28*Catch up....



 黒木は再び、爆発のあった特捜室に足を運んだ。

 まるで、この部屋だけ竜巻でも起きたかのように滅茶苦茶で、見慣れた仕事部屋の風景は面影すらなかった。

 ちょうど茜が倒れていた辺りには、床が変色した跡が残っており、それを囲むように数名の鑑識捜査員が立っていた。 どうやら撤収の準備を進めているらしい。 黒木は柱の陰に隠れ、しばらく様子を見る事にした。


「……ん?」


 ふと床に落ちていた資料が目に留まり、拾い上げて見てみると、添付写真の中の皆川琴音と目が合った。


「さすがだな、お前ら。 俺の期待通りに動いてくれたってわけか」


 永瀬と茜は、黒木と同じ糸口を辿っていた。 そんな中起きた、今回の爆発事件。 タイミング的にも、『突然死事件』との関連性を真っ先に疑ってしまうが、なぜ今になって動いたのか────。


「────もしかして、黒木室長?」


 不意に名前を呼ばれ、慌てて振り返る。 俺を役職名で呼んでくれる奴なんて、警視庁うちでは限られている。


「おう、来栖ちゃんか。 驚かせやがって」


 来栖は、鑑識帽を軽く脱いで会釈しながら、黒木の元へ駆け寄った。


「それはこっちのセリフですよー! どうしてこんな所に? 拘置所行きが決まってたんじゃないんですか?」

「行ってねえよ! 決まってもねえよ! どいつもこいつも……」

「んもー、冗談ですよ。 それより、ほんとに どうしてここに? 現場検証終わっちゃいましたよ?」

「いや、いいんだ。 ちょっと確認したいことがあってな」

「?」


 他の捜査員が気を遣ってくれたのか、いつの間にか部屋には黒木と来栖しか残っていなかった。 黒木は、先程まで捜査員たちが立っていた所まで歩みを進めた。

 爆発から時間が経っているにもかかわらず、鼻を刺すような臭いは僅かながら残っていた。


「茜ちゃんの執刀医は、あの火傷は薬品が原因だとか言ってたらしいが……」

「それについては、さっきの現場検証で爆発元が判明しましたよ」

「なに?」


 来栖は、持っていたカメラを操作し、ある1枚の写真データを黒木に見せた。 そこに映っていたのは、金属が熱で溶けたような黒い歪な塊だった。


「何だこれ」

「アルミ缶ですよ」

「アルミ缶? これが?」

「黒木室長は、10年くらい前に起きた電車内での爆発事件を覚えていますか?」

「確か……乗客の持ち物が突然爆発したってやつか?」


 来栖は、コクリと頷いた。


「あの事件は、持ち主の女性が、飲み終えたキャップ付きのコーヒー缶の中に、業務用の食器用洗剤を入れて持ち歩いていたことが原因でした」

「その持ち歩く状況がよく分からんが、それの何がダメなんだ?」

「え!? 黒木室長、義務教育は受けてきましたか?」

「受けてるわい!」

「じゃあ分かりますよね? アルミ缶の金属と 洗剤の成分が密閉状態で化学反応を起こして、爆発して中身が飛び出してくるんですよ」

「そうか。 なるほどな」


 来栖の疑いの目が、黒木に刺さった。


「……それで? その爆発事件と今回の事件が関係しているのか?」

「多分同じ手法だと思います。 この写真は、あの事件の押収品にすごく似ているんです。 材料だって、そこら辺にある物で事足りるでしょう?」

「缶コーヒーと洗剤……────自販機と給湯室か! じゃあ、庁舎内の監視カメラを確認すれば────」

「『犯人が警視庁の人間だったら』────ですけどね」


 黒木は、驚きで目を見開いた。

 すると来栖は、両手をひらっと広げながら「なんてね~」と呑気におちゃらけて見せた。


「……来栖ちゃ」

「そうだ! 黒木室長、いま時間あります?」

「は? 次から次へと何を────」

「永瀬君から頼まれていた、例のイヤリングの解析結果。 鑑識課のパソコンに入ってるので、見に来ませんか?」

「そんな見に行くほどの結果が出たのか?」


 黒木の問いかけに、来栖は満面の笑みで大きく頷いた。

 不謹慎にも思えるその表情に若干引き気味になるも、内心は黒木も気持ちが昂りつつあった。






 ・・・******・・・


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