第4話:苛立つ冒険者(ザドス視点)
Aランクパーティ【紅蓮の竜牙】の拠点。
その一番奥にある豪華な調度品に囲まれた部屋のソファに一人の青年――【紅蓮の竜牙】のリーダーであるザドスが座っていた。
「リーダー……あの」
ザドスの前に立つ部下が、彼の苛立った様子に震えながら、声を出した。
「……もう一週間だぞ。なんであんな目立つ女が見付からない!! それにあの……クソ男もだ!」
「す、すみません! 街中探してはいるんですが、なんせ広い街な上、女魔術師もそれなりにいまして……何より、冒険者法で冒険者同士の諍いは固く禁じられていますから、中々……」
その言葉に、ザドスが手に持っていたグラスを部下へと投げつけた。
「ひっ!」
「んなことは分かってる!! あの青髪の女はどうした!?」
「そ、それは分かっております! あいつは【旋風の槍】のリーダーのレフィって女です!」
「で? そいつを襲って吐かせたか?」
「あ……いや……ですから……冒険者法が……その。それにあいつらCランクパーティですが、レフィ個人は多分Bランクぐらいの実力があって……」
「……ちょっと来い」
部下が震えながら、ザドスに近付いた。
「俺が! 襲えと言ったら! やれ!」
ザドスが腰から短剣を抜くと、部下の足へと突き刺した。
「ぎゃああああ!! 痛え!! 熱いいいいいい!!」
短剣から炎が噴き上がり、部下の足が炎上する。部下が床を転げ回るのをよそに、ザドスが前髪をかきあげた。
「ああ……苛つく……絶対にあいつら三人は殺す……それまでは……この傷は治さねえ」
前髪の下には、醜い火傷の痕が残っていた。それは、シールスにシチューをぶっかけられた結果できたものだ。
ザドスにとってこのやけどの痕は、報復することを忘れないための戒めだった。
「リーダー。良い案がありますよ」
部屋の隅で、一部始終を見守っていたのは、長い金髪の優男だった。そのルックスは甘いが、その顔には歪んだ笑みが浮かんでいる。
「なんだ、バランタイン」
「多分、あの男と魔女はどこかに隠れているんでしょうよ。僕の見立てでは……冒険者ではないのでしょうね。なんせ毎日ギルドを張っていても現れないですし。ま、そもそも向こうから手を出してきたので、冒険者であればとっくにギルド側に捕捉されているはずです。まあいずれにせよ、この街で潜伏されたら探し出すのは困難です」
「だったらどうするんだよ」
「鍵は、【旋風の槍】にありますよ。確かに冒険者同士で争うのは禁じられていますし、ギルドナイトがそこら中で目を光らせている街中で襲撃するのは難しいでしょう。あのレフィって女が平然と酒場やギルドに顔を出しているのがその証拠です。襲ってくるわけない……そう考えているでしょう」
そう言って、バランタインが真っ赤な舌で唇を舐めた。
「だったら――
バランタインがザドスの耳へと囁く。
「なるほど……くはは! 新入りにしては上出来だよバランタイン! お前を幹部にしてやるから、その計画を詳しく詰めろ」
「ありがとうございます。それでは早速、情報収集を」
バランタインがそう言って退室すると、ザドスが壮絶な笑みを浮かべた。
「くはは……待ってろよ、グレア……今度こそ……てめえを奴隷以下の存在にしてやる。そしてあのクソ男と青髪女は無惨に惨めに凄惨に……ぶち殺してやる」
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