第2話 異世界戦闘しちゃいました。
「転生したら美少女エルフだった件……てか??」
前世では強面の大男だった俺こと今泉 風太は、トラックに轢かれて異世界転生したらエルフの少女・フーラァとして転生していた。
種族も性別も見事にチェンジして、前世の面影なんて欠片もない。
こんな新しい体になるのは予想の斜め上だ…。
まじまじと、川に映った新しい自分を見つめる。
細く引き締まった体と、それとは相反するふくよかな胸元。腰まで伸びた白銀の美しい髪。
世界を映すのは、澄み切った湖面のようなアイスブルーの瞳。
前世の感覚でいえば、美少女といっても過言ではない容姿のエルフがそこにいる。
その身を包むのは、ハイネックのノースリーブシャツ。
そして動きやすいショートパンツと脚にはブーツ、手にはグローブがはめられている。
軽装ではあるが、ザ・異世界の女冒険者といった服装だ。
柔らかい印象の容姿という要望を出したのは、俺自身だが…
それがヨカテルの解釈では女性になってしまうとはな…説明が抽象的だった俺も悪いのだが。
転生する前に、転生後の容姿をみせてもらうべきだった…。
「このまま文句を言っててもしょうがないか…。まずは現状を把握しないと…」
少なからず浮かんでくるヨカテルへの文句を押し殺し、自分のステータス確認に意識を切り替える。
「えーとたしか、ステータスオープ!」
そう呟くと、目の前に自身のステータスが記載された透明な板が出現した。
おお…!これがステータスボードか!!
ヨカテルがインストールしてくれた基礎知識曰く、アラーラミアにはステータスの概念が存在している。自身のステータスはこのステータスボードで任意に確認できるのだ。
【名前】
フーラァ(今泉 風太) Lv.1
【種族】
ハイエルフ
【年齢】
17歳
【称号】
転生者・武神に導かれし者
【スキル】
早熟(Lv.10)・芸達者(Lv.10)・武芸者(Lv.10)・鑑定(Lv.10)・空間収納(Lv.10)
【加護】
武神ヨカテルの加護
【基礎ステータス】
・体 力 10000
・魔 力 8000
・攻撃力 8000
・耐久力 8000
・俊敏性 8000
・幸 運 100
「……色々ツッコミどころがあるな……」
アラーラミアでの、一般的な人種Lv.1のステータスはだいたい……
・体 力 1000
・魔 力 500
・攻撃力 500
・耐久力 500
・俊敏性 500
・幸 運 50 といった具合である。
「種族がハイエルフ…エルフの上位種か!!」
種族の項目に意識を向けると、詳しい説明が表示された。
【ハイエルフ】
エルフの上位種族。ハイエルフと通常のエルフの違いは、主に魔力量の多さ・魔力制御の精密さ・寿命の長さである。寿命でみると通常のエルフが500年程度の寿命であるのに対して、ハイエルフは2000年は生きることができる。
「なるほど、魔力が高いのは種族特性ってことか」
魔力が高いのは種族特性として、他のステータスも軒並み高いのはなんでだ…?
一番怪しいのは……やっぱりこの『武神ヨカテルの加護』
種族の項目と同様に、意識を向けると加護についての情報が表示された。
【武神ヨカテルの加護】
所持者の体力、攻撃力、耐久力、俊敏性の数値が大幅にアップする。
…………おおぉ、やっぱりこれだった…。
加護の効果でほとんどのステータスが、通常のLv.1の10倍の数値になってる…。
これは、加護やステータスに関してはできるだけ口外しないようがよさそうだ。
続いて、スキルの欄にも目を向けた。
アラーラミアで得られるスキルは取得するとスキルレベルLv.1から始まり、Lv.10で最大となる。
「貰ったスキルがどれもLv.10でカンストしてるし…ちょっとサービスし過ぎじゃないですか、ヨカテル様」
ヨカテルに届いているかわからない独り言は、森の空気に溶けていった。
鑑定や空間収納スキルの使い方を一通り確認し終え、周辺の森の散策を開始する。
転生後に目覚めた周辺は、木々が生い茂っていて道のようなものは見当たらなかった。
微かにだが、動物たちの気配をそこかしこから感じる。
いや、ここは異世界だし魔物っていう可能性もあのるか?
「闇雲に進んでもしかたないし、上から確認してみるか!」
近場にある背の高い木に足をかけ、駆け上がる。
この新しい体は、羽でもついているんじゃないかと思うくらい軽やかに動ける。
忍者もびっくりな速さで、木のてっぺんまで登ることができた。
「この近くに街があるといいんだけど…」
木の上から周囲をぐるっと見渡す。すると左手の方角に石造りの外壁で囲まれた街が目に入った。
街がある!それに結構大きな街みたいだ!
この距離ならなんとか日が暮れる前には着けるはずだ。
街を見つけられたことにひとまず安堵し、木から降りてその方角に向かおうとしたとき…
少し離れた木々の間から金属同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。
この金属音、それと一緒に聞こえてくる叫び声。
これは、戦闘が行われている音だ!!
音の出どころに向かうとそこには、全身は緑色で手には武器を持った魔物と思われる集団と、戦士や魔法使いといった装束の集団が戦闘を繰り広げていた。
あの緑のがこの世界の魔物か?とりあえず…鑑定!
【種族】
ゴブリンエリート Lv.5
【スキル】
投擲 Lv.5、パワーブースト Lv.5、罠作成 Lv.4
【基礎ステータス】
・体 力 3000
・魔 力 50
・攻撃力 1500
・耐久力 1000
・俊敏性 1500
・幸 運 25
あれがゴブリン!しかもエリートってことは上位種か!!
人間種や亜人種などと同様に、魔物にも種族進化がある。
どの種族でも上位種への進化を果たすとステータスが飛躍的に成長するため、戦闘の難易度は数段階高くなると言われている。
応戦しているのがこの世界の冒険者だな。奮戦してるようだが徐々におされている
ゴブリンエリートに応戦している冒険者の集団は、一人ひとりのステータス自体はゴブリンエリートにおくれを取ってはいないようだった。
しかし如何せんゴブリンたちの数が多く、冒険者5人のパーティに対してゴブリンエリートは20体。多勢に無勢だ。
それに冒険者たちの後ろには、行商人と思わえる身なりのいい男とその男の馬車があった。それを守りながら戦闘をしているため、四方からの攻撃に対応しきれていないようだった。
赤の他人とはいえ、目の前で人間が殺されるのは寝覚めが悪いな…
「悠長なことは言ってられないが、まずは呼吸を整えよう…」
俺はいつも武術の修行でしている時と同じように大きく、そして深く息を吸い込んだ。
中国の太極拳や日本の空手には、共通した呼吸法が存在している。太極拳では『逆腹式呼吸』や『
へその下にある丹田を意識し、体外から気を取り入れて全身に巡らせる。武を極めた達人ともなれば、全身に気を巡らせることで肉体は鋼のように固く頑強にできるという。
前世で、空手の師匠にまず鍛えられたのがこの呼吸法だった。
大きく息を吸い込み、全身に気が巡るのをイメージする…すると暖かく流動的な何かが全身を満たすのを感じることができた。
この呼吸は、俺が武術に集中して打ち込むためのスイッチにもなっていた。
いわば、戦闘モードに移るための切り替えスイッチ。
ゆっくりと目を開き、眼前のゴブリンたちを見据える。
そして強く踏み込み
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なんてことはない、簡単な護衛依頼のはずだった。
定期的に依頼を貰っている商人からきた、隣町までの護衛任務。
魔物が出たとしてもこの森に現れるのは低級なものばかりで危険なことなんて今までなかった。
それがどうだ、俺と仲間たちはゴブリンエリートの集団に囲まれて命の危機に瀕している…
この男、戦士のケビンは冒険者で言えば中堅の部類だった。
同じ村出身の冒険者、魔法使いのリア、大盾使いのジード、スカウトのフォウ、神官のニーアの4人と共に『
自分たちの力を冷静に見定め、実力に見合わない依頼は決して受けない。そう行動してきた。
それなのに…今、彼らの目の前には実力に見合わない現実が、死という未来と共に迫ってきていた。
こうなっては、依頼人だけでも逃がすしかない…!それが冒険者の義務であり、俺のプライドだ!
ケビンは周りにいる4人に目配せをする。長い付き合いの5人だ、それだけで意思疎通はできる。『鉄の拳』全員の意思が統一できたことでケビンは依頼人の商人・トマスに声をかける。
「トマスさん!俺たちがこいつらを食い止める!!合図したら振り返らずに森道を走るんだ!」
「ケビンさん……」
ケビンたち5人の決意した表情をみて、トマスは苦渋の表情を浮かべるも力なく頷いた。
「必ず助けを呼んできます…ですのでそれまで、どうか生き延びてください!」
トマスの返答を確認し、安堵したケビンがゴブリンエリートへと視線を戻そうとしたその一瞬だった。
意識のスキを縫い、ゴブリンエリートの凶刃がケビンに迫る。
……!!? これは、、、避けきれない!
自身の死を確信したケビンの脳裏には走馬灯が流れる。
ああ…あいつらと…仲間たちともっと冒険をして…もっと有名になって、故郷に凱旋したかった…
凶刃が自分の喉を切り裂く衝撃に身構えるケビン。だが、一向にゴブリンの一撃に襲われない。
恐る恐るケビンが目を開く。
ケビンの前には、彼を襲うはずだったゴブリンエリートが、砕かれた武器と共に横たわっていた。
そしてその前に佇むエルフの少女。
美しい白銀のロングヘアーをなびかせ、澄み切った瞳を輝かせてゴブリンたちと対峙している。
命の危機が迫っていたことを、ケビンは忘れて息を呑んだ。
それほどに、その光景は美しかった。
冒険者のひとりが、商人へと意識を向けた一瞬をついて、ゴブリンの一匹がその冒険者に迫る。
フーラァはその一瞬の動きを見逃さず、冒険者とゴブリンの間に割って入った。
すかさず強烈な一撃をゴブリンへと叩き込む。
ドガッ!!という破砕音と共に、ゴブリンのもっていた武器は砕け散り、そればかりかゴブリンの胴体には大穴が開いた。
弾くつもりで拳を打ち込んだんだけど…想像以上の威力だな……!
人型の生物を殺めたことで、多少なりとも罪悪感や嫌悪感があるかと思っていたが、特ににそういった気持ちは沸いてこなかった。
ポーンッという音と共に、眼前に透明な板が現れる。そこには…
【魔力操作 Lv.1】を習得しました。 と記されていた。
もしかして『息吹』の時に体に流れ込んできたのが魔力だったのか??
それを全身に巡らせたから操作したって認識されたと?
スキルへの疑問は尽きないが、今はまだ戦闘中だ。
残っているゴブリン達に視線を移しながら、その場にいる5人の冒険者に声をかける。
「助太刀します、目の前の個体に集中してください!」
突然の助太刀の申し出に、一瞬面食らっていた冒険者の5人。
しかし俺が一撃でゴブリンエリートを沈めたことを理解し深く頷いた。
「助力、感謝する!!」
冒険者のリーダーとおぼしき男の言葉を聞くや否や、俺はゴブリンが一番密集しているところに飛び込んだ。
数が多いから、1体に時間をさけば5人がもたない…。一撃で倒してまわる!!
先程の威力の一撃だと、攻撃後がスキになるかもしれない。
右手を平手にして、手刀の形にして構える。
鋭く、素早く、致命傷になる一撃を!!!!
スパンッッ!
振りぬかれた手刀は、瞬く間にゴブリンの首を刈り取った。
刈り取られた首は、椿の花が散るかのようにボトッと地面に落ちていく。ゴブリンには声を発する間すらない。
美しく、それでいて苛烈にゴブリン達の命がを刈っていく。
「グガガァ…!!?」
ゴブリン達は困惑の声をあげる。
何体かの弓を構えたゴブリン達が、多方向から矢を放ってきた。
ふしぎだ……。この矢には、常人なら避けるのがやっとの速度があるはずだ。
なのに俺の目では、スロー再生されているかのように捉えることができている。
飛んできた矢を避けながら、その内の一本を掴む
そして飛んできた方向とは別のゴブリン投げつけた。
投げつけた矢が、見事にゴブリンの額を貫く。
額を貫かれたゴブリンが倒れ伏すのをまたず、背後からは別の2匹が同時攻撃を仕掛けてきた。
片方は手斧を、もう片方は短剣を持っている。
まずは迫りくる手斧から冷静に対処する…
手斧の腹を手の甲で、短剣ゴブリンの顔面めがけて弾く。
短剣ゴブリンは、弾かれた手斧を回避できず頭をかち割り沈黙する。
続いて一瞬の動揺をみせた手斧ゴブリンの頭を鷲掴み、握りつぶした。
すごい……!!体の動きが、一体倒すごとに洗礼されていくようだ!
残るゴブリン達を見据える俺の顔は、無意識に笑っていた。
5人の冒険者と対峙している個体以外を一掃するのに、さして時間はかからなかった。
「これで、、、最後だ!!」
リーダーの男が最後に残ったゴブリンエリートを倒し、声をあげる。
5人は安堵し、その場に座り込んだ。
ポーンッという音が鳴り、再び透明な板が浮かび上がる。
フーラァ(今泉 風太)はレベルアップしました。 Lv1→Lv10 UP!!
【基礎ステータス】
・体 力 10000 → 11000
・魔 力 10000 → 10500
・攻撃力 8000 → 8800
・耐久力 8000 → 8300
・俊敏性 8000 → 8800
・幸 運 100 → 100
【
身体強化(New)、首切り椿(New)
どうやら戦闘で重視されたステータスを中心に数値が伸びているらしい。
また『息吹』による魔力の循環で『身体強化』が、鋭い手刀の一撃により『首切り椿』が
異世界での初戦闘を終え、自身の両手に視線を落とす。
両手は殺したゴブリン達の体液にまみれ汚れていた。
だが俺の脳裏を占めていたのは、体液まみれになったことへの嫌悪感や不快感じゃない…
俺の頭の中は……今まで感じたことのない、戦いの高揚感でいっぱいになっていた。
前世では感じることのできない…いや、感じてはいけない死闘から生まれる高揚感。
スポーツの『試合』ではなく、お互いが命をかけた『死合』。
その高揚感を全身で感じた時…
俺は自身が武術の中に求めていたものに、初めて気づけたのかもしれない。
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