第5話 そうだ、ゴブリン村へ行こう!!【1】

 ひと悶着あったものの、無事に冒険者登録をすることができた。


 とりあえずこれでこの世界での生活費を稼ぐことができるな。


 武術の探求をするにしても、まずは生活基盤を作らなくては。


 それに冒険者生活をしていれば、強いモンスターなんかと戦えるかもしれない。


 ふと、ゴブリンエリート戦やカイザートラウト戦の高揚感を思い出す。


 死闘のから生まれる高揚感、あれは俺を酔わせる美酒だった。


 あんなに心が満たされたのは、生まれて初めてだ…。だがわかっている…。。


 あの高揚感はたしかに俺を満足させる、けれどあれだけを追い求めるようになった時。


 美酒は毒へと変わり、俺を破滅させるだろう。


 心に戒めておかなきゃいけないな。


 そんな風に考え込んでいる俺に、声がかかる。


「フーラァ、待たせてしまったな。なにかあったみたいだが、無事に登録はできたか?」


「お疲れ様です、ケビンさん。ちょっとありましたが、問題なく登録できましたよ」


 どうやらケビン達は、冒険者ギルドの別区画にいたらしい。

 

 さっきの騒ぎは見えていなかったようだ。


「へえ~、何がちょっとあったの?」


「ほんとに大したことではないですよリアさん。先輩冒険者の方にちょっと強引な勧誘をされたので、こちらもちょっと強引なお断りをしただけで」


 笑顔でさっきあったことをザックリと説明すると、リアが心当たりのあるような顔をする。


「あ~それだけ聞けばわかるわ。フーラァの実力を知ってる私たちからすれば、あなたにちょっかいをかけるなんて自殺行為にしか思えないわね」


 リアがやれやれと、呆れる素振りをする。


「ところで、そちらの方が…。」


「ご挨拶が遅れて申し訳ない。私は商人のトマスと申します、以後お見知りおきを。」


「やはりそうでしたか。私はエルフのフーラァです。よろしくお願いします」


「ええ、フーラァさんのお話はケビンさん達から聞き及んでおります。なんでも私をゴブリン共から必ケビンさん達を助けてくださったとか。本当にありがとうございました!」


 トマスが深々とお辞儀をする。


「いえいえ、たまたま居合わせたに過ぎませんから。皆さんを助けられてよかったです。」


「私だけ助かって『鉄の拳』の皆さんが死んでしまっては、悔やんでも悔やみきれなかったと思います。」


 心の底から心配していたんだな


 トマスの表情を見るだけで、『鉄の拳』との間にとても良い関係を築けているのが分かる。


「それにしても、あれだけの数のゴブリンエリートをほぼひとりで屠るとは…。こんなに可憐なお嬢さんに見えるのにとてもお強いのですね…。ケビンさん、先程の話はフーラァさんにも?」


「ああ、今からするつもりだ」


 ケビンが少し神妙な面持ちになっている。


 なんだろう、何かあったのか?


「フーラァ、君に頼みたいことがあるんだ。この奥の個室を借りているからそこで相談させてくれないか?」


 冒険者ギルド内にはパーティ単位で使用できる個室があり、冒険者は皆使うことができる。


 個室でということはあまり他の冒険者に聞かれたくないことなのか?


「わかりました、お話を聞かせてください。」



              ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 『鉄の拳』の面々、そしてトマスと共に個室の前まで移動してきた。


 このメンバーでってことは、例の異常発生したゴブリンエリートの件か。


 それに今気づいたが、個室には先にだれか来ているようだ。


 例の件を報告するため、ギルド職員を呼んだのだろうか。


「失礼します」


 声をかけ個室に入っていくケビン達に俺も続く。


 個室に入るとそこには大きなテーブルが一つ置かれ、6つ椅子が並んでいた。


 その一つには先に個室に入っていたギルド職員が座っている。


 ていうかこの人はギルド職員なのか?


 軍服のようなデザインの服で身を包んだ大男がそこに座っていた。


 服の上からでも隆起しているのがわかる全身の筋肉、スキンヘッドで眼帯を付けている。


 どう見ても歴戦の戦士だよなこの人…


「おう、来たか。んでその後ろの嬢ちゃんが?」


「はい。俺たちをゴブリンエリート達から救ってくれたフーラァです、ギルマス」


 ギルマス…、ギルドマスター??!


 それならこの風格も納得がいくな。


「フーラァ、彼はこのヒタボ支部のギルドマスター、バルガスだ」


「初めましてだなエルフの嬢ちゃん。バルガスだ、よろしくな」


「初めまして、エルフのフーラァです。よろしくお願います。」


 挨拶を交わした後、バルガスが俺の方をジッと見てくる。


「…なるほどな」


 な、なにがなるほどなんだ??


「いや、ジロジロ見ちまって済まない。エルフが魔法も使わずに、ゴブリンエリート共をバッタバッタと倒していったってケビン達から聞いていたからな。正直、そんな馬鹿な話がって思いながら聞いていたんだが…。嬢ちゃんを直に見て納得がいったよ」


 たしかリディアも、エルフは魔法使いや弓使いが多いって言ってたからな。


 素手で敵を屠るエルフなんてのは想像しにくいのだろう。


「ああ、その全身からにじみ出る強者独特のオーラ。どれだけの修練を積めば、そこへ至れるのか。」


「あ、ありがとうございます?」


 そんなオーラを出してる覚えはないんだが。


 ギルマスというだけあってこの人は相手の強さを直感で感じることができるのだろうか。


「話がそれちまったな。今回嬢ちゃんを呼んだのは、そのゴブリンエリートの話だ」


 早速きたな。


「俺たちがトマスさんから受領書のサインを貰った後、ギルド職員にゴブリンエリートの件を話そうと思っていたんっだが、今日は丁度ギルマスがいてな。今回の件を聞いてもらったんだ」 


 なるほど、それでただのギルド職員ではなくギルマスが参加していたのか。


「ギルドからの評価も高いお前らが全員ボロボロだったからな、何か予期しない事態が起きたのかと思って話しかけたんだ」


 ケビン達5人は全員が冒険者ランクがCまでいっており、ヒタボ冒険者の中でも高い評価をうけているらしい。


「話を聞いてっみりゃあ、ヒタボ近辺の森にゴブリンエリートが20体もの軍団で現れたっていうじゃねえか」


「ええ、間違いなく。だが普段ならあの森にゴブリンならまだしも、ゴブリンエリートがあんなに出るなんてありえない。」


「ああ、出ても群れの中の数体が種族進化するだけだ。20体もいるなんてことはありえない」


 通常であれば種族進化するというのは、それほどに稀なことなのだ。


 種族としての限界を超え、力を手にできたものだけが種族進化できる。


 それが、一度に20体も種族進化する…。普通ならありえないことだ。


 だがそれが起きてしまっている、異常で異質なことが起こってしまっているのだ。


「この異常事態から、俺たちとギルマスは一つの仮説を立てた。」


「それはな…。ゴブリンの中に英雄となりえる上位種が現れたんじゃないかってことだ」


「ゴブリンの英雄?」


「ああそうだ。自分以外のゴブリン達までも進化させてしまう英雄級のゴブリン。」


 魔物の中には、自分が種族進化したあとに仲間たちまでも進化させてしまうものが稀に生まれるのだという。


 そして冒険者たちはそんな特異点のことを、英雄という言葉で表現している。


「しかも今回は仲間数体なんて小さい規模じゃねえ。20体もの…いやまだ見つかっていないだけでもっとかもしれない。その数の仲間を種族進化させたとなると、少なくともそいつはゴブリンヒーロー…もしくはゴブリンキングの可能性すらある!」


 一緒に話を聞いているトマスは体がこわばり、顔を青くしている。


 ケビン達5人も皆、表情が暗い。


 ベテラン冒険者たちをこんな表情にするなんて、ゴブリンキングってやつは相当な相手らしい。


「そんな奴を野放しにするわけにはいかない。そこで俺たちはヒタボにいる上位ランクのパーティを複数集めて、ゴブリン共の討伐作戦を行うことにした」


 その話を俺にしたということは…


「嬢ちゃん、お前にもこの作戦に参加してほしい」


 まあ、そうなるよな。ゴブリンエリートを容易く屠る戦力を使わない手はない。


「もちろん十分な報酬も出す。どうだ、作戦に参加してくれないか」


 ふむ。この話は強制ではなく、お願いのようだから断ることもできるのだが…。


 ゴブリンの英雄…。ベテラン冒険者のケビンや歴戦の戦士であるギルマスまでもが警戒する強敵。


 正直言ってとても戦ってみたい!!


「わかりました。そのご依頼、お受けします!」


「そうか!!感謝する!!報酬は期待しておけ??」


 ギルマスはガハハハッと大きく笑い声をあげる。


「それで私以外は、どなたが参加するんですか?」


「嬢ちゃん以外に参加するパーティは、Cランクの『鉄の拳』、Bランクの『楽園の宴らくえんのうたげ』、Bランクの『トライデント』この3パーティだ」


「思ったよりも少ないパーティ数ですね、何か理由が?」


「ゴブリン種は種族進化をすることで知能が飛躍的に上がることが分かっている。そしてそれに伴い、索敵能力も向上される。今回のパーティ数は、少数精鋭で奇襲をかけることを目的とした数だ」


「それになフーラァ、ゴブリンキングみたいな化け物が群れを率いている場合、群れの中にはゴブリンエリートを超える強さの上位種が発生している可能性がある。そんな上位種に対応できる冒険者となるとこのヒタボでは限られている。そして万が一、俺たちが失敗したときのことを考えて住民を避難させるために街にもそれなりに冒険者を残さなければいけない。それらを加味した答えがこの人選なんだ」


「なるほど、討伐と防衛両方を考えた人選なんですね」


 たしかに俺たちが100%討伐を成功できるとは限らない。


 それを考えたら、住民の防衛と非難も考えなくてはならないわけだ。


 ここが王都とかならランクの高い冒険者をもう少し派遣することもできるのだろうが。


 いないものはしょうがない。今ある手札で最善の手を打たなければならない。


 コンコンッと会議室の扉が叩かれる。


「入れ!」 


「失礼します!」


 ギルマスに促されて、フードを目深にかぶった男が入ってくる。


「コイツは今回の作戦中にお前らと街を繋ぐ情報伝達担当の冒険者、Cランクのミカゲだ。ミカゲは戦闘力こそ高くないが、ことスカウトとしての能力はズバ抜けている。ミカゲにはケビン達からゴブリン共の話を聞いてからすぐに、ゴブリンの群れがいる場所を捜索させていた。」


 聞けばミカゲは、ギルドに報告されたゴブリン関連の報告から情報を精査し、ゴブリンの群れがいる場所を探し当てたのだという。


「ギルマス、あいつらはすでに集落を作り上げていました。しかも集落にいるゴブリンは、そのほとんどがゴブリンエリートに進化していました!また中にはゴブリンチャンピオンと思われる個体も確認しています。ゴブリンの英雄に関しては、集落の奥にこもっているのか確認できませんでした。ただ集落の進化具合からみて、英雄はゴブリンキングで間違いないかと…」


「くっ…、想像以上に状況は深刻だな…」


「すぐにでも行動を開始する必要がありそうですね」


「そうだな、嬢ちゃんの言う通り情勢は急を要する。とはいえ物資の調達、住民への状況説明を考えると丸一日は必要だろう。お前らもボロボロだしな、ケビン。街中の鍛冶屋をフル稼働の最優先で、装備の修繕やら討伐に必要なものを作らせるつもりだ。嬢ちゃんも必要なものがあるなら、あとでリディアあたりに伝えておいてくれ」


「わかりました、そうします。」


「集落への出立は、明後日の早朝7の鐘が鳴るころに街の南門からとする。それまでに各々準備を完了させてくれ。俺はこれから『楽園の宴』と『トライデント』の奴らに今の内容を伝えて、各所への指示出しに行ってくる。」


「ギルマス、よろしくお願います。」


「おう、お前らも準備をしっかりとしておけよ!」


 個室での話が終わり、各々慌ただしく出撃の準備へと動き出した。


 装備か…、そういえばまだ持っていなかったな。


 街に着いてからすぐギルドに来たしな、しかたない。


 そうするとガントレットてくらいは欲しいな。


 個室から受付があるエリアまで戻ってくると、リディアたちギルド職員も慌ただしくなっていた。


「リディアさん、お疲れ様です」


「あ!フーラァさん、お疲れ様です!ギルマスからゴブリンの件で連絡がありました。フーラァさんも今回の作戦に参加されるんですよね。通常このクラスの討伐にFランクの方を参加させるなんてことはないはずなんですが…。フーラァさん大丈夫なんですか?」


 リディアが心配そうな目を向けてくる。


「心配してくださって、ありがとうございます。大丈夫ですよ、私これでもとっても強いんです!」


 リディアを安心させるため、右腕に力こぶを作りながら笑いかける。


「ふふふ、そうでしたね。私もその強さをついさっき見たばかりなのに、フーラァさんの可愛らしさを目の前にしてすっかり忘れていたようです」


「そうですよ!あれぐらいの相手なら100人いたって負けません!」


「わかりました。ですが、絶対に無理はしないでくださいね?」


 無理が必要かは相手次第ではあるんだが…


「はい、極力無理しないように頑張ります!あ、それで今回の作戦に必要な装備を、街の鍛冶屋で準備してくれると聞いたんですが?」


「はい、そちらについてもギルマスから連絡がありました。必要なものがあれば私から鍛冶屋へ連絡をいれますのでおっしゃってください」


「それじゃあ、ガントレットが欲しいです!冒険者になったばかりで、まだ装備を整えていなかったので」


「ガントレットですね。それでは予備含め、3つ発注しておきますね。」


「ありがとうございます!あとこんなやつを用意していただくことは可能ですか?」


 リディアに一枚のメモを渡す。


 今回の作戦がどれだけ過酷なものになるのか、この世界に来たばかりの俺では予測しきれない。


 最大限の備えはしていくべきだろう。


「はい、これなら問題なく用意できます。ですがこれは武器…なんですか??」


「そうですよ。こいつでゴブリン達を退治してやるつもりです」


「承知しました。それではガントレットと合わせてご用意しますね。」


「よろしくお願います!!」


 その後はリディアにオススメの宿屋を紹介してもらった。


 頼んだものが完成したら、そこまで届けてくれるとのことでありがたい。


 さて時間は限られているが、作戦のためにできることはすべてやっていこうか。



              ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 作戦準備期間の一日が過ぎ、作戦当日を迎えた。


 前日には注文していたガントレットや、メモ書きでお願いした代物が届いている。


 このガントレットはミスリルと鋼の合金で作られたものだそうだ。


 純ミスリル製のものよりは品質は劣るものの、ただの鋼や鉄で作られたガントレットよりも非常に頑丈で、魔力浸透率も高いのだという。


 しかも驚きなのが付与魔法による自動サイズ調節つき。


 届いてすぐに装着することができた。


 これだけのものを今回は支給してもらったからな、しっかりと働きで返さなければ。


 準備したものをアイテムボックスに詰め込み、南門へ向かう。


 南門の前には、『鉄の拳』ともう一組のパーティが到着していた。


「おはよう、フーラァ。」


「おはようございます、ケビンさん。それにリアさん、ニーアさん、ジードさん、フォウさんもおはようございます。」


「おはよ!フーラァ。」


「おはようございます。フーラァさん」


「おはよっす~」


「おはよう」


「今日はよろしくお願いします。えーとそちらの方々は?」


「ああ、彼らは今回の作戦の参加するBランク冒険者の…」


「やあ、初めまして可憐なエルフのお嬢さん!僕はこのパーティ『楽園の宴』リーダーのレックス。あなたのお名前をお聞きしても?」


 そういってレックスは、俺の前で恭しくお辞儀をした。


 なんともオーバーで演劇のような言葉と立ち回りだが、不思議とレックスには合っている気がした。


 それともう一つ気になるのが彼がリーダーを務めるパーティ『楽園の宴』のメンバー。


 パーティメンバーは、レックス以外の全員が女性冒険者で構成されている。


「初めまして、エルフのフーラァです。よろしくお願いします。」 


「フーラァちゃん…。ああなんて素敵な響きのお名前だろうか!君の可憐な存在そのものを現しているかのようだ!!」


 一段とクサいセリフが飛び出して来たな~。


 このあと来るセリフがなんとなく予想できる。


「フーラァちゃん、僕の妻の一人にならないかい!絶対に幸せにしてみせるし、絶対に僕が守って見せる!どうだろうか!!」


 やっぱりそうきたか…。


 だが不思議なことに、レックスのその言葉からは裏を感じない。


 清々しさすら感じるのは、レックスが本気で自分をかけて言っているからなのだろう。


 彼のハーレムには5人の女性冒険者がいるようなのだが、全員仲良さそうにしている。


 どこかの雑魚先輩とは大違いだな。 …まあ当然このお誘いは断るんだが。


「すみません。お断りします。」


「くぅーーフラれてしまったか!!残念だがしかたない!だがそれも当然か、君は俺に守られるほどやわな女性じゃないようだし。そうでなければFランク冒険者でありながら、今回のような依頼に参加させられるはずがない!」


 やはり清々しい。なんとも不思議な男だ。


「もーレックスの悪いくせがまた出てる~」


「ほんとにもー、気に入った娘に出会うとすぐ誘うんだから~」


 レックスの両脇からハーレムの女性冒険者2人が現れ、彼の腕に抱き着いた。 


「ヤキモチかい?ハニーたち。いつも言っているだろう?僕はパーティの女の子全員を全力で愛してるって!」


「それはわかってるけど!!初対面の人に迷惑かけるなっていってんのよ!」


「そのとおりよ。ごめんなさいね、ええとフーラァで良かったかしら?私はカレン、もうひとりはジニー。レックスのパーティメンバーよ。よろしくね!」


「いえ、気にしてませんよ。エルフのフーラァです。今回の作戦ではよろしくお願いします。」


「うん、よろしくね!他のパーティメンバーは後でまた紹介させてもらうわ。これから荷物の最終確認なんかをしなきゃいけないから。ほら!いくわよレックス!」


「そ、そんなに引っ張らないでくれよハニーたち!あ、フーラァちゃん!よかったらまた後で…」


 最後は2人に引きずられるようにして、レックスは連れていかれた。


「はは…。フーラァ気を悪くしないでやってくれ。彼はあんなだが、女性に対しては全力で誠実なやつなんだ。だからパーティメンバーの雰囲気はとてもいいし、冒険者としての実力もランクに裏付けされているとおりだ」


 たしかにBランクということは、ケビン達よりも上という事。


 今回その働きにはきっと助けられることになるだろう。


 その後ケビン達と出立の準備をしていると、最後の一組が現れた。


「すまない、ギルマスに呼ばれて一度ギルドによっていたのだが、待たせてしまったようだな」


 最後に現れた3人の冒険者、彼らが『トライデント』か。


『トライデント』は3人が実の兄弟、しかも三つ子の冒険者らしい。


「君がギルマスの依頼で参加するというフーラァか。俺は『トライデント』リーダーのダリルだ。」


「私は次男のベリルです、よろしく」


「…三男。…ゲイルです。…よろしくお願いします」


「エルフのフーラァです。よろしくお願いします」


 どうやら顔はそっくりな兄弟だが、性格は全然違うようだな。


 これならなんとか区別がつきそうだ。


「今回の作戦では、俺がリーダーをすることになった。討伐依頼に参加するのは初めてだとギルマスから聞いているから、わからないことがあれば俺に質問してくれ」


「わかりました。ありがとうございます」


「では出発前に一度、今作戦の動きを確認する。集まってくれ!」


 今回の作戦に参加するメンバーが全員集まり、作戦会議が開始された。


 俺はこの作戦中、『鉄の拳』と共に行動することになっている。


 今回駆除するゴブリンの集落は、崖を背にした場所に作られているという。


 ゴブリンの英雄の姿をまだ観測できていないとのことだが、ミカゲ曰く崖にある小さな洞窟から強い気配がしているためそこにいる可能性が高いという。


 まず崖を囲うように3パーティ等間隔に分かれて森に布陣する。


 その後同時に集落めがけ魔法による奇襲をかけ、ゴブリン共をあぶり出す。


  この時、洞窟にいると思われるゴブリンの英雄が襲撃に気づかないよう洞窟にはサイレントの魔法をかける。


 今回の作戦に参加している魔法使いは『鉄の拳』に1人、『楽園の宴』に2人。


 そのため『楽園の宴』の魔法使いの内1人は『トライデント』と共に配置に着く予定だ。


 ゴブリン共のあぶり出しに成功したら、パーティごとに戦闘を開始。


 ゴブリンの英雄以外の個体を殲滅する。


 報告では集落のゴブリン達の総数は30前後という話だ。


 ゴブリンの繁殖力を考えるとこの数は少ない方なのだが、ギルマスが言うには魔物は種族進化すればするほど繁殖能力が低下するのだという。


 進化すればその分寿命も延びるため、高い繁殖能力をもつ必要がなくなっていくわけだ。


 初手の魔法攻撃はあぶり出し兼、できる限り敵の数を減らす意味もある。


 予測では敵総数の内、半数程度はその攻撃で倒せる見込みである。


 残った半数を3パーティで分断するように戦い、最終的には相手の連携を防ぎながら各個撃破していくのを目標としている。


 集落内のゴブリン共の殲滅が完了したら、いよいよ3パーティで洞窟内の英雄を狩る。


 魔法使い3人の高火力魔法を洞窟に放ち、こちらもあぶり出す。


 洞窟から出てきたところを3パーティで集中攻撃し討ち取る。


 これが今回の作戦の大まかな流れである。


「初手の魔法攻撃でどこまで相手の数を削れるかで、その後の展開が変わってくると思われる。、魔法使いの3人にはそこに集中してほしい。そのため、集落までの道中や、初手後の戦闘に関しては魔法使いたちの負担をなるべく減らすように戦ってもらいたい」


「そうだな、最後に洞窟への魔法攻撃をすることも考えると魔法使いをどれだけ温存できるかが重要になりそうだ」


 ダリルの考えに、ケビンや他の面々も賛同しているようだ。


 魔法使いを温存した戦いのことを考えると、鍛冶屋に用意してもらったあれが役に立ちそうだな。


 まあいざとなれば、俺も魔法は使えるしそのあたりは問題ないだろう。


「それでは作戦会議は以上で終了し、目標のゴブリン集落に向け出発する!!」


 ゴブリンの英雄の姿を観測できていないという不安要素はあるものの、予定通り俺と3パーティの面々はゴブリン討伐に出発するのだった。



               ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ゴブリンの集落までは、ヒタボの街から徒歩で2時間弱の距離だという。


 予定では途中で一度休息を挟み、集落が近づいてからは索敵で周囲に気を配りながら進む。


 今作戦を昼間に行う理由は、ゴブリンが夜目に優れているからだ。


 薄暗い洞窟などに生息していることの多いゴブリンは、夜の暗闇であろうとお構いなしに行動できる。


 そのため夜襲だとこちらが不利になりかねない。


 今回のゴブリンが洞窟前に集落を広げているのは、誕生したゴブリンの英雄が洞窟を独占しているからではないかと予想される。



 予定通り、道のりの半分あたりで一度休息をいれる。


「ここから先は、スカウトの2人で索敵を強化しながら進む。ゴブリン以外の魔物を見つけた場合はこれを回避、ゴブリンの巡回兵の場合はこれを撃破する。こちらの存在に気づかれるまえに狩るのがベストだが、もし気づかれたなら集落に戻られる前には狩ってこちらの奇襲を悟られないようにする」


 スカウトの内1人はフォウ、もう1人は『楽園の宴』の女性スカウトだ


 ここからは俺も、さっき覚えた索敵のスキルを使うことにしよう。


 ここまでの道中、周囲の魔物の気配を探るよう努めていたら覚えたようだ。


 休息後、再び歩き始めて半時ほどのところで索敵スキルが反応する。これは…


「ダリルさん!索敵に反応ありっす!200m先に進んだことろに5体のゴブリン。気配からしてチャンピオン1、エリート4っす!!」


 どうやらフォウも気づいたようだな。さすがだ。


「承知した。それでは気配遮断のスキルを持つ俺とゲイルで…と思ったが今回は君に頼もうか」


 そういってダリルが俺の方を向く。


「ギルマスから聞いた話を疑うわけではないんだが、やはり君の戦闘を一度みておきたいんだフーラァ。Fランクでありながら今回の作戦に選ばれた君の実力を」


 なるほど、そういうことか。


 たしかに今回の作戦はFランクが参加するのはありえないものだとリディアもいっていた。


 そうであるなら、俺はここにいるメンバーの信用を得るために実力を示さなければならないだろう。


「わかりました、この程度でしたら私ひとりで十分です」


「いやいやいや、流石にフーラァちゃんひとりっていうのは厳しくないかい?チャンピオンもいるんだろう?普通なら4~5人のパーティで対する相手だ!」


 純粋に心配してくれているのだろう、レックスがダリルの方針に異議を唱える。


 だがこれは俺がこのメンバーに認められるための、いわば儀式だ。


 この後に控える本番の集落襲撃の際に、俺に背を任せても大丈夫だと思わせるための。


「レックスさん、大丈夫ですよ。それにこれは、皆さんにFランクである私を認めてもらうために必要ですから。」


「で、でもねえ…」


「もちろん無理だと判断すれば、すぐに俺とゲイルが助力する。相手を逃がすわけにもいかないしな」


「はい、それでお願いします」


「気配の遮断はできるか?」


「はい、問題ないと思います」


 俺があまりにも落ち着いているからだろうか、レックスはそれ以上口を出さなかった。



 そこからは慎重に歩みをすすめ、巡回しているゴブリン共を視界にとらえた。


「これ以上近づくと気づかれる可能性がある、フーラァここからは頼んだぞ」


「はい」


 小さく返事をし、ゴブリン達にの方を向く。


 ゴブリンまでは30m強。気づかれず、さわがれず、速やかに敵を倒さなければならない。


 自分の体に意識を集中し、気配を周囲に拡散するようにイメージする。


 闘気を抑え、景色に溶け込むように。


 この方法は前世の頃に師事していた師匠のひとり、戦国時代の忍者の血を引くという人から教わった技術だ。


 師匠の気配隠蔽は完璧で、見通しのいい平地でも見失うほどだ。


 その師匠に及第点を貰った俺の気配隠蔽が、どこまで魔物に通用するか試してやろうじゃないか。


 気配がどんどん希薄になる。


「フーラァちゃんが…消えた????」


 レックスが驚きに声をもらす。


 どうやら気配隠蔽はうまくいっているようだな。


 これならゴブリン共にも気づかれないだろう。


 よし、いくか!!!


 ゴブリンとの距離を一気に詰めていく。


 フォウの索敵通り、チャンピオン1のエリート4の構成だ。


 まずは周りのエリートから仕留めにかかる。


 仲間を呼ばれないためにも極力一撃で沈める必要があるな。


 人差し指を一本だけ立て、鋭くゴブリンエリート達の喉をめがけ突き出す。


 突き刺す音すら聞こえない程の速さと鋭さで、一撃のもと屠っていく。


 1体目…2体目…3体目…4体目!


 ゴブリンエリート達は、何が起こっているのか理解することもできないまま絶命していった。


 ゴブリンエリートたちが首から血を流し倒れたことで、ゴブリンチャンピオンも異変に気付いたようだ。


 叫び声をあげようとしているように見える。


 叫ばれる前に倒すには、今の立ち位置からだと一歩足らないな…。


 なら…!!!


 両足に風属性の魔力を生成する。


 前世の古武術の走法に【縮地】というものがある。


 重心をわざと前に崩すようにし、それを支えるように足を出していく走り方だ。


 この走り方の利点は、走り出しの瞬発力と加速までの時間の短さ。


 この【縮地】に合わせて、風属性の魔力を足裏から瞬間的に放出することでさらに加速させる。


 今の高スペックな肉体でこれを行うのだ。


 相手からすれば一瞬にして懐に飛び込まれたように見えるだろう。


 ゴブリンチャンピオンに叫ばれないよう、ゴブリンエリートと同様にまずは喉を潰す。


「……!!!!!」


 声にならない叫び声をあげながらゴブリンチャンピオンがこちらに拳を振りぬいてきた。


 さすがはチャンピオンといったところか、喉に穴が開き声は出せなくなったがまだ絶命はしていないようだ。


 迫りくる大きな拳をギリギリでかわしながら相手の懐へ。


 その流れのまま、小さいモーションから鋭い手刀を心臓めがけて繰り出した。


 手刀にあわせ、風の魔力を螺旋状に手に纏わせる。


「破ッ!!!!」


 風の魔力によって貫通力が増した手刀は、見事ゴブリンチャンピオンの心臓をとらえ、体ごとつきぬけた!


 ゴブリンチャンピオンの巨体が力なくうなだれる。


 こうしてゴブリンチャンピオンは息絶え、今回の戦闘は幕を閉じたのだった。

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