21*後の祭り-3
カフェの時計は、午後8時を知らせようとしていた。
永瀬、茜、そして空の3人による話し合いが始まってから、早1時間が経っていた。 とてもあっという間に感じたが、かなり細かいところまで話す事ができた。
「───では、これまでの情報を整理していきますね」
そう言いながら、先程まで取っていたメモを元に、永瀬は話を切り出した。
「今日の14時頃、黒木さんは 三嶋さんを訪ねる為、本庁を出発。 その約10分後、空さんは黒木さんに電話を掛けた」
「そうです。 そこで、例の彼女の話をしました」
「電話を切ったのが14時17分。 ちょうど俺が、茜さんから車を借りて出発した時間と重なります」
「でもヨル、全然違う方へ行ったんでしょ?」
───それは今言わなくていい
からかう茜を無視して、永瀬は話を続けた。
「その後、黒木さんは三嶋さん宅に到着し、恐らく遺体を発見した。 けれど、何らかの騒ぎを起こして通報され、そのまま連行された───」
「そして、かなり早いタイミングで
「……まあ、関係なかったですけど」
「ね」
「えっ……それ、大丈夫なんですか?」
空が心配そうに尋ねてきた。 恐らく、今この状況についても良くない事だと気づいたのだろう。
「大丈夫よー。 あたしたちのいる所って、そもそも無法地帯だったからさ。 命令とかあんまり関係ないのよねー」
「いえ……それもそうなんですけど……」
「?」
空は何か考える素振りを見せた後、恐る恐る話し始めた。
「黒木さんが犯人にされたと知った時も思ったんですけど……それって不自然じゃないですか? まるで、皆さんの捜査の邪魔をしているような……」
その言葉に、永瀬はハッとした。
「……まさか、八重崎部長が?」
「絶対そうよ! あの男ならあり得るわ!」
「あの、八重崎、部長……とは?」
「刑事部の部長で、今回の事件の捜査本部を率いてるやつ。 現場のトップね」
だがここで、永瀬は1つ疑問を感じた。
「待ってください。 八重崎部長が俺たちの邪魔をするのなら、その理由は何ですか? 実の子供が殺された事件の捜査を、自ら妨害するんですか?」
「あら? 確かにそうだわ……」
「関係ないかもしれないんですけど……。 その刑事部長さんと黒木さん、それから被害者の元刑事さんって、何か関係ありそうじゃないですか?」
―――あの3人と、突然死事件との関係?
すると突然、ガタンッと音を立てながら 茜が勢いよく立ち上がった。
「ど……どうしたんですか―――」
「そうか……そういうことだったんだわ!」
茜は1人興奮しながら ポケットから黒木のメモを取り出して見せた。
取り残された永瀬と空には、一体何の事なのかさっぱり分からない。
「きっとこの事件よ! もし、黒木さんが洗い直してた事件に、あの3人が関わっていたとしたら―――!」
茜が言い終わるより前に、永瀬はある仮説に辿り着いた。
「―――過去の事件と、例の女性を徹底的に調べましょう。 突然死事件との繋がりがわずかにでも見つかれば、きっと何か分かるはずです」
「私にもやらせてください!」
前のめりに声を上げた空の姿は、とても頼もしかった。 だが、一般人を捜査に巻き込む訳にはいかない。
永瀬が返答に迷っていると、不意に茜に肩を叩かれた。 何か考えがあるようだ。
「じゃあ空ちゃんは、あの女の子について調べてもらえる? 当時の事を知っていそうな人に話を聞くとか、大学で調べてみるとか……あたしたちと違う目線で、ヒントになりそうなものを探してもらえる?」
茜の言う通り、『人探し』という名目であれば、空にできる事も増える。 特に聴き取り調査となると、警察を毛嫌いする人もいるため、永瀬たち以上の情報が引き出せるかもしれない。
空は「やってみます!」と 大きく頷いて見せた。
「空さん、ありがとうございます。 ……でも、自分の身を一番に考えて動いてください。 命が関わってきますから」
空は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの優しい笑顔で力強く頷いた。
「分かりました。 ありがとうございます」
各々がこれからやるべき事が見つかったところで、話し合いの場はお開きとなった。
空を送るため、茜に車を取りに行かせている間、永瀬は会計を済ませた。 すると店員の女性が「大変でしたね…」と話しかけてきた。
「……え? 俺ですか?」
「元カノですか? 新しい彼女が若い子だからって……あんなに怒らなくてもいいですよね」
「……。」
「あ! ごめんなさい! お客さんの話、盗み聞きしてた訳じゃないですよ!?」
永瀬は、黒木が戻ってきたら、茜の教育を厳しくしてもらおうと強く思った。
・・・******・・・
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