第22話 敵と貴族と暗殺と
「朝ごはんですよ、調子はどうですか?お名前思い出しましたか?」
いつの間にかぐっすり眠っていた様で昨日の白衣の男に起こされた。
朝ご飯はスープのみだったが、お腹にも身体にも優しそうな物で全ての具材がすり潰され何が入っているのかわからないが美味しかった。
「そうですかまだ記憶は戻りませんか、所属が分からないとこの後の対応が難しいですね」
僕はご飯を食べた後、医者と話しながら聴診器を当てられ下瞼を見られたりと軽い問診を受けていた。
「もしかしたら色々見て回ると思い出すかもしれないので見てまわってもいいですか?」
「そうですね後で着替えを持ってくるので歩ける様であれば無理せずに回ってみてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、あとは包帯を新しくして終わりですね」
まずい!包帯を外されると傷が治っているのがバレてしまう!やばいやばいどうしよう!
「あ、あの何か思い出しそうです!包帯を自分で巻きなおせば思い出すかも!何か頭の奥に引っかかってるんです、出来れば一人で集中して巻きたいんですがダメですか?」
突然僕が激しく自分で巻きたいと言い出したので男は少し驚いた顔をしていたがすぐ表情を戻し口を開いた。
「そうですか、もしかすると衛生兵の方だったのかもしれませんね。熱も無いし貧血もありませんのでいいんじゃないですか。じゃあこれ包帯と消毒です。もう血は止まってるみたいですし見た目ほど傷は深く無かったのかもしれませんね」
どうやらここは応急処置しか出来ず、兵士の体が持ち直せば後方の野戦病院へ送ると言う形のテントだった。
「助かったな、忙しくて僕一人に時間を割いている暇が無いのがよかったのかもしれないね」
新しい服をもらい、別に痛く無い頭と足に包帯を巻いて足を引きずりテントを後にした。
「ふぅ、取り敢えず第一段階は終了だね!この後の作戦は特に無いけど」
駐屯地をウロウロしてみるとかなりの兵士がキャンプしているのでちょっとした村のようになっていた。
「これだけ人が多ければ僕一人くらい増えてもそりゃ誰も気づかないよね。それにしてもなんか人間が周りにいるだけでもすごい新鮮な気がするな」
キョロキョロして歩いていると前から歩いてくる全身鎧を着た赤いマントの兵士に声を掛けられた。
「おい、そこのお前!付いてこい!」
え!?バレた?ちょっとここで連れて行かれるのは不味いかも知れない。
「申し訳ございません、今救護テントの指示で手が離させないのですが」
鎧の男は僕の襟元を掴んで強引に引っ張りながら言った。
「うるさい!口答えするな!カルディス様の命令が優先に決まってるだろ!付いてこい!」
誰かわからないけどカルディス様の元へと連れて行かれることになった。
しばらくマントの兵士の後を付いて歩くとたどり着いたのはかなり派手な布を使った大型のテントがいくつも並ぶ偉い人達がいるスペースだった。
「カルディス様、一般兵を連れてきました!」
連れてきた兵士がピシリと足を揃え敬礼しながらそう言うので僕も兵士の横から顔を出して同じ様なポーズをしながら前を見ると鎧の兵士たちの間に恐ろしく派手な男が椅子に座っていた。
その男は服装が酷かった。まず髪型が金髪のおかっぱで男なのにフリルの沢山ついた服は赤と白の細いストライプで肩が膨らんだでいた。そしてズボンは鮮やかな青色で腰回りが膨らんでいてかぼちゃみたいだった。さらにその下に白いタイツのようなものを履いて、足元は靴底の厚い金ピカの金属が貼り付けられたブーツだった。
そんな派手なカッコの上にさらに赤い高級そうな布に金の刺繍をびっしりとしているマントを着た姿はまるでピエロのようだった。
報告を受けて
「よし処理係も来たし始めるか」
兵士に囲まれていて気が付かなかったがカルディスの隣には幅二メートルほどの檻が置いてあり中には何匹かのリザードマンが入っていた。
「今回はゴンザレスから行け」
カルディスが言うとガタイのいい全身鎧の男が一歩前へ出てきた。
「私が一撃で決めて見せますよ!」
それは酷い光景だった。カルディスが指名した人間が手足を鎖に繋がれたリザードマンに槍を突き刺していきトドメを刺した者に褒美を与えると言う遊びだった。
順に細めの槍をリザードマンに突き刺していくがリザードマンも何とかよけたり腕で防いだりと頑張っていた。
「よくやったぞマルコ」
カルディスはそう言って五人目のとどめを刺した全身鎧に何か皮袋のような物を手渡してまた声を上げた。
「よし次をもってこい!」
そうして散々リザードマン達を嬲り満足したのかカルディスと取り巻きの全身鎧は大型のテントの中へ消えて行った。
唯一残った僕を連れてきた全身鎧がリザードマン達の死体を指差し。
「おい一般兵、さっさとそれを遠くへ捨ててこい!臭くてかなわんリザードマンなんか捕えなくてもいいと言ってるのにお前ら一般兵はホントに使えないな!早くしろ!」
酷い、闘技場でも確かに殺し合いをしていたが生きるチャンスはあったし尊厳があった。これが僕と同じ人間のする事とは思えなかった。
「聞こえてるのか?」
あまりの獣人の扱いに怒りと戸惑いに震えてると僕の頬に衝撃が走り倒れてしまった。
「早くしろこのグズが!なんのためにお前みたいな平民をここへ連れてきたと思ってるんだ!お前らみたいな獣人と変わらんゴミを使ってやってるんだから有り難く思え!売れるだけ獣人の方がまだましか」
そのあと何度か蹴られ地面を転がった。
「ふぅ、早く処分しとくんだぞ」
そう言って全身鎧の男も大型のテントの中へ入って行った。
「いてててて、どこかヒビが入ってるかもしれないな、普通の精神してたらあんな鉄の足鎧付けて仲間蹴らないよね、仲間じゃ無いけど」
仕方なく起き上がった僕はその辺に台車があったのでそれに乗せて引っ張っていくことにした。
駐屯地から少し離れた森の中で穴を掘りリザードマンを埋めて木をクロスさせ墓標にした。
「弔い方が違うかもしれないけど許して欲しな、代わりにあのバカ貴族を殺してあげるよ」
僕は誰もいないところで墓標に向かって約束をした。
あの派手な奴をどうにか出来ないか調べようと台車を引いて戻ってくると全身鎧の兵士にまた目を付けられてしまった。
「早く持ち場に戻れ!この怠け者が!お前はトカゲの死体程度を捨てに行くどれほどの時間がかかっているんだ!」
また殴られて蹴られたので、逃げるように一般兵の宿舎へ戻ってきた。
「くそっ体中痛い、暗くなってからもう一回行ってみるしかないか」
駐屯地の中で武器を調達する為に色々と回って見たが良い武器は手に入らず、なんとかナイフを手に入れる事に成功した。
「結構装備の管理とか厳しいんだね、獣人は適当だったのに。まぁ心許ないけど無いよりマシか」
カルディスのテントへ向かうと周辺は貴族のテントが固まっているようで少しその辺を歩くと全身鎧に何をしている?どこへ行く平民、と声を掛けられたので途中で断念する事になった。
諦めてキャンプ内をウロウロしていると幾つかの情報を手に入れた。
カルディスは公爵家の三男で、今回の遠征はカルディスに戦争の経験と箔付けをしに来たみたいだ。
「ならカルディスが死ねば撤収するよね」
僕はそう独り言を言いながら、くすねて来た毛布にくるまり穴の空いた月を見ながらキャンプから少し離れた森の中で眠りについた。
次の日は朝からバタバタしてると思ったらまた砦に攻め込むようだったので、その騒動に紛れ槍と皮鎧を手に入れる事に成功した。
それから僕は森の中でくすねた毛布や油で焚火の準備をして隠れて戦団が出て行くのを見守り、しばらくしてから駐屯地周辺に作った焚火に火をつけて回った。
「よし、こんなもんか」
森の中で準備してあった焚火の火が広がるのを確認し駐屯地に戻り叫んだ。
「敵襲だー!森に火が放たれたぞー!」
僕はそう言って駐屯地を走り抜け、そのままカルディスを追いかけた。
しばらく走って行くと戦団が見え、その最後尾に重装備の一団が居たので声を上げて近づいて行った。
「はぁはぁ、伝令!伝令です!」
僕が焦った感じで声を掛けるとカルディスの一団が止まり一人の全身鎧の男が近づいてきた。
「何事か!」
「はぁはぁ、現在っ、駐屯地で襲撃を受けております。森から多数の火の手が上がり数百の獣人が攻め込んで来ております。残りの兵士で兵站などを守っている状態です!」
「はっ!?なんだと!」
全身鎧が駐屯地の方に目をやると、うっすらと煙が何本か上がっているのが見えたのか急いでカルディスの方へと戻って行ったので、どさくさに紛れ僕も後ろについて行く事にした。
「カルディス様!」
屋根付きの馬車の様な物に座って兜を隣の従者に持たせてふんぞり返っていたカルディスがこちらにだるそうに目を向けてきた。
「なんだ!俺様の進軍を止めるような事か?!」
「はっ!現在駐屯地にて獣人による襲撃を受けているようです!」
「なんだと!?」
その時みんなの目線が駐屯地の方に上がる煙に向かったのを確認した僕は、槍を構え低い姿勢で全身鎧の横を抜けた。
その時、右手首に締め付ける様な感触があった次の瞬間世界に色が失われていった。
ゆっくりと流れる世界の中、僕が槍を構えて前に飛び出した事に気がついた全身鎧二人が剣を抜き、カルディスの横から切りかかってきていた。さすが精鋭なのか動きが早いね。
左右からの振り下ろしに対して左の全身鎧の方へ寄り右の剣を躱し、左の全身鎧の振り下ろしは剣の軌道を反らせるように左手を当て後ろに流した。
左腕で剣を弾いたつもりだったがしっかりと左腕は肘から先がなくなっていてゆっくりとした時間の中、激痛が僕を襲ってくる。
痛い痛い痛い痛いいいい!こんな事しなければよかった!そう思いながらも前へと体を進ませると何とかカルディスの元までたどり着いた。
「死ね!」
そう言って右手に持った槍で目に向かって勢いそのままで突き刺し、さらに倒れかかるようにしてナイフを首に突き刺した。
そこで後ろから全身鎧が追い付き僕の背中に剣を突き立てた。
「ぐあぁぁ!」
体に剣の突き刺さる感触がゆっくりと伝わってくる、普通は一瞬だがとてつもない痛みがゆっくりと背中から腹に抜けていく。
その次の瞬間世界に色が戻りもう一人の全身鎧に首を刎ねられた。
目が覚めると空に穴の空いた月が浮かんでいた。
「これでリザードマン達の仇は取れたかな?名前は知らないけど、さて家へ帰ろうかな」
全裸で倒れて居たのでその辺の死体から服を頂戴して砦に帰る事にした。
しばらく歩き夜の砦が見えてきたので見張りに手を振りながら歩いていくと砦から矢が飛んで来てまた死んだ。
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