第9話 井戸と着替えと変態と

「そしてモニョはショウスケといつまでも幸せにくらしましたとさ」


「うおぉぉぉ!よかったじゃねーかーモニョー!」


「ラルゴうるせーぞ!」


 あれから1週間が過ぎた。


 ラルゴと過ごして感じた事は意外と馬が合うと言う事である。


 今は日本で見たアニメの話を聞かせてあげている所だが、年齢も僕が年上だということもわかって今では仲が良い友達みたいだ。


 周りの囚人曰く切れると手が付けられなくなるらしいが別にここで切れる要素もないし僕も切れさせるつもりもない、それに人との会話に飢えていたのでむしろありがたかった。


 食事は毎日スープとパンであんまり美味しくはないがジャングルを経験した僕からしたらレストランの様だった。


 なんせ本当に美味しそうに食べるからちょっとラルゴが分けてくれようとしたくらいだ、丁重にお断りしたが。


 そんなこんなで時々取り調べで同じ事を聞かれるだけの仕事で、このままここに住みたいとさえ思っていたら今日看守に呼ばれ牢屋から出ることになった。


 「兄弟きょうだい気をつけてな何かあったら俺に声をかけてくれよな!」


 「ありがとうラルゴの兄貴!」


 なんか三下感あふれる挨拶をして牢屋の外に出ると、木で出来た手錠を嵌められ入ったことの無い奥の扉に通されるとそこは中庭だった、真ん中に井戸があり周りに洗濯物などが干してあった。


「井戸の水を汲んで体を洗え!服も洗ってこれに着替えろ!」


 今日の看守はリザードマンだったので喋ると厳しく注意される為、仕方なく無言で手枷を外してもらい服を脱いで冷たい井戸の水で体をゴシゴシ洗い若干汚れた布で体を拭いた。


 ああ、石鹸が欲しい。


 まぁでもやっぱり体洗うと気持ちいいね、しかもさっぱりした気分になった上に新しい服まであるとか悪くない。


「っていうかあれ?あれ?袖が無いしマントかな?ズボンもない?あれ?穴が?」


 着方がわからなくてあたふたしているとリザードマンに注意される。


「穴に頭を通すだけだ!」


 こ・れ・は!貫頭衣ですね!やばいせっかく文明的な生活してたのにまたランクダウンするのか。


 初めての貫頭衣に頭を通し腰の紐を結んで縄文人が完成した。


 それから又手枷をつけられて、さらに奥の扉をくぐると外に馬車が用意してあった。荷台に檻付きだけど。



 また久しぶりの座った姿勢でドナドナされて辿り着いた先は異世界でも今まで見た中で一番立派な石作りの建物だった。


 きっと建物の前に回れば看板とかついてるんだと思うんだけど、裏口から檻ごと搬入されたので分からなかったが。


 狭い檻の中でウトウトしていると他にも荷物や檻が運び込まれて来た。


 周りにある檻の中には真っ黒でエナメルの様な質感をしたトカゲや、七色の毛をした鶏みたいな鳥や何に使うかわからない美術品のようなものがあった。


「何ここ?倉庫?」


「ここは競売場だ」


 独り言に突然後ろから反応があり、びっくりして振り返るとそこには短めの白髪に白い顎髭を蓄え、左目に革の眼帯をした厳ついオッサンが腕を組んで偉そうに胡座をいて座っていた。


 ちなみに檻の中で顔から下は僕と同じ貫頭衣だけど。


「ここは獣人の国最大の競売場だ!」


 僕がびっくりして固まっていると、もう一回言ってきた。それとも大事な事だから2回言ったのかな?


「そ、そうなんですね、ありがとうございます」


 見た目的にもヤバそうだからここは丁寧に対応するのが得策だと思う。顔とか腕とか見えているところは傷だらけで怖そうだし。


「私の名前はジェイムスだ」


「あ、シュウです。宜しくお願いします。でも競売って事は僕達はこれから売られるって事ですか?」


「そうだ、色々な獣人が此処には居るからな奴隷として販売される」


 異世界奴隷システム来たー!でも雇う方じゃなくて奴隷の方かぁ、なんか期待と違うないつも。


「それにしてもジェイムスさんはどうしてここに?やっぱり捕まったんですか?」


「違う、自分で来た」


「え?そうなんですか??」


「そうだ」


 自分で?何で?なんか潜入捜査的な?筋肉すごいし腕とかも深い傷があるし歴戦の戦士とかなのかな?


「潜入捜査とかですか?」


 少し小声で聞いてみたが先ほどと変わらず無表情で返事が返ってきた。


「違う、獣人の奴隷になるのが興奮するからだ!」


 え!?興奮?聞き間違い?いや、よく見たら少し頬が赤い気がする。やばーい、完全に変態さんじゃないですかやだー!話を変えよう。


「そ、それにしてもその体の傷すごいですよね、ジェイムスさんは傭兵とかだったんですか?まさに歴戦の戦士って感じですよね!」


「いいや!私は剣を持った事は無い、これは前のご主人様に付けて頂いた傷だ!」


 ガチでやばい人だった。


 こんなにムキムキで傷だらけの眼帯をしてる強面のくせにど変態のジジイってもうだめだろ。


「えーっと、ジジイさんは何処から来たんですか?」


「おっと急に敬意がなくなった感じだな、だがそれがイイ!私はルーガス帝国から来た」


 もうあんまり会話したくなくなってきたが貴重な人間の国の情報を仕入れたいし、とりあえず前半はスルーしよう。


「ルーガス帝国と獣人の国って何故戦争してるんですか?」


「流行ってるからだよ」


「流行っている?」


「そうだ、今人間の国では獣人のペットがブームでな、捕まえて飼うんだよ」


「は?何で?え?それだけのために?」


「そうだ、人間とは罪な生き物なんだよ、先代までの皇帝は獣人を保護する方向で動いていたし人権を認めていた、しかし代が変わって新しい皇帝は獣人の人権を認めなかった。ただそれだけの話だ。まぁそのおかげで私も獣人の国で人権を踏み躙られようとしているがね!」


 髭面のジジイが嬉しそうに狭い檻の中で頬をまた染めている、気持ち悪い。


「因みに、ここから人間の国へはどれくらいで行けますか?」


「そうだな渓谷を越えることができたら一週間だ。海ルートで行けば一度港町へ行かないといけないので一ヶ月と言った所か、しかし渓谷は戦争中だから通過するのは難しいかもしれないな」


「他のルートはないんですか?」


「うーん、私の知っている限りではこの二つだね後は死ぬ覚悟で山越えしかないな、この国は半分を海、そして残りの半分を険しい山脈に覆われているんだ。まぁだからこそ人間の侵略に耐えてるんだがね」


「海から一気に攻めたりしないんですか?」


「海は大きな魔物も多く船団を組むと狙われやすいんだ、それにこの国は古代の遺跡の城壁を元に町を作っているから攻めたとしてもかなりの労力がかかる。そして攻め落としたとしても旨みもないからな、ただの獣人の奴隷が増えるだけだし増え過ぎると流行りも無くなる。人間側としても今くらいの小競り合いが丁度いい需要と供給のバランスって訳だ」


「人間のわがままで戦争をしてるって事ですか?」


「まぁそう言うことだ、得てして戦争なんてそんなもんさ、獣人たちも元から交戦的な種族で喜んで戦っている部族もいるしな、逆に人間という敵ができて一丸となっているんじゃないか」


 それから色々話をして分かったのはジェイムスさんは変態だけど意外と学がありそれ(変態)以外のことは普通だということ、色々話を聞いたが人間の国は思ったより魔法科学が発展してること、剣と魔法は有るけど普通に魔導列車などが有り獣人の王国とは隔絶した魔法技術力があることがわかった。


 戦争をしてるのも帝国本体ではなくこの国に接している貴族が獣人狩りのために傭兵を雇って攻め込んでるらしい。



 色々喋っているとどんどん荷物が運び出されていく。


「どうやらオークションが始まったみたいだ」


「これからどうなるんでしょうか?」


「獣人の奴隷になるか買われなければ闘技場で国の戦闘奴隷になるな、まぁ大抵の商品は誰かが買うから心配はないだろうがな」



 それからしばらくしてこの部屋に帰ってきたのは僕だけだった。


「あんな変態まで売れるのに売れ残るとか、それが一番ショックだよ!」


 後で知ったが獣人は強さにこだわりが有り、彼らからすれば黒髪の日本人の僕は軟弱で毛の少ない病気の猿の獣人に見えるらしい。


「あー、闘技場行きかぁー」


 頭を抱える僕を無視してまた荷馬車に積まれ運ばれることとなった。


 しばらくして僕が辿り着いた所は城壁と同じ素材で出来た円形の建物で、屋根がドーム場に膨らんでいた。


 うんって言うかこれドームだね。この街は古代遺跡を利用してるって言ってたからこれはそのまま遺跡を使用してるのかも知れない。


 大きな門をくぐると中は完全に近未来風の建物だった。


 これは違和感がすごい、まるで病院の廊下の様な作りで天井が光っている。その中を貫頭衣を着た僕が進んでいくとか違和感しかない、そしていくつかのドアを通ったが驚くことに全て自動ドアだった。


 そしてたどり着いた棚の並んだ部屋へ連れて行かれ、そこで服を貫頭衣から以前着ていた様な手首や裾が紐で縛って調整できる服に着替え、手首にガラスの様な素材のブレスレットを嵌められた。


 その後、部屋の奥の自動ドアを抜けると広いホテルのロビーの様な場所に出た。


 そこにはソファーで寛いだりドアからドアへせわしなく移動する獣人たちがいた。僕を連れてきたリザードマンがその中の一人に声をかけたあと、僕にここでじっとして待つようにと言われ忙しそうにドアから出ていった。

 

 しばらくぼーっと色々な獣人を眺めて過ごしていると急に後ろから声をかけられた。

「お前が新しい奴隷か?名前は?」


 後ろを見るといつの間にか壁があった。


 いや壁というか岩だった。身長170ちょいの僕より頭二つ分はでかく、タンクトップの様な服を着ているその肩からはまるで岩で出来た様な筋肉が飛び出していた。そして顔や体に無数の傷跡がある恐ろしく厳つい獅子の獣人がそこにいた。

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