50.艦内見学
巡洋パトロール艦『ムーンテラピン』の艦長と対面して疲れてしまった深色。けれども艦内の設備は思ったより充実しており、部屋にはシャワーまで完備されていた。
深色はシャワーを浴びて体に付いた
槍を握った途端、力が体の芯から
「まるでゲームでいうMPみたいな仕組みなのね。……でもこれだけの力、一体何処から湧いてくるのかしら? いつか力が尽きることはないのかな?」
「アメル国王は、『七つの海を統一させる程の強大な力を秘めている』とか言ってたから、そう簡単に尽きることは無いと思うよ。でも、深色はいっつも無茶なことばっかりするから、槍の方も力を出し過ぎて疲れちゃうんだよ。もっと大事に扱ってあげなきゃ」
クロムがそう言葉を返す。深色は姿見に映った自分の姿を見ながら、首筋に付いたアクアランサーの証である
「まぁでも、これまでこの槍にはお世話になりっぱなしだったし、これからはあまり無理させないようにしないといけないかもね。槍の扱い方も何となくだけど分かってきたし。……でも、この薄っぺらい衣装だけは未だに慣れないんだよなぁ。動き易いけど、全身を凄く締め付けてくるし、お尻にも食い込んでくるし……」
そう言って、深色は姿見に自分の背中を映し、お尻の布地をくいっと指で持ち上げた。
「それは深色だけしか着れないアクアランサーの伝統衣装なんだから、脱いじゃ駄目だよ。これから艦長さんと艦内見学なんだから、服装はちゃんとしておかなきゃ」
「……はぁい」
ムスッとしながらも、仕方なしに返事する深色。これからまたあの生真面目な艦長と会わなければならないと思うと、どうも気乗りがせずに溜め息を吐いてしまうのだった。
〇
「――ここが、ムーンテラピンの中央部になります。ここは主に兵装フロアであり、この奥に機関室が続いております」
ランド艦長に連れられ、彼の船『ムーンテラピン』の艦内見学を受け始めて約一時間。ようやく一つのフロアの説明が終わり、次の場所へ向かう深色たち。艦長はよほどこの船のことに詳しいのか、ゆく先々にある通路や部屋を全て見て回っては、途中途中で事細かな解説を挟んでゆく。おかげで深色は途中からすっかり飽きてしまい、終いには睡魔と戦いながら見学を続けていた。
「ほら深色、しっかりしなよ」
隣を歩くクロムに
「うぅ……ごめん、艦長の声がもう子守歌にしか聞こえなくなってきたよ。もうどんだけこの船好きなのよあの艦長……この調子だと、船内を飛んでるプランクトンの数だって知ってそうだよね」
深色は呆れたように小声で嫌味を漏らす。深色たちの歩いている通路の左右には、金属でできた細い円筒状の物体が大量に縦に並べられていた。高さは六~七メートルくらいあるだろうか。円筒の先端部分は青く光り輝いており、まるで巨大な宝石がはめ込まれているように見える。
「あ、あの、艦長さん……この横にたくさん並んでる筒みたいなのは、何ですか?」
深色が先頭を行くランド艦長にそう尋ねると、彼は即座に返答する。
「それは我が国最新鋭の対空ミサイル『トビウオ』ですよ。弾頭にレーダー波妨害システムを組み込んでおり、地上人のレーダーには決して映ることなく標的を追尾し、海上を飛ぶ海鳥ですら百パーセントの確率で命中させることが可能です。ここに格納しておき、いざとなれば頭上にある発射装置に送られ、すぐにでも発射できる体制を整えております。この内容はつい先ほどにもご説明したと思いますが……」
そう言われて、深色は思わず肩をすくめた。どうやらここに並ぶミサイルの説明はすでに終えてしまっていたようで、睡魔と戦いウトウトしていた深色は聞き損ねてしまったらしい。
「この対空ミサイル『トビウオ』は、以前アクアランサー殿が油田の上で立ち往生してしまった際、上から落下してきた建造物を破壊するのに使用しました。ミサイルの威力については、アクアランサー殿も間近でご覧になったのでお分かりかと存じます」
そう言われて、深色は「あっ」と声を上げる。この船に助けられる前、燃え盛る油田の上で力尽きてしまい、上から落下してきた油井やぐらの下敷きになりそうになった時、間一髪で落ちてくるやぐらに命中して吹き飛ばしてくれた、あの青い流星のことを思い出したのだ。
「あの流れ星はこの船から放たれたミサイルだったのか…… でも、どうして地上人のレーダーに映らない仕様にしたの? それじゃ、地上では撃たれたことすら気付けないじゃない」
そう意見すると、ランド艦長はニッと口角を上げ、得意げに答えた。
「それが狙いですよ。地上人は我々より文明は劣っていますが、太古より幾度も戦争を繰り返してきた歴史から見て、非常に好戦的な種族であると判断できます。ひょっとすれば、我が海底王国にもその飛び火を受けるかもしれない。その際は速やかに反撃できるよう、こちらも備えておかなくてはならない。いわば、保険のようなものですよ」
そう言われて、深色はムッと眉をしかめる。まるで、自分たち人間が争い好きな
「ご安心ください。我々海底人は、過去に一度も地上に居る人間と戦争をしたことはありません。こちらとしても、人間と敵対する気は毛頭ありませんから。……ただ、我が王国に反旗を翻す組織、『アイギスの盾』を指揮する一人の地上人だけは、絶対に許すわけにはいきません」
深色は、アッコロの所属する組織に地上人が紛れていることを聞いて驚くが、よくよく考えると、以前アメル国王から、その地上人についてのことも聞かされていたことを思い出す。
「えっと確か……
「ヴィクター・トレンチ。反王国組織『アイギスの盾』の主導者であり、奴らの旗艦『モビィ・ディック』の艦長です。奴だけは必ずこの手で捕らえねばなりません。我々は国王から『アイギスの盾』総本部である『モビィ・ディック』の捜索を直々に命じられ、この海域を捜索しております。『モビィ・ディック』を探し出し、見つけ次第攻撃して破壊する。これが我々に与えられた最重要任務なのです」
艦長が深色とクロムの前で力説していた時、通路の向こうから士官らしき男が一人、慌てた様子でやって来た。
「ランド艦長! ここから二マイリ先、水深二千五百メトルに、潜水艦らしき艦影あり。時速七十ノッドで北西に進行中です!」
士官の報告を聞き、艦長は「でかしたぞ!」と声を上げ、すぐに向かうよう指示を出した。
「噂をすれば、迷える
そう言って、艦長は足早に艦橋へ駆け出す。深色は彼の言う「捕鯨」の意味を察し、表情を曇らせた。前回、海底神殿での戦闘で、アッコロは潜水艦に乗って深色たちの前から姿を消した。もしその潜水艦を彼らが見つけたのだとしたら……
胸騒ぎが収まらず、居ても立ってもいられなくなった深色は、慌てて艦長の後を追いかけた。
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