第5話 小鬼と林檎と防衛と

 やばいやばい、あのサイズの人型はキツイ。


 木にしがみついて気配を殺しているが、幸い雨の為見つからなさそうだ。


 穴に落ちたゴブリンがギャワギャワと騒いでいると茂みの中からもう2匹出て来た。


 そして穴に落ちたやつを引っ張り出して血だらけの仲間を連れて茂みに消えていった。


 僕はそれを息を殺して見送った後もしばらく動けなかった。


 あれはヤバイ何がヤバイってもう語彙力が無くなるほどヤバイ。


 仲間を助ける知識がある生き物と戦うなんてゾッとする話だ、集団で来たら勝てる気がしない。


 十分な時間を木の上で過ごして、冷え切った体を引き摺り拠点へと帰った。


「焚き火、あったかい、僕、うさぎ焼く」


 さっき採った林檎みたいな実を味見すると少し酸味が強かったので料理に使う事にしよう。


 スモークしてある兎肉が時間の経過で肉の臭みが出てるかもしれないので、林檎の半分を石ですり下ろしてお肉に揉み込み、残りの半分は石の上で焼いてデザートにする事にした。


「出来たー!林檎で仕上げたホーンラビットの串焼きと石焼きリンゴ完成です!」


 ちょっと葉っぱの上にツノを一緒に飾り付けて雰囲気を出してみた。


「早速頂きます、んー!」


 口に入れると林檎を焼く事によって出た優しい甘みと少しの酸味がまずやって来て、その後スモークする事で味が濃くなっている兎肉の旨味が押し寄せてくる、時間をおいた事で肉の臭みが出る事を心配したがリンゴの風味がそれを消してくれて美味しい!


 デザートの焼きリンゴは甘味が増して食感も優しくて美味しい。久しぶりの甘味でより美味しく感じる。


 やっぱり新鮮なお肉を焼くのが1番うまいなぁ、でも分けて食べたいしやっぱ冷蔵庫がいるね。


 さて兎肉で癒されたがゴブリンの脅威が無くなった訳じゃない、何か対策しないと駄目だ。


 とりあえず雨が止んだのでバトルアックス(仮)を使って薪として持って来た物やその辺に生えてる細めの木を切って地面に等間隔に差し込んでいく。


「兎林檎パワー!」


 テンションを上げながらクルリと小さく拠点を囲んでさらに横に棒を通して蔓で巻き柵を作る。


 1メートルちょっとしか無いのでまぁ多分あまり意味はないかもしれないがないよりマシだ、何もせずにブルブル震えている事は出来ないしね。


「後は出入り口か」


 棒を2本ずつ50センチ幅に突き立てて、四角く組んで作った扉を挟んで横にスライドさせて出入りする扉を作った。


「これはまぁ体当たりされたら一撃かもしれないけど、寝てる間にやられるのを防げたらいいなぁ」


 さらに柵自体に草や葉っぱを引っ掛けて中が見えない様に秘密基地化して行った。


 バトルアックス(仮)が有ったので予想より早くできたかと思ってたが終わったのは太陽が登り切った後だった。


「うーん、やっと晴れたなぁ、太陽久しぶりだね、それにしても壁が周りに有るだけで何でこんなに落ち着くんだろう、もっと早くやっとけばよかったよプライベートスペースは大事だね!」


 今日も兎の罠だけこっそり見にいこうかな兎食べたいし。


 恐る恐る罠を調べにいくと、罠は落ちた跡があるのに獲物は無く、その周りには子供くらいの足跡があった。


「マジか、これゴブリンの足跡だよね、横取りされた?!」


 やばいムカつく!こうなったらこの穴の周りに落とし穴を作ってゴブリンがかかる様にしとこう!30センチくらいの穴を掘り足が片足入ったら中の木でできた槍が刺さる様にして、兎の落とし穴も元に戻しておいた。


「この辺の罠はもう駄目だな、こっち方面は諦めよう」


 とりあえず穴を掘った時出てきた粘土を持って拠点へと帰った。




「さて何作ろうかなぁ?やっぱり土器といえばツボかなぁ、水を溜めたり色々使えるしね」


 蛇水で粘土をこねくり回し試しに深い皿を作って焚き火に入れた。


 焼けるまでに次は壺を作ろう。壺と言ってもどっちかというとバケツに近い口が広がった感じにしかできなかった。


 とりあえず壺は焚き火に入らないのでその辺で乾かしてその間に探索へ行く事にした。


 森の中を歩いてると木にぶら下がってる蛇を見つけた。


 今日は噛まれない様にこっそりと近づいてバトルアックス(仮)で一撃で首を落とす事に成功した。


「もう二度と噛まれたくないからね!」


 捕まえた蛇は黒っぽい色で長さは1メートル位だったが結構太さがあった。


「蛇水筒が限界だったからちょっとありがたいなぁ、まぁ土器が出来るまでの繋ぎだけどね!」


 そのあと川へ行き蛇を解体し新しい皮に水を入れて薪を集めてると、今日はホーンラビットとは遭遇しなかったが20センチくらいのトカゲも捕まえたので拠点へと帰る事にした。


 今日は久しぶりの蛇肉かぁ、正直兎肉で口が贅沢を覚えてしまっているので残念な気分だ。


「まぁでも食べないって選択肢はないもんね」


 気を取り直して蛇を解体していく。


 前と違ってナイフ(石)があるだけで捌きやすさが全然違うな。


 焼き上がった蛇にかじりつく。


「うんうん、こんな味だったね小骨が多くてカルシウムがたくさん取れそうな味だ」


 ついでにトカゲも焼いて食べよう。内臓をとり串を刺して皮ごと焼いてみる、これは意外と良い匂いがして来た。


「いただきます」


 少し焦げた皮を剥いて白い身を指でちぎって口に入れると、臭みは無くかなりジューシーでうまい。


 小骨が硬く食べにくいが、最近赤身の兎肉か蛇しか食べて無かったので油が乗ったお肉は久しぶりだった。


「蛇より全然美味しい、期待してなかったから逆に嬉しい結果になったなぁ」


 食べ終わりふと空を見ると穴の空いた月がこちらを見ていた、毎日薪拾いと水や食べ物の確保で只々時間が過ぎていく、このままじゃ別に異世界に来た意味がないなぁ。


「とりあえずいかだを作って川を降ってみようかな?海に出るかもしれないし、まぁ明日の事は明日考えよう」


 寝不足気味だったのでまだ暗くなったばかりだったが直ぐ意識を手放した。



 夜ガサガサと草むらをかき分ける様な音に気が付き目を覚ました。


 穴が空いた月はかなり移動しており眠りについてからかなりの時間が経っている事を教えてくれた。


「え?なんの音?」


 音のする方を見て僕は飛び起きた。


「ゴブリン!」


 そこには周りの柵の葉っぱをかき分け中に入って来ようとする2匹のゴブリンの姿が目に入った。僕は咄嗟に手元にあった槍(ラビットホーン)をまだ見えてない顔の位置へ突き刺した。


 すると槍はゴブリンの喉を貫き引く抜くとゴブリンはそのまま後ろに倒れて行った、そのまま隣のゴブリンにもガムシャラに突き刺すと腕に刺さり怯んだところでもう一度突き刺すと、お腹に刺さり後ろに下がったと思うとそのまま逃げていった。


「はぁはぁ倒せた、ゴブリンを倒した!」


 昨日作った葉っぱの柵のおかげでゴブリンからはこちらが見えづらく、その隙に内側から槍でつくという作戦でなんとか退けた。昨日柵を作った自分を褒めてあげたいな。


 それにしてもゴブリンはもしかして匂いとかでここに来たのかな?


 「うわぁ、それにしてもこの死骸どうしよう、食べれなさそうだしなぁ流石に人型は抵抗があるな」


 ここで腐られても嫌だから埋めるか。


「仲間なんだから持って帰ってくれたら良かったのに」


 幸いここ数日の雨で地面も柔らかく、ゴブリンを埋めるくらいの穴ならすぐ掘れるだろう。拠点から少し離れたところに穴を掘って埋めているとわき腹が急に熱くなった。


「熱っつ!」


 わき腹を押さえると汚い棒が生えていた。


「え?!何これ?!」


 棒の先にはゴブリンが付いていた。


「うわぁぁぁぁ!」


 後頭部を何かで叩かれて僕はそのまま気を失ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る