8*upset - 2
黒木は、目の前の赤信号を確認した後、助手席に置いたファイルに目をやった。 先程の空の事情聴取のために用意した 過去の事件関係者のリストだ。
「もう7年もなるんだな……」
資料に添付された写真の女性は、まだ あどけなさを残していながらも、凛とした表情は大人顔負けだ。 そういった点では、空に似ているかもしれない。
名前は、
だが『捜査』と呼べるような事ができたのは、たった1週間だけ。 琴音は突如、自ら命を絶った。 そして たったそれだけを理由に、当時の上司だった八重崎は、黒木と三嶋に 捜査終了を命じた。 思えば その頃から、八重崎のやり方に強い不満を持つようになった。
記憶の片隅にわずかに残った 後味の悪い事件。 だが────
〈プルルルル────〉
突然、着信音が鳴り出し、黒木はハッと我に返った。 胸ポケットに入っていたスマートフォンを取り出すと、画面には『立花 空』と表示されていた。 てっきり永瀬からだと思っていたので、一気に拍子抜けしてしまった。
空とは、菅原駿太の事件があった時、後々連絡が取りやすいように と番号を交換していた。 だが、空とは つい先程まで、事情聴取で顔を合わせていたばかりだ。 何か言い忘れた事でもあったのだろうか────
「……はい、黒木です」
不思議に思いながらも出てみるが、スピーカーからは「ツー、ツー」という音が聞こえるだけだった。 どうやら出るタイミングが一歩遅かったらしい。
仕方なく車を路肩に寄せ、着信履歴から空の番号に電話をかけた。 すると、1コールが終わるより前に繋がった。
〈もしもし、立花です〉
「おう。 すぐに出られなくて悪かった」
〈そんな……。こちらこそ、お忙しい時に すみません〉
聞こえてくる空の声は、電話越しでも よく通る明るい声だった。 先程の事情聴取での出来事は、あまり引きずっていないように感じられた。
「平気だ。 それより どうした? 急用か?」
〈急用と言うか……私、思い出したんです〉
「思い出した?」
黒木は聞き返したが、スピーカーから聞こえてくるのは 妙に緊張感のある空の
「あー……悪いが移動中なんだ。 あまり時間を掛けてる暇は────」
〈さっき見せてもらった写真の女の子……もしかして
心臓がドクンッと跳ねた。
そして、黒木の中で ぼんやりとしていたものが、徐々に鮮明になっていく感覚を覚えた。
〈あの、間違ってたら すみません。 でも、どうしてもモヤモヤして気になっていて……。また時間を改めて掛け直しま────〉
「今、話してくれ」
〈え? でも……〉
「状況が変わった。 俺の考えが正しければ、今 優先すべきは、お嬢ちゃんの話の方だ」
空は、黒木の変容に戸惑いながらも、ゆっくりと話し始めた。
・・・*****・・・・
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