34*皆川琴音 - 2



■── 2009/3/10 ──■


 今日は学校の卒業式だった。

 とは言っても、高校はすぐ近くだし、夜之も麻美ちゃんもいるから、あんまり寂しい気持ちはなかった。

 でも、エリちゃんとは進路が違ったから、これから会えなくなるって思うと、ちょっと寂しかった。 エリちゃんは めちゃくちゃ泣いてたけど。


 卒業式が終わってから、夜之といっしょに空を迎えに行った。

 空は、おばあさんのお庭にあったタンポポをプレゼントしてくれた。 卒業祝いなんだって。

 おじいさんもおばあさんも「琴音ちゃんも一緒に暮らせばいいのに」って何度も言ってくれたけど、でも、私は空と生きていくって決めたから、断った。

 何も知らない2人の家に、殺人犯の私が住むのは迷惑にしかならないだろうし、そもそも赤の他人だし。

 私にはもう、空しか家族がいない。

 私を唯一頼ってくれる空と、ずっと一緒にいたい。



■── 2009/7/1 ──■


 空と暮らし始めて、初めての空の誕生日がきた。

 あまり贅沢はできないけど、空が好きなものを食べさせてあげたいと思って、今日の夜ごはんは空の好物づくしにした。

 空の希望で、夜之も一緒にごはんを食べることになった。

 3人で食卓を囲んでいると、「まるで本物の家族みたいだね」って空が言ってくれた。

 空にとって、夜之も家族のように思ってくれていることが、本当に嬉しかった。

 来年も、再来年も、ずっとみんなでお祝いできるといいな。



■── 2009/11/9 ──■


 空のおじいさんが亡くなった。

 今日はおじいさんのお葬式があって、私と空は学校をお休みして、おじいさんに最後のご挨拶をしてきた。

 空は、泣かなかった。

 でも、初めて『殺されない死に方』を見て、動揺しているようにも見えた。

 私が犯した罪が、空の『当たり前』を壊しているのかもしれない。


 そう強く思ったのは、お葬式の帰り道での会話だった。

 空は私に「おねえちゃんは、だれかを生きかえらせることはできないの?」と聞いてきた。

 ショックだった。

 空の言葉に悪気がないのは分かってても、まるで「お前は人を殺すことしかできないのか?」と言われているようだった。



■── 2010/1/30 ──■


 まだ1年だけど、うちの高校は、進級する前に卒業後の進路相談がある。

 私含め、みんな進学を選んだと思ってたら、夜之だけ違った。

 夜之は「警察官を目指したい」と言った。

 初めて聞く夢だったからビックリしたけど、夜之は「琴音と空ちゃんを守りたいから」と言ってくれた。

 すごく嬉しかった。 でも、怖かった。

 人を殺している私が、警察官になりたい夜之と一緒にいてもいいのかと思った。

 そしたら夜之は、「だから2人を守りたい」と言った。

 「琴音たちの力が法で裁かれないのなら、ずっと怯えてる琴音を守りたい。 逆に、もしこの先、琴音たちの力が裁かれるようになっても、琴音に手錠をかけるのは俺がいいし、空が自由に暮らせるように支えたいから」らしい。

 すごく歪んだ理由だけど、それでも嬉しく感じてしまう私も、かなり歪んでいると思った。



■── 2010/8/29 ──■


 今日は麻美ちゃんと大学のオープンキャンパスに行ってきた。

 家から一番近い大学だったけど、やっぱり若葉大は自由な感じがして授業も楽しそうだった。

 私も麻美ちゃんも理系が得意だから、そっち系の学部に進むことになると思う。

 麻美ちゃんは、理工学部の案内をしてくれた若い男の先生にメロメロだったけど……。


 帰りに空を迎えに行ったんだけど、麻美ちゃんが「空ちゃんと遊びたい!」って言って、一緒に来てくれた。

 最近、学校やバイトでバタバタしてたから、1人になる時間が増えた空を心配してくれたのかもしれない。

 空も、久々に麻美ちゃんに会えて嬉しそうだった。



■── 2010/12/24 ──■


 琴音のおばあさんから久しぶりに電話があった。

 留守電のメッセージが残っていたけど、用件は聞かなくても分かってた。


 空に「お父さんに会いたい?」と聞いてみた。

 でも空は、嫌がった。

 嬉しかった。

 このままずっと、父親に怯えながら生きていけばいいのに。



■── 2011/4/30 ──■


 今日は麻美ちゃんとエリちゃんと遊びに行った。

 エリちゃんと会うのは卒業以来だったから、どっかで遊ぶというよりも、3人でお喋りしてる時間がほとんどだったと思う。


 エリちゃんは、保育士じゃなくて、産婦人科のお医者さんか助産師を目指すことにしたらしい。

 実習先の保育園の赤ちゃんクラスにいた時に、「自分は子供の面倒だけじゃなくて、子供を産むお母さんもサポートしたい」って思って、それから医大進学に進路変更したんだって。

 エリちゃんなら、いいお医者さんになると思う。 本当に。

 話しやすいし、気さくだし、赤ちゃんもお母さんも安心させてあげることができる子だと思う。

 私も麻美ちゃんも、「もし子供ができたら、絶対エリちゃんにお願いする!」って話してた。

 自分の子供を、友達に取り上げてもらうって、考えただけでちょっとジーンときちゃった。


 もうあっという間に高3だし、こうやって友達と遊びに出かけるのも、今日が最後かな。






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