第15話 怪我とネズミと狼と
気が付くと僕はトレーニングルームの端っこに転がされていた。
「うー痛てて、いったいどれ位殴られてたんだろう、うぇっ!ゲホッゲホッゴボッ」
ビシャっと血の塊が口から出た。
「うぇ、なんなんだよ、僕じゃなかったら死んでたからね」
起きあがろうと腕をつくと激痛が走りまた転がってしまった。
左足と左手に体重を掛けると力が入らないどうやら折れているみたいだ。きっと利き腕利き足から先に折られてその後左腕と左足を折られたんだろうな、不死さんが先に右から直してくれたという事かな?
いやな推理をしながら歩けないので壁まで這っていき、木剣を杖代わりにして部屋へ帰る事にした。
その時館内アナウンスが流れ試合の選手の呼び出しがかかり十三番(僕)も呼ばれた。
「うそ、もうあれから一日経ってる感じ?急がないと、いって!」
なんとか木剣を杖代わりにしながらトレーニングルームに入ると血だらけでボロボロの僕は、朝からトレーニングしている獣人たちの注目の的だった。
「どうしたんだアンタ!大丈夫か?」
トレーニングルームをゆっくりと進んでるとトラの獣人が僕の怪我を心配してくれて話しかけてきた。
「なんとか大丈夫だよ、ああ、ついでと言っては何だけど闘技場まで肩貸してくれないかな」
「ああ、別に構わねーぞ、っていうかお前十三番だろ、さっきのアナウンスで呼ばれてたもんな」
そう言いながらトラの獣人が肩を貸してくれた。見た目は厳ついのに優しい。
虎の獣人に聞かれたのでガウル達に絡まれた事を言うと一対一じゃない事に怒っていくれた。
ちなみにこの獣人はトニーと言って、後で聞いた話だが軍の役務としてこの闘技場で腕を磨いているらしい。
僕は半分トニーに抱えられながら闘技場の待合室へ続く扉を潜ると前からネズミの獣人が走って来た。
「十三番さん何やってんすか探したっすよ、呼び出し聞こえてなかったっすか?」
「いや、多分ちょっと死んでたんですいません」
「死んでたっていやいや冗談はいいっす、今から試合っすよ?ってかなんでもうボロボロなんすか!大丈夫っすか?」
「なんとか頑張るよ」
そう言いながらトニーからネズミの獣人に肩を代わってもらい、とにかく控室へ向かった。
「十三番頑張れよ!」
トニーにが僕の左の肩を叩いて送り出してくれたが腕の骨折に響いた。
「ぐぁっ、あ、ありがとうトニー、帰ってきたら一杯奢るよ!」
「ああ、傷に触ったかすまん。期待して待ってるぜ!」
もう一つ締まらない感じでトニーと別れ、控室に入り椅子に座らせてもらい体の調子を確認したがまだ治りそうにない。
「多分もうちょっと時間をもらえたら何とかなると思うけど、どうかな?後新しい服も欲しいんだけど」
ネズミの獣人は多分困った感じの顔をしながら口を開いた。
「時間は本当にギリギリなんすけど後10分位ならなんとかしてみるっす、とりあえず新しい服をすぐ持ってくるっす」
そう言ってネズミの獣人は素早く控室を出て行った。
「ちょっとこれはまずいな足だけでも何とかしたいんだけど」
僕は控え室の床の上で仰向けで大の字に寝転がり集中した。
「左腕は後でいいから左足の骨が真っ直ぐにつながるイメージで治る様に、不死さんお願いします」
10分程するとネズミの獣人が部屋へ飛び込んできた。
「もう限界っす!早くこれに着替えて出て欲しいっす!」
「ありがとう、何とか歩けそうだ」
仰向けのままで顔だけ向けて答えた。
「いやいや全然変わってない様に見えるっすよ!早く起きてくださいよ、マジでもう時間ないんっすよ!」
手を引っ張られ無理やり起こされて着替えさせられた。
「武器は剣でいいんっすね!じゃあお願いします!」
控室からネズミの獣人に追いやられ、重い体を引きずり何とか闘技場へ歩き出した。
『おい何だ!怪我治ってねーんじゃねーか?!』
『フラフラじゃねーか!』
『ふざけんな金返せよ!』
『今日は行けそうだ!すぐしねよー!』
フラフラと進む僕を見て罵声が飛び交っていた。そこへ音楽が流れ出しアナウンスが聞こえて来た。
『機材トラブルにより大変長らくお待たせいたしました。これより第一試合を開催いたします』
一部のお客さんはブーイングを起こしてるけど淡々と試合が始まるみたいだ。空を見上げると太陽の反対側に薄く穴の空いた月が浮かんでる。
「久しぶりだねお月様も」
何となく月に挨拶をして覚悟を決める。
左足は痛いが骨は繋がってそうだ有り難う不死さん、杖にしていた剣を片腕で正眼に構えた。
向かいの扉が開くとまた狼が飛び出して来た。
「また狼か、前と違うところを見せてあげるよ!」
一匹、二匹、三匹、四匹。
「ちょっとちょっと、五匹も居るじゃないか!完全に殺す気だよね。死なないけど」
先頭の一匹が真正面から走って来たのでタイミングを合わせ上段から切り落とそうとすると、ジグザグにステップを踏んで来た。
「クソッ!漫画みたいにそのまま突っ込んで来てよ!」
取り敢えず振り回して牽制すると狼に囲まれていた。
「毎回毎回囲んでくるよね!できたら順番に並んでくれないかな!」
そう言って前の狼を牽制していると後ろから左の
「ぐあぁ!痛っぁい!」
急いで剣を振ると、素早く狼が口を離し離れる。噛まれたところを見ると
「折角不死さんが骨折繋げてくれたのに力が入らない!なんかテレビで見た弱った獲物が狩られてるのそのままじゃないか!」
そんな事を言いながら噛みつきに来た別の狼にタイミングを合わせて剣を振るう。
頭に剣が当たったが相手も様子を見ながら噛み付きに来ているので皮が切れて血が出る程度でまた周りの輪に戻って行った。
「こう言う剣って叩き切る感じなんだね。切れ味悪いから突くくらいしか致命傷を与えられないかもしれなな、いや僕のテクニックのせいかも」
狼が牙を当てに来るのに合わせてこちらも剣を合わせる。
「前より狼の動きがわかる、怪我が無ければもっとうまくやれたのに!」
足をやられているので機動力がゼロだ。
左手の力もまだあまり入らないので両手で強く斬れないし、体を捻って後ろから来る狼を払うのも背中が悲鳴を上げている。
なんかこう戦ってる時にトレーニングを思い出して閃くとかないのかなマジで、あれ?っていうか思い出すとひたすら避ける訓練と筋トレ、そして走ってただけかもしれない。
「トレーニングのおかげで何とか今も体力が持ってるけどねっと!」
飛びかかってきた狼2匹に横凪を合わせる。これ一気に襲ってきたら無理だよ!狼が慎重なタイプでよかった。
だんだん僕も狼も出血量が多くなってきた、客席は時間が経ち賭けが外れた人が野次を飛ばして来る。
そこでカクリと左足の力が抜けてしまった。
「血を流し過ぎた?!」
態勢を崩した僕めがけて狼が殺到する。
開始から時間が経ったせいか左手が上がるようになっていたのが唯一の救いで何とか首をまもり、真正面に来ていたやつは下から突きを放ち、うまく喉に刺さって倒せた。
残り四匹!
ちなみに今は全身噛まれているひどい状態だ。足が片足ずつ噛まれている。
「痛い痛い痛い!噛んだまま頭振るなよまた折れる!」
でもありがたい事に血を流し過ぎたせいかもう痛みが鈍くなっている。
「そして!噛みついてくれてありがとうっ!」
右腕が自由に動くので左腕に噛みついている狼のお腹に剣を突き刺した。
「残り三匹!」
お腹を突き刺した狼が何とも言えない声を上げて血を吐き出して力尽きた。
残り三匹のうちの一匹が腹に食いついているので横から首を突いて殺した。
「残り二匹!」
足に噛みついてる狼の一匹が離れて首に噛みついてきた。
噛まれて首からかなりの血が噴き出して来たが動かない的なら外さない!首に噛みついてきた狼の首を突き刺して、足に噛みついている狼も首を突き刺して殺した。
「骨を切らせて骨を絶つだね、止まってくれないと首とか狙えなかったよ」
あーでもだめだ首からの血が止まらない狼を全部倒したが頸動脈が切れているのか血が止まらない、剣を捨てて押さえてるがどんどん寒くなってきた。
「また死ぬのかぁ、死なないけど」
仰向けに倒れ最後に目に入ったのは、穴の空いた薄い色の月だった。
目が覚めると知らない場所だった。
「おはようございます、調子はどうですか?」
そして横を見るとエリザベスが居た。
「おはよう、ここは医務室?」
「そうですよ、十三番さんは大怪我だったんですよ」
「もう大丈夫だよ」
体を起こして腕を曲げて見せた。
「起きちゃだめですよ昨日は一時心臓が停止してたんですから!」
「それに、なんで試合前にボロボロだったんですか?!昨日ここを出るときは虫歯一つなかったじゃないですか!」
ベッドの上で上半身を起こした僕に詰め寄ってきた。
「いやー、僕もなぜか知りたい位だったんだよね。ちょっと昨日帰り道に暴漢に襲われちゃってね、あははは」
「もう!冗談を言わないでください、ホントに死ぬとこだったんですよ!」
エリザベスはちょっと目に涙を貯めている。本当に心配してくれてたんだと思うと嬉しくなった。
「ありがとう、でももう大丈夫だよ!痛みもないし」
「それですよ!昨日スキャンしたときは頸椎、鎖骨、上腕骨、尺骨、手の指に…もういたるところに罅と骨折があったんですよ!」
いつも持ってる木のボードを見せてくれるが字が読めないし体の絵のいたるところに赤丸がしてある。
「それが今朝スキャンしたときには全部無くなってたんですよ!どうなってるんですか?!十三番さんは魔法でも使えるんですか?!」
「えーっと、教えても良いけど内緒にしてくれる?」
自分の口に人差し指を当てポーズをとる。
「それは内容次第ですよ、ホントに心配したんですからね」
「実は僕この世界の人間じゃないんだ」
なぜエリザベスにこんな話をしているのかわからない。もしかすると真剣に心配してくれるエリザベスに真摯に答えたくなったのかもしれないし、身寄りも何もないこの世界で寂しさを感じてしまったのかもしれない。
話を終えるとエリザベスは泣いていた、そして抱きしめられた。
「秀太さん大変だったんですね!もう一人じゃないですから何かあったら私も力になります!」
そこへ自動ドアが開いてエイドルと獅子顔の獣人が入って来た。
「なっ、お前ら!?そんな仲だったのか!?」
この後エリザベスと二人で必死に否定した。
「そうか、ガウルの仕業か」
試合前の怪我の事を聞かれ経緯を説明するとエイドルと獅子頭の獣人が牙を見せて怖い顔になった。
「あいつら!ふざけやがって!試合に穴を開けるつもりだったのか!!」
獅子頭の獣人が机を叩くと、僕が飲んでいたお茶が少しこぼれた。パワーが半端ないな。
「ガウルめ殺してやる!」
めちゃめちゃ怖いんですけどこの獅子頭の獣人さん。
「まぁ待てよ、殺しても何にもならないし圧力がかかるかもしれない、それより試合をさせようぜ」
エイドルが獅子頭の獣人の肩に手を置いてそう言うと獅子の獣人はエイドルの方を向いて口を開いた。
「でも誰とやらせるんだ?」
エイドルが広角を上げてこっちを見た、まさか…。
「十三番だ」
「いやいやいや、死にますよ?死んじゃいますよ僕が」
全力で否定する僕にエイドルがこちらをジトリとした目を向けて口を開いた。
「死なないだろお前」
「いや、でも痛いし」
「まぁお前の意見はどうでもいい、デッドエンドショートで行こうと思う」
「ふむ、あとガウルの取り巻きはどうするんだ?」
「そいつらはガウルと連帯だ」
エイドルと獅子の獣人で勝手に話が進められて行くので仕方なく僕は質問することにした。
「ところでデッドエンドショートって何ですか?」
すると簡潔にエリザベスが答えてくれた。
「短い武器を持って死んだ方が負けのルールです」
「ひえっ!死んだほうが負けって、降参は?!」
僕とエリザベスが話していると獅子の獣人との話しが終わったのかエイドルがこちらに割り込んできた。
「十三番、体はどうだ?」
ベッドから降りて屈伸をして腕を回してみた。
「もう大丈夫みたいです、お腹がすきましたね!」
「よし飯を食ったらトレーニングに行こうか」
おもむろにエイドルに肩をポンポンされた。
「あいたたた!肩いたたた!やっぱまだ折れてますよこれ」
僕が大げさに痛がっているフリをするとエイドルがエリザベスを見た。
「完全にくっついてました、虫歯一つなかったです」
ゴリラー(エリザベス)ーーーーーーーーー!心の中で絶叫した。
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