プロローグ2

「隠してたんだな……別れよう」


 唐突に言われた一言。彼氏のスマホには私のアカウントが表示されている。まずい、別れたくない、別れたらSNSが続けられない……。最低な私はまだそんなことを思っていた。


「待ってよ、私は応援してたんだよ!?」

「……何が本当か信じられないんだよ、一言言ってくれれば違ったんだぞ」

「ごめん……ねぇお願い、まだ一緒にいて?」

「……無理だ」


 別れ方はこんな感じで、私は彼とSNSを失うことになった。



『活動が出来なくなりました。このアカウントを消します』


 この突然の投稿にはたくさんのコメントが届いた。


『辞めないで』

『どうしたんだろう』

『ファンだったのに……』

『なんか怪しくね?』


 色んな声が私の首をさらに絞める。



 そんな時、元彼の友達にあたる先輩から連絡が来た。


『別れたの?』

『はい……色々あって』

『なんかあったんか、話聞くよ。今から会える?』

『はい』

『じゃあ14時にファミレス来て』

『分かりました』


 この時の私は誰かに縋りたかった。誰かに認めて欲しかった。そんな思いで先輩を利用した。




 先輩に会ってドリンクバーを片手に話を聞いてもらう。

 偽ってSNSを投稿していたこと、私が書いた曲で一気にSNSが伸びたこと、褒められたりチヤホヤされることが嬉しかったこと、テレビ等から連絡が来たこと、それら一切を言わなかったことにより別れたこと。

 それら全てを嘘なく話すと、先輩は1つ提案をしてきた。


「もう本当のこと呟いたら?」

「え?」

「彼氏の投稿をしてたんですが別れてしまいました、って。人間関係ならしょうがないし、とりあえずちゃんと説明した方がいいよ」

「でも……」


 SNSを消すこと自体はもともと決まっていた事だが、説明するとなると勇気がいる。


「全部じゃなくていいよ。彼氏と別れたから出来なくなった、それだけで。

 そんなことより満たされたいんでしょ?」


 そんなこと、確かにそんなことだ。私は元彼のことが好きじゃなかったから。そう、自分がSNSで認められればそれで良かった。

 でも、そんなことは1つも話していない。正直、先輩には汚い感情を見透かされているようで嫌気がさした。


「安心して? 俺達も一緒だから」


 突然、意味深なことを言い出す。


「どういうことですか?」

「俺のバンド〝clown〟に入らないか?」

「へ?」


 話を聞くと、私がさっき話した中にあった“私が書いた曲”を知っていたようで、私に歌詞を書いてもらいたい、との事だった。

 それにバンド名の〝clown〟は“道化師”という意味で、覆面系バンドとして活動しているらしい。

 しかも、主な活動場所がネットという、私にとっても好都合なことが多かった。


「承認欲求を満たしてあげるから、入ってよ。仮でもいいからさ」

「仮でもいいんですか?」

「もちろんだよ、シャユ」

「シャユ?」

「あぁ、絵画の1つ女道化師シャユカオから名ずけた、君のバンドネームだよ」

「バンドネーム……」


 その響きに私はワクワクしていた。


「嫌か……?」

「いえ、気に入りました」

「ほんとか! 良かった。

 俺のバンドネームはジェスター。ギターをやってる。

 他のメンバーはベースのジョーカーとドラムのピエロがいるからまた近いうちに」

「はい!」

「あと、敬語禁止だから」

「分かり……分かった!」


 こうして歪で互いに利用し合う関係を約束し、私のバンド活動がスタートしたのだ!




 そして、


『恋人と別れて活動が出来なくなりました。いままでありがとうございました』


 この言葉を最後に世界から偽物ボクを消し、そのすぐ後、私は道化師シャユとしてSNSに現れた。

 そう、この物語はここから始まる!

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