プロローグ2

「ほら、早く行くよ、湊」

「ちょっと待ってよ、早いんだよ優愛は……」


 魔術学園高等部2年玖珂くがみなと。それが今の僕の身分だ。

 そして彼女は同級生のつばさ優愛ゆあ

 この学年は僕たち二人しかいない。他の学年もそうだ。


 今日はいつも通り任された仕事に行くところだった。

 僕たちが言う仕事は任務と行った方が正しい。でも普通に話す時に任務とか言ってたら怪しい目で見られる。それを防ぐためにそういう言い方をしている。

 僕たちがやっていることは一般の人に決してバレちゃいけない仕事なのだった。



 怪物を前にして怖いという感情はもうなくなった。


 僕と優愛は目で合図し合い、攻撃を開始した。


 僕が『泉水流せんすいりゅう』、優愛が『竜巻』を発動させた。

 優愛の術式で怪物を捕らえ、僕の術式で攻撃をする。いつものスタイルだった。


 ただ今日は違った。


 怪物の速度が速すぎる。明らかに僕たちのレベルじゃどうにもできない、そんなレベルだった。

 恐らく、Aランクの怪物。

 僕たちがBランクの魔術師。だから絶対に……勝てない。


 そして怪物は優愛を引き裂いていった。優愛はその場に倒れこむ。


「あ゛っ……」

「優愛、大丈夫か……?」

「うん……あ゛っ……早く、あいつを……」


 僕は怪物に『泉水流』をぶつけた。ダメージは一応入ってる。でも、これじゃどんだけかかるか……僕の魔力量がなくなって終わりだ。


 魔力量は術式を発動させるのに重要な要素。これが無きゃ発動できない。それくらい重要な要素だ。無くなって、枯渇したら、もう終わりだ。



 そんなことを考えている間に優愛は立ち上がっていた。そして優愛は『竜巻』を発動させた。


 その竜巻は怪物を捕らえた。そしてどんどん竜巻が小さくなっている。


 そしてその竜巻ごと怪物は光となって消えた。


「え……」


 何をしたのかわからなかった。思わず声も出てしまった。


「はぁ……はぁ……」


 優愛の息は上がっていた。


「優愛、大丈夫?」

「あ……う、うん」

「な、何したの……?」

「怪物を取り込んだ」

「え」

「怪物の魔力を取り込んだ……っていう方が正しいかな……」


 信じられなかった。だって怪物を取り込むなんてこと、Sランクの魔術師でもできないことだったから。


「自分でも……よく……わからない。何を……した……の……か」


 優愛の意識が無くなった。どうしようか慌ててしまった。


 慌てた末、魔術師の治療をしてくれる病院に運び込んだ。


 ◇◇◇


 数日後 「優愛の意識が戻った」という知らせを受けて、すぐに病院に来た。


「ごめんね、心配かけちゃって」


 優愛は最初にそう言った。


「だ、大丈夫。よかった。生きてて」

「ありがとう。湊」


「でもね、」

「ん?」


「私、もう死ぬから」

「え?」


 急に優愛はそう言った。優愛は特に冗談を言うタイプではない。


「どういうことだよ」

「多分だけど、私はあの時、怪物を取り込んだ。あの怪物はAだった。つまり、私の体が耐えられる魔力量以上の魔力を持ってしまった」


「だから、どんどん体が壊れていって、死ぬ」


 到底受け入れられるようなことじゃなかった。だって、今、こうやって生きてるし……だって……


 思わず涙が出てきた。


「ごめんね。湊」


「私、死んでも湊のこと、ずっと見てるから。湊には、また、誰かを守ってほしい。約束ね」


 優愛は僕の手を掴んだ。魔力が俺に流れ込んでくる。

 その瞬間、優愛は死んだ。その約束を残して。



 死因は魔力多量障害。魔力に体が耐えきれなくなったことだった。



 ◇◇◇



 居眠りをしてしまっていた。それにまたあの夢を……

 もう優愛はこの世界にはいないって言うのに。

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