転生武術家の異世界譚 ~美少女エルフ、極めた武術で異世界無双する~ 

荒川 弥

第1話 トラックのち、美少女転生しました。

 俺、今泉 風太ふうたは武術が好きだ。愛しているといっても過言ではない。


 幼少から空手、合気道、柔術、ボクシング、中国武術、ムエタイetc…様々な武術・格闘術に手をだしてはその道の達人を師事していた。


 この平和な現代社会にいても、武術という戦いの技術に魅了されていたのだ。


 そんな俺が最後に覚えているのは、まじかに迫りくる大型トラックと居眠りをしているトラック運転手。そして耳をつんざくような人々の悲鳴。


 俺、今泉 風太の25年の人生はこうして幕を閉じたのだった。



             ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「まさかこんなにあっさりと死んでしまうとは…」


 俺が次に目覚めたのは、真っ白い空間だった。つぶやきは虚しく響くだけ。


 大型トラックを前にすれば、いくら鍛えぬいた俺の肉体でも耐えることなどできはしない。


 まあ、俺が師事してた師匠たちならわからないけど……


「それでここはどこなんだ?これが死後の世界ってやつなのか…?」


「おしいが、それは少し違うな。ここは現世と死後の世界の狭間といったところだな」


 誰に答えを求めたわけでもないのに、まさか返答がるとは思わなかった…!


 声のする方へと視線を向ける。


 そこには武人という名を体現したような大柄な男がたたずんでいた。


「ええと…どちら様で…?」


「ふむ、我は武を司る神・ヨカテル。君がいた地球とは別の世界の神の一柱だ、今泉 風太よ」「武神様…!?しかも異世界の!!?」


 言われてみるとこの大男、ヨカテルからは神々しい雰囲気と威厳、そして背後には後光がさして見える。


 まさにお伽噺にでてくる神様といった佇まいだ…。


「それでその武神様が俺になにか御用なんでしょうか。なにぶんトラックにひかれて死んだと思ったら、気づけばこの真っ白な世界にいたもので」


「うむ、今泉 風太よ!君には異世界で転生してもらいたい!!」


「!!?」


 そう言ってヨカテルが軽く手をかざすと、俺との間の空間に球体型のディスプレイが現れた。


「これが我々の管理する世界、アラーラミア。それを模したものだ」


「これが異世界、思ったよりも地球に似ているんですね」


「そうだな。だが一つ、地球とは大きく違うところがある。アラーラミアには地球ではお伽噺の産物とされていた魔法や魔物などが存在する、いわばファンタジーの世界だ」


「ファンタジー世界!!」


 武術バカだと自覚のある俺ではあるが、子供のころにはゲームやアニメ、漫画に触れてきている。


 ファンタジー世界には少なからず憧れをもっていた。


 まあ、俺が強く関心をもっていたのは、ドラゴンやオークといった怪物とどうやって戦い勝つかということだが…


「ええと、それで…なんでアラーラミアでの転生なのでしょうか。」


「うむ、それはだな…」


 ヨカテル曰く、アラーラミアは世界を漂う魔素によって活動する星であり、その魔素は数百年ごとに補給しなければ枯渇してしまうのだという。


 その補給の方法というのが、異世界である地球から死者の魂をアラーラミアに渡らせること。


 世界を渡る魂には大量の魔素を帯びるという特徴があり、それを利用して地球の魔素をアラーラミアに取り込むのだとか。


 この地球からの転生を数百年に一度行うことで、アラーラミアを安定して運用することができるわけだ。


 ちなみに、大気中を漂っている状態だと魔素と呼び、魔素が体に取り入れられると魔力と表現されるそうだ。


「地球に魔素って漂ってたんですね~」


「地球には魔素や魔力を探知・使用できるものがほぼ生まれぬゆえ、手つかずで残っているというわけだ」


 ということは、地球にいた自称魔法使いみたいな人の中にも本物がいたかもしれないな…。


「余談だが、地球で有名なサングラスをした奇術師。彼は本物の魔法使いだぞ」


「!!!?」


 嘘だろ…。あのハ●ドパワーって、ほんとの魔法だったのかよ…!!


 ヨカテルの話によれば、アラーラミアからの転生者、転移者というのも稀にいるのだそうだ。


「…と話がそれたが、ここまでが地球から転生をさせる理由だな。君がその転生者に選ばれたのは、武術の心得があること。そして好いていることだ。我も武神だからな、せっかくなら武術を愛するものを転生させようと思ったのだ」


「な、なるほど…。転生したとしてアラーラミアで使命などはあるんですか?」


「それは特にない。君の好きないように生きてくれればいい。だが出来るならアラーラミアでも武術を探求してほしい」


 普通なら死後は地球の輪廻の輪に戻るだけだったところ、異世界に行き武術をまた探求できる。


 俺にとってはメリットしかないじゃないか。転生を断る理由は何ひとつとしてない。


 自ずと心は決まっていた。


「わかりました、その転生の話をお受けします!」


「そうか!それはなによりだ!」


 屈強な武神はその強面の顔をほころばせ、大きく笑った。



「では転生するにあたり、風太にはアラーラミアで役立ちそうな権能スキルをいくつか授けよう」


「スキル…地球のゲームなんかに出てくるものと同じようなものでしょうか?」


「そうだ、その認識で間違いない。その他にもレベルやステータスの概念も存在しているが…そういったアラーラミアの大まかな知識は転生後の肉体にインストールされるようにしておこう。」 


 いくら武術には自信があるとはいえ、まったく知らない異世界で一から生活をするとなれば少なからず苦労をすることになっていただろう。


 これは、かなりありがたい申し出だ。


「スキルについて、何か要望はあるか?」


「そうですね…せっかくなら武術を極めていくのに役立ちそうなものがいいですね」


「ふむ、それならばこのあたりだな。」



【早熟】


自身のレベルアップに必要な経験値の量が減少する。


【芸達者】


自身のスキルレベルアップに必要な経験値の量が減少する。


【武芸者】


戦闘系の技能アーツにダメージ補正がかかる。



「あとは、アラーラミアでの生活が快適になるようこれもつけるとしよう」



【鑑定眼】


物事の情報を読み取ることができる。


【空間収納】


いわゆるアイテムボックス。スキルレベルが上がるほど収納できる容量が増える。



「こんなにいいんですか?!凄く便利そうなスキルばかりなんですが…」


「問題ない、転生特典というやつだな!」


「は、はぁ…それならお言葉に甘えて…」


 転生特典とはいえ貰いすぎな気もするんだが……。


 ありがたいのは事実だし、素直に好意を受けることにしよう。


「その他のスキルやアーツに関しては、鍛錬を重ねて条件を満たせば習得されるものもあるから、憶えておくといい。それともうひとつ、これも与えよう」


 ヨカテルが軽く手を振ると暖かい光が俺の体を包む。


「私の加護を君に与えた。武術を探求するうえで役に立つはずだ」


 神様の加護ってこんな簡単にもらっていいものなのか??凄い貴重なものなんじゃ…。


 とも思ったが、返品できるわけもないしな……。今はラッキー程度に思っておこう。


 「さて、転生後の肉体についてなにか要望はあるか?」


 「そうですね…できるだけ長く生きて武術を探求したいので、健康で長生きができる身体がいいですね。あと前世では強面で子供から怖がられることもあったので、できれば柔らかい印象を与える容姿にしていただけると…」


 前世じゃ、このデカい体格と強面のせいで、街ですれ違う女性や子供に怖がられたからなぁ…。


 「ふむ、長寿で健康的な身体と柔らかい印象の容姿だな。考慮しておこう」


 「ありがとうございます!!」


 ヨカテルによる一通りの説明が終わり、いよいよ新たな旅立ちの時が迫る。


 「それではこれより、アラーラミアへの転送を行う」


 俺の前には異世界アラーラミアへと続く、巨大な門が鎮座している。


 「ヨカテル様、色々と便宜を図っていただきありがとうございました。アラーラミアを楽しもうと思います!」


 「うむ、思う存分楽しんでくれ!」


 「はい!それでは行ってきます!!」


 ヨカテルに見送られながら、異世界への門をくぐる。


 門をくぐると目の前が大きく揺らぐような感覚に襲われる。


 俺の意識が、世界の白色に溶けていくみたいだった…



             ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 門をくぐってから、どれぐれいの時間がたったのだろうか…。


 眠りから目覚めるように、意識が覚醒し始める。


 暖かい木漏れ日が顔を照らしている。前世の都会とは違い、草と土の匂いが強くする。


 どうやらどこかの森で横になっているようだな。付近からは川の水が流れる音も聞こえる。


 このままう、たた寝していたいくらい心地いい。でも起きて周囲の確認をしないとな。


 周囲を確認しようと、体を起こした。


 …とそこで違和感に気づく。


 妙に胸元が重い……。それに体が全体的にふわふわしている…?


 あとはなんだ、この心もとないような…安心感がないような感覚は!


 その答えを求めて、ヨカテルが用意した新しい体へと視線を落とした。


 「な、なんだこれ…。」


 胸元には…前世では存在していなかった双丘が生えている。


 ハッとして、股の間に手を這わせたが……そこからは、俺が男である象徴が見事に消えていた。


 あるはずのものがなくなり、ないはずのものが存在している……


 嫌な予感が確信に変わり、顔から血の気が引くのを感じる…。


 咄嗟に近くを流れる川を覗き込むが、そこに映っていたのは…


 前世の強面とは程遠い、可憐という言葉がよく似合う長耳の少女であった。


 「健康的で長生きできる、柔らかい印象の容姿とはいたけど……、種族も性別も変わるなんて聞いてないですよ!ヨカテル様ーーーーーー!!」


 自分のものとは思えない甲高い女性の声で俺……いや私、フーラァは絶叫したのだった。

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