第2話 メンバーご対面

 階段を降りて私は思わず空気、いや、緊張感を吸った。目に飛び込んできた世界、口より上が見えない仮面3人組とそれぞれの楽器に、私は息を吸わされたのだ。どうせ息をのむことになるんだから吸っておけ、と言われたかと思うほどに。全体練習用のステージの3人からあふれるオーラは私の心臓を飲むようで――。


 ――口元がほんのり笑った。最初に鳴ったギター、ジェスターのソロは優しさが溢れている。そこにベースが底から引き上げるように入ってきて……シンバルが来るのがわかってるのにその音にゾワッと体が反応する。

 止まった一瞬。それ以降、私は瞬き1つ出来なかった。


 魅了されていた。本当に4分なのか疑うほどに。まさか今日1日で最速の4分間を更新されるとは……!


「ようこそ! 覆面系バンド〝clown〟へ!」


 演奏後、ジェスターが仮面を外して笑顔を見せた。こんな楽しそうな顔をするんだ。胸をきゅうっと締め付けられる。

 まだ全身の血がドクドクと止まらない。彼らとならどんな世界も見れる気がするからだ。


「よろしくお願いします!」


 私は叫んだ。多分顔に“楽しみ”って書いてあったと思う。


「こちらこそよろしくね」


 ドラムの人が仮面を外す。あのすこし荒い演奏からは想像のつかない美少年。何よりも印象的なのは透き通るほどの綺麗な肌。


「ピエロ今日のDメロのところアレンジ加えただろ」

「あ、気づいたんだ。てかジェスター走ってたよ」

「ごめん。つい楽しくなっちゃって」

「悪い癖だよねほんと」


 ジェスターとピエロが演奏中の話をしている所にベースの人が一言。


「ジェスター4弦音低いぞ。手入れちゃんとしろよ」

「マジ!? 気づかなかった……流石ジョーカー!」


 仮面を外して手で汗を拭いながら、それくらい気づけよ、と呆れ顔をしている。

 ジェスターは本当に低かったのかやべって顔をしながら弦を直す。


「君もこっちおいでよ」


 私を呼んだのはピエロだった。ビックリしながらも3人のところに向かう。


「名前なんて言うの?」

「シャ、シャユです」

「パートは?」

「えと、楽器は出来ません」

「じゃあ何しに入ったの?」


 ピエロの質問攻めに困っていた時、ジェスターが助けてくれた。


「シャユは作詞してくれるんだよ。まあ、まだ仮なんだけど」


 すると2人に囲まれた。


「「作詞出来るのか!?」」

「まだ1回しかしたことが無いですが──」

「それよりさっき書いてたやつ見せてよ」


 話途中でジェスターが私の手からノートパソコンを奪う。そして、パソコンを3人は囲み、さっき書きあげた『Show Of Strength』を真剣な顔で読み始めた。


 どうしよう……。勢いで書いたし作詞も2回目なのに怒られたりしたら……。

 緊張のあまり体の震えが止まらない。


「すげぇ……」

「なんていうかグッと掴まれたよな」


 ピエロとジョーカーが褒め言葉を発する中、ジェスターは難しい顔をして立ち上がった。


「ごめん、メロディー溢れて止まねぇから3人で歓迎会してて」


 パソコンを片手に、こちらを見ることせず階段を駆け上がっていく。


「あーあ、歓迎会しよって言い出したのジェスターなのに」

「あいつああなるともう止められねぇよな」

「誰よりも音楽が好きだよね」

「シャユすごいね、ジェスターを音で溢れさせるなんて」

「俺も感動したし」


 2人がまた褒め出すから私はそんなことないよ、と言うしか無かった。


「もう18時だしご飯食べようか」


 時計を見てそう言ったジョーカーはキッチンに向かった。


「ちょっと待っててね! 僕達で用意してくるから」

「私にも手伝わせて!」


 そう言ってキッチンに向かおうとするピエロを引き止める。


「ご飯はもうできてるから運ぶだけだし、今日の主役はシャユだから気にしないで」

「でも……」

「僕達はシャユが入ってくれて本当に嬉しいの。だから今日くらいは、ね?」


 そんなこと言われたらわかった、としか言えなかった。

 ロビーが広すぎてソワソワしていると、自室にスマホを忘れていることに気づいた。

 取りに行こう。

 2階に上がるとジェスターの部屋のドアが空いていた。

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