嘘つきは道化師の始まり〜真実を隠して強がる私たちは歌でしか素直になれない〜

雨宮 苺香

プロローグ1

 呟くSNS。偽る私。一体どっちが本物だろう。きっとこっち、画面の中の私が世界に求められているはずだった。


 *


 18歳、女子大学生。ポケットからイヤホンが伸びている。もちろん、イヤホンの先はウォークマンではなくスマホだ。


 スマホ、それは時代を変えた文明の利器。連絡手段でもあり、ゲーム機でもあり、そして自分を偽るものでもあった。

 急激に伸びたSNSのアプリは多分みんな使っている。私もその世界の住人だ。


 SNSをやっている人のほとんどが“寂しい人”だろう。共感を求めて呟く人ばかり。理由は都合がいいから。良い人とだけ関われる。嫌な人は自分の世界に入れなければいい。

 そんな都合のいい世界にどっぷりハマった私は、いや偽物ボクは現実世界の私から逃げていた。



 SNSプロフィール。

 19歳。男子大学生。趣味ギター。



 全部嘘。ギターだって彼氏に弾かせて歌わせてるだけ。でもこれが求められていた。


『おはようございます!

 今日はカバー曲上げます』


 なんて呟けばフォロワーの1.5万人は反応をくれる。


 なぜこんなにフォロワーが居るか、それは私の書いた歌詞のオリジナル曲がたくさんを反響を得たからだ。私がSNSに毒されたのもそこから。なんと言ってもチヤホヤされることは気持ちよかった。

 でも困ったこともあった。それはテレビ等から連絡が来ることと彼氏に言えていないこと。

 勝手にSNSをやっていること自体まだ伝えられていないため、テレビ等から連絡が来ても断るしかなかったのだ。

 でも、この真実を今更彼に言うつもりもなかった。正直に話したとして、彼との関係に亀裂が入ることは容易に想像出来たし、そうなってしまえばSNSとお別れもしなければならない。


 とにかく、彼に本当のことを言うことだけは避けたかった。理由は簡単。私はこのままチヤホヤされていたい、そしてチヤホヤされている偽物ボクが好きだったのだ。



 こうしてすっかりSNSに毒された私は、近づいている偽物生活の終わりに気づいていなかった。

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