19*後の祭り-1



 電話では話がスムーズに進まない という事で、永瀬と茜は 空と直接会って話をする事になった。

 空の家のそばにあるカフェで会う約束をして、永瀬と茜は車に乗り込んだ。


「1つ聞いてもいいですか?」


 車を発進させて駐車場を出たタイミングで、永瀬は茜に ある疑問をぶつけた。


「なに?」

「さっきの黒木さんのメモは何ですか?」

「ああ……これね」


 茜は胸ポケットから紙切れを取り出し、ひらりと見せた。


「特徴あるから、すぐ黒木さんの字って分かっちゃうよね」

「会えたんですね。 黒木さんに」

「ええ。……全く、あのおじさんは何を考えてるのかしら……」

「……というと?」

「これを使って、最新のアクセス履歴の事件を洗い直してほしいんだって」


 茜は紙切れを仕舞い直し、気だるげにシートにもたれた。


「あたしの予想だけど、恐らくそれが 空ちゃんが黒木さんと話した『例の彼女』に関する事件なんでしょうね」

「俺もそう思います。 でも、どうして黒木さんは急に彼女について調べ始めたんだろう……」

「それが分かれば苦労しないわ」


 大通りに出ると、並木のイルミネーションやウィンドウショップの灯りで、煌びやかな光景が広がっていた。

 街行く人の中には、寄り添いながら歩く恋人たちの姿が多く見られた。


「すごい人ですね」

「あんなお団子状態で歩いて……。 一緒にすっ転べばいいんだわ」


 思わず「性格悪っ」と言いそうになったが、何とか我慢する事ができた。 茜が カップルを見て僻む時は、男にフラれた後と決まっている。

 触らぬ神に祟りなし―――ということで、永瀬は半ば強引に話題の軌道を修正する。


「黒木さんは、今どこにいるんです?」

「捜査本部の監視下にあるわ。 そのせいで、ろくに聞きたいことも聞けなかった」


 茜は、窓の外を眺めながら呟いた。


 ―――居場所は教えられない、という事か……


 茜自身の意思なのか、黒木に口止めされているのか分からないが、その選択は正しいと思う。

 事実、今の回答が、黒木の居場所を明確に示していれば、永瀬はすぐさま黒木の所へ行くだろう。 そしてそれが、より騒ぎを大きくするであろう事も容易に想像できる。


 それからは、2人で言葉を交わす事はなく、車のエンジン音だけが車内に響いた。




 程なくして着いたのは、大学からも近い 2階建てのスタイリッシュな外観のカフェだった。

 店内に入ると、モルタル基調の内装と無垢材のインテリアが融合した 今流行りのモノトーンビンテージな空間が広がっていた。

 ちょうど近くにいた店員に、待ち合わせである事を伝えると、奥の方へ案内された。 半個室のような席に通されると、そこには空が座っていた。


「お待たせしてすみません」

「いえ。 ご足労をおかけしてすみません」

「とんでもない。 いいお店ですね」

「ありがとうございます。 学生向けのカフェで、こんな風に席ごとに間仕切りがあって、みんなで勉強や課題をするのにピッタリなんです」

「話し合いをするのにも うってつけですね」


 そこに店員がオーダーを取りにやって来て、ようやく3人は席に着いた。 それぞれ飲み物を注文して、店員が去った後、永瀬は話を切り出した。


「空さん。 彼女が電話で話した九条茜警部。 俺の先輩です」

「九条です。 改めまして、よろしくね」

「立花です。 よろしくお願いします」


 茜と空はお互い和かに挨拶を交わし、簡単に自己紹介を済ませた―――その時だった。


 ―――カチャッ


「動かないで」


 突然、茜は素早い動きで、装備していた拳銃を取り出し、それを構えた。銃口は、空の額にピタッと向けられている。

 拳銃を突きつけられた空は、わなわなと唇を震わせ、両手を上げた。 顔から血の気が引き、緊張が走る。


「茜さん!? 一体何の真似で―――」

「黙って」


 殺気に満ちた茜の瞳に、思わず一歩身を引いてしまった。

 そんな永瀬の姿を確認した茜は、再び目線を空に向けた。


「1つ、確かめたいことがある。 あなたを信用するかは その後よ」






 ・・・******・・・


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