番に焼いてあげるのニ」
そう言って手を振ると三本の炎槍が生まれさっき飛び出して戻ってきた獣人達に突き刺さった。
「クソッ!」
咄嗟に体が前出てしまった。
「待て!シュウ!」
後ろでラグーの声が聞こえたがもう止まれなかった。
「まだ寄って来るのが居るんデスカ、学習しまセンネ」
そう言ってバルドスが手を前へ出すと炎が生まれ射出された。
その瞬間世界に色が失われて行った。
ゆっくりとした時間の中で僕はバルドスの目線と手の角度で大体の炎の射出角を予測して斜め前へ飛び込み前転をした。
予想は当たり体の左側をゆっくりとした時間のなでもかなりの速度で炎が空気を焼きながら通り過ぎ世界の色が元に戻ると驚いたバルドスが手を叩いた。
「やるじゃ無いデスカ、さすが私が目をつけただけありマスネ」
目をつけられても嬉しく無いがその瞬間右の手首がチクリと痛んだ気がして剣を持つ手首をチラリと見ると呪印さんと目が合った、その瞬間肌が風を感じなくなった。
そのまま僕は起き上がりバルドスに向かい走ると皮膚から炎が上がった。
炎が上がったがそれだけだった、もちろん死ぬほど熱いが皮膚がうっすら焦げていくのを感じる、詳しくは分からないがどうも皮膚が焦げる速度だけがスローモーションになっている、そのおかげでさっきの獣人の様に炭化して行くほどでは無い行ける押し切れる。
「な、ナニ!?」
全身から炎を出しながらも剣を振りかぶる僕を見てバルドスも焦って腰の剣に手をかけるが遅い。
「死ね!」
そう言いながらバルドスの首に剣を叩きつけるがガツンと何かに当たる感触があり衝撃に耐えられず剣を落としてしまった。
「ビックリしましたヨ、まさか焼けない獣人がいるナンテ、でもワタクシの身体強化は一般兵の比ではありまセンヨ」
首の皮一枚しか切れなかった、まさか魔法使いの身体強化がここまで硬いなんて。
そう思った瞬間僕の影から誰かが飛び出した。
その後姿はラグーだったギリギリまで僕の背中に隠れ一緒に接近していた。そして僕の横から一気に低い姿勢からの切り上げでバルドスに切りかかった。
「もう一匹!?」
しかしバルドスに近づいたせいでラグーも燃え始め剣の狙いが少し逸れた為、バルドスの腕を切り落とすのがやっとだった。
「ぐあぁぁぁ!」
次の瞬間ラグーものけぞる様に後ろに倒れ全身が激しく燃え始めた。
「ラグー!」
僕は急いでラグーに覆い被さって火を消そうとしたが、呪印の効果が切れたのか僕も激しく皮膚が焼け爛れ始め動けなくなっていき、呼吸ができなくなりそのまま意識を手放してしまった。
気がつくと空に穴の空いた月が浮かんでいた。
そして周りは焼け跡だらけであの後の戦いの凄惨さを物語っていた。
「どうなったんだ、ラグーは?バルドスは?」
半分溶けた猫のフェイスガードを拾い何とか被り、その辺の死体から服を借りて砦へ向かった。
「嘘だよね?」
暗くて近づくまではわからなかったが、砦は壊滅していた。
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