第10話 犬と食事と狼と

「何だお前は、口が聞けないのか?」


 あまりの顔の厳つさに固まってると再度質問をされたので急いで答えた。


「あ、えっと、シュウです、よろしくお願いします!」


 僕の返事を聞いた獅子の獣人が手に持ったボードに何かを書き込んだ後、顔を上げてをこちらを見ながら口を開いた。


「お前は今日から十三番だ。あの部屋を使え」


 そう言って指さした先には何かの文字が大きく書かれた白い扉があった。あれが十三か、文字は読めないなやっぱり。


「便所はあそこ、身体を洗うのはあそこで食堂はあそこだ使い方は」


 周りを見渡しそこで見つけた猿の獣人を呼んだ。


「おいエイドルお前がコイツに色々教えてやれ仲間だろ」


 そう言って猿の獣人と二言三言会話をして獅子の獣人は忙しそうに何処かへ行ってしまった。


「チッ、クソッ」


 舌打ちしながらかなり嫌そうに肩を怒らせて近づいてきた猿の獣人は獅子の獣人に比べて体の線は細いが身長も手足も長く、よく鍛えられ引き締まった体をしていた。まぁ顔は猿だけど僕よりでかいし、戦えば僕が余裕で負けそうな雰囲気だった。


「俺はエイドルだ一度だけ説明するからついて来い」


 手招きしてどんどん行ってしまうエイドルを小走りで追いかけながら僕は返事をした。


「あ、はい!ありがとうございます。シュウと言いますよろしく願いします」


 すると歩きながらチラリとこちらを見て嫌そうに言った。


「名前は覚える気はないぞ人間、基本的にその番号はな毎週違うやつだ、どうせお前も来週にはここには居ないだろう」


「え?どう言う事ですか?」


「つまりその番号のやつは毎回試合に出たっきり返ってこない、だからお前に色々教えたって無駄だって事だ!だから全部一度しか説明しないから覚えろよ人間」


 言うだけ行ってずんずん歩いて行くエイドルにもっと詳しく聞こうとしていると、少し離れたソファーから黒い毛の片耳が切れた狼の獣人がニヤニヤして声をかけて来た。


「よぉエイドルお前の弟か?紹介してくれよ」


 するとエイドルはチラリと狼の獣人を見て嫌そうに言った。


「うるせぇ、コイツは新しい13番だ!全く何で俺がこんなことしなきゃ行けないんだ」


 エイドルが嫌そうに狼の獣人に返事をし、それ以上話す気はないオーラを出していると黒い狼は僕の方を見て口を開いた。


「お前新しい13番か!まぁもう会う事は無いかも知れんがよろしくな弟くん!ぎゃははは!」


 何人かの獣人がこちらを見て一緒に笑っている。


 どうやら猿の獣人は人間と仲間扱いされるのが侮辱の様だ、だからエイドルは嫌そうだったんだな。


「あの、なんかすいません」


 馬鹿騒ぎしている狼達を無視して先を行くエイドルを追いかけて何となく謝ると、こちらを見ずに片手を上げ口を開いた。


「構わんガウルはいつもの事だあんなのはほっとけ」


 そう言ってスタスタと歩いて行き、トイレの使い方とシャワーの使い方を簡単に教えてくれた。


 それにしてもどうやらこのコロシアムは古代魔法時代に作られた物らしく中の設備もまだ生きているのでトイレも水洗だ!シャワーも地下水を自動で組み上げて使える様になっているらしい。詳しい事はエイドルに聞いてもわからないと面倒くさそうに言われた。


 その後一通り教えてもらい今僕は十三番の部屋で一人で横になっていた。


 暫くするとご飯の時間になるらしい、エイドルが時間になればわかると言っていたがどうわかるんだろう。


 それにしてもこの部屋は古代魔法時代のシステムが生きていて天井が光っていて壁のスイッチでオンオフが切り替えられる様にできていた。日本の自分の家より豪華だ。


 ほかにもこの部屋にはロフトベッドとその下に机とクローゼットがあるだけのシンプルな狭い部屋だが逆にその狭さが落ち着く!悪くない悪くないぞ戦闘奴隷!


 暫くすると建物全体にチャイムがなったので学校を思い出した。どうやらスピーカーまでついてるみたいだね、これが食事を知らせるチャイムかな?



 早速さっき説明された食堂の方へ行ってみると、思ったより広い空間で大学の食堂を思い出した。


 みんな並んで券売機の様な機械へ順番に腕のバングルを押し付けていっている。


 見ていると選んだメニューによってカードの様なものが出てきて、それを食堂のおばちゃん(男か女か区別はつかないけど)に渡せば食事が出てくるみたいだ。


 周りを見ればステーキを食べてる人やお酒を飲んでいる人もいる。かなり近代的な建物で自然と食事にも期待が高まってしまう。


 自分の番が来て券売機にリングを押し付けると左上のランプのボタンだけが一つだけ光るので、それを押して出てきたカードを食堂のおばちゃん(?)に渡してみた。


 ちなみにおばちゃんは熊の獣人だった。エプロンがピンクだったので多分女性ではないだろうか。


「はいどうぞ」


 そう言って出てきたのは大きなどんぶりに入ったごった煮スープでパンがついていた。


 トレー的な物がなくて若干戸惑っているとおばちゃんが僕の肩を叩いて声を掛けてきた。


「あんた初めて見る顔だね!トレーは取ってから並ぶんだよ。それともっと勝ってポイントを稼げば好きなもんを食べれる様になるよ、それにしてもあんた小さいんだからいっぱい食べな!」


 そう言ってお盆を出してくれたついでに丼のスープを継ぎ足して山盛りにしてくれた。こう言う感じのおばちゃん(?)って世界共通なのかな。


「ありがとうございます!」


 お礼を言って早速空いてる椅子に座り食べて見る事にした。


 スープを一口食べると強い塩味を感じたが、どうやらみんなトレーニングをして汗をかくので塩分が多いみたいだ。これはコレで味が濃くて悪くない。


 具材もよく煮込まれていて中には何かのお肉をメインとしてにキャベツの様な野菜、にんじんの様な野菜、じゃがいもの様な野菜などが刻んでいれてあり口当たりも良くパンをつけて食べても美味しかった。


「ご馳走様でした」


 手を合わせて食べ終わり、ふと前を見ると耳の切れた黒い狼の獣人、ガウルがこちらを見ていた。


「おい人間、そんな量で足りんのか?俺がご馳走してやるよ」


 そう言って頭からスープをかけられた。


 ニヤついてる獣人にムカついたので言い返す事にした。


「これ口つけました?僕ちょっと犬が食べた後の餌は無理なんですよね」


 すると言い返されると思ってなかったのか明らかにガウルの雰囲気が変わった。


「はっ犬だと!?誰に言ってるんだ!お前は死にたいのか!」


 ガウルが僕の胸ぐらを掴んで鼻の上に皺を作りこちらを睨んでくる。


「殺せるもんなら殺して欲しいね、出来るんですか?ただのワンちゃんに」


「殺す!」


 僕の調子が良かったのは口喧嘩までだった。


 正直現代に日本に生きていて殴り合いの喧嘩とかした事ないし不死身だからつい喧嘩を買ったが、もし不死身じゃ無かったらすごい速さでかけられたスープ食べてたと思う!


 パンチが全然見えなかった。胸ぐらをつかまれたまま数発殴られて足に来て膝から崩れ落ちたところを横から蹴られ、覚えているのはそこまでだった。獣人の身体能力舐めてたよ、パンチ早いし片手で持ち上げられたし無理だ。


 気がつくと次の日の朝、自室のベッドで目が覚めた。


「あれ?いつ寝たっけ」

 間抜けなことを言いながら起き上がると、服がかなり破れて血の跡がすごい。でも傷が治ってるからそんなにすごい傷じゃ無かったのかな?いまいち傷が治るシステムがよくわからない。


 とりあえず新しい服が貰えないだろうかとエイドルを見つけて声を掛けるとおばけでも見たようにびっくりされた。


「うわっ、お前生きてたのか?昨日あんなにボコボコだったのに、俺は死んだと思ってたよ」


「大丈夫でした。僕意外と丈夫なんですよね」


 エイドルに昨日の事を聞くと、どうやら開始早々ボッコボコにされ倒れた後も蹴り続けるガウル、周りのみんなは死んだと思ってたみたいで、そこにたまたま獅子の獣人が来てガウルを止めエイドルが呼ばれ僕を部屋に運ぶ様に指示されたみたいだ。


「昨日運んでくれたんですねありがとうございます」


「オウ、それは構わんが、お前見た目と違って意外とタフだな」


 呆れた感じの目を向けられたがその中には少し興味を持ってくれている様な感情もあった。


 そして服は新しいのが貰えるみたいなので早速もらい、ついでに昨日入れなかったシャワーを浴びることにした。


「うわーやばい、あったかいシャワーが浴びれる日が来るとは思わなかったよ!控えめに言って最高だね!」


 正直ここは天国なのかもしれない。


 それにしても獣人たちは暖かいお湯を浴びる文化がない様なのでほとんど人が水を浴びていた。持ったいない。


 後で聞いた話ではこのシャワーやトイレといった文明の利器達は古代魔法時代の遺跡ではそんなに珍しくないらしい、ただここのように使用できる状態で発見されるのが珍しいらしい。まぁ獣人達にはそんなにありがたがられてないので宝の持ち腐れかもしれないkど。


 僕はシャワーでスッキリした後、ロビーの壁に設置されているウォーターサーバーの水を汲んで飲んでいると一番会いたくない奴と目があった。


「お前まだ生きてたのか!」


 ガウルが牙を剥いて射殺す様な目でこちらを見ていた。


「ああワンちゃんか、お前がじゃれ付いて服ばっかりビリビリにするから、着替えが必要になってしまったじゃ無いか、本当に迷惑だからじゃれつくのやめてくれない?」


「お、お前、次こそ完全に殺してやる!首を引きちぎってやる!」


 そう言って飛びかかってこようとする瞬間声が掛かった。


「ガウル!止めないか!」


 獅子顔の獣人だった。


「その人間は国の奴隷だ!お前が勝手に壊す事は認めん!それ以上するならお前を処罰する事になるぞ、お父上の耳にも入ることになるぞ」


 ガウルが少し神妙にしているので追撃しよう。


「そうだぞすぐ手を出して、反省しろよ、ほらお座り!」


「なっ」


 ガウルが驚いた顔をしてこっちを見てすぐすごい怖い顔になった。


「お前も不用意に挑発するな!」


 こっちも獅子の獣人に怒られてしまった。


「二人とも、もう会話をするな!これ以上争う様なら二人とも罰を与えるからな!」


 メチャメチャ睨んでくるガウルを尻目に僕は先に返事をした。


「はい、向こうが絡んで来なければこちらは問題ありません!」


それを聞いて獅子の獣人がガウルの方を向いた。


「ガウルもいいな」


 渋々と言った感じでガウルが頷いて口を開いた。


「ああ、わかった」


「こんなくだらない事に時間を取らすな!行け!散れ!」


 そう言い残して獅子の獣人が足早に去っていった。


 僕は解散宣言があったのでまた絡まれる前にさっさと離れる事にした。


 そう言えば朝ごはんをまだ食べてないので食べに行こう、ワンちゃんがずっとこっちを睨んでるけど気のせいだろう。



 今日のメニューにワクワクしながらブレスレットをかざすと、昨日と同じ感じにランプが光おばちゃんの所に行くとまさかのごった煮縛りだった。


 まぁ食べるんだけどおばちゃん(?)が昨日は大変だったねと、こっそりベーコンをくれたのでかなりテンションが上がった。


 ここの食べ物だけ何とかならないかなぁ、まぁでもジャングルと比べるまでも無いか。


 その時不意に斜め前の虎の獣人が食べてるお皿のステーキに目が奪われた。


「あれは!兎肉!!」


 それは1匹まるごとの赤身の肉、何とまさかの兎肉だった。


 急いでごった煮をかき込んだ僕は、エイドルを探して食堂のシステムをくわしく聞くと面倒臭そうに答えてくれた。


 この闘技場では試合をするとファイトマネーがブレスレットに振り込まれるシステムになっていて、その振り込まれる金額も試合の人気度や相手の強さ等で変わってくようになっており、ポイントがある程度貯まると奴隷は自分を買い上げることができて市民権が得られるらしい、強さ至上主義の獣人らしいシステムだった。


 そして兎肉は高いらしくあまり食べてる人はいないみたいだ。ちなみにあのスープとパンは無料で、新人やお金のない人への救済措置だった。まぁあれだけでも悪くは無いが。


「そんな事より明日はお前の試合だ、せいぜい頑張るんだな、今までの人間とは違う感じがするしな」


「明日試合!?じゃあそれに勝てばスープ以外が食べれるんですか?」


「あ、ああ、そうだな、お前は食いもんの心配ばっかりだな、人間に見えて本当は豚の獣人なんじゃねーか?」


 少しうんざりした顔でエイドルが白い目を向けてくる。


「完全に人間ですよ!それより明日の試合ってどういった形式なんですか?」


「それは俺も知らねーよ、毎回違うからな大抵13番は一番最初の試合だ。まぁでも大体がデッドオアアライブだ」


「デッドオアアライブ?」


「そうだ、どちらかが死ぬまでだ」


「降参とか無いんですか?」


「無い、だからさっさと明日に備えて体動かすなり休むなりしろ」


 そう言ってエイドルは僕にしっしと犬を追い払うように手を振るとめんどくさそうに自分の部屋へ帰っていった。


「特にやる事ないし探検でもいってみようかな」


 誰に言うとでもなくつい独り言を呟き施設を探検する事にした。


 それから色々歩き回ってわかったことはこの腕のブレスレットが自動ドアのキーになっており、自分の権限のある区画しか出入りできない様になっている事がわかった。


「っまそりゃそうだよねこのまま出ていけそうだもんね」


 結局自由に行けた場所は自分の部屋とロビーに食堂、シャワーにトイレ、あとは噴水がある中庭(屋根付き)とトレーニングルームだけだった。


 どこも広くストレスを感じない空間になっていたが最後に入ったトレーニングルームはかなりの数の獣人が筋トレをしていた。


「凄いな普通に近代的なジムだ。しかも自動販売機まであるし!」


 驚いた事にトレーニングルームは古代魔法時代の機械らしく普通にジムだった、ちなみに自動販売機は多分ポイントの関係で買えなかったが。


 トレーニングマシーンは地球でもした事が無いのでちょっとテンションが上がりとりあえず片っ端から筋トレをしてみる事にした。


 飽きっぽく次々機械を変えて筋トレをしていき胸筋を鍛える機械を使っている所で声をかけられた。


「君は13番だろ?」


 声のした方を見ると猫の獣人が立っていた、ニアさんは茶虎柄だったがこの人は三毛だった。


「はい、そう呼ばれてるみたいです」


 僕が返事をすると猫の獣人が右手を出しながら口を開いた。


「僕はダッシュだ。昨日と今日見てたよ、ガウルに向かって啖呵切ってたね意外とやるじゃないか!昨日あんだけボコボコにされてもう何もないの?君すごいね!どうなってるの?」


 僕は握手を返してダッシュの疑問に答えた。


「いえいえワンちゃんがじゃれ付いて来ただけですよ」


「あはははは、ガウルを嫌ってる奴は多いからねスカッとしたよこれでも飲んでくれよ!」


 そう言ってさっき買えなかった自動販売機のジュースを渡してくれた。


「さっき買おうとして買えなかっただろ見てたよ、まぁまた明日生き残ったら一緒に筋トレしよう!」


「あ、ありがとうございます」


 お礼を言うと牙をキラリと光らせながら別の機械へと帰っていった。三毛猫のくせになかなか男前な奴だった。


 早速開けて飲んでみよう、見た目は瓶に入っていて蓋がコルクだ、そんなに強く閉めて無いようで指で抜けた。


 液体はオレンジっぽい色をしているが味はどうだろう。知らない人にもらった飲み物いきなり飲むのもどうかと思うけどまぁ大丈夫だと思う不死だし!


 そんなどうでもいいことを考えながら口に含むと、まず優しい甘みがやって来てそのあと鼻から柑橘系の風味が抜け、飲み込むと舌に少し塩の味が残り柑橘系の特有の苦味も感じる。


 これは美味しい、スポーツドリンクの様な感じだけど天然のフルーツを使ってるのか爽やかな風味だ。まぁこんな世界だから工場で作られてるわけないよね。


 それから僕は大体のマシーンを制覇して、汗をかいたのでシャワーを浴び、この飲みかけのジュースを持ってあとはゆっくり部屋に引きこもる事にした。


「あー、これは完全にニートだなぁ、試合がなければもっといいのになぁ」


 一人ベッドに寝転がり文明を全身に感じていた時、あのチャイムが聞こえて来た。晩ご飯の時間だ!

 またおばちゃんにおまけしてもらいお腹いっぱいでベッドに寝ころび幸せな夜を迎えた。





 次の日の朝ご飯を食べたあと部屋でゴロゴロしてると館内のスピーカーからアナウンスが聞こえてきた。


『皆様おはようございます、本日の試合のお呼び出しを致します13番、23番、24番・・・

以上呼ばれた番号は選手控室までお集まりください』


「おっと呼び出しがかかった。それにしても結構な人数がよばれたね」


 僕は皆んながゾロゾロ向かう方へ付いて行くと昨日開かなかった大きな自動ドアが開き、そこへゆっくりと一緒に続いて入っていった。

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