第6話 ワニと小鬼と狼と
「ぐはぁ、苦っ臭っ!うぇっぺっぺっ!」
悪臭と口の中に流れ込む苦い味に溺れながら飛び起きると、そこは汚物と骨となにかよくわからないゴミを煮詰めた
僕が居るのは深さが1メートル幅5メートルくらいに掘られた丸いプールの様な穴の中で、その穴の周りには木と石と土で固められた粗末な小屋が立っていてどうやらなにかの集落のような雰囲気だった。
しばらく周りを観察していると時折ゴブリンの姿が見えるのでやつらの集落だと思うがそれよりも。
「僕はついにゴブリンのうんこになってしまったのかぁ」
何気なく空を見上げると穴の空いた月が浮かび僕を見下ろしている。あれからどれくらい経ったかわからないけど、うんこ転生とか終わってるな。
食べられたのかぁ。まじかぁ、っていう事はここはゴブリンのゴミ捨て場かトイレ?
それにしても酷い目にあった。全裸で汚物まみれとかどんな地獄だよ、スーツはビリビリになって一部が落ちていたので腰蓑に進化した。
「よし、こんなところ一秒でも早く脱出しよう」
ゴミ捨て場の端からそっと顔を出して見回すと、かなりの規模の集落みたいだったようで家が多くどちらへ逃げればここから脱出出来るかがわからない。
「それにしても家がうちの拠点より豪華だ、ゴブリンに負けてて恥ずかしい」
こそこそと腰みのいっちょで家の影を歩きながら外を目指す。夜なので何とか暗がりを歩けば行けそうだと思ったその時。
「ギャーギャーギャー」
後ろから聞こえる声に目を向けると粗末な小屋の泥で出来た壁にある小さい灯り取りの穴みたいなのから、こっちに向かって吠えてるやつがいた。
「くそっ最悪だ!」
見つかってしまったのでそのまま走って逃げるがゴブリンの集落なのでそこら中の小屋からゴブリンが湧いてきて、手足に噛みつかれて倒れると次々と覆い被さって来てゾンビ映画の捕食シーンの様になってしまった。
「そしてまたここか!」
トイレスタート、死に戻りかと思うくらい毎回ここで目が覚める、これ実はもう4回目だ。
おかげでスーツの破片も残り少なく腰蓑がやばい、最初の道から四方向に進んでみたがどこもゴブリンがいた。
最悪な事にどうやらこのトイレはゴブリンの集落の真ん中にあるようだ。
「がぁぁぁああああああ!」
もう一度行こうかと思ったときデカい怪獣の様な鳴き声が聞こえたのでトイレに身を潜めていると、沢山のゴブリンが通路を行ったり来たりして騒がしくなってきた。
「何が起こってるんだろ?」
しばらくするとそれは現れた。
軽トラックほどのサイズのまるで雪のように真っ白な長い毛に覆われた狼だった。その狼が口の周りと足の爪を血に染めゴブリンの粗末な小屋を破壊しながら殺戮の嵐を起こしていた。
「何あれ、遠近感おかしくなったかと思ったよ」
呆然としているとその白い嵐の後を普通サイズの狼が5、6匹通って行った。
「狼の親玉がゴブリン狩ってるのか、今しかないね、狼が入ってきた方へ逃げよう」
僕は混乱に乗じてだいぶ小さくなった腰蓑を装着して集落を駆け抜ける。
「股間がスースーする」
ゴブリン達は逃げ惑い、こちらに気付いても構ってる暇が無い様で、さっきまでの脱出が嘘のようにあっさりと集落の外の森へと辿り着いた。
「はぁはぁはぁはぁ、やっと逃げられた!」
そのまま森を進もうとしたその時。
「グルルルルル」
前方の木の影から狼が出て来た。
「グルルルルル」
しかも2匹。
「いやいや、1匹でもオーバーキルですけど」
咄嗟に木に登ろうかと飛びついたが、足に噛みつかれまるで犬のおもちゃのように軽々と振り回され地面に叩きつられた。
「ぐあぁあぁぁ!」
叩きつけられて息ができなくなり、噛まれたせいで足も折れて痛みで目がチカチカする。そこへもう1匹が僕の首元に噛みつきそのまま首の痛みもなく一瞬で意識を手放してしまった。
「あぁ、次は狼のうんこか」
うんこレベル的にはアップしたかも知れないね。若干慣れつつある自分にがっかりしながら起き上がり周りを確認した。
「何処だろうここは、ゴブリンの集落からは離れられたけど狼はゴブリンを1匹も逃すつもりがない感じだったなぁ」
とりあえず川を探して体を洗いたい。あのデカイ狼に最終的に食べられたのかは知らないけど周りに落ちてるうんこがデカすぎる。
「うんこも象ぐらいかな、ホーンラビットに怯えてたのが馬鹿らしくなるくらいの化け物だよね」
よくあれに出会わず暮らしてたなぁ、運が良かったのかな?まぁ最後は食べられたけど。
独り言を言いながら全裸で薪を拾い歩いていると急に森が途切れ待望の川を見つけた。
「川幅が広な拠点よりだいぶ下流の気がする」
そこは川幅が二十メートル位あり、ホーンラビットと出会った場所より幅も水量も桁違いだった。
僕は薪を放り投げ急いで川へ飛び込んで体を洗った。
「うわー、気持ちいいいいぃ!服を着てないから脱ぐ必要もないしね!」
うんちになった記憶を洗い流すようにガシガシと頭の天辺から爪先まで洗い続けた。
「それにしても水だけじゃ匂いが落ちないなぁ、やっぱり石鹸がほ「ズバシャァァン」
目の前の水面が膨れ上がったかと思うと水の中からとんでもない大きさの口が開き僕に食らいついた。
大きな口にお腹を横から噛みつかれて水中に引き摺り込まれたと思うと、グルグル回ってどちらが上か下かもわからない、息も苦しい。
水の中でチラリと見えた姿はワニの化け物だった。まじかこいつ丸呑みか、息もできないし身動きも取れない!
1番辛いパターンだこれ!それから程なくして痛みと衝撃で息が止められなくなり肺に水が入り意識がなくなった。
どれくらいの時間が経ったのかはわからないが、まどろむ意識の中自分が水の中にいる事に気がついた。
ぼーっとしていてわかるのは水の中にいる事で体の感覚が無い事、ずっとはっきり何も考えられない状況って事だ、目も開かないし口も動かない。
それからどれぐらいの時間が経ったんだろう、徐々にだが意識が戻ってきて時折目が見えることがある。
どうやら再生しているが肉食魚やカニに食べられてるみたいだ、再生速度と消費速度が拮抗しているみたいだ。
前はこんな状態で目覚めた事が無いが体が慣れてきたのかな、痛みがないのが唯一の救いだ。
でもこのままだと一生此処で魚の餌になってしまう、でも体が動かないんでどうする事も出来ないな、これで痛みがあったら地獄だったなぁ。
それから何日か経ったある日、体が回った気がした、まぁ手足がないからダルマみたいな状況だ。
先日も大きめの魚に突かれてる時は回ってたがそんな感じじゃない、水に流されてる感じだ。
どんどん転がっていく、何が起きてるんだろう?
しばらく転がり続けたが気付いたら目が再生できて開けられる様になっていた。意識もだんだんはっきりしてきた。
水が濁りすぎて良くは見えないがどうやらさっき、何かに激突して一瞬水面近くに跳ねたタイミングで見えたが雨が降ってるみたいだ。ラッキーな事に豪雨に流されてこの無限地獄から解放されてるみたいで、助かった。
それにしてもグルングルン回ってジュエットコースターの様だった。
手足が無いので引っかかりがなく回転が半端ないと思ったその時、急に水の外に飛び出した。
そこは滝だった。ナイアガラの滝の様なとんでもない水量のそれは高さもとんでも無く高かった。
まるで飛んでるみたいに落ちていく。
その景色はこんな状況じゃなければすごい雄大な景色だった。何処までも続く緑の大地、それを割る様にジグザグと流れていく川があり、異世界らしく時々他の木の何倍もある木がポツポツと生えてたりプテラノドンみたいな翼竜が飛んでいる。
そして空には穴の空いた月が浮かんでいた。
落ちるー!と叫んだつもりだったがうまく体が再生してないからか声は出なかった。
そのまま長い浮遊感の後、滝壺に叩きつけられてまた意識を失ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます