第4話 蛇と兎とゴブリンと

「いたっ!いたたたっ」


 全身に走る針を刺す様な痛みに強制的に目を覚まさせられた。気を失っていたのか、そう言えば蛇に噛まれたんだった。


「うぅ、なんか全身痛い、それに体が砂っぽい顔にもいっぱいついてる、ぺっぺっ、えっ蟻?!」


 全身の刺す様な痛みは蟻がたかっていたからだった。服を脱ぎながら急いで全身の蟻を手で払い除けたが、まだ取りきれないので蛇水筒から水を頭に振りかける。


「うわぁぎぼぢわるいぃ」


 それでも蟻が残っている気がしてガムシャラに手足をばたつかせて体を払う。


 体の至る所に噛み跡があり、ふと足元をみると焚き火も完全に消え、狩ったはずの蛇も骨だけになっていた。


 「どんだけ気失ってたの?まさかまた死んでた?」


 途切れている記憶に気を失う前のゾッとする感覚が蘇ってくる、一体いったい蛇の毒にやられてどれくらいの時間が経ったのだろうと思い空を見ると、月が高い位置でまるで穴から誰かが覗いている様に浮かんでいる。


 しばらく全裸でいたが今度は蚊が襲いかかって来たので、急いで服を着て火を起こしにかかった。


 火起こしは一度着いた棒と板を使うとすぐ火が出た。すぐと言っても20分くらいかかったけど。


「火を眺めてると元気になるなぁ、まさか夏の終わりの蝉と同じ体験をするとはね」


 あまり嬉しくは無いが死んだ後はかなり体力が回復している気がする。思い出したくないが1度目のホーンラビットの時もそうだが意識が戻ってからの方が元気だったかもしれない。


「かと言ってお腹が減ったから死のうっていう発想はないけど」


 とりあえず蟻たちには焚き火の火で少し復讐して拠点に横になって朝を待つ事にした。


「ふぁぁー、毎日眠いなぁ」


 夜不規則にしか眠れてないし食事も水分も少ない上食べた分も吐いている。普通ならもっとフラフラかもしれないな、一応これも特約(不死)のお陰か。


「窓口の七三分けに名前でも聞いておけばよかったな」

 思ってもない事を口にしながら探索に行く準備をして、今日もまず水の確保に向かった。


 川に着いて水を汲みをしていると背後に気配を感じて振り向くと、やはり前と同じようにそこには奴がいた。


「今日は絶対勝つ」

 小さくつぶやいてゲイボルグ(仮)を構えた。


 前回と同様ピョンピョンと近づいてくるホーンラビットへ槍を構えながらジリジリと此方も前進していく。すると前回と同じような距離でホーンラビットが重心を低くすると同時に飛びかかって来た。


 それに合わせるように落ち着いてゲイボルグ(仮)を前へ突き出すとイメージ通りにホーンラビットに槍が刺さりそのまま動かなく無った。


「やった!」


 予想通り角が主武器みたいだね、野生動物は小さくても動きが速く厄介だと思ったけどホーンラビットは角メインで攻撃が単調だった。


「次回もこうなるかは分からないけど、でも、でもこれでお肉が食べれる!」


 唯一のタンパク質が蛇だったからなぁ、お肉楽しみだけど問題は解体かぁ、蛇はなんとかなったけど兎とかどうすればいいんだろう。


「まぁとりあえず皮からかな」


 川べりで首を落として血を抜き、お腹から開いて皮を剥いだ。


「意外と石の包丁でもなんとかなるもんだね」


 内臓を出して足の部分と体にお肉を分けて、内臓はどれが何処の部分かわからないので勿体無いけど捨てる事にした。


 切り分けたお肉は大きい葉っぱに包み、蔦で縛り、毛皮を洗って水も補給したので帰ってお肉を焼こう!


「今日は焼肉だー!」

 薪を拾いつつ足取り軽く拠点へと戻った。


「それでは本日は兎の串焼きを作りたいと思います」

 3分間な音楽が頭の中で流れる中料理を開始した。


「此方に切り分けたお肉があります、これを塩胡椒して串に刺します、塩胡椒が無い方は串に刺すだけで大丈夫です」


 勿論塩も胡椒も串も無いのでうさぎのお肉を木の棒に刺して火の上に置いていく。


「まずはもも肉を焼こう、それにしても兎のお肉って赤いなぁ、ジビエとか流行ってたけど食べた事ないなぁ初めてが異世界とか、そもそもこれ地球と同じ味なんだろうか」


 そろそろ焼けたかな?


「うーん何か触り心地がパサっとしてるな、ちょっと焼きすぎたかな?せめてお塩でも欲しいなぁ」

 兎はどこも赤身のお肉みたいで焼いても油が表面に出なくパサっとした感じになった。とりあえず一口食べてみよう。


「ふぁぁぁうぅんまぁぁぁあああああぃいぃぃいい!」


 口当たりは赤身であっさりしているのにとんでもなく強い旨みと言うかコクがすごい!パサパサした見た目と違い、食感も柔らかくしっとりしている。

 なんだこれ、あっさりしているのに強いコクがあって塩なんて必要ないよ!鳥に近い食感だけど兎の方が心地いい。


「ふえぇぇぇぇ、こんなに美味しいなら地球でも食べとけばよかったぁ」


 気がつくと完食していた。


「うわぁぁぁあ、足一本だけ食べようと思ってたのに全部食べてしまってたぁ」


 美味しすぎた。まさか異世界に来てこんなに美味しいお肉に出会う事になるとは、この森での好物が蛇からホーンラビットに変わった瞬間だった。


 明日も捕まえたいって言うか捕まえる。主食はホーンラビットですって答える日が来るかもしれない。


 ホーンラビットの旨さのせいでテンションが上がってしまったが明日も捕まえたい、罠でも仕掛けてみようかな?満足しながら眠りにつく事にした。



「うわ冷たい!」


その日の深夜土砂降りの雨に打たれている。雨が強すぎて雨漏りがひどく呆然と雨に打たれていた。来た時から天気が続いていたので油断してしまった。


 焚き火の上にも葉っぱの屋根が有ったのが不幸中の幸いかもしれない。熱帯の気候だけど夜は焚き火がないと雨が降ると寒い。


「これはもう少し屋根に葉っぱを持ってこないと眠れないなぁ」


 異世界に来て初めての雨の夜は穴の空いた月が見えず驚くほど暗かった。


「ダメだ全然周りが見えない、怖い怖い」


 肩を抱いてジャケットを被り焚き火の火を強くして、雨に負けないようにして止むのを待つしかなかった。


「やっと朝かぁ、何とか焚火が持ったよ」


 日は登って来たが厚く掛かった雲のせいでかなり暗く雨も降っているので、どんよりとした重い足取りで行動を開始した。


「雨対策は急務だね」


 バトルアックス(仮)を使って葉が付いた枝葉をどんどん切り落とし屋根に重ねていく、それと共に乾いた薪を集めないといけない。


「この雨はいつまで続くんだろう、雨季とかが有るならやだなぁ」


 最悪の事態を想定しながら乾いた薪を探していく。雨の日に乾いた薪は立ち枯れてるものや木にもたれかかって枯れてる物がいいんだよね。


「後ついでに罠を仕掛けとこう!」


 踏んだら発動して輪っかが掛かるような罠は知識がないので、原始的だが簡単な罠を作ろうと思うその名も落とし穴!


 木の棒を使って地面を掘る!掘る掘る、ひたすら掘る!

「雨のせいで意外と簡単に掘れるな」


 でかいスコップが有れば楽なんだけどなぁ、シャベル?スコップ?関東と関西では呼び名が逆みたいだけど、まぁとにかく穴が完成したので底に先を尖らせた棒を刺して落ちればそのまま仕留められるようにして、上に枝と葉っぱを乗せて最後に土をかけた。


 穴を掘るのがかなり大変だったが最終的には、兎が食べた過ぎて3箇所も仕掛けてしまった。


 泥だらけになったが今日は雨シャワーがあるから良かった。


 屋根も強化されて雨漏りも少なくなったし後は兎が獲れれば最高なんだけどなぁ、生活の中心がホーンラビットになりそうで怖い。


「ホーンラビットと言えば昨日捕まえたやつのツノがあったな」


 解体した結果ホーンラビットのツノは毛や爪では無く頭蓋骨から生えており、骨で出来ている様なのでとても硬いのでゲイボルグ(仮)をパワーアップさせる事にした。


「ジャジャーン!完成兎槍とそうラビットホーン!」


 なんか名前的には弱くなった気がするけど、格段に貫通力と強度が上がった。


「ゲームとかである魔物の素材ってこんな感じで使われていくんだね」


 物作りで気分は上向いたが1日雨が止まずその日は食べ物は何も見つからずお腹を空かせて眠りについた。



「あぁ、今日も雨かぁ厳しいなぁ」


 雨が続いているので大きめの葉っぱを使って水を集めてるので蛇水よりは美味しい。


「罠に何か(兎が)掛かってないか見に行こう」


 ウキウキ気分で向かったが一つ目の罠は何かが一度落ちて這い上がっていった跡だけだった。

「すごいパワーを感じる破壊の仕方だね、ますますこの森から出たくなったよ」


 1メートル以上ありそうな獲物の気配に、若干テンションが下がり2つ目の罠はまだ新品のままだったので祈る気持ちで3つ目に向かった。


「お、掛かってる!何かいそう!」


 穴の中を覗くとホーンラビットが掛かっていた。


「にくだー!」


 思った事をそのまま口にしてホーンラビットを回収し、落とし穴を元に戻し拠点へ軽い足取りで戻った。


 雨で気分が下がっていたのにあの肉の味を思い出し、一人で口角が上がりまくってしまっていた。


「そろそろ焼く以外の調理法が欲しいなぁ、土器でも作れないかなぁ」


 今日は全部食べてしまわない様にモモ肉は焚き火の上に吊るし燻製風にして少しでも保存する事にした。


「本日もクッキングの時間がやってまいりました!」


 期待通り兎肉が手に入ったためテンションがおかしくなっているが気にせず調理を進めていこう。


「今日は雨で綺麗になった石の上で兎肉を叩きハンバーグにします、そしてこちらが本日取れた兎肉です。これをひたすら叩きます!」


大きめの石の上でトントントントンと肉を叩いていく、さらに耳の軟骨も投入!その間に薄めの石を焚き火で焼いて熱くしておいた。


「そしてこれを小判型に丸めて空気を抜きます、そして良く焼いた石の上にドーン!両面焼いて、完成です!」


 焼き上がった頃にはテンションも下がり落ち着いて兎ハンバーグ を一口食べた。


「うっまぁ!」

 串焼きとは違い口の中で噛むほどに粗く挽かれたお肉の旨味が染み出してくる様で、脂分は少ないが赤身のお肉の強い旨味を感じる、耳の軟骨がアクセントとしてコリコリして脂分の少ない身のアクセントとして申し分ない。


「美味しかった!ごちそうさまでした」


 すぐ食べ終わってしまい名残惜しくスモークしているお肉を見ながら今日は雨なのでハンバーグの味を反芻しながらゆっくりする事にした。


 そのまま雨は止まず夕方が近づいて来たので一応落とし穴を見回って見たが2か所は成果が無かった。


最後の一つを確認しに向かった時少し先の高い木に赤いリンゴの様な実が生っているのを発見し上って取ることにした。


 雨で滑る中何とか上へ上り視界が悪いが周りを確認すると相変わらず見渡す限りのジャングルだった。リンゴのような実をゲットして下へ降りようとした時足元が騒がしくなったので目をやると、でかいやつが落とし穴に掛かっていた。


 そいつは肌が緑色で耳は尖り目がぎょろっとしていてサイズは1メートルほど、耳まで裂ける様な大きな口の中が真っ赤だったのが印象的だった。


「ゴブリンだ」


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