第18話 鳥とゴリラと宴会と


 次の日の朝、僕はコロシアムで最後の朝食を食べた後、出発の準備が終わったのでホールで別れの挨拶をしていた。


「シュウ元気でな、まぁ死ぬ事は無いと思うが体のパーツ無くさない様にな」


「僕はゴーレムかなんかですか!」


 エイドルは僕を何だと思ってるんだ。


「あはは何にせよまた帰ってこいよ、お前の泥試合は人気あるからな!」


「はい、ありがとうございました!泥試合はしたくてしてるんじゃないですけどね。」


 その次はダッシュが握手を求めて来たので握り返すと。


「シュウまたね」


 軽い感じで握手をするとこの後用事があると言ってさっさとどこかへ行ってしまった。ちょっと冷たい。


「シュウこれお弁当だよ持ってお行き」


 食堂のおばちゃん(熊)がお弁当の包みをくれた。


「ありがとうございます!行く途中で食べさせて頂きます!」


 エリザベスが涙ぐんで手を握ってきた。


「秀太さんお元気で、怪我をしない様にして骨を大事にして下さいね」


「エリザベスさんもお元気で、兵役が終わったらまた会いに来きますよ」


「はい、待っています」


 僕も力強くエリザベスさん手を握って別れの挨拶を交わした。


「それでは皆さん今まで有難うございました!兵役を終えたらきっと遊びに来ますね。じゃあみんなお元気で」


 そう言って手を振り、自動ドアをくぐった。



「お疲れ様っすもう挨拶は終わったすか?」


 ロビーから出るとネズミの獣人が待っていた。


「お待たせしました、もう終わりました」


「じゃあこれをどうぞっす」


 そう言ってネズミの獣人が手渡して来たのは地図と背負い袋だった。


「これは?」


「地図と食料、それと野営の準備とお小遣いっす」


 サラッと言われたが、えっ野宿?


「え?僕一人で行くんですか?馬車とか?移動の兵士と一緒とかじゃないの?逃げるかも知れないですよ?」


「節約っす、シュウさんの手にはまだそのバングルがついているし、この兵役が終われば正式に市民になれるのに逃げる理由がないっすからね」


「要するに自分の足で歩いて向かえって事ですか。ちなみにどれくらいかかるんですか?」


「砦はここから街道をまっすぐで十日っす!よろしくお願いするっす、あ、途中五日位は遊んでも大丈夫っすよ余裕とってあるっす」



 最後に仕事のできるネズミ獣人に送り出され、初めて一人で歩くコロシアムの外は新鮮だった。


 その街並みは海外へ行った事のない僕にとって初海外一人旅と言っても過言ではなかった。


 とりあえず色々見て回ったが喉が渇いたのでジャングルで食べた林檎の様な実を売っているのを見かけたので獣人に声をかけてみた。

「お姉さんこの実一つください」


 犬の獣人だったがやはり性別などがあまりわからない。


「あらお姉さんだなんて上手だねー、おまけしとくよ」


 獣人の年齢は意外といっていたみたいで、お世辞だと思ったのか喜んでいたので結果オーライだった。


 それにしても古代遺跡で生活をしていたので忘れてたが水は井戸だしトイレも汲み取り式だった。つらいコロシアムに戻りたい。


 そして昼頃迄には街の観光を終えたので街の出口へ向かい、出口の列に並んでると兵士がジロジロとこちらを見ていると思ったら肩を掴まれた。


「お前十三番じゃないか!試合見てたぞ!」


「あ、ありがとうございます」


 びっくりした。人間だからまた捕まるのかと思った。


「ほんとに怪我がもうないんだな、不死身ってのは本当だな!それにしてもどこへ行くんだ?」


 僕は闘技場で次の試合には怪我が必ず治っているので、不死の十三番とか恥ずかしい呼ばれ方をしていた。


「これから兵役に行くんで砦へ行く所です」


「そうか兵役に行くのか頑張れよ!」


 兵士に応援されて周りの人たちにもヒソヒソされて送り出された。闘技場の人気はすごいな。


 そのまま町を出て街道を歩いてるとお腹が空いて来たので、おばちゃん(熊)にもらったお弁当を食べて腹ごしらえする事にした。


 包みを開けるとお弁当はサンドイッチだった。一つ目は中に甘辛く味付けされたチキン(の様な肉)が挟まっていて硬めのパンにも合うしっかりとした味と食感になっていた。


 二つ目はチーズと卵と葉野菜。そしてたっぷりのベーコンが挟まっていた。噛むとベーコンとチーズの食感と塩味を卵が包み込んでくれるとても調和が取れた味だった。


「ご馳走様でした!」


 誰もいないが一人で手を合わせ、また地図を見ながら街道を進んでいるとあっという間に太陽が赤く染まり、穴の空いた月がはっきりと空に浮かんでいた。


「あーもう夜になるな。暗くなる前にここらで野営の準備しよっと」


 少し街道からそれた開けたところを見つけたので、背負い袋からテントを取り出して組み立て始めるが全然完成しない。説明書とか無いし棒と布しかない様に感じるんですけど。


「まぁ諦めて取り敢えず火を起こそう」


 有難い事に火打ち石が入っていたので巻きを集めるだけであっという間に火がついた。


 そこからひたすらテントと格闘していると声をかけられた。


「おい、お前」


「はい?」


 いつのまにか周りを狼と猿、そしてイタチ?の獣人に囲まれていた。


「え、あの皆さんここ使われます?僕は別の場所へ行くので、どうぞ」


 完全に武器手に持ってるし違うだろうなぁ。


「そんなわけねーだろ盗賊だよ」


「ですよねー」


 やっぱりね知ってた。こんなナタみたいなのを抜き身で持った旅人なんていないよね。そう僕の周りには三人の獣人が革鎧と抜き身のナタを持って立っていた。しかも革鎧も返り血なのか黒く汚れてる。


「人間とは珍しいな高く売れそうだ連れていけ!」


 ああ、どうやらもうテントを立てる必要は無さそうだ。



 獣人に急かされながらテントやら何やらをカバンに詰めて背負うと手首を縄で結ばれて連行されて行く。なんかこの感じ懐かしい。


 林の中を暫く歩いて行くとゲルの様な丸い形のテントがいくつか立った広場へと辿り着いた。なるほど遊牧民の様に移動しながら盗賊活動をしていると言うことかな。


 それにしてもかなりの人数が居そうだ、ゲルの数も多いしウロウロしてる獣人の数もおおい。


 そして今僕はゲルではなく木製の檻の中に収監されていた。


 檻の床は平らで藁と汚い毛布が何枚か入っており他の人もいないので悪くはなかった。ただ久しぶりにあの月に見守られながら寝る事になった。



 次の日朝、お腹が減って目を覚ましたが見張りの数人以外誰も起きていなかった。よく考えたら夜活動してるんだから当たり前か、そう考えると結構ブラックな仕事かも知れないね。


 昼過ぎになってだんだん人の気配が増えてきたところで狼の獣人がやってきた。


「おい飯だ!」


そう言って硬いパンと水が入った皮袋が放り込まれた。


「ありがとうございます。ちなみに手の紐は」


 喋っている間に狼の獣人はさっさといってしまった。仕方ないので両手を縛られたままパンを一口食べると、いかにこの一年間贅沢をしていたかがわかった。


「固くてパッサパサで歯が折れそう、ああどうしようかなぁ逃げることもできないし、このまま15日経つとどうなるんだろう?逃げた事になってお尋ねものになるのかなぁ?それとも奴隷なのにさらに奴隷として売られて行くとか?ややこしいから勘弁してほしいな」


 そんな独り言を言ってると、また狼の獣人が来て檻から出され別の場所へ引っ張っていかれた。


「中へ入れ!」


 背中を押され一番大きいゲルの入口をくぐると、天井に光りとりの構造があり思ったより明るくそして床にも分厚い絨毯のような物が敷かれていて快適な空間だった。


 そしてそこには猿と狼とネズミの獣人が何人か絨毯の上に座っていた。


「こいつが今回の収穫か、人間は値段が分かりにくいからな」


「女なら物好きに高く売る事も出来たんだけどなぁ」


「男でも買ってくれる物好きはいるぞ」


 色々言われてるが男娼は勘弁してほしい、肉体的には色々耐えれても精神的には辛いです本当に。


「まぁボスが来てからだなぁ、そいつはそこに座らせておけ!」


 そう言われて端っこに積んである大量の荷物と一緒に座らされてしまった。


 それから暫くは暇だった。順番に何人かの獣人が盗賊で稼いできた物を持ってきて評価して行く形みたいだ。


 1時間ほどして伝令みたいな獣人がボスが帰ってきた事を告げると、一番上座を開けて静かになった。


「今帰ったぞ!」


 そう言いながら入って来たのはゴリラの獣人だった。


「「お帰りなさいボス!」」


「おう皆んなお疲れさん、こっちは中々の収穫だったぜこれを見ろよ!」


 そしてそのゴリラは皆の顔を見渡しながら手に持った四角い光るブロックのような物を皆に見せながら最後に三角座りしている僕の顔を見て固まった。


「な、なな、何で!」


 ドタドタとこちらへ寄ってきて肩を掴まれた。かなり力が強くて痛いしゴリラの顔が怖いし、牙すごい。


「兄弟じゃねーか!」


「え?!ま、まさかラルゴの兄貴?!」


 まさかの再会だった。それにしても獣人の見分けがほんとにつかない。




「ガハハハ、まさかまたこんな所で兄弟と会えるとはなぁ!あの後どこに売られて行ったか気になってたんだよ!」


 今僕の前には色々ワイルドな肉料理が並びそれをご馳走になっていた。


「僕も気になってたんだけど兄貴はあれからどうやってあそこから脱出を?」


「あれから王都のでかい監獄に移送されてな、その途中で檻を破壊して脱走してやったんだ!」


「流石兄貴!あの檻を素手で壊すとか信じられないパワーだね!」


 ラルゴはゴクゴクと上機嫌な様子で手に持ったお酒を一気に飲み干すと嬉しそうに牙を見せて口を開いた。


「そうか?まぁあれを素手で壊せるのは俺くれぇかもしれねぇな!それで兄弟はどうしてたんだ?あれから1年以上経ってるけどまだ生きてて嬉しーぜ!」


 そう言って僕のあまり進んでないコップにお酒を注いできた。


「僕はあれから売れずに闘技場送りになったんだよ、それからひたすら戦って今は兵役に向かう途中だったんだよ」



「そうか!兄弟は闘技場を勝ち抜いたのか!どこか違うと思ってたぜ流石俺の兄弟だ!コロッセオの勝者に乾杯だ!」


 その日は遅くまでラルゴと飲んで歌って騒いだ。この世界に来て初めて酒に酔って馬鹿騒ぎしたかもしれない。


 ちなみに僕を捕まえた獣人たちはかなり厳しく怒られていた。こういう理不尽な怒られ方もブラックな職場ならではなのかも知れないね。


 それからなんやかんやとラルゴに引き留められ5日ほどが経過した。


「兄貴、僕はそろそろ兵役へ行かないといけないよ」


 ゲルの中で昼御飯を食べながらラルゴに話しかけた。


「そうかもう行っちまうのか?ずっとここにいてもいいんだぜ?兄弟なら俺が責任を持って立派な盗賊に仕上げてやるよ!」いや盗賊はちょっと。


「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど闘技場で約束した人達がいて、ちゃんと兵役に就かないといけないんだよ」


「そうか、義理は大切だもんな、よし今日は別れの宴会だ!」


 毎日宴会してる気がするけど、きっと刹那的な生き方をしてる代表みたいなもんだしね盗賊なんて。




 その夜もまたお酒を散々飲んだので僕は火照った体を岩の上で休めていた。


「あー、冷たい岩が気持ち良いなぁ」


 お酒のせいでぼんやりした意識の中、穴の空いた月を眺めていると月の前を何か大きな影が通り過ぎた。


「今大きな鳥が通り過ぎた?異世界の鳥は鳥目じゃないのかなぁ?」


 酔っ払った頭でそんな事を言っていると、どんどん鳥の影が大きくなっていった。


 その時、見張をしていた獣人の叫び声が聞こえた。


「ドラゴンだー!」


 次の瞬間、鳥の影が光ったと思ったら、あたり一面が光に包まれた。



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