27*Declaration of WAR
黒木は、捜査本部の外の廊下で、一人蹲っていた。
茜が担架で運ばれた後、気がついたらここへ戻ってきていた。 会議室を行き来する捜査員たちの視線を感じるが、黒木にとってはどうでもいい事だった。
「いつまでそうしているつもりだ」
ゆっくりと顔を上げると、八重崎が不機嫌そうに見下ろしていた。 八重崎と目が合った黒木は、再び視線を床に戻した。 それを見た八重崎は、ため息をついた。
「……てっきり、この騒ぎに便乗して脱走したかと思ったよ」
「……」
「先程、九条君搬送に付き添った部下から連絡が入った。 手術は終わったが、未だ意識が戻らない状態だ。」
「……」
「医師の話によると、強アルカリ性などの薬品による皮膚の爛れ────特に、顔の火傷に関しては、皮膚の再生は絶望的。 眼は失明している可能性が高いそうだ」
「……」
「……」
八重崎が話を止めたことで、二人の間に沈黙が流れた。
すると、黒木の足元でドサッと物音がした。 目線だけを動かすと、そこには、黒木が捕まった際に没収されていた警察手帳やスマートフォン、財布などが置かれていた。 そしてその中には、携帯していた拳銃も────
「どういうつもりだ?」
拳銃をそっと片手に取ると、ずっしりとした重量感とともに、犯人と思しき男に拳銃を向けられた時の事を思い出し、奥歯をギリッと鳴らした。
「只今をもって、君の待機命令を解除する。 あとは好きにしたまえ」
「人を監禁しておいて、随分勝手だな。 もう用済みか?」
「そもそも私は、君が犯人だという考えは、毛頭ない」
「……はあ?」
予想だにしていなかった言葉に、八重崎の顔をまじまじと見た。 だが、八重崎の表情は相変わらずの仏頂面のため、その言葉の真意を確かめる事はできなかった。
「相変わらず何を考えてるんだか。 気持ちわりぃ」
「君に気に入られていなくて安心したよ」
落ちた荷物をひとつひとつ拾いながら、慣れた手つきで普段の装備を整えていく。 八重崎はそれをじっと見ながら、ポツリと呟いた。
「君は、誰かに守られるよりも、圧倒的に守る側だな。 その上、じっとしていられない。 攻め入る
黒木は、その言葉の意味がよく分からず、適当な返事で流した。
「てめぇも端から見れば十分ドSだぜ」
スーツジャケットを羽織り、八重崎に背を向けながら ひらひらと手を振った。
────さて。 ようやく晴れて自由の身だ。
茜ちゃん。 負けるなよ。 俺がそっち行くまでには、ちゃんと起きてろよ。
黒木は、そう心の中で呟いた後、胸ポケットからスマートフォンを取り出し、電源を入れた。 画面が立ち上がると、不在着信を知らせるメッセージが立て続けに表示された。 その中のほとんどが永瀬からのものだった。
つい数十分前にも、永瀬から着信があったようだ。 音信不通と知っても尚かけてくるところが、永瀬らしい気がした。
「……。 馬鹿な野郎だな」
黒木は、その着信履歴から、永瀬の番号に発信をかけた。
・・・******・・・
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