第3話 異世界人と交流しよう!!
フーラァと共にゴブリンエリート達を退けた『
「い、生きてる…俺たち、生きてる」
ケビンは自分に、そして仲間たちに言い聞かせるようにその言葉を口にした。
そしてその言葉を皮切りに、パーティメンバーもポツリポツリと皆呟いていく。
「俺なんか、走馬灯が何度も見えたぞ…盾を支えるのもやっとだ…」
「私も…もう魔力がスッカラカン、今になって足も震えだして立ってられない」
大盾使いのジードに続き、魔法使いのリアも言葉を漏らす。
ジードの使う鉄製の盾は所々削れ、ゴブリンの拳の形に凹んでしまっている。ゴブリンとの戦闘が
どれほど苛烈だったのか、容易に想像ができるだろう。
「僕は危機察知スキルが鳴らす警鐘が頭の中で響きっぱしだったから、まだ遠くで音が鳴ってる気がしてるっすよ~」
「ダメージ大きい方はおっしゃってください。残り魔力は少ないですが、できる限り回復魔法を使います」
スカウトのフォウは、顔をげっそりとさせてその場で大の字に寝そべる。
神官のニーアは、少し冷静さを取り戻して仲間たちの治療へと動き出した。
仲間たちの声を聞き、改めて自分たちが生きていることを確認したケビン。だがその視線は、
銀髪をなびかせるエルフの少女を追っていた。
少女は、見た目だけなら町にいる10代かそこらの女の子と何ら変わらないように見える。
しかしその少女は、自分たちが死力を尽くしても敵わなかったゴブリンの群れを圧倒的な力で
撃滅したのだ。
風になびく銀髪は絹糸を思わせるように美しく、アイスブルーの瞳はどこまでも透き通っている。
そんな少女の容姿とは対照的に、その両手は倒したゴブリン達の血肉で染まっていた。
ものの数分でゴブリン達の命を刈り取った少女からは、底知れぬ力を感じる。
我に返ったケビンは、フーラァに駆け寄り話しかけるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「助かったよ。あのまま戦っていたら、確実に俺たちは全滅していた」
「いいえ、犠牲者がでなくてよかったです」
ケビンと呼ばれていた、冒険者たちのリーダーが感謝の言葉を述べた。
「本当にありがとう。俺はこのパーティ『鉄の拳』でリーダーをしている、ケビンだ」
「私はフーラァ。見ての通りのエルフです」
自分の口から、鈴を転がすような澄んだ声が出てくる…
うーん…前世が男なだけに、この声に慣れるのは時間がかかりそうだ。
「この辺りじゃ見かけない顔だが、旅人かい?エルフが一人旅とは珍しいが」
「世界を見て回りたくって、半ば強引に故郷を飛び出して来たんです」
優しい表情を作りながら、即席で考えた身の上話をした。
今後は自分の出身なんかを聞かれることもあるだろうし、ある程度設定を考えておかなくちゃな…
とりあえずは、世界を見たくて故郷を飛び出した旅のエルフ、、、こんな感じで通そう!
「そうだったのか。それにしても…君は、とてつもなく強いな!ゴブリンエリートの集団相手に、ここまでの大立ち回りができる者は冒険者の中でもそうはいないだろう」
「そ、そうなんですか?」
自分でも、少し派手にやりすぎたかもしれないと内心では思ってる。
武神ヨカテルによって与えられたこの肉体は、思っていた以上に高スペックだった。
武神の加護があるとはいえ、ここまでの出力がでるとは……
周囲で脱力していた「鉄の拳」のパーティの面々もこちらまで歩み寄ってきた。
ケビン以外の4人が、それぞれ感謝の言葉を口にする。
「助太刀、感謝する!!俺はジードだ、よろしくな!」
「ほんとにありがとう、私はリアよ。よろしくね」
「僕はフォウっす。ほんと感謝、感謝っす~」
「神官のニーアを申します。ご助力いただき、感謝申し上げます。」
「全員無事でよかったです。私はフーラァ、よろしくお願いします」
4人は目を輝かせながら、言葉を続ける。
「先程の君の動きは凄まじかったな!!お伽噺に出てくる英雄のようだったぞ」
「わかる!私なんて動きを目で追うこともできなかった!!」
「うんうん!それに相手の動きが全部見えてるようなだったっす!」
「たしかに、英雄の生まれ変わりと言われても今なら信じられそうですもの!あれほどの動き、どちらで身につけたのですか??」
先程の戦果に対しての、感嘆と質問が矢継ぎ早に飛んできた。
「え、えーと…」
「お前たち、一度に話過ぎだ。フーラァが戸惑っているだろうが」
ケビンが間に入り、仲間たちをなだめてくれた。
正直、あの勢いには気圧されてたし、自分がどうやって強くなったかの設定もまだ未設定だ。
ありがとう…ケビン。 心の中で小さく感謝をした。
もちろん、笑顔はキープ。コミュニケーションはまず表情と言葉づかいからってね。
「さて!そろそろ倒したゴブリン共から魔石と証明部位を剥ぎ取るぞ!!」
ケビンの号令で、パーティの面々も動き出す。
魔物の体内には、必ず魔石と呼ばれる魔力結晶が存在している。
冒険者はその魔石や、魔物から剥ぎ取った素材を街で換金する…とヨカテル様に
インストールしてもらった基礎知識にあった。
「ゴブリンの魔石はどの辺りにあるんですか?」
「ん?もしかしてフーラァは冒険者じゃないのかい?あれほどの腕前だからてっきりすでに
冒険者として活動しているのかと思っていた」
「エルフの里でずっと過ごしていたので、冒険者登録はしたことないんです」
魔石の存在は基礎知識にあった。しかしゴブリンのどこに魔石があるとか、どこが討伐証明になるのかなどの細かい情報はなかった。
「なるほどな。よし、まずゴブリン種の魔石の位置だが右胸の辺りにある。そしてゴブリン種の証明部位だが、左耳が討伐証明になる」
ちなみにこういった魔物の情報は、基本的に冒険者ギルドで知ることができるらしい。
冒険者ギルドか…。そりゃ冒険者がいるんだから冒険者ギルドもあるとは思っていたけど、実際に話を聞くとワクワクしてくる。
前世の知識の影響か、冒険者ギルドといえば腕自慢が集まっているイメージがある。
それこそ前世では出会えなかったような、強者に巡り合うことができるかもしれないな、楽しみだ。
そんなことを考えている間に、ケビン達5人は手際よく魔石と左耳を回収していく。
聞けば『鉄の拳』は、中堅の位置づけにいるパーティらしい。さすがの手際というわけだ。
「私もお手伝いしますね」
未経験とはいえ、剥ぎ取りを全部まかせるのはしのびない。
たしか
アイテムボックスから剥ぎ取りナイフを取り出す。
「へー、フーラァさんはアイテムボックスのスキル持ちなんすか!通りで手荷物がすくないわけっすね」
フーラァのアイテムボックス見て、フォウは物珍しそうにしている。
「アイテムボックスは珍しいスキルなんですか?なにぶん里だと住民の人口自体が少なかったので」
「そうっすね~、冒険者で持ってるって人はあんまり聞かないっす!商人にはちらほらいるみたいっすね」
Lv.10のアイテムボックスだと、ほぼ無制限にものを入れることができる。
今後旅をしていく中で、このアイテムボックスは重宝しそうだ。
ヨカテル様に感謝だな…。
6人で剥ぎ取りをしたため、さほど時間はかからなかった。
「よし、これで全部だな」
ケビンが最後の一体から魔石と左耳を回収し終え、袋にまとめている。
とりあえず魔石と討伐部位は、ケビンたちにひとまとめに預かってもらい、街での換金後に分配することになった。
「先に行ってるトマスさんは、無事に森を抜けられただろうか。」
トマスとは護衛していた商人のことだろう。
確かにゴブリンからは逃がせたとはいえ、他の魔物に出会ってしまっていたら危険だ。
「それなら、私の使い魔に見てきてもらいましょう。ニーア、魔力の回復をお願いできる?」
リアがニーアに魔力を回復してもらい、何か呪文を唱えている。
リアが呪文を完成させると、ポンッという音と共に青いきれいな鳥が出現した。
青い鳥は、リアの頭上を旋回してから肩にとまる。
「フーラァは、使い魔を見るのは初めて?」
「はい、初めて見ました。」
「魔法使いの多くはね、自分の魔力で形作った使い魔を操ることができるの。熟練者だと使い魔と感覚を共有できる人もいるのよ。」
ほう、それはすごいな!鳥型の使い魔で感覚共有すれば、上空から情報を収集できて便利だろう。
「私も短時間なら感覚共有を使えるから、それでトマスさんの無事を確認するわ。ついでにこちらの無事をしらせる伝書も持たせましょう。」
使い魔の足に、伝書を括り付けて空へと羽ばたかせる。
感覚共有中、術者自身は無防備になってしまうらしい。意識が抜けているリアの本体は、木陰に休ませている。
「フーラァ、ニーアと一緒にリアの体を見ていてもらえるか?ジードとフォウは、俺と一緒にゴブリン共の死骸を埋めてくれ。このままにしておくと、他の魔物を集めてしまいかねないからな」
魔石と討伐部位を回収するために一カ所に積み上げたゴブリンの死骸だが、確かにこのままにしておくわけにはいかないな。
「わかりました、死骸の処理はお願いします」
女子2人を死骸の処理から外してくれたのかな?だとしたらケビンは中々の紳士だな。
元男としては、ちょっと罪悪感を感じるがここは素直に甘えておこう。
ケビンたちがゴブリンの死骸を埋め終わったところで、丁度よくリアも目を覚ました。
「お待たせ、トマスさんは無事に街へたどり着けていたわ。伝書にも目を通してくれたから、私たちの無事も伝わっているわ」
「そうか、無事たどり着けているか。リア、ありがとう。トマスさんの無事も確認できたし、俺たちはひと休みしてから街に向かおうか」
「そうね、流石にもうヘトヘトよ。体力も魔力も限界。できれば水浴びをしたいけど贅沢は言ってられないし。でもせめて少し休みたいわ」
「それがいいっすね~。索敵スキルで周囲を確認してるっすけど、魔物の気配ないし今のうちに休憩を挟むのがよさそうっす」
「俺も賛成だ。みんなボロボロだし、少しでも休息を取っておくべきだろう」
皆、ケビンの提案に賛成のようだな。たしかに、みんな目に見えて疲弊しているし休憩は必要だろう。
休憩に水浴びか…。そういえば、ここに向かう途中に小さいが湖があったな。あそこなら落ち着いて
休憩できるし、水浴びもできるんじゃないか?
「少しだけ移動が必要ですが、ちょっと行ったところに小さな湖がありましたよ。そこなら休憩に丁度いいのでは?」
その提案にリアの表情が明るくなった。
「本当に!?この辺りは、何度も来ているけどそんな湖があるの知らなかった。ケビン!そこで休憩しましょう!水浴びもできるかもしれないし!!」
「そうだな、せっかくそんな場所があるならそこで休憩にしよう。ジード、フォウ、ニーアもそれでいいか?」
問いかけに3人は首を縦にふった。
「よし、それじゃあフーラァ。湖までの案内を頼めるか?」
「わかりました。それじゃあ、案内をしますね」
全員賛成で、湖で休憩をすることになった。
この時の俺はまだ知らない。何気なくしたこの提案が、自分自身を追い詰めることになるとは…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『鉄の拳』の5人をつれ、少し移動した先にある小さな湖までやってきた。
「この森の中に、こんな場所があるなんてしらなかったな…。」
「ええ、そうですね。大きさはそこまでではないですが、これほど綺麗な湖があるのに今まで気がつかなかったなんて…。」
ジードとニーアが、美しい湖の景色を眺めながら感嘆の声をあげる。
ニーアの言う通り、これだけ風光明媚な湖なら冒険者は知っていそうなものだが。
どうやら『鉄の拳』のだれひとり、この湖の存在は知らなかったようだな。不思議だ。
「さて、俺は薪木を拾ってこようと思うんだがジードも手伝ってくれるか?」
「わかった。手伝おう」
「んじゃ僕は、荷物番しながら索敵スキルで周囲を確認しとくっすよ~」
「それじゃあ私たちは、先に水浴びをさせてもらうわね!一応言っておくけどフォウ、覗くんじゃないわよ?」
「いやいやいや!そんな命知らずなことしないっすよ~。そんなことしたら、リアのファイアボールで顔面爆散させられる未来しか見えないっすよ~」
「あら、わかってるじゃない。、今ならついでに、アイスニードルもつけてあげるわ。」
「よ、容赦なさすぎじゃないっすか~」
リアとフォウが、軽口を言い合っている。…内容が物騒だな。
ケビンとジードは薪木拾い、フォウは周囲警戒、リアとニーアは水浴びをするようだ。
それなら俺は湖の周りを散策して、山菜や薬草を探してみようかな。
「それなら私は、山菜や薬草の採取を…」
「あれ?フーラァは、私たちと水浴びしないの??」
……!!??
リアから予想外な言葉をかけられ動揺する。
「あ、もしかしてエルフの風習で、他人には肌を見せないみたいなのがあったりする?」
「い、いえ…そのような風習はないと思いますが…」
「なら問題ないわね!さあ、行きましょ!!」
「わっ…!ちょっと!?」
有無を言わさず、リアが右腕を引いてくる。
気づけば左側にはニーアもおり、もう逃げ場がない。観念する他なかった。
…………くっ。まさか異世界で初めてのピンチが、こんな形で迫ってくるとは……。
男性陣から離れ、湖の畔にある岩陰まで移動するとリアとニーアの2人は躊躇なく服を脱いでいく。
先程リアはフォウにあんな事を言っていたが、言葉とは裏腹にちゃんと信頼してるんだな。
離れているとはいえ、男性陣のいるパーティでこうやって女性陣だけで水浴びできるというのは、しっかりとした信頼関係がないとできないことだろう。
衣服の下に隠れていた、2人の肌が徐々にあらわになっていく。
リアの体は、程よく引き締まっており美しいボディラインを作り出していた。
対してニーアはというと…。
神官服に包まれていても主張が強かった胸元が、神官服の拘束から解き放たれて、よりその存在感を大きくしていた。
…………あぁ、目のやり場に困る…。
いやまあ、今の俺は女なわけだから2人の対応は何の間違ってないんだが…。
まだ転生してから一日も経過していない俺にとっては、男であった記憶は昨日のことあって…。
いまさら、言い訳じみた考えが頭の中を堂々巡りしている。
「ほーら、フーラァも早く脱いじゃなさい」
「ふふふ、お手伝いしましょうか?」
くそぅ…、なんで2人はこんなに積極的なんだよ。
「だ、大丈夫です!今脱ぎますから!」
えーーい!ままよ!!男は度胸だ!もう男じゃないけど!!!
気合を入れて服をすべて脱ぎさり、2人に続いて湖に入っていく。
「いや~凄そうだとは思ってたけど…フーラァ、あなたスタイルいいわね!!」
「ほんとうですね。女の私でも正直魅了されてしまいます。」
「わかるわかる!この銀髪もすっごく綺麗~。見惚れちゃうわ…。」
「お顔もお人形のように可愛らしいですし、私が男性だったら思わずアプローチしてしましそうです」
2人から遠慮のない視線を向けれ、これでもかと褒められた。
「あ、あの…。あまりジッと見られると流石に同性でも恥ずかしいです…。」
「あーごめんごめん。あまりにも綺麗だったからさぁ」
水面に映る自分の顔は、耳まで真っ赤になっていた。
前世でこんなに容姿を褒められたことはなかったからな…。耐性がないんだよ。
「ほ、ほら!男性陣を待たせすぎるのも悪いですし、早く汚れを落としてあがりましょう!」
「それもそうね、水浴びを済ませちゃいましょう」
止まっていた手を動かし、水浴びを再開しようとしたその時…
………ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
地鳴りにも似た大きな音が、湖の底から聞こえてくる。
「な、なんです!!?」
「湖全体が揺れてるの??!」
揺れと音は収まり、静けさが戻ってきたと思った瞬間だった。
ザッパアーーーーン!!!!
少し離れた水面から、三本の角を携えた巨大な影が飛び上がった!
巨大な影は、飛び上がった真下の水面に再び潜っていく。
「んなぁ!!?」
「い、今のは!?」
水面に潜りきる前に鑑定スキルを発動させる。
【種族】
トライホーン・カイザートラウト Lv.32
【スキル】
刺突突進 Lv.6、気配隠蔽 Lv.10、空間隠蔽 Lv.9、水流操作 Lv.7
【基礎ステータス】
・体 力 9000
・魔 力 3000
・攻撃力 4000
・耐久力 7000
・俊敏性 7000
・幸 運 50
カイザートラウト…異世界のデカい
体力や耐久力、俊敏性のステータスは、今の俺とさほど変わらないくら高い。
ゴブリンエリートたちよりも確実に強敵だ。
「何なのよあいつ!!フォウの索敵じゃ、この辺に敵性のある魔物はいなかったはずなのに!」
「トライホーン・カイザートラウトという魔物みたいです!スキルに気配隠蔽 Lv.10と空間隠蔽 Lv.9を持っているので、そのせいで索敵にひっかからなかったのかもしれません!!」
「フーラァさんは鑑定スキルもお持ちだったんですね」
「はい、そこまでレベルは高くないですが」 ということにしておく。
今思えば、この湖が他の冒険者に見つかっていなかったのは、空間隠蔽 Lv.9で隠されていたからだろう。
それを俺が、木の上から辺りを見渡すことで見つけてしまったわけだ。
どうして木の上からなら見つけけられたんだろう?
空間隠蔽は平面的にしか作用しないとかか??
そして一度対象を認識すれば、空間隠蔽 への耐性ができるのかもしれないな。
ここまで皆を案内できたわけだし。
「まずいわね。杖は皆の荷物のところに置いてきてるから、使えても下級魔法くらいしか今は使えない!」
「私もです。大した魔法は使えません」
ということは、俺がやるしかないな。
「大丈夫です、私に任せてください。」
「ふ、フーラァ!?いくらあなたでも、あんな巨大なの相手にひとりじゃ…」
安心させるように、2人に二コリと微笑んで見せる。
………ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
再び地鳴りが響き始める。
ザッパアーーーーン!!!!
カイザートラウトが再び飛び上がった。
先程飛び上がった時よりも、数段高く飛び上がってから体を起用に反転させ、こちら目がけて突進してくる。
完全にこちらを、自分のテリトリーを荒らす敵として見ているようだ。
……【身体強化】!!!!
アーツとして身体強化を覚えたことで、息吹を一から意識的に行わなくてもよくなったようだ。
【身体強化】を意識するだけで、スムーズに息吹が完了されている。
まるで前世の空手の師匠たちがやる息吹みたいだ!
眼前にカイザートラウトの一番太く、大きな角が迫る。
「ふぅっっっ!!!!」
迫る大きな角を両手で掴み、受け止める。
カイザートラウトの全体重を受け止めた両足が、地面に少し沈み込む。
このままでは、後ろの2人を巻き込んでしまうかもしれない…
「それならっ!!上にぃぃぃぃぃ!!!!!」
体を大きく捻り、カイザートラウトを上空へと投げ飛ばした。
よし、ここであれを試してみよう。
ゴブリンとの戦闘で、リアが使っていた…そう魔法だ。
ヨカテル様から貰った知識によれば、この世界の魔法ではイメージが重要になるようだ。
リアたち魔法使いの唱えている呪文は、そのイメージを明確化、固定化するためのものらしい。
もちろん、こちらに転生したばかりの俺はその呪文をしらない。
だが前世の創作物に出てくる魔法なら容易にイメージすることができる。
これは、そのイメージで魔法を使えるかの実験。
魔力量は、ハイエルフということでとても多い!
なら明確なイメージさえできれば、魔法を使えるはずだ。
前世ではなしえない、魔法を用いての武術の進化!その第一歩だ!!
【魔力操作】のスキルを意識することで、スムーズに体内の魔力と体外から取り入れた魔素を練り合わせ、練り合わせた魔力を右脚に集中させる。
イメージする魔法は、漫画やアニメなんかにでてくるウィンドカッター。
風の刃を飛ばして、敵を切り裂く魔法だ。
そしてその魔法に、中国拳法の蹴り技の一つ『旋風脚』を合わせる!
『旋風脚』は某格闘ゲームでも派手な蹴り技で有名だろう。
左脚に重心を置いて、軽く飛び上がるようにしながら右脚を相手に向けて振りぬく蹴り技。
だが今回は、右脚振りぬいた勢いにのせ足先から風の刃を放出する!
…名付けて。
「旋風豪刃脚!!!!!!!!!!!」
脚先から放たれた巨大な風の刃が、カイザートラウトの巨体を正面からとらえ…
ズッッパンッ!!!という音と共に、その巨体を真っ二つに切り裂いた。
二つに割れた巨体はフーラァ達3人のいる進路から逸れ、左右に分かれて湖の着水した。
その光景に、リアとニーアの2人は言葉を失っている。
うん、前世の知識によるイメージで問題なく魔法は使えるな。
俺が魔法の発動に手ごたえを感じているとリアが詰め寄ってきた。
「フーラァあなた!無詠唱魔法も使えたの!?今のウィンドカッターよね!??」
今までにないリアの勢いに、少したじろいだ。
魔法使いだからな、魔法のことになると熱くなってしまうようだ。
「そ、そうですね。確かにウィンドカッターをイメージした技です。私の村には、呪文を詠唱する文化がほとんどなかったので…」
「流石エルフね、あれ程の大きさの風の刃を無詠唱で撃てるなんて…ウィンドカッターは初級魔法だけど、あなたの魔法は下手したら上級魔法並みの威力があったんじゃないかしら」
「は、ははは…」
どうやら通常のウィンドカッターでは、これだけの大きさと威力は出せないらしい。
今後使うときは気を付けないとな…。
「ですがその魔法のおかげで助かりました。ありがとうございます、フーラァさん」
「そうね。あのままだったら、確実に私たちはあの魔物の腹の中だったわ。ありがとう、フーラァ」
2人からの感謝の言葉をかけられたところで、少し離れたところから男性陣の呼ぶ声が届く。
「すごい地響きがしていたが3人は大丈夫か!!!」
「ケビン、私たちは大丈夫よ!!服を着たらそちらに行くから少し待ってて」
「わかった。無事ならいいんだ。」
3人は水浴びを切り上げ、男性陣と合流することにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「3人とも何があったんだ?それにこの巨大な魚は…」
「トライホーン・カイザートラウトっていうらしいわ。水浴びをしてたらこいつが襲ってきたのよ。気配隠蔽スキルを持っていたせいで、フォウの索敵にかからなかったみたい。さっきの地響きと揺れはこいつが水中からあがってくる時のものね」
男性陣と合流し、さっきあったことの顛末をリアがケビンに説明している。
「杖も持たないのによく無事で…。それにこんなきれいに真っ二つに…」
「ああ、これはフーラァの魔法よ。無詠唱で巨大なウィンドカッターを撃って倒しちゃったの!」
「無詠唱魔法まで使えるとは…フーラァにはほんとうに驚かされるな」
とりあえず、微笑んでおく…。
前世のイメージで魔法を撃ったんです!!なんて言えないしな。
カイザートラウトを倒したら、またレベルが上がったようだ。透明な板が目の前に浮かんでいる。
フーラァ(今泉 風太)はレベルアップしました。 Lv.10→Lv.17 UP!!
【基礎ステータス】
・体 力 11000→11700
・魔 力 10500→12000
・攻撃力 8800→9700
・耐久力 8300→9000
・俊敏性 8800→9200
・幸 運 100→110
【スキル】
風魔法 Lv.1(New)、早熟 Lv.10、芸達者 Lv.10、武芸者 Lv.10、鑑定 Lv.10、空間収納 Lv.10
魔力操作 Lv.3
【アーツ】
旋風豪刃脚(New)、身体強化、首切り椿
今回の戦闘で、風魔法を覚えられたようだな。
今度は他の属性の魔法も使ってみることにしよう。
「さてこのカイザートラウトだがどうするか。俺も見たことのない魔物だ。どこに魔石があるのかもわからなければ、討伐部位もギルドで調べなければわからんな。」
「かといってこのまま置いていくのはもったいないな」
「ジードの言う通りもったいないですわね、どういたしましょうか」
この巨体を運んでいくには、通常なら大きな馬車なんかが必要だろうな。
だけど、俺にはこれがある。
「それなら、私がアイテムボックスにしまいますね。この大きさならギリギリ入ると思います。」
鑑定によればこのカイザートラウト、身は柔らかく食用に向いているらしい。
捨てていったら、もったいないお化けが出てしまう。
「おおそうか、それならフーラァにお願いしよう」
ということで、俺のアイテムボックスにしまっていくことで落ち着いた。
半身になったカイザートラウトの巨体2つを、アイテムボックスにしまっていく。
「それじゃあひと休み挟んで、俺たちも街に戻ろう!」
俺たち6人は、街に戻るための体力を回復するべく、湖の畔で休息を取るのだった。
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