第12話 パーティ結成!!しちゃいます。

「はい、ヒタボに到着!!」

 俺はミーシィアを連れ、無事ヒタボに到着することができた。



「ここが、ヒタボ!こう言うと失礼になるかもしれませんが、想像していたよりも大きいですね!」


「ふふ、そうだね。私も最初来た時、そう思ったよ。山林を切り開いて作られた街だって聞いてたから、こんなに大きいとは思ってなかった。」



 ミーシィアによれば、ヒタボの大きさはミスティアの首都と比べても遜色ないという。

 これは益々ミスティアにも行ってみたくなるな。




「街への入場列はそんなに待たなくてよさそうだね。あ、街への入場料は私が出すから安心してね」


「何から何まで…」


「そんなこと気にしない、気にしない。私がミーシィアを手助けしたくてやってることなんだから。」


「…はい」



 俺たちは、街に入ってすぐに冒険者ギルドを目指した。

 今回のオーク討伐、それにミーシィアのことを報告しないと。



 他国の街並みが新鮮なのだろうか。

 ミーシィアはキョロキョロと周囲に視線を巡らしていた。



 ヒタボに来たばかりの自分を見ているみたいだ。

 その光景が微笑ましくて、つい頬が緩んでしまう。



「フォーゼや、ミスティアにある街とは雰囲気が違う?」


「そうですね!故郷のフォーゼも、ミスティアも木造の建物が多かったんですが、ここには石造りの建物が多いんだな~って」



 なるほど他の街を知っているとそんな感想がでるわけか。

 ヒタボは山林の街ということもあり、林業と共に石材の加工などの産業も行っていると聞いたことがある。



 もしかすると、この世界的に見ても石造りの家が多い街なのかもしれない。



 まあ、前世の摩天楼を知っているミーシィアからすると、少なからず物足りなさを感じてしまうのだろうけど。




「さてと、ここがヒタボの冒険者ギルドだよ」


「一段と大きな建物だね~」



 俺とミーシィアは、冒険者ギルドの正面までやってきた。



 ヒソヒソ…。ヒソヒソヒソ…。

 なんだ?やけに視線を感じるな…。



 こんなのは、初めて俺が冒険者ギルドを訪れて以来だな。

 その後、冒険者として依頼をこなしている内に、こういう視線はなくなったと思ったんだが。



 ていうか、この視線…俺にじゃないな?

 周囲の視線を追うと、その先は…。ミーシィアだった。



 なるほど。たしかに今のミーシィアは、この場では浮いて見える。

 俺が持っていたローブを着てもらってはいるが、その端々からボロボロの衣服が見えてしまっている。



 ヒタボ住民全体の生活水準は、比較的に安定している。

 そのためこの街には、前世で見られたようなスラムは存在していない。



 ようするに、今のミーシィアのようにボロボロな恰好をしている子供を、この街で見ることはないというわけだ。



 そんな彼女が、別の意味で視線を集める俺といる。

 そりゃあ、周りからジロジロ見られるわけだ。



 そういった事情を察し、俺たちは足早に冒険者ギルドの中へと入るのだった。



            ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「リディア、ただいま!」


「フーラァさん、お帰りなさい!オーク討伐はいかがでしたか。」


「うん、オーク討伐は問題なく。魔石と討伐証明もあるから、後で提出するね。それよりも…」



 俺がミーシィアに視線を移すと、リディアも追うようにミーシィアへと視線を向ける。



「フーラァさん…、彼女は??」


「実は、今回の依頼の最中に色々あって…」


 

 そして俺は、リディアに今回のオーク討伐のこと、そこで襲われていた集団のこと、そして人攫いによって奴隷にされたミーシィアのことを簡潔に説明した。



「そうですか、そんなことが…。それに人攫いに奴隷ですか…。これは深刻ですね…。」


「リディア、ここでは奴隷制度の扱いってどうなっているの?」


「フーラァさんはここに来てまだ数ヶ月、知らないのも無理はないですね。端的に言えば、ここトリス王国、そして隣国のエスタ王国で奴隷は禁止されています。」


「え、でも…。」



 俺は疑問を口にしながら、ミーシィアへと視線を移す。



「ええ、ですから深刻なんです。国で禁止されている奴隷、それを売っているものがエスタ王国に。そして、ミーシィアさんが御者の男に聞いた話が真実だとすれば、売られている奴隷を買ったものが、このトリス王国にいるということになります」



 そこで、冒険者ギルドの前で感じた視線について、腑に落ちた。

 国で禁止されている奴隷を(正しくは奴隷に見える少女を)、俺が連れていた。

 そんなの視線を集めるに決まっている。



 リディアは表情を曇らせながら、言葉を続けた。



「また奴隷というのは、購入するのに最低でも、金貨80枚はするそうです。それを容易に購入し、あまつさえその購入した奴隷をバレないように国へ運び入れようとしていたとなると…。買い手にはそれなりの財力と権力があると思われます。」



 俺はリディアの話から、その先を察した。

「この国の貴族がかんでる可能性もあるってこと?」


「はい、その可能性は高いかと…。」


 その場に沈黙が流れる…。

 今の話を聞き、ミーシィアの表情も固くなっていく。



「とりあえず、私だけで判断するのは難しいので、これについてはギルマスに報告をしておきます。後日ギルマスにも事情を話していただくことになるかと思いますので、その際は宜しくお願いします。」


「わかったわ。ミーシィアもそれで大丈夫?」


「う、うん!私は大丈夫!リディアさん、宜しくお願いします。」


 リディアは、ミーシィアの言葉にコクリと頷いた。



「それで、ミーシィアさんの今後についてですが…」


「私は…故郷のフォーゼに帰りたい…。お母さんとお父さんの元に帰りたいです」


「そうですね、きっと親御さんも大変心配なさっていると思います」


「ええ、だから…。私がミーシィアを、故郷のフォーゼまで送り届けようと思うわ」


 

 俺の言葉に、ミーシィアは少し驚いているようだ。

 だがこれは、ミーシィアを助けた当初から考えていたことだ。



 俺が彼女を助けることになったのは偶然かもしれない。

 だが、同郷からの転生者を助けることになった、その偶然にはなにか意味があるのだと思う。


 

 だから俺自身、彼女をちゃんと家まで送り届けたいと思っていたのだ。



「で、でも…。これ以上フーラァちゃんに迷惑をかけるわけには…」

 ミーシィアがこちらに向きなおり、声をあげる。



 どうやら彼女は、再び俺に助けられることに、負い目を感じているようだ。



 それに彼女からは『誰かに頼る』というのを嫌っている、とうか避けているような印象を受ける。



 それが前世からのものか、それともこの世界で芽生えたものかは定かではないが、彼女はどうしても周りに頼ることができないでいる。



 ミーシィアに対してそう感じた俺は、諭すように言葉を紡いだ。 



「ねえ、ミーシィア。あなたは誰かに助けてもらうことをどこか避けているようだけど、この世界じゃ自分ひとりでできないことなんて山ほどあるんだよ。」



 ミーシィアの両手を、俺は自分の両手で優しく包む。



「そんな時はね、助けて~って周りに言えばいいんだ。あなたがその手を伸ばしさえすれば、必ず誰かがその手を包んでくれる。あなたを助けてくれる。」


「でもそのせいで迷惑を…」


「迷惑?上等じゃない!助ける方はね、そんなの承知で助けるのよ。承知で世話を焼いているの。それでも助けてあげたいって思ってね。」



 俺はミーシィアの瞳を真っすぐに見つめながら、言葉を続けた。

 


「だからね?助けられた方は、笑顔でありがとうって。そう言えばいいんだ!助けた方はあなたに笑ってほしくて助けてるんだから!!」 



 その言葉聞き、ミーシィアは瞳に涙を溜めた。

「フーラァちゃん…」


「それでミーシィア、私の助けは…必要?」


「うん…。フーラァちゃん、私を…。私を助けて!お願い!!」


「うん!任されました!!」



 それは、俺の前で…いやもしかしたら、ミーシィアがこの世界で初めて他人に助けを求めた言葉だったのかもしれない



 俺は改めて、ミーシィアを無事に家族の元まで送り届けることを、心に誓うのだった。



            ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「よし!それじゃあまずは、ミーシィアも冒険者登録をしようか!」


「私が…冒険者登録??」



 これにはちゃんとした理由がある。



 まず冒険者登録をしていれば、フォーゼまでの道中で他の街に入る際、入場時の代金がかからなくなる。



 そして浮いた代金分を宿代に回したり、他の必要物資の資金にすることもできる。



 あと冒険者登録していれば、道中で採取した薬草なども、各町の冒険者ギルドで買い取ってもらうことができる



 またこの世界でギルドカードは、その人の身分証にもなる。

 これだけの恩恵を、初期費用の銀貨3枚で受けられるのだ。

 登録しておいて損はない。



 そういった理由から、俺はミーシィアに冒険者登録を勧めた。



「わかった…。私も冒険者登録する!」


「うん。じゃあリディア、ミーシィアの登録をお願い。」


「承知しました。それではこちらにご記入を」



 そこから先は、以前俺が登録した時と同じ手順で手続きが進んで行く。

 


 ミーシィアのジョブについては、『採取人コレクター』として登録を行った。

 これにより、非戦闘員であることを周囲に示すことができるのだ。



 リディアに聞いた話では、こうした非戦闘ジョブとして冒険者登録をし、薬草採取などで生計をたてている人も少なくないという。



「フーラァさん。これは私からの提案ですが、お二人でパーティ登録をしては如何でしょうか。」


「パーティ登録を??」


「はい!理由としては、フーラァさんが登録したときにお勧めしたのと同じ理由ですね。」



 あの時は確か…。ああ、そういうことか。

「なるほど、厄介な連中に絡まれないようにするためだね」


「はい、その通りです。たった数ヶ月でCランクに上がり、ゴブリンエンペラーの討伐経験まであるフーラァさん。そんな人の保護下にある子なら、下手なちょっかいをかけられることもないでしょう?」


「たしかにそうだね。その方がミーシィアを色々と守ってあげられそうだ。ミーシィアは、私とパーティを組むんでもいい??」


「う、うん!!私はフーラァちゃんとパーティになりたいよ!」


「よし、じゃあ決まり!リディア、二人のパーティ登録もお願い!」


「承知しました。それではパーティ登録のため、フーラァさんのギルドカードもお預かりしますね。それとこれを…」



 リディアが一枚の用紙を、俺たちの前に差し出す。

 これがパーティ登録の用紙なのだろう。



 とここで、リディアから思わぬ難問を出されてしまう。



「それではこちらにお二人の名前と登録するをご記入ください。」


「ぱ、パーティ名??」

 

「はい、パーティ名。付けるのがきまりなんです。」



 パーティ名…、パーティ名か~。それは考えていなかったな。

 ミーシィアを故郷まで送り届ける間の、臨時パーティなのだから要らない気もするんだが…。



 きまりなら仕方ない…。

 だけど俺、こういう名前決めるの苦手なんだよな…。




 うーん、パーティメンバーが二人ともエルフだし、それにちなんだものがいいかな??



 悩ましい…。

 妙案が浮かんでこないぞ…。



 そこでふと、ミーシィアから聞いた、エルフの先祖の物語を思い出した。

 




 遠い昔、まだ神々がこの世界を創生してすぐのころ。

 この世界は魔力が安定せず、荒れ果てていたという。



 そこで神々は、世界を安定させるため、各地に神樹を植えることにした。

 植えられた神樹が世界の魔力を安定させ、この世界は数多くの生命が住めるようになったという。



 そして、その世界各地にある神樹を守るための種族として、神々はエルフを作り出した。



 エルフの耳が長いのは、その神樹たちの声を聞くためだったのだとか…。




 神樹…。そしてそれを守るエルフ…か。

 よしそれなら…!



「『神樹の守人もりと』なんてどうかな?」


「『神樹の守人』…、うん!凄く素敵だと思う!」


「私も、とても良いパーティ名だと思いますよ!」



 よしこれで俺たちのパーティ名は決定だ。



「それじゃあ、私とミーシィア、二人のパーティ名は『神樹の守人』で決定!!」



 これが後に、いくつもの逸話を作るパーティ『神樹の守人』結成の瞬間だった。



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