第16話 猫と希望とごった煮と


 あれからガウル達は罰として次の試合までそれぞれ個室で幽閉される事になった。


 幽閉される際一緒にトレーニングしただけと白を切ったらしいがカメラの映像を見せられ問答無用で連れて行かれた。


 そう、ここにはカメラがついている。どこにあるのか僕にも全然わからないが共有スペースには付いているらしい、相変わらずオーバースペックすぎる。



「もう起きてるだろう」


 エイドルの声が横から聞こえる。


「まだ死んだふりを続けるなら、とどめを刺してやろうか?」


「起きました!今起きました!」


 今してるのは致命傷を避ける訓練と相手に組み付く訓練そしてダガーの使い方だ。


 ガウルとまともにやっても勝てないので不死というアドバンテージを最大に活かして倒す作戦らしい、って言うかまともに勝てないなら何で試合を組んだのかと小一時間ほど問い詰めたいくらいだ。


 この後も夜まで訓練は続いた。


「よし、これで訓練は終わりだ」


「はい、ありがとうございます!」


「訓練通りやれば試合にも負けないだろう、明日はゆっくりして試合に備えろよ」


「はい!」


 そう、やっと地獄の特訓が終わりを告げた。


「俺は明日いないから何かあったらダッシュに伝えてくれ、じゃあまた明後日な」


 実はエイドルは家へ帰っている。ここにいるのは戦闘奴隷だけじゃなく剣闘士と言う職業の獣人や軍人、運営に携わる職業として施設に住んでいる者と多岐にわたるみたいだ。


 エイドルはその中でも退役軍人で時々は試合に出ることがあるが基本今回の様に教える仕事が多いらしい。そして何と家に帰ると奥さんと子供が待っていると言われた。

 ちなみにダッシュは軍人で独身だった。他にも何人か軍人が居るらしいが研修と施設の治安維持の様な形で送り込まれているみたいだ。


 逆に戦闘奴隷はあまりいないと言われた。そう言えばこの何の飾りもない服着てるのあんまり居ないな、みんな好きな格好してトレーニングをしている。


 そしてガウルは軍の偉いさんの息子で修行と箔付けでここに来ているのであんなに偉そうにしていたみたいだ。


 でも試合で偉いさんの息子を殺してしまっても良いのかと聞くと、試合中での死亡は名誉だし相手も強く出れないらしい、しかも普通はこんな試合ガウルが受けないけど相手が僕なら余裕だと思ったみたいで受けたと言っていた。


 エイドルの作戦恐るべし。


 あと最近、朝ごはんを食べていると大体エリザベスが一緒に食べに来るようになった。


「向こうの世界では秀太さんはどんな仕事をしていたんですか?」


 最近は地球での暮らしのことをよく聞かれる。


「僕は機械を使って絵を描いたりデザインをする仕事をしていたんですよ」


「すごい!絵が描けるんですか!見てみたいです」


「良いですよ、また機会があれば描きますね」


「本当ですか、嬉しいです」


 その後、急に食べる手を止め下を向いて何かを考えたあとエリザベスが口を開いた。


「秀太さん死なないで下さいね」


「え、急にどうしたんですか?僕は死ねませんよ?」


「明日試合ですよね!死なないとは分かっていても怖いんです」


「大丈夫です!こんなにトレーニングもしてきたんですから」

 力瘤を作って見せる、実際腕が太くなった気がする、腹筋も(すこし)割れたしね!


「実は私は軍属なんです。なのでここにくる前は戦場にも居ました。昨日まで一緒に過ごして居た仲間が怪我をしたり死んだりするのが辛くて」


「大丈夫です、僕は必ず歩いて帰ってきますよ、骨が折れてないかチェックして下さいね」


「はい、スキャンさせてください」


 少し涙ぐんだエリザベスを慰め、落ち着くとエリザベスは仕事へ戻っていったので僕もロビーに戻ると珍しい人にあった。


「シュウや無いか!久しぶりやなぁ元気にしとったか?」


「ニアさんも相変わらず元気そうですね!」


 何とロビーで猫の獣人のニアさんが木箱を積み上げ露天を広げていた。


「どうしてこんなとこに居るんですか?」


「ちょっと馴染みのツテがあってな、ここに臨時で店出させてもろてるんや」


「そうなんですか、すごいですね!」


「ホンマやで、持つべきもんはツテがある幼馴染いうてな!なぁダッシュ」


「シュウはニアと知り合いだったんだね、驚いたよ」


 気づくと横にイケメン猫ことダッシュが立っていた。


「ダッシュさんの商売に目覚めた知り合いってニアさんの事だったんですね」


「何やーダッシュも、うちの事喋ってたんかいな照れるな」


 ニアが関西のおばちゃんのようにダッシュの肩をポンポンと叩くと、ちょっと嫌そうにダッシュ肩に置かれた手を払い口を開いた。


「どこに照れる要素があるんだ」


 ダッシュのツッコミにニアが嬉しそうにしていたが、僕は気になっていた事を聞いてみた。


「そう言えば、あれからニアさんはすぐ出られたんですか?」


「ちょっ!ちょっとシュウこっちおいで!」


 ニアにヘッドロックをされてダッシュからはなれて行く。意外と胸の感触が伝わってきて緊張する。


「ええか、檻に入ってたんはダッシュには内緒や、あいつは昔からうるさい奴やさかいな、バレたらうちが説教されてまうからな」


「は、はい」


 小声で了承するとニアはニコニコした感じで僕の肩を抱いて露天へと戻った。


 それを見ていたダッシュが露店の商品を物色しながら口を開いた。


「仲がいいんだね二人ともシュウはエリザベスに怒られちゃうよ」


「いや僕とエリザベスさんはそういうわけでは」


「何やシュウあんたええ人おるんかいな!うちというもんがありながら」


 そう言いながらニアがハンカチを咥えてうるうるするポーズを取っている。


「ニアさんとは別に何も無いですよね同じ釜の飯を食ったくらいで」


「せやな、よう考えたら何も無かったわ。まぁええわ!シュウも良かったらなんか買ったってや安うしとくで」


 監獄を匂わせた僕の発言に素早く話題を切り替えたニアさんが適当に商品を勧めてきた。


「でも僕お金持ってませんよ?」


「なんやしらんのか、そのブレスレットに入ってるポイントで買えるんや」


 ニアがまた馴れ馴れしく僕に肩を組んでもう片方の手で商品を僕の顔の前に持ってきた。


「ほらほらこのネックレスとかどうや?かわいいフェアリーのデザインやで!女の子に人気やからあんたのいい人にあげたらどうや?ほらブレスレットかしてみ」


 ニアさんの手に持った端末を強引に僕のブレスレットに押し付けるとピピっと電子音が響いた。


「毎度ありー!」


「え?!ひどいですよニアさん、まだ買うとは言ってないですよ!」


「ええやろ、あんたみたいな男はこれくらい強引にせな女の子にプレゼント贈ろうとはせんねや、寧ろお礼言うて欲しいくらいやで!ほらこれ特別に箱もつけたるさかい持っていき」


 強引にネックレスを手渡され、その後他のお客さんが来たからと追い払われた。


「ごめんねシュウ、ニアも悪気があったわけじゃ無いと思うんだ」


 そして今なんかダッシュに謝られていた。


「いえ僕もはっきり断れなかったので、まぁこれはエリザベスさんにでもあげることにします」

「そっか、なんかごめんね、そうだ明日試合だよね!頑張ってね」


 そう言ってそそくさとダッシュはどこかへ行ってしまった。



 その夜食堂でご飯を食べようと券売機を通すとごった煮しか買えなかった。


 猫(ニア)ーーーーーポイント全部持っていったなーーーーー!



 次の日、今日の試合は夜からと言う事で食堂でごった煮を食べているとエリザベスがやってきた。



「おはようございます、今日は頑張ってくださいね」


「ありがとうございます、頑張ります!」


 そう言うとエリザベスはにっこり笑ったと思う、相変わらず獣人の表情は分かりづらいが口元に見える牙が鋭い。


 それから色々喋りながらご飯を食べ、二人共食べ終わったので僕はポケットに手を入れ口を開いた。


「あ、そうだこれ良かったら」


 そう言って昨日全財産をはたいて買った(買わされた)ネックレスを机に置いた。


「え?なんですかこれ?」


「実は昨日知り合いの行商人が来て買わされたんです。良かったらエリザベスさん貰ってくれませんか?」


「良いんですか?私なんかがもらって?」


「ええ、できれば貰っていただけると嬉しいです」


「ありがとうございます。開けてもいいですか?」


「どうぞどうぞ」


 そう言うとエリザベスは箱を開けて中身を取り出した。


「まぁ可愛い!これはフェアリーですね!私フェアリーが凄く気になってるんです。あの小さな体に羽がどの様な形で繋がり骨格が形成されてるのか、いつか本物も見てみたいです」


「あはは、よ、良かったです気に入ってもらえて」


 エリザベスは安定の骨格フェチだった。


「ありがとうございます、大切にしますね」


 そう言って早速首につけ、箱も大事にしまってくれた。


 その後はなんとなく両者とも気恥ずかしくなったので、さっさと食器を片付けてエリザベスに別れを告げ自室へ戻った。


 軽く運動したり昼寝をして過ごしついにその時間が来た。


『お呼び出しをします十三番・十九番・・・二百六十五番はロビー奥の選手控室までお越しください』


 さぁ行ってくるか!行きたく無いけど行くしか無いよね。


 部屋を出るといつものネズミの獣人がいた。


「十三番さん今日は大丈夫そうっすね、よろしくお願いしますよ」


 前回遅刻したせいか僕はネズミの獣人に案内されて選手控室へと向かった。


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