第23話 剣と魔法と戦争と
「しっかし、完全に死んでると思てたわ、まさかひょっこり帰ってくるとはなぁ!」
今僕は小隊のメンバーに囲まれてパンを齧っていた。
「それにしても酷いですよ、手を上げて近づいてるのに矢を撃って来るって僕じゃなかったら死んでますからね」
「すまん」
兎の獣人のパットルが耳をしょんぼりさせている。
「まぁ仕方ないよ、この砦に居る人間はシュウだけだからね、たまたま僕たちが夜番でよかったよホント」
そう言いながらダッシュがパットルの肩を叩き慰めている。でも本当にだダッシュ達が夜番だったおかげで矢が刺さって死んでた僕を回収してベッドに寝かせてくれて何とか入ることが出来た。
自分が獣人じゃないのをつい忘れてたよ。
そんなことを考えていると虎の獣人ラグーが僕の頭に手を乗せグリグリして来た。
「しっかし敵の大将をぶっ殺して来たんやろ?よーやった!さすがシュウやな。敵が攻めて来てる途中に帰って行ったんはそういう事やったんやなぁ、でも大将の首を持ってこれたらもっと良かったのになぁ」
「無理だよ、全身鎧の兵士に囲まれていたし、相打ちで精いっぱいだったよ」
「まぁでもお疲れ様!今日はゆっくり眠って疲れを癒してね、今日夜番だから明日はうちの小隊は休みだしね」
そう言ってダッシュ達は夜番の続きに戻って行った。
翌日は一日たっぷり寝て本当に何もせずに過ごした。
その翌日は巡回と食料調達の日だった。
「さて今日は働くで!切り替えが大事やからな。シュウ、とりあえず飯食いに行こか!」
ラグーに連れられて食堂に行くと今日も朝から肉だった。この周辺で取れるのが獣の肉なのでどうしても一番多い食材になるのはわかるんだけど、軽くパンとコーヒーを飲んでいた地球の朝がとても遠い記憶のような気がした。
「またそのフルフェイス被るんか、気にいったん?」
兵士替え室で僕はまた猫の顔のフェイスガードをかぶっていた。
「本当に仲間に攻撃されるのがこの前分かったからね。臭くても暑くてもこれを被るよ、それに頭を狙われて何度か助かってるしね」
「まぁ最初はワシが勧めたからな、まぁええわ行こか」
狩場に着いて荷物を下ろし弓などの準備をしているとラグーが何か思いついたみたいだった。
「せやシュウ!前言うてた手合わせしよや」
まだ覚えてたのか、流石戦闘民族無駄な事覚えてるな。
「仕事中だしまた今度にしない?」
何とか逃れようとしているとダッシュが口を開いた。
「構わないよそれも訓練になるからね」
くうー!猫(ダッシュ)めー!
「ほな獲物はこれでええか」
ラグーはそう言いながらその辺の木の枝を一メートル位のところで折って、ナイフを使い器用に枝を払って木刀を二本完成させた。
だめだ着々と終わりの始まりが近づいている。
「呪印さんあの遅くなる奴普段でも使えないかな?」
すると目玉が目をそらして聞いてない感じで無視してきた。
「じゃあ当たりそうなやつが来た時発動できる?」
今度はチラリとこちらを見て上下に揺れた。行けるってことかな?
って言うか目玉と会話できるんだと言う新事実が判明している間に模擬戦が始まった。
「じゃあはじめ!」
ダッシュが声をかけラグーが前へ出たと思うと世界に色がなくなり、気がつくともう目の前にラグーの木刀が迫っていた。
僕は今地面に仰向けで倒れていた。
「アカンなシュウ全然アカン、目では追えてるみたいやけど体がついて来てないわ、相手の動きをもっと全体で見て予想せなあかんで、剣の基礎からやなワシが稽古したるわ」
「あ、ありがとう」
後で聞いた話だがラグーは王都にある獣人剣術の師範代らしい、どうりで戦争でも知らない間に敵を倒していた。
それからは毎日の様に巡回へ出て弓の練習がてら獣を狩り、午後は剣の練習をして夜番の時は地球での話をラグー達として過ごした。
「あーホンマにシュウが住んでた世界はすごい所やってんなぁ、ワシも行ってみたいわ」
「そうだねもし行ける事が有ったら案内してあげるよ。あ、そういえばラグーは身体強化が使えるんだよね?僕に教えてくれない?」
砦の屋上での夜番は二人一組で外を見張るだけなのでお喋りに興じていた。
「ええけど人間とはやり方がちゃうかもしれんで?」
「ありがとう、ダメもとで出来たらラッキーだよ」
それから夜番の日は身体強化の練習に努めた。
「アカン中々はかどらんな、もっと魔力を早よう体の中をぐるぐるっと回す感じや」
ラグーは剣は細かく教えてくれるが魔法は感覚派だった。
「でも少しだけ体の中の魔力が回っているのがわかる気がするよ、なんかポカポカする」
「なんやろなぁ、血流がよくなってるんかいな、肩こりには効きそうやな、この感じやと百年かかるんちゃうか?」
「まぁ時間は沢山あるから頑張ってみるよ」
「後はその魔力を人間は体外へも放出できるはずやねん、ちょっと試してみたらどうや?」
言われるままに僕は手を前に突き出して色々試してみた。
「あーだめだー、全然何も変わった感覚がないよ」
「そうかぁ、まぁでも魔力が回るのを感じてるんやったら魔法使えるっちゅう事やから可能性はあるで」
「ラグーは人間の魔法使いを見たことあるの?」
「一度だけあるで、とんでも無い奴やったわ」
「戦争で?」
「せや、そん時ワシのおった部隊はワシ含め数人を残して全滅したんや、たった一人の魔法使いにな」
「はあ?!一人?魔法使いってそんなとんでも無いものなの?」
はっきり言って戦争では獣人はかなり強い、力も強いし体格もいい。毎回この砦を守るのも攻めて来るのをわざわざ打って出て追い返すくらいだし、回復も早く傷を負っても数日で戦線に復帰する者も多い。
「最初ワシがおった舞台は人間の軍を押してたんや、基本的に獣人に比べると人間の戦士は身体能力が低いからな、しばらくして人間の軍が引き始めてなワシらはそのまま人間の軍を追い掛けて行ったんや」
ラグーは昔を思い出してるのか時々手を握ったり開いたりしていた。
「そしたらな突然大きな炎が空から降ってきてな半分の獣人がそこで焼き殺されてもうたんや、その時は何が起こったか分からんくてな誰も動かれへんくなってもうて、そしたら次は一人ずつ炎で出来た槍みたいなんが飛んで来て焼かれて行ったんや、そこで誰かが「逃げろー!」って叫んでな一気にみんな走って逃げてな、ワシも無我夢中で走ったわ、若かったわワシも」
「バ、バケモンだね」
「そうやなそいつは赤のバルドスちゅう名前でな炎の魔法が得意な獣人を焼き殺すのが趣味ないかれた奴や」
「そんな有名な奴なんだ」
「後で人間の捕虜から聞いた名前やねんけどな、まぁ人間の中には魔力や腕力が何十倍もある奴やらが生まれるらしいんやけど、そいつらが魔法使いや聖騎士ちゅうのになるらしいわ」
「聖騎士?」
「そうや聖騎士言うてな、魔法も使えるし剣の腕もすごい奴ららしいわ」
「そいつらは攻めてこないの?」
「まぁ滅多に無いらしいわ、基本的に人間は獣人の国を重要視してないんや僻地やからな、魔法使いや聖騎士は人間同士の戦争をしてるらしいで」
「この獣人の国はそんなに僻地なの?」
「せやなぁ、人間の国の規模に比べたら鼻くそみたいなもんや、四方を海と山に囲まれてるさかいこの領地を取っても使い道が無いんや、おまけにこの境界を隔てる山にはドラゴンが住んでる言われててな自然と共に暮らしてる獣人は大丈夫やけど人間は住めへんのとちゃうかな」
「そっかそれなら安心だね」
「まぁ兎に角シュウはまず身体強化の練習やな」
そのまま体の中の魔力を回したり関係のない話をして朝を迎えた。
夜番を終えて部屋に戻るとダッシュ達も戻ってきたようだった。
「しっかし、もう人間は攻めてけーへんのかな?」
デグーがなんとなくそんな事を口にするとダッシュが答えてくれた。
「それはわからないね、今回の話をシュウから聞いて本部でも話をしてみたけどしばらくは今回の様な大きな戦いは起きないかもしれない、人間側の領主がうまみが無いと思ってくれたらいいんだけどね」
その時カンカンカンと小刻みに鐘を鳴らす音が聞こえて来た。
「お前らがそんな話してるから敵が攻めて来たぞ!」
そう言いながらディコがベッドサイドの鞄から干し肉を出して齧りながら準備をしていた。
「それええなぁディコ!ワシにもひとつくれへん?」
「ほらっ今度酒奢れよ」
そう言って全員に干し肉を放り投げ僕らは齧りながら準備を済ませて第一武器庫へ向かった。
「身体強化の見せ所やなシュウ!」
「身体強化が使えるようになったのか?」
ディコがラグーの話に食いついてきた。
「そうですね、体が温まるくらいは」
「そ、そうか、夜番にはよさそうだな」
そんな話をしながら革鎧を着ていると指令室へ行っていたダッシュがやってきた。
「みんな今日は盾を装備して行くよ、斥候によるとかなりの弓兵が確認されたみたいだ」
「リザードマンの肌やったら弓くらい弾いてまうんやけどなぁ羨ましいわ」
「リザードマンって凄いんだね」
「せやな、成長も早いし水の中も行けるで、欠点をあげるなら寿命が短いくらいやわ」
「リザードマンってどれくらいの寿命なの?」
「大体2、30年くらいや、1年で成人なって寿命寸前まで戦えるらしいで」
「そっか、そんなに寿命が短いんだね」
僕はそんな短い寿命なのに人間達に嬲り殺されたリザードマン達を思い出していた。
「どないしたん?テンション下がってるで!今から戦争やでテンション上げて行かな死んでまうで、まぁシュウは死なへんか」
「ありがとう、頑張るよ!」
ラグーのいつでも明るい態度にいつも救われてる気がする。ついでにこれで可愛い人間の女の子だったら、だめだこれ以上は悲しくなる。
「さぁみんな行くよ、僕たちは盾で矢を防ぎながら押し上げて、その間からリザードマン達が一気に弓隊へ進むからね」
砦重い扉が開き僕たちは出撃した。
「シュウ前ですぎたらあかんでワシらは盾で矢を引きつける仕事やで、ある程度距離が近づいてリザードマンが飛び出すまで我慢や」
「いや、僕の目にはラグーが剣しか持ってないように見えるけど?」
「ワシの流派ではこれが剣であり盾でもあるんや」
そんな事を言い合っていたら射程距離に入ったのか大量の矢が飛んできたので僕は木と鉄板でできた全身が隠せるサイズの盾を前に構えてなるべく体を小さくした。
「よお見ときや矢なんか飛んでくるのを全部切り捨てたったらええねん!」
そう言ってラグーは剣で矢を斬りまくっていた、しかも僕の方に来てるのもほとんど切っていた。
そして戦線が徐々に進みかなり敵の部隊に近づいた時、カーンカーンと鐘の音が聞こえ同時に僕たちの間を前傾姿勢のまま尻尾でバランスを取ってラプトルの様な姿勢になったリザードマン達が走り抜けて行った。
矢が当たっても弾きながら進む姿はまるで弾丸のようだった。
「凄いねリザードマン!」
ラグーに話しかけるとラグーが少し上の方を見ながら僕の腕を掴んでいた。
「こらあかん、避けるで!」
凄い力でラグーに引きずられたと思うと前方のリザードマン達からさっきいた周辺までが一瞬で炎で包まれた。
「え?!何これ?爆弾?」
「これが魔法や、まさかこんなトコに魔法使いが出張って来るとは思わんかったわ。早く敵の中に突撃せな狙い撃ちにされるで」
そう言って今度は僕の腕を取って前方へ走り出した。
「あないな大規模な魔法はそうそう何発も撃たれへんはずや!兎に角敵の懐へ入り込むで!」
その瞬間、世界に色が失われていった。
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